※本稿は、佐々木敦朗『3日で変わる からだが目覚める「食べない力」』(講談社)の一部を再編集したものです。
■「食べない時間」が老化を防ぐ
いつまでも若々しく元気でいたいというのは、万人の願いでしょう。私自身も「年齢よりも若く見られたい」と思うことがあります。
見た目の若さを左右する要素の一つは、肌のツヤやハリといった「皮膚年齢」です。では、ファスティングには肌がよりみずみずしく若返る効果があるか?――その問いに対する私の答えは「イエス」です。
食べ過ぎは老化を招きます。この逆に「食べない時間をつくること」は老化を防ぎ、若さを保つことにつながります。ただし、老化防止に関するヒトでの長期・大規模試験はまだ多くないため、現時点で言える範囲には限りがあることを最初にお伝えしておきます。
空腹時やファスティング中には、損傷したタンパク質や小器官を細胞が分解・再利用する、「リサイクル機構(オートファジー)」が活性化することが知られています。オートファジーは皮膚細胞の新陳代謝にも重要で、古くなった細胞成分を片付ける働きがあります。ファスティングは肌の質感に良い影響が期待できるのです(※1)。
※1:Eckhart L, Tschachler E, Gruber F. Autophagic Control of Skin Aging. Front Cell Dev Biol. 2019 Jul 30;7:143. doi: 10.3389/fcell.2019.00143. PMID: 31417903; PMCID: PMC6682604.
Maloh J, Wei M, Hsu WC, Caputo S, Afzal N, Sivamani RK. The Effects of a Fasting Mimicking Diet on Skin Hydration, Skin Texture, and Skin Assessment: A Randomized Controlled Trial. J Clin Med. 2023 Feb 21;12(5):1710. doi: 10.3390/jcm12051710. PMID: 36902498; PMCID: PMC10003066.
■24時間断食で成長ホルモンが5倍上がる
鍵のひとつは成長ホルモンです。成長ホルモンは脳の下垂体前葉から分泌されるホルモンで、IGF-1(インスリン様成長因子)というホルモンを介して皮膚のコラーゲン合成や水分を保つヒアルロン酸の産生を後押しします。「美容ホルモン」「若返りホルモン」とも称されます。この働きが肌の弾力(ハリ)と保水(みずみずしさ)の土台を支えるのです。
成長ホルモンは入眠後間もない“深い眠り”で分泌が高まることが知られています。高血糖でインスリンが高い状態では成長ホルモンが出にくく、空腹時に増えるグレリンというホルモンには成長ホルモンの分泌を促します。「何を食べるか」だけでなく「食べない時間をつくること」が、成長ホルモンが出やすい環境をつくるためには大切だと言えます。
実際、2日間の絶食で24時間当たりの成長ホルモン産生量が約4倍に増えたという報告や、24時間断食で平均約5倍に上がったという報告があります(※2)。
※2:Hartman, M.L., et al. (1996). Pulsatile growth hormone secretion in older persons is enhanced by fasting without relationship to sleep stages. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 81(7), 2694-2701. PMID: 8675598
Hollstein, T., et al. (2022). Effects of short-term fasting on Ghrelin/GH/IGF-1 axis in healthy humans. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 107(9), e3769-e3780. PMID: 35678263
空腹時のホルモン環境を踏まえると、例えば「週に1~2回」や「月に数日(周期的に)」といった形で“食べない時間”を定期的に取り入れることで、血糖値やインスリンの働きや血圧などの代謝に関わる指標が改善した報告があります(※3)。
※3:Wei, M., Brandhorst, S., Shelehchi, M., et al. (2017). Fasting-mimicking diet and markers/risk factors for aging, diabetes, cancer, and cardiovascular disease. Science Translational Medicine, 9(377), eaai8700. PMID:
