大学選びはどうすればいいのか。『親子で一緒にゼロからわかる!海外大学進学大全』(実務教育出版)を書いた松田悠介さんは「米国との大卒初任給差は4倍以上に広がり、停滞する日本市場では稼ぐのが年々難しくなっている。
それなのに日本の高校生の7割以上は、いまだに偏差値や知名度で志望校を選んでしまっている」という――。
※本稿は、松田悠介『親子で一緒にゼロからわかる!海外大学進学大全』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
■日本の「進路選び」に感じたヤバさ
皆さんもすでに感じているかもしれませんが、いま、日本は深刻な課題に直面しています。長年の経済停滞、急速な少子高齢化、そして横ばいの実質賃金……。明るい未来はなかなか見えてきません。そうした閉塞感が続く中で、「海外旅行すら難しい日常になるのではないか」と、不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
一方で、世界は依然として成長の勢いを保ち、グローバルな舞台では絶えず新しい可能性が生まれています。日本と海外の大きな差を感じざるをえません。
さらに注目すべきは、日本の教育制度です。私はこれまでのキャリアを通じて、日本の教育制度の限界にも直面してきました。例えば、海外大学を目指す高校生は、高校生の段階から自分の興味やキャリアに対する意識が明確で、大学で勉強するための目的意識が高いもの。対して、日本の大学へ進む高校生で明確な目的意識を持っている人はごくわずかです。
受験を通して学ぶことは多いものの、自己探求の機会はほとんどありません。
それを示すように、日本の高校生が安易に学部を選択し、後になって「これが本当に自分の道だったのか」と悔やむケースを何度も目にしてきました。実際、日本の高校生に「なぜその大学を選んだのか」と質問すると、7割以上が「偏差値」「有名だから」「親や先生に勧められたから」という理由を挙げます。一方、海外の大学生は「将来この分野で研究したい」「○○教授のゼミで学びたい」など、学びの中身を理由にする割合が高い傾向があります。この差は、進学後のモチベーションや成長度合いに直結します。
このような状況だからこそ、海外進学に必要なマインドセット、とりわけ「なぜいま、海外進学なのか」「自分にとっての主体性とは何か」をじっくり考えていく必要があるのです。
イギリスの元首相、ウィンストン・チャーチルがこんな言葉を残しています。
“Kites rise highest against the wind, not with it.”

