ワタミの居酒屋「鳥メロ」の新店舗が3月末、約6年ぶりにオープンした。かつて激安戦略で100店舗以上の閉店ラッシュに追い込まれた苦い経験がありながら、なぜ今、低価格を売りにした新規出店に踏み切ったのか。
ワタミ会長 兼 社長CEOの渡邉美樹氏に取材した――。(前編)
■150店舗→99店舗となった「鳥メロ」
秘伝の焼き鳥や串揚げが1本80円~、生ビール中ジョッキが199円……。
低価格メニューで人気の「鳥メロ」が、5年9カ月ぶりの新店舗となる立川駅南口店(東京都立川市)を3月31日にオープンした。
運営するワタミは総合居酒屋一本から転身を図り、宅食、農業など多角化を図ってきた。またコロナ禍で居酒屋業態が苦戦。鳥メロも一時期の150店舗から大きく店舗数を減らし、現在は99店舗。
グループ売り上げ932億円のうち4割以上を宅食事業が占めるほか、焼肉や先般M&Aを行ったサブウェイなど、国内外食分野でも多角化の動きが目立っている。
しかしここにきて新店舗を出店したということは、また居酒屋業態、しかも低価格戦略で勝負に出ているということだろうか。
■「居酒屋で宴会」需要はまだまだある
5月に発表されたワタミの2026年3月期の決算では、国内外食事業は前年比109%の376億6000万円と増収増益。とくに焼肉やbb.qオリーブチキンカフェが牽引したというが、売り上げで5割を占める居酒屋業態も健闘した。鳥メロの既存店売上高も、2026年2月度まで47カ月連続で前年を上回っているという。
決算説明会での説明によると、コロナ禍で減少した宴会場の受け皿として利用が伸びた面も大きいとのことだ。

