親子のコミュニケーションが上手くいかないときは、どうすればいいのか。元小学校教員で子育てコーチの潮田学さんは「Mさんのお子さんはとてもエネルギッシュで目立つ存在だった。
そんな我が子を見るたびに、Mさんは『静かにしなさい』と強い口調で注意していたが、言うたびに自己嫌悪に陥っている状態だった」という――。
※本稿は、潮田学『「あなたのため」をやめましょう 親のエゴを手放せば子どもは動き出す』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■強い口調で叱っては自己嫌悪に陥る
次にご紹介するのは、Mさんのお話です。
Mさんのお子さんは、とてもエネルギッシュな子でした。思ったことをすぐ口にする。嬉しくなると、つい声が大きくなる。興味を持ったことには一直線で、その場の空気よりも「やりたい!」を優先する。いつも目立つ存在でした。
そんな我が子を見るたびに、Mさんはハラハラしていました。
「目立たないでほしい」

「少しは周りを見てほしい」

「そんなことをしていたら、変に思われるんじゃないか」
そして、つい、
「落ち着きなさい!」

「静かにしなさい!」

「ちゃんと周りを見なさい!」
と強い口調で言ってしまうのでした。
言った後には、いつも自己嫌悪に陥り、苦しくなりました。
本当は、この子を否定したいわけではない。
もっと受け止めてあげたい。もっと安心できる言葉をかけてあげたい。
それなのに、どうしてもイライラしてしまう。そして、いつも怒鳴り散らしているそんな自分が嫌になる。
Mさんは、そんな苦しさを抱えて相談に来られました。
■「周りの評価」を重視する価値観
ステップ①その背景にある信念・価値観を見つける
丁寧に見ていくと、Mさんの中には、こんな思いがありました。
「周りと違うと、生きづらくなる」

「目立たないでいることが安心だ」

「人からどう思われるかが大切だ」
その信念・価値観を生み出した背景には、もっと深刻なものがありました。
Mさんは、幼い頃から、親にたくさん否定的な言葉をかけられてきたそうです。
「なんでそんなこともできないの」

「もっとちゃんとしなさい」

「○○ちゃんはできるのに」
周りの子と比べられ、評価され、正され続けてきました。「自分が自分でいてはいけない」「存在してはいけない」。そんな感覚が無意識の中に少しずつ深く根をはっていたのでした。自分の感覚よりも、周りの評価。
自分の気持ちよりも、周りがどう思うか。それが、いつの間にか、自分の価値を決める基準になっていました。
■“普通”になってほしいと必死だった
ステップ②その信念・価値観をゆるめ、本当の願いに戻る
Mさんは、そこで初めて気づきました。
「私はずっと、人の目を気にして生きてきたんだ」

「その不安を、この子にも向けてしまっていたんだ」
まずは、そのことを責めずに受け止めました。
「ずっと、“普通にしなきゃ”って頑張ってきたんだね」

「本当は、たくさん褒めてもらいたかったよね」

「ありのままの自分でいたかったよね」
そんなふうに自分に声をかけることから始めました。そして問いかけました。
「本当に、“普通”であることが幸せなのだろうか?」

「人間は多様性があるからいいのではないか」

「普通って何? 普通であることのほうが不自然なのではないか?」
すると、その奥にあった本当の願いが見えてきました。それは、
「この子に、そのままの自分を愛せる人になってほしい」

「安心して、自分を出せるようになってほしい」
という願いでした。
「周りの目」という恐れから“普通”になってほしいと必死だった。でも本当は、「この子がこの子らしく、安心して生きられること」それを願っていたのです。
■「落ち着きなさい」から「今、どんな気持ち?」へ
ステップ③本音ベースで伝え直す
ある日、お子さんが、嬉しそうに大きな声で話しながら、元気いっぱいに動き回っていました。
以前なら、すぐに「落ち着きなさい!」と言っていた場面です。

でもその日、Mさんは深呼吸をしてこう声をかけました。
「今日はすごく楽しいことがあったんだね」

「それくらい嬉しかったんだね」
お子さんは少し驚いた顔をして、「うん!」と答えました。そしてMさんは続けました。
「お母さんね、今まで『落ち着きなさい』ってたくさん言ってきたよね」

「でも、本当は、元気いっぱいなところも、思ったことを素直に言えるところも、あなたの素敵なところだと思っているんだ」

「そのままのあなたらしさを大切にしながら、人との関わり方も一緒に考えていけたら嬉しいな」
すると、お子さんは、少し照れたように笑ったそうです。
その日を境に、すべてが急に変わったわけではありません。
それでも、Mさんの言葉は少しずつ変わっていきました。
「落ち着きなさい」ではなく、「今、どんな気持ち?」「どうしたらみんなも気持ちよく過ごせるかな?」「何かお母さんに手伝えることはある?」
そんな対話が増えていきました。
そして、親子で笑って話せる時間も、少しずつ増えていったのです。
Mさんは言いました。
「子どもを受け入れられるようになったというより、私自身が人の目を気にして『普通でなければいけない』と思い込んで生きてきた自分を、少しずつ許せるようになったんです」

----------

潮田 学(うしおだ・まなぶ)

子育てコーチ・教育者

小学校教員として15年間、担任や特別支援級、通級指導教室などで多くの子どもと保護者に関わる。自身の学級崩壊の経験から、心理学・脳科学・コーチング等の人間理解を体系的に習得。コーチングスクールを経て独立し、現在は仲間と立ち上げた学習教室で塾長を務めながら親子関係改善の講座を提供している。
Instagramでは子育ての声かけやマインドを発信し、フォロワーは8万人超(2026年6月現在)。親子関係を根本から整える「声かけ」と「心のあり方」をテーマに精力的に活動中。

----------

(子育てコーチ・教育者 潮田 学)
編集部おすすめ