※本稿は、野口修平『地球を守る! 快適な生活が手に入る!「遮熱」超入門』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■断熱材に「熱を断つ力」はない
現在、ほとんどの日本の建築物では「断熱材」が室温をコントロールするために活用されています。ただ、思い込みは怖いもので、じつは「断熱材」は、その「断熱」という名称とは違って、熱を完全に遮断する素材ではありません。
その本質は「熱伝導の遅延装置」なのです。熱の移動を止めるのではなく、時間的に遅らせる効果が、その特徴となっています。つまり断熱材とは「熱を遮断する」のではなく、「熱の移動速度を意図的に遅らせるもの」と考えるのが正しいといえるのです。
この本質を誤解したままでは、夏季の高温環境、とくに日本の住宅が直面している長時間の暑熱問題を正しく理解することはできません。断熱材は熱の侵入を止めるのではなく、いったん内部にため込み、時間差をつくることで室内環境を調整します。つまり、その性能は結局「時間」とセットで判断しなければ意味がないのです。
ここで、熱の基礎を再確認します。
ところが実際にはそれは間違いです。そのように感じるだけで、実際は私たちの体温(高)が周り(低)へと移っていった結果、体温が下がって寒くなったと思うのです。熱が意思を持っているわけではありません。どんな場合でも、温度差に従ってより高い方から低い方へと移っていくだけなのです。
■断熱性能の正体は「空気の壁」
このような性質を持つ熱のなかで、断熱材が直接的に抑制できるのは「伝導熱」です。伝導とは、分子から分子へ熱が移動する現象のことをいいます。実際、経済産業省資源エネルギー庁「省エネ性能表示制度資料」(2023年)でも、断熱材の評価指標は熱伝導率(λ値)で示されます。
断熱材の多くは、グラスウールやロックウール、発泡ウレタンなど、内部に大量の空気層、つまり「動きにくい空気」を含んでいます。空気は熱伝導率がきわめて低いため、これを繊維や泡のなかに閉じ込めることで、分子間での熱の受け渡し(熱の伝わり)を遅らせることができます。
ここで正しく認識したいのは、「熱が遮断されるわけではない」という点です。断熱材によって、熱を伝えにくくすることはできても、高温から低温へ移動するという熱の自然法則を遮ることはできません。残念ながら、結局、熱は建物の内部へ侵入していってしまうのです。移動速度を遅らせる、その時間差こそが断熱であり、この性質を端的に表す表現が「熱伝導の遅延装置」といういい方になります。
断熱材は伝導熱に対して働きます。しかし、実際に建物に出入りする熱の約75%は「輻射熱」なのです。この輻射熱は、電磁波として空間を伝わり、真空中でも移動するという特性を持つもので、室内温度も輻射熱の影響を大きく受けているのです。
■気温よりも「日光の暑さ」に注意
最大の特徴は、輻射熱が物質を介さず光速(毎秒約30万km)で移動し、物体に当たった瞬間に吸収されて熱に変換される点にあります。
太陽から地表へ届くエネルギーもこの輻射であり、真夏に日向と日陰で体感温度が大きく異なるのは、空気温度ではなく輻射熱による輻射環境の差によるとされています。気温が同じ25℃でも、直射日光下では暑く、日陰では比較的涼しく感じるのはそのためです。
人が感じる暑さ寒さは、空気温度(気温)だけでなく、周囲の壁・床・天井などの表面温度から受ける平均輻射温度(MRT:Mean Radiant Temperature)に大きく左右されます。
建物における熱の出入りを考えると、夏季は屋根や外壁が太陽からの強い日射を受けて高温化し、その表面から室内へ輻射熱が放出されます。とくに夏季の屋根面では日射による輻射成分が支配的で、建物が熱くなる原因の大きな部分は、太陽からの輻射熱ということがわかっています。
これは国土交通省住宅局の住宅省エネルギー技術資料(2022年)における屋根面日射取得比率のデータとも整合しています。
■断熱材はじつは「蓄熱材」である
そこでポイントになるのは、ほとんどの建物で使われている断熱材が主に伝導熱の移動を遅らせる材料であるということです。輻射熱そのものを止めることはできません。断熱材の役割は、熱の流れを緩やかにすることなのです。
輻射熱は電磁波として移動し、真空中でも伝播します。断熱材を使えば熱移動の一部、つまり熱が伝わる速度を遅らせることはできても、輻射に対しては本質的に無力です。断熱材自体は熱を「遮る」というより「通しにくくする」だけで、逆に「熱容量」を持つ蓄熱体としても働いてしまうのです。このことから断熱材は「蓄熱材」であるともいえます。