さらに、2026年6月3日のグランドメニュー刷新時も、生ビールなどの価格を据え置き。またフードもできるだけ店内加工、手作りに変えるなど品質向上も図ってきている。渡邉氏は説明会の席で「展開する300店舗で毎週20~30件寄せられていたクレームが、1~2件へと減ってきている」ことを引き、サービス品質や店舗改装の効果が出てきていることを説明した。
■値上げラッシュでも安さを保つ「秘密」
品質やサービスに手を抜かず、安さも確保していることが、鳥メロの人気を維持しているようだ。では、どこも値上げが止まらない現在の状況で、鳥メロでは生ビール199円などの低価格をどのように実現しているのだろうか。誰もが知りたいところだろう。
まず物価高騰の影響として、食材の仕入れ値は2024年度に比べ、2025年度は2.5%上がっているという。2026年度も3~5%のアップが予想される。その中で、値上げも行わず安さを打ち出すための対策について渡邉氏に聞いた。
「一つには、生ビールは目玉商品として特別な価格設定にしている一方で、サワーなど原価の比較的安定した商品とのバランスをとっています。またフードメニューについても、お客様のニーズや販売実績を踏まえながら定期的にメニューの改廃を行い、全体の最適化を図っています」
「さらに、食材の調達について例えば鶏肉は、世界的な需給環境や為替、物流コストなどの変化に応じて、国内外を含めた最適な調達先を検討してきました。過去にはタイやブラジルなどから調達していた時期もありましたが、その時々の市場環境を踏まえながら見直しを行い、現在は国産鶏肉を中心に使用しています。
このように、国内外の幅広い調達ネットワークを活用し、その都度最適な調達を行うことでお客様にできるだけ手頃な価格で商品をご提供できるよう努めています」
■メニューを手作りに変えてコストダウン
同時に、外食事業全体のメニューのうち1割を手作り品や店内加工品に変えることで、品質アップとコストダウンを図っているという。しかし素人考えかもしれないが、手作りにした方がかえって高くついてしまうのではないだろうか。
「集中仕込みセンターの『ワタミ手づくり厨房』で仕込みを行い、各店舗や宅食営業拠点に配送しています。メーカーから仕入れるよりも安く、しかも手づくり感のある仕込みが行えるのが強みです」
ワタミ手づくり厨房は関東圏の外食店舗の食材をまかなうセンターとして、2002年に埼玉県で稼働開始。その後栃木、愛知、山口、福岡、尼崎などにも設置され、全国に展開が広がっている。食材の仕入れや流通を宅食事業と合わせることにより、スケールメリットも出ていると考えられる。そのほか例えば、配送を週に5回だったところを4回にするなど、細かな工夫によって全体のコストダウンを図っているという。
■店内仕込みへの切り替えでさらに品質向上
ただ、手づくり厨房を活用するばかりではなく、店内仕込みに切り替えることでさらなる商品の磨き込みを図ってもいるそうだ。
例えば鳥メロの名物商品「清流若どり もも一本焼き」はこれまで、仕込み後の冷凍品を配送し、店舗で解凍していたが、チルドで配送された肉を店舗でカット、味付けする工程に変更した。解凍工程がなくなったことで品質が向上したほか、店舗仕込みなので、出来たてのおいしさを客に感じてもらうことができる。
「商品開発においては私も必ず試食を行い、意見します。改善をお願いすることもしばしばあります」
確かに、おいしくなければ客は来ない。
コストダウンも図りながら、あくまでもおいしさの追求に焦点を置いていることが、価格と品質の絶妙なバランスを維持しているのだろう。
さて、その鳥メロの新店舗オープンのニュースは、約6年ぶりということもあり、飲食業界内で注目を集めた。というのもワタミでは2009年に遠のく客足を引き止めるために激安戦略をとり、2012年からはリブランディングとして客単価を上げた施策を実施したものの、客数が伸びず100店舗以上の閉店を招いてしまった経緯がある。
■出店ありきでなく、利益の出る立地を厳選
その後のコロナ禍でも居酒屋業態がダメージを受けたため、ワタミも焼肉や唐揚げの業態を増やすなど、方向転換を行ってきた。
この度の鳥メロの新店舗オープンで、その流れが変わるのでは、と期待されたのだ。
渡邉氏には、再び低価格戦略や居酒屋に力を入れていく方針があるのだろうか。
「私自身、今後の日本経済や消費環境については悲観的に見ています。だからこそ、新規出店については、将来、売り上げが2~3割減少したとしても利益を確保できるような立地を厳選して出店しています。今後出店を予定している地域の店舗についても、いずれも損益分岐点の低い立地を選定しています。その意味では、現在の外食事業の出店戦略は非常に保守的です。以前のように、出店ありきで拡大を目指すのでなく、収益性や将来性を十分に見極めた上で出店を判断しています。無理な出店計画は持たず、一店舗一店舗を着実に成功させることを重視しています」
■2010年代とは違う低価格戦略の中身
低価格戦略についても、十数年前とは種類が違うもののようだ。

