北陸新幹線の敦賀―新大阪間延伸ルートをめぐり、国会での議論が佳境を迎えている。鉄道ジャーナリストの北村幸太郎さんは「完全な新線の『小浜ルート』と、東海道新幹線に接続する『米原ルート』の2案が有力だ。
延伸を推進する議員たちは、7月中に『小浜ルート』での決定を目指しているが、十分な検討がされていないのではないか」という――。
■いまだ揉め続ける北陸新幹線「延伸ルート問題」の行方
北陸新幹線の敦賀―新大阪間の延伸をめぐり、巨額の建設費と工期の延伸、そして沿線自治体の利害対立により、複数案での再検討が行われている。中でも完全な新線の「小浜ルート」と、東海道新幹線に接続することで建設距離が短く財政負担を大幅に抑えることができる「米原ルート」の2案が、B/C(費用対効果)や実現性の面で接戦の状況だ。
今回、整備区間の敦賀―新大阪間のみで評価する「個別評価」と、東京―新大阪間全線で評価する「一体評価」で費用対効果の算出がなされた。特に、一体評価についてはSNSで「北陸―中京圏の流動の便益の増減を考慮に入れているのか」という疑問の声が上がっている。
筆者が国交省鉄道局に取材したところ、「北陸―中京圏流動の便益増減も考慮に入れて算出した」という。また、米原ルートでの東海道新幹線直通本数の想定については、具体的な回答は差し控えるとしつつ、「現在の東海道新幹線のダイヤを見て、このくらいなら乗り入れできるのではないか、という本数で想定した」とのことであった。
■マスコミ報道ではわからない「重要な事実」
【小浜ルート/米原ルートの建設費・工期・B/C比較】
▼小浜ルート

・建設費:3兆9000億~5兆8000億円

・工期:25~26年

・B/C比較(費用対効果)
→社会的割引率(※)4%試算:一体「1.1」、個別「0.5」

→社会的割引率2%試算:一体「1.3」、個別「0.9」
▼米原ルート(東海道直通)

・建設費:2兆1000億~2兆7000億円

・工期18年(別途、環境影響評価に+7年)

・B/C比較(費用対効果)→社会的割引率4%試算:一体「1.0」、個別「0.7」

→社会的割引率2%試算:一体「1.3」、個別「1.1」
※社会的割引率:金利による将来にわたる貨幣価値の減少率を示す。4%試算が一般的だが、昨今の長期にわたる低金利の実態を踏まえ、2%などの低率での試算が加わるようになった。

この試算の結果、社会的割引率や一体評価(全線で計算し直した新ルール)か個別評価(延伸区間のみで測る従来ルール)かによって、僅差で小浜が優勢だったり米原が優勢だったりと、接戦の状況である。
報道の多くは社会的割引率4%(国の従来の基準)の一体評価のみ取り上げて「小浜ルート優勢」と大々的に報じた。だが、より実態に近い社会的割引率2%試算(昨今の低金利の実態に合わせた基準)では、一体評価のB/Cで小浜も米原も同じ「1.3」、個別評価では小浜「0.9」に対し、米原(直通案)「1.1」となり、米原ルートのほうが優勢なのだ。

■「3兆円以上」増えるルートが選ばれる謎
少なくとも、小浜ルートを当然視できるほどの差はない。にもかかわらず、政府やJR西日本は米原ルートより1兆8000億~3兆1000億円も多く国民負担がかかる小浜ルートを進めようとしている。北陸新幹線沿線以外の国民も含め、そのまま納得しなければならないのだろうか。
仮に小浜ルートを採用して5兆8000億円で作るならば、国民一人あたり4万8000円強(※)、25年で割れば毎年約2000円の「強制サブスク加入」と同じだ。しかも、その費用と工期で済む保証はなく、毎年2000円の負担を強制されながら、開通する頃には便益を得ることなく亡くなっている方も多いかもしれない。36歳の筆者でも還暦を過ぎる頃になる。

※整備新幹線の建設費用負担は、総額のうちJRからの既設整備新幹線の線路使用料を充て、その残額を国と地方で2:1の割合で負担する。ただし、地方負担分は国による交付税措置もあるため、実質的な負担割合は国と地方で9:1の割合になることもある。そのため、建設路線沿線以外の国民の税金による負担割合はかなり大きく、他人事ではない側面がある。
ならば、せめて最大3兆円も費用を抑えられ、建設延長が短い分、工期遅延のリスクも抑えられる米原ルートではダメなのか。また、米原ルート採用で浮いた金額を四国や山陰などの新幹線整備に充てるほうが国民全体にとって公平ではないだろうか。
■「小浜ルート」をゴリ押しするワケ
北陸―中京圏の移動を考えても、小浜ルートでは京都乗り換えとなり遠回りだ。