Brandhorst, S., Levine, M.E., Wei, M., et al. (2024). Fasting-mimicking diet causes hepatic and blood markers changes indicating reduced biological age and disease risk. Nature Communications, 15(1), 1309. PMID: 38378685
■肌の健康に必要なのはメリハリのある食事
重要なのは「ずっと食べないこと」ではなく、「食べるとき」と「食べないとき」にメリハリをつけることです。メリハリをつけることで、体内環境が改善され、身体のリズムを整え、肌の健康と若々しさを保つことが可能になるのです。
私は現在53歳になりますが、人からよく「肌がツヤツヤ」と言われます。
周期的なファスティングのアンチエイジング効果を理解するには、「ホルミシス」の視点も非常に重要です。ホルミシスとは、軽いストレスや負荷を与えると身体がそれに適応し、より強く健康になるという生理的反応を指します。筋トレで筋肉が強化されるように、小さなストレスは身体を鍛えることにつながります。
ファスティングも身体にとっては一種のストレスなので、それによってホルミシス効果が起こります。その結果、皮膚のバリア機能が強化され、肌の水分保持能力も高まって弾力性の回復にもつながります。
■肌の乾燥や小じわを招く避けたい習慣
近年、「ファスティング・ミミック・ダイエット(FMD)」が注目されています。この食事法を開発したヴァルター・ロンゴ博士らの研究チームによる、数カ月間にわたる実践を対象にした臨床試験では、FMDによって皮膚水分量や肌の質感(キメ細かさ)などが良い方向に変化したという知見、生物学的年齢の指標が改善したとする報告もあります。
一方、食べ過ぎは肌の老化を押し進める方向に働きやすいことは多くの研究で示されています。
過食状態が続くと体内の慢性炎症(身体がダメージを受けたときの防御反応)が強まるため、皮膚のバリア機能が弱ってダメージ修復が追いつかなくなり、肌の乾燥や小じわ、くすみなどといった見た目の劣化につながりやすくなります。
他のメカニズムもありますが、これだけを見ても過食はアンチエイジングの大敵だといえるでしょう。
ファスティングは皮膚だけでなく、血管や臓器のコンディションにも良い変化をもたらします。
過食や偏った食事で糖分の摂り過ぎが続くと体内で糖化が進み、「AGEs(終末糖化産物)」が増えます。AGEsの蓄積度は血管を硬くする方向に働き、動脈硬化や心血管疾患のリスクとの関連が報告されています。
■肌だけでなく臓器にも悪影響を及ぼす
さらに過食によって慢性的な炎症が続くと、内臓の組織が線維化して硬くなり、臓器としての機能が次第に失われていきます。
代表的な例が脂肪肝で、高脂肪の食生活によって肝臓に脂肪が蓄積し、炎症が強まって線維化が進むと、肝硬変に至ることもあります。血糖値が高い状態が続くと腎臓にも負担がかかり、腎臓組織の炎症や線維化も進行してしまいます。
一方、周期的なファスティング模倣食(FMD)や断続的なファスティングは、体重・内臓脂肪・血圧・炎症の度合いといった“老化関連リスク因子”を改善できることが報告されています(※3)。少なくとも血管や臓器を「休ませ、修復モードに入れる」ことは、全身の健康維持にとって理に適ったアプローチだと言えるでしょう。
※3:Wei, M., Brandhorst, S., Shelehchi, M., et al. (2017). Fasting-mimicking diet and markers/risk factors for aging, diabetes, cancer, and cardiovascular disease. Science Translational Medicine, 9(377), eaai8700. PMID:
Brandhorst, S., Levine, M.E., Wei, M., et al. (2024). Fasting-mimicking diet causes hepatic and blood markers changes indicating reduced biological age and disease risk. Nature Communications, 15(1), 1309. PMID: 38378685
アンチエイジングといえば、脳の老化をいかに防ぐかも大きなテーマです。
脳の機能は積極的に使えば使うほど強化されます。しかし適度に休ませることも大切です。筋肉が負荷と休息の繰り返しで強くなるのと同じように、脳も適切な負荷と十分な休息(睡眠)を与えることで機能は向上しやすくなります。
■ファスティングは認知機能の低下も抑える
偏った食生活による脳への影響は、他の臓器や血管への影響と同様に深刻です。
主に動物実験では、過食、とくに高脂肪食や糖質の過剰摂取は、脳内で酸化ストレスや慢性炎症が高まることが示されています。神経細胞の働きや、記憶を支えるシナプスの機能が乱れることも報告されています。
