習慣を長続きさせるには、どうすればいいのか。飽きっぽい性格というエッセイストの阿川佐和子さんが、さまざまな賢人に出会い、その秘訣を探った。
阿川さんの新著『年とる力』(文春新書)より、一部を紹介する――。
■30年付き合いのある学者のすごい秘密
私には継続力がありません。新たな「身体にいいこと」を教えられた当初は、
「よし、これならずっと続けられそう」
と思うのですが、ふと気がつくとすっかり忘れていることだらけです。
発酵学者の小泉武夫さんとは、『週刊文春』の対談でお会いして以来、すでに30年近く仲良くさせていただいております。先生と一緒に発酵トークショーに参加したり、先生の講演の前座を務めたり、プライベートでもちょくちょくお会いします。
お会いするたび驚愕することがあります。というのも、この30年近く、いつお会いしても先生の身体から「加齢臭」を感じたことがないのです。
私は「お久しぶりです」とご挨拶をするついでに先生の身体に鼻を近づけて、クンクン匂いを嗅いでみるのですが、一度も臭かったことがない。どんなに暑い夏の日でも、先生の額に汗が滲(にじ)みでていても、「クサッ」と思ったことは一度もありません。
「信じられないです! どうして?」
そう訊ねると、先生はいつも、
「毎日、納豆を食べているからだよ」
■海外旅行にも「日数分の納豆」を持参
そう、小泉先生は納豆を1日たりとも欠かすことがないのです。たとえ海外旅行をするときでも、旅行の日数分の納豆を持ち歩き、パックを開けて箸でよく混ぜて、掻(か)き込むのだそうです。
「納豆を食べ続けていれば、身体の新陳代謝が滞らない。
加齢臭というのは加齢によって新陳代謝の力が落ちるから、老廃物が体内にたまって臭くなるのです。僕はもう80歳を過ぎたけど、臭くないでしょ。便秘もしない。納豆のおかげです!」
たしかに先生を拝見していると、まことに血色がよく、食欲も旺盛で、お腹はサンタクロースのように膨(ふく)らんではいるけれど、いかにも健康そう。よし、私も明日から毎日納豆を食べるぞ。
でも、その決意はだいたい数週間で揺らいでしまいます。納豆が嫌いなわけではないけれど、朝ご飯はだいたいパン食のため、納豆を食べるチャンスを逃す。では夜に食べよう。そう思ってはみたものの、食卓に納豆を並べると、他の料理の匂いがすべて納豆臭に負けてしまうので、つい出しそびれる。
■医師の勧めでオートミールに挑戦
小泉先生のように常時鞄に納豆を入れて持ち歩いていればいいのかもしれませんが、それも、なかなかねえ。
そんなこんなで、小泉先生、すみません。私の納豆ブームはだいたい半月が限度となっております。
もっとも、ブームが去ってもまた小泉先生にお会いすれば即座に再燃するので心配無用。納豆を食べ続けるためにも、小泉先生と会う回数をもっと増やそうかと企んでいます。
オートミールブームというのも、かつてありました。終わったのかって? いやいや休止中。コレステロール値の高い私はお医者様から、
「オートミールを食べるようにしなさい」
と言われ、しばらく続けていたことがあります。
そうか、オートミールは身体にいいのかと発奮し、子どもの頃から食べ慣れた方法で始めることにしました。乾燥オートミールを水で溶き、火にかけて温めてドロンとさせる。別鍋で牛乳も温めて、ドロリンとしたオートミールを器に入れ、その上に砂糖と熱々の牛乳をかけていただく。
■台湾の朝食風で数週間続けたが…
うーむ、懐かしい味だ、と郷愁に浸るのも束の間。2、3日すると飽きてくる。
もう少し別の調理方法はないものか。甘くない食べ方はないかしら。
あれこれ思案した末に、オートミールをお粥と思ってみることにしたのです。
火にかけてドロンとさせたオートミールの上に、ふりかけや海苔、はたまたネギや生姜の細切りを乗せ、味つけに醤油、酢、豆板醤(とうばんじゃん)などを加えて掻き込む。ときに、そこへ温めた豆乳をかけてみることもあります。そう思いついたのは、台湾で朝食に食した豆乳スープを思い出したからでした。
おお、これはイケるぞ。これなら毎日、続けられそうです。
たしかに数週間は続けました。でも数週間の後、朝、起きて、
「朝ご飯、どうする?」

