大谷翔平選手と真美子さんの第2子誕生のニュースに、批判的なコメントが殺到した。小児科医の森戸やすみさんは「必ずしも年子はよくないというわけではない。
こうした育児への理解のなさが、より少子化を悪化させるだろう」という――。
■喜ばしいことなのに批判が殺到
先日、ロサンゼルス・ドジャーズの大谷翔平選手、妻の真美子さんに第2子が誕生したというニュースが報じられました。とても喜ばしいことだと思っていたところ、SNSにはお祝いの言葉ばかりではなく、思いがけない言葉がたくさん上がっていて、私は大変驚きました。
どんな言葉かというと、「第1子誕生から間がなさすぎて、奥さんの健康に悪い」「年子はよくない」「子どもの健康も心配だ」などといったもの。果てには「多産DVではないか」などと言う人まで現れ、開いた口が塞がりませんでした。多産DVというのは、女性が望まない妊娠・出産を繰り返させる性暴力・ドメスティックバイオレンスのことで、あまりにもひどい誹謗中傷です。
「他の有名スポーツ選手でもお子さんが多数いて、それぞれ1~2歳差でも何も言わないのに、大谷選手にだけ言うのはおかしい」という意見も見ました。その通りです。いずれにしても大きなお世話でしょう。
■出産間隔はどのくらいがいいのか
では、実際のところ、年子はよくないのでしょうか。お母さんと赤ちゃんに多大な健康上のリスクがあるのでしょうか。医学的に見ていきましょう。

世界保健機構(WHO)は、出産後に次の妊娠を試みるには少なくとも24カ月(2年)あけることを推奨しています。出産間隔でいうと、33カ月以上です(※1)。米国産婦人科学会(ACOG)と母体胎児医学会(SMFM)は、出産から次の妊娠開始までの期間が6カ月未満にならないようにというガイドラインを出しています。特に、過去に帝王切開で出産した女性は、次に自然分娩する場合には18~24カ月未満の短い妊娠間隔ではないほうがよいようです(※2)。
一方、子どもの側を調べた研究のメタ解析では、妊娠間隔が18カ月未満、または59カ月以上だと、早産、低出生体重児などの周産期リスク上昇と関連があるとされています(※3)。
ここまで読んで「やっぱり自分の懸念は正しかった」と思った人がいるかもしれません。でも、そうではありません。ここからが重要です。

※1 Birth spacing— report from a WHO technical consultation

※2 Interpregnancy Care: Guidelines from ACOG and SMFM - AFP

※3 Birth spacing and risk of adverse perinatal outcomes: a meta-analysis - PubMed

※4 Interpregnancy Care - ACOG
■先進国で年子のリスクは高くない
じつは、WHOのガイドラインは、低・中所得国での母体の栄養不良、授乳中の児の栄養不良、乳幼児死亡率の高さを考慮して、世界全体の公衆衛生対策として出されたものだと考えられます。米国産婦人科学会は、近年「短い妊娠間隔と周産期リスクの関連は認められるものの、因果関係は完全に証明されてはいない」という慎重な書き方になっています。
つまり、日本、あるいはアメリカのような医療が発達した先進国では、年子が生まれたからといって医療上の注意が必要なことはあまりないでしょう。私自身、小児科医になってずいぶん経ちますが、現代の日本で「もっと妊娠間隔をあけるべきだったのに」という母子の実例を一つも知りません。