気温の高い夏の日などは、建物内部に一度熱がたまるとなかなか室外に放出されず、夜中まで暑いという状況になってしまいます。
実測データをもとに、断熱材単独施行の建物の温度変化をみてみましょう。弊社が実施した複数の実験でも、断熱材のみを施工した屋根構成において、日中に受けた熱が時間差で室内側へ伝わり、夜間まで温度上昇が持続する現象が明らかになっています。
■夜になっても屋根裏温度は下がらなかった
実験の前提を整理します。実物大模型および実住宅での温度測定を行い、屋根表面、遮熱鋼板下面、断熱材上面、天井材下面、室内空気温度の推移を時系列で記録しています。測定は熱電対センサーおよびデータロガーを用い、1分間隔で取得しました。
この手法は、国土交通省の「住宅外皮性能評価法の実測指針」とも整合する一般的な方法です。また、温度測定精度は±0.5℃以内とします。
日本の典型的猛暑日を再現するため、外気温は34~36℃、日射量は気象庁「日射量観測統計資料」(2023年、東京地点)と同程度の約800~900W/平方メートル条件で実施します。
実験開始から数時間後、屋根表面温度は正午前後に約80℃へ達しました。これは国土交通省国土技術政策総合研究所(国総研)の屋根表面温度実測(2022年報告)と同水準です。
外気温が夕方以降に30℃以下へ低下しても、屋根裏温度は急激には下がりません。午後8時時点でも40℃前後を維持し、深夜にかけてゆるやかに低下していきました。
■「断熱材だけの家」はむしろ暑い
この温度推移は、北海道大学大学院工学研究院の「高断熱住宅の夏期熱挙動解析」(2023年、日本建築学会大会学術講演梗概集)で報告された現象と一致します。同研究では、外皮断熱性能を高めた住宅ほど、日射取得過多の場合に内部蓄熱が夜間放出されると示されています。
これらの実験結果に基づいても、「断熱材単独施行の家は夏暑い」と断言してもよいと考えられます。
気象庁の「過去の気象データ検索」(2023年)によれば、真夏日の外気温は全国主要都市で35℃前後。その一方、国土交通省国土技術政策総合研究所の屋根表面温度実測データ(2022年報告)では、黒色系屋根材の表面温度は日射ピーク時に75~85℃に達したと報告されています。
建物を通過する熱は輻射熱がもっとも多く、全移動熱量の約75%が輻射熱です。しかし屋根はそれ以上、93%もの割合を輻射熱が占めています。その結果、夏季の屋根裏では、最大で300~400W/平方メートル級の輻射負荷が発生し、そのエネルギーが天井面を介して室内へ影響を与えているのです。
■「屋根裏」と「真夏の車内」は同じ状態
屋根裏の温度上昇の主因は「一次と二次輻射の連鎖」にあります。
外気温35℃と屋根表面温度80℃は、まったく異なった物理現象の結果です。屋根面は日射によって直接加熱され、太陽からの短波輻射を吸収します。その後、加熱された屋根材は長波輻射として周囲へエネルギーを放出しているのです。
この輻射エネルギー量は、「ステファン=ボルツマンの法則」に従い、温度の4乗に比例します。東京大学大学院工学系研究科の公開講義資料「建築環境工学基礎」(2022年)でも、輻射熱流は温度差に対して非線形に増大すると説明されています。屋根面が80℃に達した場合、その輻射量は理論上300~400W/平方メートル規模になります。つまり、屋根裏は単に暑い空間なのではなく、面として強力な輻射源になるのです。
この屋根裏の状態は夏の車内にもたとえられます。
一般財団法人日本自動車研究所の実測実験(2022年報告)では、外気温33℃の条件下で、閉鎖車両内温度は60℃を超えると報告されています。夏に車内が異常に暑くなる理由は、短波輻射が車内に入り込み、内装材を加熱し、それらが長波輻射として再放出するからです。この二次輻射と対流加熱が温度上昇を加速させます。
■屋根裏は「巨大なオーブン」になる
これと同様の現象が屋根裏でも起きています。屋根材が80℃に達し、その輻射が遮熱鋼板や断熱材表面を加熱します。加熱された天井材は再び長波輻射を行いますが、この現象を「二次輻射」と定義します。天井裏は二次輻射で空気が加熱された状態になるのです。
屋根裏空間は密閉に近い状態です。通気が不十分な場合、輻射で加熱された部材が空気を温め、空気温度は40~50℃に達します。これは国立研究開発法人建築研究所の「木造住宅小屋裏温度実測調査」(2022年)でも確認されています。関東地域の戸建住宅10棟の測定で、小屋裏温度は外気温34℃時に48℃まで上昇しました。