乗換時間を含めて金沢―名古屋間約370kmで1時間50分程度、料金は現在の運賃・料金テーブルに当てはめて計算すると1万3500円かかると考えられる。これが米原ルートであれば、約250kmで1時間15分程度、料金も在来線特急時代に倣って北陸・東海道通算であれば8440円。小浜ルートと比べて5000円も安く済むだろう。
では、なぜ政府やJR西日本は小浜ルートを進めようとしているのか。ここで小浜ルート派の主張を見てみよう。利点として、新大阪まで完全な新線による整備によって東京―新大阪間の二重系化や、環境影響評価が進んでいるためすぐに着工できること、所要時間の短さ、JR西日本のみの運営による料金面での優位性などを挙げている。
これに対し、東海道新幹線に接続する米原ルートについては、東海道新幹線のダイヤ逼迫、直通不可の場合は乗換発生による時間増、JR西日本とJR東海の2社をまたがることによる料金増とJR西日本の取り分減少、信号システムや脱線防止の仕組みの違いなどを理由に反対している。
■国の試算条件に抱く違和感
この中でも注目したいのは、運賃・料金面と東海道新幹線の線路容量の面だ。現状、小浜ルートと米原ルートは下記を前提に試算されている。
▼新大阪―金沢間の運賃・料金比較(2016年検討時の価格)

・小浜ルート8740円(内訳:指定席特急料金3990円+運賃4750円)

・米原ルート1万1190円〔内訳:指定席特急料金北陸3110円+東海道3000円+運賃5080円(※)〕
※京都―敦賀間を含む運賃は、経路に関わらずより短い湖西線経由の営業キロで計算する「経路特定制度」が存在するが、これは適用されずに330円ほど割高な運賃で試算されている。

※新幹線において、JR2社間での直通列車で指定席料金530円を二重取りするケースは存在しないが、国交省試算では二重取りで計算されている。
▼東海道新幹線ダイヤの逼迫状況

1時間に最大20本の容量だが、新大阪―米原間では、すでにのぞみ最大13本、ひかり2本、こだま1本、計16本が組まれ、合間を縫って大阪府内にある鳥飼車両基地への回送列車を入れているため余裕がない。


という内容だ。特に運賃・料金面では米原ルートは不当に不利な条件で試算されていることがわかる。だが、料金の高さも線路容量も克服できる方法はある。
■問題を解決した都営三田線の前例
米原ルートの実現可能性を考える場合、「運賃・料金の壁」「東海道新幹線のダイヤ逼迫」の2点に絞って課題克服の議論をすべきだ。
まず、運賃・料金が割高で、しかも新大阪―米原間はJR東海の収入となり、JR西日本にとって損である問題だ。
実は都内には同じような乗り入れ問題を解決した前例がある。東京メトロ南北線の線路を使用して乗り入れる、都営三田線の目黒―白金高輪間だ。通常の直通運転方式では、目黒―白金高輪間は東京メトロの運賃収入・運行、白金高輪より先は都営地下鉄の運賃収入・運行といった具合に分けられ、初乗り運賃は二重取りになる。
例えば目黒―三田間であれば178円+178円で356円ということになる(もしそうなっていたとしても厳密には乗継割引で290円になっただろう)。
そこで都営地下鉄は鉄道事業免許取得時に、東京メトロに線路使用料を支払い、線路を借りて自社の列車を運行する「第2種鉄道事業免許」による鉄道事業とした。こうすると目黒―既存の都営三田線内の利用でも運賃を通算でき、目黒―三田間は178円になったのだ。事業者が1つにまとまったことによる効果である。

■「米原ルートは割高」はウソである
これを北陸新幹線の東海道新幹線乗り入れに当てはめて、現在の2026年価格で試算すると以下のようになる。北陸新幹線と東海道・山陽新幹線で特急料金テーブルが若干異なるが、今回は新大阪より先の山陽新幹線もJR西日本であることを考慮し、後者のほうを採用した。
【新大阪―金沢間の運賃・料金比較(2026年現在の価格)】
・小浜ルート8900円(内訳:指定席特急料金4060円+運賃4840円)