(凧(たこ)は追い風ではなく、向かい風に立ち向かう時こそもっとも高く揚がる)
まさに、いまの私たちにこそ響くメッセージです。逆風の時代、“海外進学”という大きなチャレンジが、じつは誰よりも高く飛翔するチャンスになる――私は、そう信じています。
■“Japan as No.1”は過去のもの
日本がこれまで歩んできた歴史についても触れておきます。
日本はかつて、世界でも豊かな国として、経済や技術の分野で強い影響力を持っていました。特に1980年代、日本経済は急成長し世界第2位の経済大国として、国民の生活水準は大きく向上しました。
この時期、日本は世界中から注目を浴び、日本製の製品は品質が高く、信頼されていました。
当時の東京・銀座には高級外車やブランド店が並び、土地の価格はニューヨーク・マンハッタンの数倍。多くの人がソニーのウォークマンを携え、パナソニックの家電が家庭を彩り、トヨタの車は欧米市場で絶賛されていました。ニュースは連日、日本企業の海外進出や世界的受賞の話題であふれていたのです。
しかしいま、中国やインドなどの国々が経済的に台頭し、日本の経済成長は鈍化しています。では、具体的にどんな違いがあるのでしょうか。
■日本と世界との賃金格差
日本では、実質賃金(物価を考慮した賃金)は長年ほぼ横ばいの状態です。2026年のデータによると、アメリカ・ワシントン州の最低賃金は17.13ドル(約2,700円)で、東京の最低賃金の約2.2倍。さらに、カリフォルニア州にあるシリコンバレーなどのテクノロジー業界で働くエンジニアの初任給は3,000万円を超えることもあり、日本の大手企業の初任給の約10倍にもあたります。
例えば、東京都内の最低賃金は1,226円(2026年現在)ですが、同じ時間働くと、ワシントン州では約2,700円。1日8時間・月20日勤務とすると、日本では約19.6万円、アメリカでは約43.2万円になります。年間で計算すれば、その差は約283万円。
税制や福利厚生の違いも加われば、生涯収入では数千万円単位の差に広がります。
さらに、シリコンバレーの初任給が3,000万円を超えるということは、学生が技術職やエンジニアとしてのキャリアをスタートさせる際、とても高い給与を得られる可能性があることを意味します。生活費の違いを差し引いても、この差は、将来の生活水準に大きな影響を与える可能性があるのです。
■同じスキルでも、働く場所で収入は大きく変わる
例えば、プログラミングはいまや、どの国でも共通して需要の高いスキルとなっています。しかし、同じプログラミングスキルを持っていても、どのマーケットで働くかによって得られるリターン(給与)は大きく異なります。
アメリカのシリコンバレーでは、テクノロジー業界で働くエンジニアの初任給が3,000万円を超えることもあるとお伝えしましたが、日本国内では、同じスキルを持っていても、その給与はアメリカと比べてかなり低くなるのが現実です。これにより、どの市場で働くかが、キャリアの選択肢や収入に直結することがわかります。
実際、PythonやJavaScriptを使いこなす万能型のエンジニアでも、日本では年収500~800万円が一般的です。対して、アメリカ西海岸の大手テック企業では、同等のスキルで基本給+株式報酬込みで年収3,000~4,000万円が提示されることもあります。スキル自体は同じでも、市場が変われば「付加価値の評価額」が大きく変わるのです。
■日本国内の選択肢は「限界」を迎えている
現在の日本では、賃金の伸び悩みや物価の上昇が問題となっています。例えば、東京で生活するには月々30万円以上の生活費が必要となる場合が多いですが、それに見合った賃金を得るのは簡単ではありません。
特に、若い世代が安定した職を得るには、高度なスキルや国際的な経験が求められる時代になっています。
東京23区での一人暮らしの平均家賃は、ワンルームで約8~10万円ほどです。ここに光熱費、通信費、食費などを加えると、月々の生活費は15~20万円程度になります。日本の初任給の平均(約21万円)では、貯蓄や自己投資に回す余裕はほとんどありません。
■「どこで学ぶか」選択肢を広げよう
アメリカやカナダなどの海外主要都市も、家賃や物価は決して安くありません。例えば、ニューヨークやサンフランシスコでは、ワンルームの家賃が2,000ドル(約30万円)を超えることもあります。しかし、重要なのは収入水準がそれに見合って設定されている点です。アメリカでは新卒でも年収6~8万ドル(約900~1,200万円)というケースも珍しくなく、業種によってはそれ以上のスタートもあります。つまり、生活コストは高いものの、それに応じた賃金が支払われるため、家賃や物価の高さをカバーしながら、貯蓄や自己投資に回すことも十分に可能です。
また、アメリカなどの先進国では、大学在学中からインターンシップや研究活動、スタートアップ(イノベーションのアイデアを持ち、急成長を目指す企業)への参加などを通じて、実践的なスキルやネットワークを築く機会が豊富に用意されています。こうした経験は、将来のキャリアにおいて学歴以上の価値を持つ場合もあります。留学中に培った国際感覚や行動力、人脈は、グローバルな舞台で自分らしく活躍するための“武器”となり、職業選択の幅を大きく広げてくれます。