いうなれば屋根裏は巨大なオーブンのように振る舞い、室内を温めています。300~400W/平方メートルという輻射負荷は、決して小さくありません。
エアコンで比較してみましょう。一般的なエアコンの冷房能力は6畳用で約2.2kWほど。仮に天井面積が40平方メートルあれば、300W/平方メートルの輻射が続けば、理論上12kW相当のエネルギーが関与する計算になります。こうみると、屋根裏で発生するエネルギーの重みがわかるはずです。
もちろん、全量が室内に入るわけではありません。しかし、断熱材を介して遅延しながら侵入する熱量は無視できません。
■「遅れてくる熱」が夜の不快感を生む
このように高断熱住宅では、外気温の変化と室温の変化にタイムラグが生じます。
断熱材単独施工の温度推移を詳細にみると、室内温度が日中のピーク時よりも「夕方から夜にかけて」上昇する場合があります。その理由は、断熱材によって熱の侵入が遅くなるため、日中に受けた熱が数時間かけてゆっくり室内側へ移動するから。
たとえば、午後2時に屋根面が最高温度に達しても、その熱の影響が室内にもっとも強く現れるのは夕方から夜にかけて、になるということです。
これは高断熱住宅で報告される「夜になっても暑さが残る」現象とも整合します。北海道大学大学院工学研究院の住宅熱環境研究(2023年)では、高断熱高気密住宅において、日射取得過多の場合、内部蓄熱が夜間放出されることが示されています。
弊社の実験データでも、午後7時以降に室内天井面温度が上昇し、体感的な不快感が増すと報告されています。夜間になっても室温が下がりにくいのは、遅れてやってくる熱の影響なのです。
また、夜間の暑さでもうひとつ見落とされがちなのが「輻射」の影響です。人は空気温度だけでなく、周囲の壁や天井の表面温度からも熱を受け取ります。たとえば夜間の空気温度が28℃まで下がっても、天井や壁の表面温度が32~35℃であれば、人体はそれらから輻射熱を受け取っています。これにより体感温度は実際の室温より高く感じられるというわけです。
■「通気性の高い家」部屋は冷えない
断熱材単独では、屋根裏で発生した300~400W/平方メートル級の輻射負荷を根本的に遮断できません。そのため、構造体に蓄えられた熱が夜間に再輻射されているのです。この再輻射現象を「二次輻射の持続」といいます。
断熱材単独施工と遮熱材併用施工を比較してみるとその事実は明らかです。断熱材のみの場合、小屋裏温度は最大50℃近くまで上昇。一方、遮熱材を屋根直下に施工したケースでは、同条件下で小屋裏温度が10~15℃低下したのです。
この差の理由は「輻射率の違い」であることを表しています。日本工業規格JISA1420に基づく測定で、高反射アルミ材の輻射率は約0.03とされていますが、一般的な建材の輻射率0.8~0.9と比較すると、輻射吸収量は大幅に減少します。つまり、断熱材単独施工では、受けた輻射エネルギーを内部に抱え込んでしまうということです。
以上の条件から「夜間に暑さが残る」と感じるのは、
・室温が高止まりしている
・壁や天井から輻射熱を受け続けている
という二重の影響によるということがわかります。
反対意見としては、「通気を強化すれば解決する」という見解もあります。しかし、国立建築研究所の通気層実験報告(2022年)では、通気のみでは輻射そのものは遮断できないと結論づけています。通気は対流熱を排出しますが、輻射反射機能は持ちません。したがって、断熱材単独施工の温度推移に見られる夜間の高止まりは、物理法則に基づく必然的帰結なのです。
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野口 修平(のぐち・しゅうへい)
日本遮熱株式会社代表取締役
1998年、米国で遮熱施工された工場において、猛暑下でもエアコンなしで快適な室内環境が保たれていることを体感し、遮熱技術の可能性に着目。以来、独自に数千回に及ぶ実験と検証を重ね、遮熱材や施工法の研究・開発を進めてきた。多数の特許・実用新案を取得し、文部科学大臣賞、特許庁長官奨励賞、日本弁理士会会長賞など受賞歴も多数。遮熱の普及を通じて、省エネ、熱中症対策、地球温暖化対策に取り組んでいる。著書に、『地球を守る! 快適な生活が手に入る!「遮熱」超入門』(日刊現代)がある。
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(日本遮熱株式会社代表取締役 野口 修平)

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