「うーん、たまにはパンにしようか」
こうしてオートミールブームもただいま少々遠のいておりまする。
■鎌田實さんから教わった「2つの体操」
短期マイブームは食事にかぎったことではありません。
ずいぶん昔、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實さんとお会いしたところ、それより前にお会いした頃と比べてなんだかスマートになっていらした。お腹はへこみ、顔は引き締まり、グッと若返ったかのようです。
「どうなさったんですか?」
伺うと、先生、得々と解説し始めたのです。
もはやそれについてはご著書もあるので私が改めて説明する必要もないでしょうが、つまり、「鎌田式スクワット」と「鎌田式かかと落とし」。たった二つの体操を毎日続けるだけで、脂肪が落ち、筋肉がつき、足腰や膝が丈夫になったとおっしゃるのです。
「スクワットがいいと言われても、若い人と同じようにやることはできない。そこで考案したのです、高齢者用のスクワットを。かかと落としもね」
私もかねてより「スクワットが健康にいい」ことは知っていましたが、本気でやろうとすると、どうしても膝がつま先より前に突き出る。膝を出さないようにすればうしろに体重を取られてしまう。
「スクワットは難しい。無理無理」
そういう印象を抱いておりました。
■「3カ月やれば、確実に痩せる」と聞いて
「でもね。身体のうしろに椅子を置いておけば、倒れそうになったら椅子が支えてくれるから安心。高齢者はそれぐらいでじゅうぶんです。膝を直角に曲げようなんて思わなくていい。
無理はしない。続けることが大事」
鎌田先生のお話に深く感銘を受けた私は、さっそく椅子の前に立ってスクワットを始めてみました。なるほど尻餅をつきそうになっても椅子が受け止めてくれるから怖くない。
「これをどれぐらい続けると、効果が現れますか?」
伺うと、
「そうだなあ。3カ月やれば、確実に痩せる。体力がつく」
3カ月か。よし、頑張ろう! でも私は3カ月すら続けられず、ときおり発作的に思い出したときしか実行しませんでした。
それから数年後、鎌田先生と再会しました。
「どう? スクワット続けてる?」
私は顔を逸らして首を横に振りました。
■阿川さんが辿り着いた「気まぐれ健康法」
「ダメじゃないかあ」
すみません。でもね、椅子がないところで実行すると、どうしてもうしろに転んじゃうんですよ。言い訳をすると、
「もう少し足を横に広げて、もっと手を前に出して、重心をうしろにおかないようにしてやってごらん。
ほら、できた! 1日何十回もしなくていいよ。5回でもいいんだからね」
優しい鎌田先生は私をしきりに励ましてくださいます。もう裏切りません。今度こそ続けるぞ。そう心に期してウチへ帰り、少しずつ再開し始めているところです。もうすでに3カ月が過ぎましたが、痩せないのは、毎日やっていないからでしょうか。
毎日は実行せずとも、鎌田先生のささやかなヒントはしっかり頭に残っています。
頭の抽斗(ひきだし)に入れた小さなヒントをときどき思い出し、ときどき試してみるのが、私の気まぐれ健康法です。
腰を痛めたとき、スポーツジムのインストラクターから教えられたのは、
「背筋を伸ばして、おへそに力を入れて、天から釣られているような気持で歩いてごらんなさい」
■長続きの秘訣は「いつでも、どこでも」
これはたしかに効果的です。道を歩いているとき、あるいは横断歩道で信号が青になるのを待つ間、その言葉を思い出して、姿勢を正してみるのです。
するとたちまち腰の痛みが和らぎます。ずっとおへそに力を入れていると疲れるので、長い時間は続きませんが、ふと思い出したときにクッと丹田に力を入れるだけで、腰の負担は軽減される気がします。
最近は、機械式駐車場から車が出てくるのを待つ間や、ホームに電車が入ってくるまでの時間を利用して、かかと落としをするようにしています。あるいは片足立ちを30秒間する。テレビで紹介しているのを見たからです。体幹を鍛える簡単な体操の一つだそうです。
台所で野菜を切りながらかかと落としをしてみたら、包丁が上下して指を切りそうになったので止めました。
でも、こんな具合に日常生活のほんの短い時間を利用して、あちこちから入手した簡単な健康法を好きなように取り入れてみるのは気楽です。
改めて「体操の時間」を設けなくても、スポーツジムに通わなくても、いつでもどこでも実行できることが、続ける秘訣になると思います。たとえ私のように「休止中」になったとしても。

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阿川 佐和子(あがわ・さわこ)

エッセイスト

1953年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部西洋史学科卒業。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。2012年に刊行した『聞く力』が170万部を突破して、年間ベストセラー第1位に。14年、菊池寛賞受賞。主な著書に『強父論』『ウメ子』『婚約のあとで』『正義のセ』などがある。テレビでは「ビートたけしのTVタックル」などに出演中。


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(エッセイスト 阿川 佐和子)
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