どうすれば集中力を高めることができるのか。外資系IT企業の米国本社にシニア・プロダクト・マネージャーとして勤務する福原たまねぎさんは「アメリカの天才エンジニアたちは1日を2つにわけるというシンプルで大胆な時間の使い方で、集中力を発揮し、成果を出している」という――。

※本稿は、福原たまねぎ『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■生産性を上げる時間の使い方
初めてシアトルのオフィスに来た日のことは、今でもよく覚えている。
開発チームが、みんなとびきり若かった。平均年齢は26、27歳ぐらい。一番年上の親分肌のエンジニアがようやく30歳を迎えたというぐらいで、他のエンジニアは大学や大学院を卒業したばかりのツヤツヤの新人ばかりだった。「エンジニアが若い」ということ自体は珍しいことではないかもしれない。けれどそんな若い彼らが世界20カ国以上で使われるシステムを開発しているという事実は、驚きだった。
彼らは百戦錬磨のエリートではない。仕事を始めて数年といったレベルで、そこまでの経験もなければ磨き上げられたスキルもない。なのに生産性は極めて高い。では一体なにが生産性を上げているのか? それは「時間の使い方」に尽きる。
シンプルで大胆な時間の使い方で集中力を発揮し、短時間のうちに成果を出す。
その基本原則が非常に高い水準で徹底されていた。
■集中力は「鍛える」ではなく「招く」
そもそもの前提となる話をしたい。仕事の成果を大きく左右するのは「集中力」だ。
時間が溶けてしまうような集中力を発揮して、上司にとてもほめられたり、お客さんに喜んでもらったりした経験をした人も多くいるんじゃないだろうか。夢中で作り上げた企画資料が受注につながったり、何時間もデータとにらめっこしたことで浮かんだアイデアが社内で称賛されたり。大きな成果を出せたときには、決まってキリリと高められた集中力の存在がある。
逆も然(しか)りで、意識があちこちに移ってしまい注意が散漫になっている状態では、満足のいく成果が出ずモヤモヤした気持ちになる。だらだらとスマホを見たり、散発的に誰かに話しかけられたりして仕事が中断する。時間だけが過ぎ、「今日も終わりそうにない……」と吐息をつきながら遅くまで仕事を続ける。
「フロー理論」で有名な心理学者ミハイ・チクセントミハイの研究やその後の研究では、深い集中状態(フロー)に入ると、通常より高いパフォーマンスや創造性を発揮することが示されている。逆にマルチタスクで集中力が生まれない状態だと、生産性が40%も下がったという研究もある。大げさではなく、集中力がこれほどまでに仕事の成果を変えるのは、実感として理解できるのではないだろうか。

とはいえ「集中して仕事に取り組む時間がなかなか取れない」という人もたくさんいると思う。ではどうすればいいのだろうか? アメリカで働いて気づいたのは、集中力は鍛えるものではなく「工夫」によって招くということだ。
■天才エンジニアは時間を2つに分ける
ブロッコリーくんはチームの仲間で、30歳ぐらいのアメリカ人エンジニア。はっきり言って彼は真の天才だ。100人のエンジニアが束になっても敵(かな)わないくらいのヤバいエンジニアだ。実際に、この若さでプリンシパル・エンジニアという最高クラスのレベルまで駆け上がった。
ブロッコリーくんは本当に短い時間で信じられない質と量のアウトプットを出してくる。彼は、あるシステム設計の資料をたった半日で仕上げてきた。通常、1~2週間はかかるような仕事にもかかわらず、だ。
速さと引き換えに中身がスカスカかと言えば、まったくそんなこともなかった。Wordにして5、6枚にわたる資料は、一つ一つの項目に丹念に思考が巡らされた形跡があり、興味深いデータに裏付けられた極めて内容の濃いものだった。ブロッコリーくんの資料が軸となって、システムの技術的な方向性について重要な意思決定をすることができた。

