経団連の発表によれば、大手企業の夏のボーナスの平均支給額が100万円を超えた。FPの浦上登さんは「ボーナスを投資に回す余裕があれば、NISA枠でインデックス・ファンドを購入すると、試算では10年の投資で20年使える老後資金ができる」という――。

■新NISAで積み立てる「自分年金」
老後資金の話になると、多くの人は「公的年金だけで生活できるのだろうか」と不安を感じる。
そのニーズもあって投資への関心は高まっている。しかし、多くの人の関心は「投資したお金がいくら増えるか」という資産形成の段階で止まっている。老後にその資産をどう使うのか、どのように「年金化」するのかまで考えている人は決して多くない。
私はFPとして長年、相談業務に携わってきたが、本当に重要なのは「いくら貯まるか」ではなく、いざ年金生活に入ってから「毎年いくら使えるか」だと考えている。そこで提案したいのが「自分年金」という考え方である。
■投資は積立終了で終わらない
資産形成の記事では、「毎月いくら積み立てれば10年後にいくらになる」という説明が多い。
しかし、それだけでは老後資金の問題は解決しない。
なぜなら、私たちが必要としているのは「資産残高」ではなく、老後に受け取る「年金(生活費)」だからである。
それを一般的に収入が大きく増える50歳から形成するとしよう。2026年夏のボーナスの平均受給額は43万6140円(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、大手企業においては初めて100万円を超えた(経団連発表)。
たとえば、夏のボーナスから50万円、冬のボーナスから100万円、年間150万円を投資に回すようにする。

新NISA枠で毎月12.5万円、積立期間10年で積立を行うとすると、投資元本は1500万円になる。
年率7%で運用できたと仮定すれば、10年後の資産残高は約2138万円になる。多くのシミュレーションはここで終わる。
しかし、本当に重要なのはここから先である。老後に入っても全額一気に取り崩すのではなく、少しずつ取り崩して資産運用を続けることができる。したがって、積立期間中(10年間)の運用益だけでなく、「取り崩し期間中の運用益」も考慮しなければ、本当の意味での老後資金は計算できない。
「50歳を過ぎてから投資を始めても手遅れでは?」と諦めている人が多い。たしかに複利効果を最大化するためには10年間の積み立てより15年、20年の方が有利だ。
だが、結論からいえば、50歳からでも十分に間に合う。年に2回のボーナスを新NISA(少額投資非課税制度)でS&P500インデックス・ファンドに投じるだけで、シミュレーション上、60歳時点で2100万円超の資産形成が現実的になる。
本稿では具体的な数字を基に、積立フェーズ(50~60歳)と取り崩しフェーズ(60~80歳)に分けて、マネープランを詳しく解説する。
■100年間で年率複利10%「S&P500」
新NISA枠を使い、投資商品はインデックス。
ファンドのS&P500のみとして
・50歳から60歳まで10年間積立

・60歳から80歳まで20年間取り崩し
というモデルで検証してみた。
S&P500は米国の代表的な500社で構成される株価指数で、1926年からデータをとることができる。S&P500は創設以来、配当込みで年率複利約10%のリターンを記録している。
S&P500は1926年1月から現在までの間、配当再投資なしで約570倍、配当再投資込みで約2万倍以上に増えてきた。
eMaxisなどでこのインデックス・ファンドを買えば、配当再投資込みの倍率で増えることになる。
試算の前提は次の通りだ。
・毎月12.5万円積立

・積立期間10年

・元本1500万円

・投資対象 S&P500

・運用方法 新NISA

・運用利回り年率7%

・取り崩し期間20年
この場合、積立終了時の資産残高は約2138万円となる。
■10年で積み立て完了、20年で取り崩す
さらに、その資産を運用しながら20年間で均等に取り崩すと、約188万円を20年にわたって受けとれる。
総受取額は約3772万円(元本1500万円の2.51倍)となる。
公的年金を約200万円とすれば、公的年金とこの自分年金を合わせて年388万円になる。
ここで重要なのは、2138万円(元本の1.43倍)を単純に20年で割ったわけではないという点。取り崩し期間中も資産は働き続ける。