また、夫婦やご家族には、それぞれに事情や状況があります。何も知らない他人が勝手にジャッジするばかりか、批判的な意見をぶつけるのはよくないでしょう。他の身近な女性だったとしても、お子さんが生まれたときに何らかの心配があったら批判するのではなく、何か力になれないか声をかけるのが普通だと思います。
■カフェでの授乳にも非難の声が
現代の日本には、正しい知識もないのに、他人の子育てに首を突っ込んで口うるさく余計なことを言う人が多くて、本当にうんざりしてしまいます。
同時期に、SNSで「公共の場で授乳ケープを使って母乳を与えることの是非」が話題になりました。これは、あるお母さんがカフェで授乳ケープを使って赤ちゃんに母乳をあげたところ、店の人に「たくさんの人がいますので…」と注意されて反省し、今後はどのようにするのがいいのだろうか……と投稿したのがきっかけでした。
これについても驚くような声が上がりました。「自分は授乳しているところを見たくない」「子ども連れでカフェに行くな」「トイレで授乳すればいい」「特別な待遇を求める子持ち様だ」などというものです。
「母乳は血液から作られているので、血の穢れを想像したくない」という奇想天外な批判もあり、これには笑ってしまいました。確かに乳汁は体液から作られますが、そんなことをいったら牛乳も同じです。カフェラテやチーズなどの乳製品を見ても牛の血液を想像しないのに、母乳だけそうなるのはおかしなことでしょう。
■授乳しないと低血糖や脱水になる
そもそも乳児はおなかがすいたり、喉が渇いたりしたら泣くなどの合図で知らせますが、そのタイミングを完全に予想することは親でも不可能です。
当然のことですが、「少し待っててね」という説明を聞いてくれるような理解力や判断力はありません。
何より乳児は体全体が小さいので、本人がほしがったタイミングで母乳やミルクを与えないと、低血糖や脱水になるリスクが高いのです。つまり、乳児の健康や命がかかっています。長時間あげないというわけにはいきません。
しかも、子どもの月齢や飲み方によって大きく差がありますが、一回の授乳には少なくとも10分はかかります。長い場合は30分ほどかかることもめずらしくありません。それを1日に5~10回以上も繰り返し行うわけですから、いちいちトイレや授乳室に行けと言われても困るでしょう。
また、「ミルクという便利なものがあるのに、人前で母乳を与えたいというのは母親のエゴだ」などという批判もありましたが、これもおかしなことです。育児用ミルクか母乳かを選ぶのは母親の権利です。
そして、母乳は乳房から吸い取られることで、新たに作り出されます。母乳が溜まったままにすると、乳房が痛くなったり発熱したり、詰まって乳腺炎になったりすることも。さらに、体がもう母乳は不要なのだと判断することで分泌量が減り始めます。
いったん、母乳を減らす方向になった体は、母乳を増やす方向に再転換するのに苦労します。
■赤ちゃんにも母親にも自由がある
以上のように、乳児はどこにいても、本人がほしいタイミングで母乳あるいは育児用ミルクを飲む必要があります。母親にも、母乳を与える自由、育児用ミルクか母乳かを選択する自由があります。それが法律で保護されている国もあるほどです。
例えばイギリスでは、店舗、レストランやカフェ、図書館、映画館、公共交通機関、公園などで授乳する女性を不利益に扱うことは差別とされます。具体的には「授乳するなら出ていってください」「トイレで授乳してください」「隠れて授乳してください」「他のお客さんが嫌がるからやめてください」といった対応は違法となる可能性があります。さらにスコットランドでは、2歳未満の子どもへの授乳を妨害すること自体、刑事罰の対象になることがあるのです。
他にも、アメリカでは連邦法と州法で保護されていますし、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、北欧諸国、フランス、ドイツで「授乳を理由に不利益な扱いをしない」という差別禁止の枠組みで守られています。
当然のことですが、こういった法律がなくても、母親にも他の人と同様に自由に外出する権利があります。「子育てしているときくらいカフェを利用しないで家にいなさい」とか「育児用ミルクにしなさい」などと言う権利は誰にもありません。
年子批判も授乳批判も、日本が少子高齢化したことによって、子育てを知らない人が増えたことも大きな原因のひとつでしょう。それがまた少子化の原因になります。
誰もが生きていきやすい、そして子育てがしやすい社会になってほしいと心から願います。

※5 Breastfeeding while out and about - Maternity Action

※6 Breastfeeding - Citizens Advice

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)

小児科専門医

1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)

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