ぼくは大事なレビュー(資料のチェック)が終わった後に一言、ブロッコリーくんに聞いた。「この資料を昨日の午後だけでやったって言ってたけど、どうやってやったの?」。するとブロッコリーくんは「今更なんの話?」とでも言わんばかりにクールに答えた。
「全部『ブロック』した。作業時間をブロックして、メールやメッセージの通知もブロックしたし、他のエンジニアとのおしゃべりもブロックした。そしたら自然と集中力がやってきて、気づいたら終わってたよ」
■事前に集中する時間を確保しておく
ぼくはこの言葉に「そういうことか!」と深く納得した。天才エンジニアは時間をブロックすることで「集中力を招き」、それによっておのずと高い品質の成果物を出しているのだった。ここでいう「ブロック」はざっくり言えば「時間を確保する」という意味だが、そこにはメールやメッセージの通知を遮断するなどして「集中する時間を作る」といった意味も含まれる。
「それだけ?」と思われたかもしれない。確かに、集中するために予定を確保するというだけではあまりに単純だ。そんなのはとっくにやろうとしている、という方もいらっしゃるかもしれない。
しかし卓越したエンジニアの仲間を見ていると、時間のブロックの仕方に「ある工夫」が仕込まれていることに気づいた。
それは何か。彼らは、午前中は「チーム(コミュニケーション)の時間」、午後は「自分(思考)の時間」と、時間を2つのブロックに分けている。 
午前中に「人とやらないといけないこと」をまとめて片付け、午後には資料作成やデータ分析など「個人の作業」に没頭する。結果として、一日が終わる頃にはチームとしての大事な意思決定もできており、個人としての成果物も作れているという状態が生まれている。
■午前はコミュニケーションに集中
ぼくは日本で働いていたとき、「ミーティングが点々と設定されていて、まとまった作業時間を確保できない」とよく悩んでいた。ミーティングが終わると、次の予定まで1、2時間の「フリー」の時間があるのだが、なかなか集中力を切り替えられない。やっと集中力が上がってきた、と思ったらもう次のミーティングまであと5分……そんなことが多かった。同じ悩みを持つ人も多いのではないだろうか。
これを解消したのが、ミーティングを「まとまった時間帯に寄せる」という方法だった。超具体的に言うと、午前中に可能な限りすべての予定を詰め込んでしまうのだ。
周りのエンジニアやプロダクト・マネージャーたちは、午前中をとにかくコミュニケーションに充てている。朝7~12時ぐらいまでは、ひっきりなしにミーティングやオンライン会議が続く。
メールやメッセージの往復も頻発する。こちらがメールを送れば、返事がすぐ飛んでくる。だからオフィスの空気も自然とガヤガヤしているし、みんながバタバタと動き回っている。
定例会議も基本的に午前中に組み込まれている。ぼくの場合は、日次のエンジニアとの進捗確認ミーティング、週次のプロダクト・マネージャーチームのミーティングがある。
またぼく自身の主催で、朝の時間帯にプロダクト・マネージャーとエンジニアチームの情報共有を促すミーティングを運営している。個別のコミュニケーションも午前中にまとめて片付ける。メールとメッセージはできるだけこの時間帯に返すし、誰かにお願いしたい仕事もこの時間帯に投げておく。
■「まとめる」ことで生産性が上がる
要するに、午前中は「チームとの必要なやり取りを一気に片付ける時間」として使っている。ミーティングが無造作に散らばっていると、集中して作業をするまとまった時間が生まれにくい。会議と会議の間に30分とか1時間だけ時間が空いたとしても、その短い時間でまとまったアウトプットを出すのは難しいだろう。
だからこそ、コミュニケーションを先にまとめて片付けておく。
そうすれば午後は、資料作成やデータ分析といった深い作業に時間を使える。それにより、作業効率が圧倒的に良くなる。さらに、これは実際にやって強く感じたことだが、ミーティングはまとめることで、生産性が上がる。というのも、対話と意思決定が連続することで、脳が「人と話す」「意見を聞く」「瞬時に判断する」というモードにうまくチューニングされるからだ。
よく、会議が後半になってきてやっと集中力が高まり、議論が活性化することはないだろうか? ぼくはあった。反対に、最後までなんとなく気持ちが乗らずに終わってしまった会議も数知れない。でもミーティングを午前中にまとめるスタイルに変えてからは、自然と最初から会議に集中できるようになった。結果的に会議中のパフォーマンスが上がった。
■午後は自分の思考と作業に完全集中
そしてお昼から夕方まで。午後の時間はコミュニケーションを最小限にして自分の「思考」と「作業」に集中する。
