日本に住む外国人は増え続けている。不動産事業プロデューサーの牧野知弘さんは「都内屈指の教育環境に目をつけた中国人エリート家庭が、文京区に居住したがる傾向が近年強まっている。
その結果、一部の人気公立小の学区内で中古マンション価格が上昇している」という――。
※本稿は、牧野知弘『「外国人不動産」問題』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。
■区内に住む外国人の54.5%が中国人
私は東京の文京区に在住して8年ほどになりますが、年を追うごとに街中を歩く人に、中国語で会話している人が増えていると感じています。中華レストランやコンビニで店舗オーナーや従業員として働く姿ではなく、地下鉄のホーム上、スーパーの店内やレストランの客として見かけることが、ごく普通の光景となっているのです。しかも小さな子供連れの親が目立ちます。
データは雄弁です。【図表1】は、2005年と2025年を比較して文京区内の在留外国人の国籍別内訳を示したものです。
20年前の区内在留外国人数は6576人、区人口の3.7%に相当していました。このうち中国人は2290人、外国人全体の34.8%です。2025年はどうでしょうか。在留外国人数は1万5923人と2.4倍に増加。外国人比率は6.7%に。
うち中国人は8666人に急増、外国人全体の54.4%と、何と文京区に在住する外国人の半数以上が中国人になっています。
■エリート家庭「東大を狙うなら文京区」
文京区に居を構える中国人の多くは、日本の企業で働く、あるいはITや情報通信系などで起業しているなど、これまでの在留中国人とはイメージがかなり異なる人たちです。彼らはなぜ文京区に集まってきているのでしょうか。
文京区は東京都内でも屈指の文教地区と言われます。区内には、東京大学をはじめとしてお茶の水女子大学、東京科学大学(旧・東京医科歯科大学・東京工業大学)、順天堂大学、中央大学、東洋大学、拓殖大学など数多くの大学があります。また筑波大学附属中学校・高校、東京学芸大学附属竹早中学校などの国立の中学・高校、小石川中等教育学校、桜蔭中学校・高校など東大進学率の高い進学校が多数存在しています。
こうした教育環境に目をつけた中国人エリート家庭が、文京区に居住したがる傾向が近年強まっているのです。彼らはSNSなどを通じて教育関連の情報を頻々に交換していて、特に小学校については学校の頭文字を取って「3S1K」と称される4つの公立小学校に子供を入学させたい意向が強くあると言われます。3Sとは誠之・昭和・千駄木小学校。1Kは窪町小学校のことです。
■「3S1K」学区内マンションが争奪戦に
これらの小学校に子供を入学させたい親は中国人だけでなく、日本人にも大人気です。ただ、そうは言っても普通の公立小学校なので、何か特別なカリキュラムで教育が行なわれているわけではありませんし、子供の成績が極端に良いわけでもありません。

また、文京区立の小学校は学区が非常に狭く、学区内に在住しないと当該小学校への進学が許されないために、彼らは血眼になって学区内のマンションに住みたがります。その結果、3S1K学区内の中古マンション価格はうなぎ上りの状況にあるのです。
これらの小学校では、日本語が不自由な生徒に向けて日本語教育や中国語への翻訳などが必要になり、教員の負担が増しているとの話もあり、最近ではこうした傾向を敬遠する日本人も出てきているそうです。
しかし、ここにやってくる中国人エリートたちは大変教育熱心な人たちでもあり、潤沢に教育資金を費やし、瞬く間に日本語を習得していき、学校の成績でも上位を占めていくと言われます。
■名門塾SAPIXに通う中国人子弟たち
日本に家族でやってきて教育環境の良い文京区内などに居住する中国人がいることを紹介しましたが、最近では中国人同士、あるいは日本人を配偶者として国内で結婚し、日本生まれの子供を持つ家庭も増えています。
日本生まれの子供たちは日本語も堪能で、日本の文化や風習にも慣れ親しんでいます。私たちの目からも、日本人の子供とほとんど変わらないように見えます。そして彼らは日本の子供たちに交じって、小学生の頃から塾通いをスタートさせます。
2023年12月23日の東洋経済オンラインで、中国・東南アジアジャーナリストの舛友雄大氏が取り上げた「中学受験で躍進する中国人『裏SAPIX』の驚愕実態」が大きな話題となりました。
この記事によると、中学受験塾の名門SAPIXの生徒6000名中、300名から400名が中国人子弟であり、都心部の校舎ではその割合は15%から20%に達するところもあるという実態が報告されました。
■少子化に悩む塾にとっては格好のお客様
SAPIXの入塾には厳しいテスト(当然、日本語)が施され、各小学校でも上位の子しか入塾が叶いません。中国人子弟たちは塾のなかでも成績上位を占め、普通に男子は筑波大附属駒場、開成、麻布へ、女子は桜蔭、女子学院、豊島岡などに進学するのだと言います。