・米原ルート8770円(内訳:指定席特急料金3930円+運賃4840円※)
※経路特定制度適用

料金が割高になると言われている米原ルートのほうが、むしろ小浜ルートよりも安くなるのである。これを元々の北陸新幹線の特急料金テーブルで計算したとしても、小浜ルートと同額になる。どちらにせよ全区間でJR西日本の収入になる。JR東海への線路使用料の支払いはあるにせよ、小浜ルートで作っても鉄道・運輸機構へ線路使用料を支払うことになるので、同じことである。
■国交省への取材でわかったこと
次は東海道新幹線のダイヤ逼迫の問題解決である。この問題も大きく取り上げられているが、本当にダイヤが逼迫しているのは営業列車に加えて回送列車も走る、新大阪―鳥飼車両基地(大阪府摂津市)の10kmのみである。営業列車は1時間に最大16本、回送列車は1時間に最大4本の計20本、平均3分間隔という非常に高密度なダイヤだ。
逆に言えば鳥飼車両基地―米原間は1時間あたり4本程度の余裕がまだあるのだ。そういうことであれば、新大阪―鳥飼車両基地間のたった10kmだけの複々線化を、ダイヤ逼迫の解決策の一つとして、検討する余地があるのではないか。
ちなみに、政府の米原ルート試算では、米原での乗換案と直通案の費用の差額は8000億円と巨額だが、国交省鉄道局の担当者によれば、新大阪―鳥飼車両基地間の線増費用はこの中に含まれていないとのことである。

もし、そのための追加費用を考慮しても、小浜ルートより建設費は安く済むだろう。これで新大阪―金沢間は1時間25分程度となり、1時間に最大4本程度の乗り入れができれば、小浜ルートとも遜色ない水準ではないだろうか。これに加えて、米原止まりの列車から乗継客受け入れのため、リニアの名古屋開業後に東海道新幹線の米原停車便の増強もあり得るかもしれない。
■既定路線ありきではなく、十分な検討を
ただし、乗り入れにはもう一つ条件がある。東海道新幹線は加速の良いN700系列の車両で性能を統一してダイヤに無駄のない状況にしているため、東海道スペックの北陸新幹線車両が必要になる。
また、中京方面についても米原でスイッチバックによる直通運転は可能と考えられる。早朝の北陸行き・深夜の名古屋行きに限定する形にはなるだろうが、名古屋―金沢間を1時間10分にすることができるだろう。名古屋駅の東京側に引上線を設ければ、終日の運行も可能になる。リニアと組み合わせれば、品川―福井は1時間40分台になる。福井県にとっても見過ごせないメリットではないだろうか。
以上のシナリオで運賃・料金・所要時間の想定のもとに検討すれば、米原ルートは料金抵抗が抑えられる分、B/Cはもっと上がるはずである。
北陸新幹線延伸、どのルート案で進めても「いばらの道」となりそうだが、現実的なのは「まいばらの道」ではないだろうか。
なぜこれまで示したような十分な検討がされないのか。
国交省鉄道局の担当者は「基本的にどんな案で試算するかは与党PTの議論の中で決まり、最大限公平に比較できるように国交省とJRTT(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)で仮定条件を作って試算をしました。ただし東海道直通本数や料金の試算など、細かい条件は国会の先生方にもまだ出していないので回答しづらい」とのことであった。
また、日本維新の会共同代表の前原誠司氏と、同じく日本維新の会所属の米原ルート推進で当選した新実彰平・衆議院議員は「現時点では協議体での状況が微妙なため回答できない」としている。
政府・与党は小浜ルートを既定路線として押し切るのではなく、米原ルートについて運賃制度、線路容量、事業スキームを含めた再試算を公開の場で行うべきではないだろうか。

----------

北村 幸太郎(きたむら・こうたろう)

鉄道ジャーナリスト

1989年東京生まれ。2008年昭和鉄道高等学校運輸科卒業、2012年日本大学理工学部社会交通工学科マネジメントコース卒業。乗り鉄、ダイヤ鉄。学生時代はライトレールにインターン生として同社の阿部等社長のもと、同社主催の「交通ビジネス塾」運営などに参加。2026年より、鉄道玩具を用いて線路の使い方・交通整理を体験するイベント「プラ鉄道信号ゲーム」主宰。

----------

(鉄道ジャーナリスト 北村 幸太郎)
編集部おすすめ