オフィスはとても静かになる。耳栓をしたり音楽を聴いたりして、自分の世界に没頭している。人によっては昼食も軽くパッと済ませて、自分の作業にのめり込む。みんな静かに考えている。そして黙々と作業をしている。プロダクト・マネージャーは企画資料を作ったりデータを分析したりしているし、エンジニアは設計書を書いたりプログラミングに没頭したりしている。しばらくの間、自分のパソコンとにらめっこしてカタカタと高速でタイピングしている。
個人差はあれ、メールやメッセージも基本的に見ない人が多い。みんな午後は通知機能をオフにしている。空き時間ができたり集中力が途切れたりしたときにメールやメッセージを見たりもするが、概して返信は一気に遅くなる。
もちろんこれではタイムリーに返信をしないといけない連絡を見過ごしてしまう可能性があるから、午後に短めの「メールチェック時間」をブロックする(確保する)人もいる。ぼくもこのやり方を採用している。
■基本的に午後はミーティングをしない
またミーティングを一切しないというわけではない。システムで不具合が起きたら即座に集まるし、口頭で話したほうが早い用件があればクイック・コール(短時間で集中的に問題を解決するための即時的な通話やオンライン会議)を設定する。
でも基本的には午後にミーティングは入れない。優秀なエンジニアからの強い希望で、毎週月曜と水曜の午後はミーティングを禁止するルールが設けられているぐらいだ。アメリカで働くようになってから、この「午後の作業時間ブロック」が劇的に生産性を上げることに気づいた。
ぼくは毎日、午後にやることを3つに絞っている。そのうちの一つは「メールやメッセージをすべて返信する」で固定しているが、残りの2つは、3、4時間で全集中して片付ける。新しいプロダクトの企画書を書いたり、月次報告書をまとめたり。3、4時間のまとまった時間が取れれば、なにかしらの成果物を毎日仕上げることができる。
この有効性に気づいてからは、平日午後を毎日「作業時間」としてブロックして、安易にミーティングが組まれないようにしている(もちろん重要な会議は調整するが)。
■「切り替え」は集中力の敵
なぜ午前と午後に分けるのか? 一番大事なポイントを強調しておきたい。それは「切り替えという集中力の敵を退治する」ためだ。
そもそも「集中している」というのは「注意や意識が特定の対象や活動に一時的に強く向けられていて、他のことが気にならなくなっている状態」を指す。この集中力を奪う最大の敵が「切り替えの多さ」だ。人が集中状態に入るまでには通常15~30分の助走が必要だと言われているが、いったん集中が途切れると、またその助走をゼロからやり直さないといけない。
資料を読み込んでいる時に突然「ちょっといいですか?」と声をかけられたり、せっかくプログラミングに没頭していたのに会議の時間が来て強制終了させられたり――こうしたささいな中断が積み重なるだけで、集中力は瞬く間に削られていく。
一日に使える集中力には限界がある。朝、脳というタンクに集中力という燃料が満タンに入っているとしても、「切り替え」という小さな穴がタンクの底に空いていたら、そこから燃料がチョロチョロ漏れていく。そうして会議や質問対応に追われているうちに、気づけば集中力はスカスカ、頭はエネルギー切れになる。この状態でいい仕事をするのは難しいだろう。
つまり、「切り替え」は集中力にとってコストの高い差し込みなのだ。だから大事なのは「切り替えの回数を徹底的に減らして、まとまった集中タイムを確保する」こと。そのため世界トップで働く人たちは、「コミュニケーション」と「作業」の時間をそれぞれ一つのブロックにまとめ、切り替え回数を一日一回に制限しているわけだ。

----------

福原 たまねぎ(ふくはら・たまねぎ)

外資系IT企業 米国本社 シニア・プロダクト・マネージャー

ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後、渋谷のベンチャー企業を経て、2016年、外資系IT企業の日本支社に入社。webプロデューサー、プロダクト・マネージャーを務め、22年、米国本社に転籍。テクノロジーの現場から働き方、思考法、文化の違いなどを観察し、その成果をnoteで発表している。25年に投稿した「“仕事のできるエンジニアしかいらない”という怖い世界」が「note創作大賞2025」に入選し、話題になった。著書に『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)。

----------

(外資系IT企業 米国本社 シニア・プロダクト・マネージャー 福原 たまねぎ)
編集部おすすめ