学究社が運営する小中学生向け学習塾enaも、中国人子弟を多く迎え入れています。enaは公立校への進学で成績が良い塾で、一部の校舎では中国人学生の数が4割にも達していると言います。
彼らの親は高度人材として日本に来た人が多く、教育熱が高いとされます。中国は古くには「科挙」と呼ばれる厳しい官僚試験制度があって、厳しい試験に対して理解がある国柄です。
在留外国人を年齢別に見ると、塾の対象者にあたる10歳から14歳の子供の人口は2025年6月末現在で9万9518人。その数は年々増加傾向にあります。いっぽうで日本人の若年人口は急速に減少しています。進学塾にとっては、中国人子弟は格好のお客様なのです。
■「北京大学より入りやすい」東大へ
中国は、日本とは比べものにならない学歴主義社会です。成績の良い学校に入学し、厳しい競争社会を生き抜いていかなければなりません。必定、親の教育に対しての関心は高くなるわけです。
彼らにとっては、母国のトップ校である北京大学よりも日本の東京大学のほうが入試が易しいことから東京大学への進学を狙う、とされます。
さらに成績の良い子はもっと入学が難しい欧米の超難関大学を狙う傾向があるというから、驚きです。
では、東京大学の外国人学生数は増加しているのでしょうか。東京大学の発表によると、2025年11月末現在で、外国人留学生の数は5466名。20年前の2005年では2194名ですから、その数は2.5倍に膨れ上がっています。
留学生を国別に見ると、中国人が3626名とダントツです。全体に占める中国人の割合は66.3%、3人に2人が中国人です。以下、韓国、台湾、インドネシア、アメリカです。中国人留学生は20年前の2005年でも1470名とトップでしたが、割合は44%でした。この間の中国人学生の躍進ぶりがわかります。
■博士課程に進む3人に1人が外国人
【図表2】は、東京大学の学部生および大学院生(修士課程・博士課程)における外国人学生の数を集計したものです。
学部での外国人学生数は474名、全体の3.4%です。そんなに大きな割合とは言えません。
ところが、大学院になると話は違ってきます。修士課程の外国人学生数は1922名。修士課程で学ぶ学生の26.5%が外国人です。博士課程になるとその数はもっと増えて2420名、35.8%が外国人となります。つまり大学院生の3人に1人が外国人学生ということになります。
東京大学では日本人学生以外の学生について、留学生とそれ以外に分けて集計しています。「それ以外」とは留学生ではない学生のことで、永住権を所持しているような学生は分けて分類しています。つまり留学生以外ですので、ここにいわゆる在留外国人の子弟が含まれていることが想定されます。
■日本の知の最先端をだれが担うのか
学部制の外国人割合は3.4%でしたが、外国人数474名に対して留学生を除く184名が在留外国人と言えそうです。その割合は38.8%におよんでいます。大学院生ではその割合は5%から6%程度です。つまり日本に在住する、あるいは日本で生まれて東京大学を受験して合格してくる学生が多くいることがわかります。

いっぽう外国人大学院生の多くは留学生であり、学部から進学した学生もいるでしょうが、外国から大学院に留学生として入学してくる学生が主体であることがうかがえます。
東京大学を卒業した外国人学生は、日本の有名企業に多数就職するようになっています。また、大学院は外国人留学生で支えられているとも言え、日本の最先端の知を司る東京大学大学院の研究が、その多くが日本人ではなく外国人によってなされていることは、将来的に日本から創造的なすばらしい学者が誕生しなくなるのではないかと危惧してしまいます。

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牧野 知弘(まきの・ともひろ)

不動産事業プロデューサー

東京大学経済学部卒業。ボストンコンサルティンググループなどを経て、三井不動産に勤務。その後、J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て独立。現在は、オラガ総研代表取締役としてホテルなどの不動産事業プロデュースを展開している。著書に『不動産の未来』(朝日新書)、『負動産地獄』(文春新書)、『家が買えない』(ハヤカワ新書)、『2030年の東京』(河合雅司氏との共著)『空き家問題』『なぜマンションは高騰しているのか』(いずれも祥伝社新書)など。

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(不動産事業プロデューサー 牧野 知弘)
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