「インフレで給料も上がらない中であるなら、われわれはなるべく値上げをせず、お客様に来ていただける店にしようという考えでやっています。10年以上前の当時もわれわれとしては競争のつもりはなく、自分たちのできる努力の中で価格低下を図っていました。しかし業界全体で無理をして低価格戦略に挑んでいた、という側面があります。
物価が上がり続けている今はもう、そんな甘い状況ではないわけです。皆さんが値上げをしている中で、価格を維持している私たちの店舗がご支持を頂いているということだと思います」
また居酒屋から撤退とはいかないまでも、方針転換を印象付けたのが、コロナ禍での唐揚げ業態のスピード展開だ。当時は居酒屋業が軒並み打撃を受けており、渡邉氏自身、鳥メロやミライザカなどの居酒屋についても「将来的には残らないかもしれない」と悲観的な発言をしていたほどだ。
「から揚げの天才」は、2018年11月に1号店を出店、小規模で出店しやすいFCモデルであったこと、コロナ禍に強いテイクアウト業態であったため、2021年の7月には100店舗を達成、年内に112店舗まで増加した。
しかしその後は出店スピードが落ち、閉店も目立つように。そして現在、公式サイトで確認できる店舗数は6店舗という状況だ。
■唐揚げの敗因は「人件費込みの価格競争」
この激減について、また期待された唐揚げの凋落の一方、悲観的に見ていた居酒屋が好調であることについて、渡邉氏はどのように考えているのだろうか。
「コロナ禍では3日ごとに1店舗を閉めているという状況でした。緊急事態宣言が発出され、居酒屋の4割近くが閉店をしている中では悲観的な発言もしました。
実際あのままの状態が続いていれば、居酒屋は無くなっていた可能性もあった。しかしその後コロナ禍が収束に向かい、居酒屋の閉店の流れにも歯止めがかかりました。結果として残った店舗は営業を継続し、現在に至っています。
唐揚げ事業については正直なところ、私たちにとっても想定外の部分がありました。あの時はスーパーも小売も、唐揚げブームでしたね。コロナ禍でマーケットが2倍になったと言われています。一方で参入する事業者は3~4倍に急増し、非常にレッドオーシャンの厳しい市場になりました。当社の強みは調達力にあります。例えば、タイの大手ブロイラー会社から大量に仕入れることで食材原価を抑えていました。しかし、唐揚げ業態は家族経営の小規模店も多く、人件費の構造が私たちと異なります。つまり原価面で強みを発揮できても、人件費を含めた競争では優位性を築けなかったことが敗因だったと思います」
■祖業でもある居酒屋は重要な収益源
ただし渡邉氏によると、から揚げの天才を担当していた部隊はサブウェイに移っているとのことで、店舗は激減しつつも、人材や組織を育てられたというプラスの側面もあるそうだ。
居酒屋については祖業でもあり、既存店売上高が前年比105%のペースで毎年伸びていることからも、重要な収益源として考えているという。
一方、コロナ禍を経てのライフスタイルの変化や若者のアルコール離れといった要因もあり、将来的に市場の厳しさは増していく。
その中で選ばれる居酒屋であるために、価格、商品、サービス、店舗の清潔感、内装の新鮮さなどを重視しているそうだ。中でもサービスについては、今の状況によって評価が高くなっている面もあると見ている。
■新規出店を抑えることで生まれたメリット
「新規出店を抑えることで、店長が頻繁に異動する必要がなくなりました。そうすると人材も育つし、常連のお客様との関係も深まります。店長が長く店舗にいることのメリットは以前から理解していましたが、店舗網を拡大していた頃はなかなか実現できなかった。新店舗を立ち上げる際には、どうしても経験豊富な店長を配置する必要があったからです。
今、店長が地域や店舗に根ざして運営できる環境が整ってきました。それがサービスに表れ、結果としてお客様に選んでいただけている、ということなのだと思います」
渡邉氏が「残存者利益」とも表現するように、ワタミの運営する居酒屋が好調な理由として、コロナ禍で宴会ができるような他社店舗が減少した結果、宴会対応が可能なワタミに需要が集まっているという側面も大きいそうだ。
確かに、渡邉氏が挙げた「選ばれるための要素」は目新しいものではなく、どちらかと言えば対策として王道だ。しかし客から見てバランスよく品質を維持し続けるのが難しいことも事実。無理せず、手堅く出店している今のワタミだからこそ可能になっているということなのだろう。

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渡邉 美樹(わたなべ・みき)

ワタミ会長兼社長CEO

明治大学商学部卒。2024年に創業40周年を迎えるワタミグループの創業者として、外食、宅食、有機農業、再生可能エネルギー事業などを展開し独自の6次産業モデルを構築。2011年、東京都知事選出馬。2013年~2019年、参議院議員を一期6年務めた。郁文館夢学園理事長兼校長として教育者の顔も持ち、政府教育再生会議委員なども歴任。公益法人「School Aid Japan」代表としてアジア3地域で350校を超える学校建設や孤児院を運営する。『大暴落』(プレジデント社)、『夢に日付を!』(あさ出版)ほか著書多数。

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圓岡 志麻(まるおか・しま)

フリーライター

東京都立大学人文学部史学科卒業後、トラック・物流の専門誌の業界出版社勤務を経てフリーに。健康・ビジネス関連を両輪に幅広く執筆する中でも、飲食に関わる業界動向・企業戦略の分野で経験を蓄積。保護猫2匹と暮らすことから、保護猫活動にも関心を抱いている。

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(ワタミ会長兼社長CEO 渡邉 美樹、フリーライター 圓岡 志麻)
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