積立時の運用益:638万円だけでなく、

取り崩し時の運用益:1634万円
も老後資金の重要な構成要素となる。
私はこれまで多くの資産形成シミュレーションを見てきたが、この「取り崩し期間の運用益」を無視しているものが非常に多い。
しかし、自分年金と考えるのであれば、むしろこちらの方が重要なのである。
それを加味すると、老後資金は、2138万円ではなく、3772万円になるのだ。
■年率7%は保守的な前提である
もちろん、投資である以上、将来の運用成果は誰にも分からない。
したがって年率7%という数字も保証されたものではない。
ただし、私は7%をかなり保守的な前提だと考えている。
その理由は、S&P500の過去100年近い実績にある。
今回は1926年以降のS&P500トータルリターンデータを用い、「10年間積立、20年間取り崩し」というモデルを1カ月ごとに開始時期をずらして検証した。
検証サンプル数は810ケースに及ぶ。
その結果、この自分年金モデルの平均内部収益率(IRR)は年率複利で11.26%となった。
これは単なる株価指数の上昇率ではない。
実際に積み立てを行い、さらに取り崩しをおこなう投資家が受け取る成績である。
■100年平均で試算するとどうなるか
それでは、この11.26%で試算するとどうなるだろうか。元本は同じ1500万円であるが、自分年金は7%のときの188万円から年306万円に増える。
積立終了時の資産残高は約2668万円で元本の約1.78倍。
さらに20年間運用しながら取り崩すと、総受取額は約6126万円で、元本の約4.08倍である。
すると自分年金は6126万円÷20年で年約306万円になる。つまり、公的年金に加えて年間300万円規模の自分年金を受け取れる計算になる。公的年金を200万円とすると、年金総額は約506万円となる。
もちろん将来が過去と同じ成績になる保証はない。しかし、過去100年の実績から見れば、7%は保守的なケースであり、11.26%は100年間の平均値と位置付けることができる。
■長期投資の本当の意味
長期投資の価値は、単に資産が増えることだけではない。たしかに、投資期間が長くなるほど複利効果により資産は指数関数的に増加する。

図表5を見ていただきたい。
元本を年7%の複利で運用すると5年で1.4倍、10年で1.97倍、15年で2.76倍、20年で3.87倍と倍々ゲームで増加する。
ただし、長期投資のメリットはそれだけではない。
投資期間が長くなるほどトータルで損失になる確率が低下することである。投資の結果のばらつき(=標準偏差)が小さくなるため、結果の安定性もよくなるのだ。
複利効果で資産が倍々ゲームで増えるだけでなく、悪い結果になる確率も減少する。これこそが長期投資のメリットである。
■新NISAは自分年金づくりの制度である
新NISAの最大のメリットは非課税である。

運用益や配当金に税金がかからないため、複利効果を最大限活用できる。

その意味で、新NISAは単なる投資制度ではない。

老後のための自分年金づくりの制度である。
毎年のボーナスを何となく使ってしまう、または普通預金に貯めておくのではなく、年間150万円を投資し、10年間積み立てる。
そして老後は20年間かけて計画的に取り崩す。
その結果、年率7%という保守的な前提でも年間約188万円、過去100年の平均実績である11.26%を前提とすれば年間約306万円の自分年金を受け取れる試算となる。
60歳以降のマネープランで多くの人が陥るのが、「まとまったお金を手にしたら全額を定期預金に移す」という発想だ。しかしそれでは、インフレに資産が負け続けることになる。
今回の試算では、60歳以降も残りの資産をS&P500で運用し続けながら、毎年180万円(月15万円相当)を取り崩すという「定率取り崩し+継続運用」の戦略を採った。ひとつの参考にしてほしい。

----------

浦上 登(うらかみ・のぼる)

コンサルタント

早稲田大学政治経済学部を卒業後、三菱重工業に入社、海外向け発電プラントの仕事に携わる。ベネズエラ駐在、米国ロサンゼルス営業所長などを歴任後、三菱重工グループの保険代理店に移り、取締役東京支店長。2009年にはファイナンシャル・プランナーの上位資格CFPを取得。2017年にサマーアロー・コンサルティングを設立、著書に『70歳現役FPが教える 60歳からの「働き方」と「お金」の正解』(PHP研究所)がある。

----------

(コンサルタント 浦上 登)
編集部おすすめ