日本がかつて誇った経済的な豊かさは、いまや過去のものとなりつつあります。これからの時代には、国内外で通用するスキルとグローバルな視野を持つことが、成功のカギ。将来の進路を考えるにあたっては、「どこで学ぶか」「どんな経験をするか」がますます重要になっていくのです。
■いじめられっ子だった私が留学を決意したワケ
日本の現状についてお伝えしてきましたが、私自身はどうだったのか。ここで少しだけ、私の過去と留学経験についてお話ししたいと思います。
中学生の頃の私は勉強も運動も苦手で、いじめの標的になっていました。そんな私を救ってくれたのが、体育教師の松野先生でした。毎朝一緒にトレーニングをしてくれたおかげで自信がつき、いじめも自然となくなりました。先生に「恩返しがしたい」と伝えると、「同じような子に手を差し伸べてやれ」と言われ、それが体育教師を目指すきっかけになったのです。
教師になってからは全力で生徒と向き合いましたが、教育を変えるには情熱だけでは足りないことを痛感しました。そして専門性を身につけるべく国内の大学院への進学を考えたものの、その環境に失望した私は、「本物から学ぶには海外に行くしかない」と決意。英語が苦手だった私は、外国人に話しかける“無謀な修行”を自分に課しながら準備を進めました。

■踏み出す勇気が人生を変える
そのかいあって2008年、アメリカのマサチューセッツ州にあるハーバード大学教育大学院への合格を手にします。そこで、国籍も経験も異なる仲間と激しく議論し、教育を社会全体で変えていくスケールを学びました。
その後、教育格差解消に取り組むNPOを設立しましたが、とてつもなく大きな社会課題を前に自分の無力さを痛感し、さらに組織経営力を高める必要を感じて2017年、カリフォルニア州にあるスタンフォード大学経営大学院へ留学。ここで、持続可能な事業を運営する力を身につけ、最先端のリーダーシップ論を学びました。
2度の留学経験は、私の人生観を大きく変えてくれました。夜中に芝生に寝転んで、仲間と一緒に夢を語り合った日々、試験前にカフェで励まし合った日、仲間の起業発表を全員で拍手で迎えた日。その一つひとつの瞬間が、教科書には載らない“生きた学び”そのものでした。
いじめられっ子で赤点ばかりだった私が、人生を切り開くことができたのは、ほかでもない留学のおかげだと思っています。必要なのは特別な才能ではありません。「このままじゃ終われない」という思いと、一歩を踏み出す勇気だけなのです。

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松田 悠介(まつだ・ゆうすけ)

Crimson Education Japan代表取締役社長

大学卒業後、体育教師として中学校に勤務。英語で体育を教える Sports English のカリキュラムを立案。その後、千葉県市川市教育委員会教育政策課分析官を経て、ハーバード教育大学院(教育リーダーシップ専攻)へ進学、修士号を取得。卒業後、Pricewaterhouse Coopers Japan にて人材戦略に従事し、2010年7月に退職。退職後、全国で厳しい環境に置かれている子どもたちの学習支援を展開するLearning For All を設立し、2014年に独立法人化。2012年からはTeach For Japan の創設者として日本国内の教育課題の解決に取り組み、2016年6月にCEOを退任。2018年6月にはスタンフォードビジネススクールで修士号を取得。2018年7月にスタンフォード大学の客員研究員に着任し、あわせて日本人のアメリカやイギリスのトップスクールへの留学支援を展開するCrimson Education Japan の代表取締役社長、オンラインのインターナショナルスクール Crimson Global Academy の日本代表に就任する。京都大学 ⼤学院(総合⽣存学館)特任准教授(2013~2017)、認定NPO法人 Teach For Japan 理事を務め、その他委員活動として、文部科学省中央教育審議会委員、内閣府総合科学イノベーション総合会議教育・人材ワーキンググループ委員を務める。 日経ビジネス「今年の主役100人」(2014)に選出。NHKやPivotに国際教育スペシャリストとして出演多数。著書に『海外大学進学大全』(実務教育出版)『グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」』(ダイヤモンド社)などがある。

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(Crimson Education Japan代表取締役社長 松田 悠介)
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