さらに、遺伝子の“使われ方”を調整するエピジェネティクスという仕組みにも影響を及ぼします。脳で本来働くべき遺伝子の使われ方が乱れることで脳の老化を加速させてしまう可能性も指摘されています。
逆にファスティングは、脳の代謝環境を整えることで、認知機能の維持に役立つ可能性が示唆されています(※4)。
※4:Phillips, M.C.L. (2019). Fasting as a therapy in neurological disease. Nutrients, 11(10), 2501. PMID: 31627405
アルツハイマー病については、動物モデルでは一定時間食べないという条件を設けることで、アミロイドβの蓄積減少や記憶力向上を示す報告が多くなされています。ヒトにおいてはまだ小規模な研究が進みつつある段階です。
一例を挙げると、ヒトを対象とした研究では、規模の小さい研究ながら時間制限ファスティングで血糖値を下げるインスリンの効きがよくなり、記憶テストのスコアが改善したという報告があります(※5)。アルツハイマー病モデル動物でFMDを試したところ、認知機能低下を抑える可能性が報告されています。ヒトでも、安全性と実効性を確認する試験が進められています(※6)。
※5:Ooi TC, Meramat A, et al. Intermittent Fasting Enhanced the Cognitive Function in Older Adults with Mild Cognitive Impairment by Inducing Biochemical and Metabolic changes: A 3-Year Progressive Study. Nutrients. 2020 Aug 30;12(9):2644. doi: 10.3390/nu12092644. PMID: 32872655; PMCID: PMC7551340.
※6:Rangan, et al. (2022). Fasting-mimicking diet cycles reduce neuroinflammation to attenuate cognitive decline in Alzheimer’s models. Cell Reports 40(13), 111417. PMID: 36170815.
Zhao, y., et al. (2025). Time-restricted feeding mitigates Alzheimer’s disease-associated cognitive impairments via a B. pseudolongum-propionic acid-FFAR3 axis. iMeta 4, e70006. PMID: 40236783.
Elias, A., et al. (2023). Effects of intermittent fasting on cognitive health and Alzheimer’s disease. Nutrition Reviews 81(9), 1225-1233.
Racette, S.B., et al. (2025). Time-restricted eating in Alzheimer’s disease: TREAD pilot trial design.
※糖尿病を含む基礎疾患がある方、治療中・服薬中の方、妊娠中・授乳中の方、成長期の方、摂食障害のある方またはその既往がある方、その他健康状態に不安のある方は、本書の方法を自己判断で行わず、必ず医師に相談してください。
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佐々木 敦朗(ささき・あつお)
米国シンシナティ大学医学部教授、慶應義塾大学特任教授、広島大学医学部連携教授、東京理科大学客員教授
1972年、広島県呉市生まれ。生命科学者。博士(医学)。現在、米国シンシナティ大学医学部教授、慶應義塾大学特任教授。広島大学医学部連携教授、東京理科大学客員教授としても研究と教育に携わる。2002年に渡米、カリフォルニア大学サンディエゴ校、ハーバード大学メディカルスクールで研鑽を重ね、細胞のエネルギー代謝を軸に、がん、老化、代謝疾患に関わる生命現象を分子から個体までつないで探究する。プライベートでは20代で体重が急増、30代で高血圧治療を受ける。自らの身体で食と生活を立て直す試行錯誤の末、ファスティングにたどり着き、今も継続して実践する。
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(米国シンシナティ大学医学部教授、慶應義塾大学特任教授、広島大学医学部連携教授、東京理科大学客員教授 佐々木 敦朗)

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