東京・秋葉原が様変わりしている。オタクの聖地の名物となった「メイド喫茶」が急速に数を減らしている。
ジャーナリストの肥沼和之さんは「かつて100店以上あったが、30店もない。今では別の業態が急増し、客引きをするメイド姿の女性たちが現れるようになった」という。なぜ秋葉原の街は変質したのか。肥沼さんが現地を取材した――。(前編)
■秋葉原が“歌舞伎町化”している
秋葉原が近年、様変わりしているという。戦後は電気街として栄え、2000年前後からアニメやゲームやフィギュアを扱う店や、メイド喫茶の普及によって「萌え」の聖地となり、オタクたちで賑わった。
だがここ10年ほどで、店舗も街並みも訪れる人も大きく変わったことが、複数のメディアやSNSで確認できる。なかには「治安悪化」「ぼったくり」「スラム街」「半グレ」など、過激な言葉も散見する。どのような街になっているのか、現地を訪ねた。
「まるで、歌舞伎町のようだ」
それが、約10年ぶりに秋葉原を訪れた筆者の感想だ。平日の18時ころ、JR秋葉原駅の改札を出て、メイン通りの中央通りを歩く。最初に目に飛び込んでくるのが、歩道にずらりと並ぶ「コンカフェ」ことコンセプトカフェの女の子たち。

コンカフェとはアイドル、悪魔、魔法使いなど、さまざまなコンセプトのもと、衣装や世界観を演出しているカフェのこと。カフェという名称だが、女性が接客してお酒を提供するという、バーの業態に近いことが多い。秋葉原で有名なメイドカフェもコンカフェに分類されるが、あくまで「カフェ」という違いがある。
色とりどりの衣装を身に着けた女性たちが、ほぼ距離を置かず、数百メートルにわたって並んでいる。これは、歌舞伎町の新宿TOHOビルの横、通称「トー横」でもおなじみの光景だが、コンカフェ嬢の数は秋葉原のほうがはるかに多い。
■客引き禁止でも取り締まれない理由
「コンカフェいかがですか」

「そこのおにいさん、どうですか」
筆者も次々と声をかけられた。その脇を、「NO!客引き」というベストを着たパトロールが通り過ぎる。客引き禁止のはずなのに、堂々と行われているこの状況は何なのか? パトロールの人に聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「千代田区は客引きが禁止なのですが、あの子たちはビラ配りをしているだけだと言うんです。なので、注意することはできない。あからさまに腕を引っ張られるなどすれば、また違うのですが……」
さらに歩いていると、赤髪のコンカフェ嬢が筆者の前に立ちはだかって、「お願い、来てくれませんか?」と懇願してきた。話を聞くと、客を捕まえるまでは店に戻れず、もう1時間30分もこうしているという。
長いときは6時間も客引きをしていたことがある、と続ける。
不憫になったのと、この機にコンカフェを体験してみたいと思い、付いていくことに決めた。料金は40分3000円で飲み放題付きとのこと。
古い雑居ビルにある15席ほどのお店で、メニューはドリンクやフードのほか、1500~2000円のキャストドリンクや、数万~数十万円のシャンパンもある。カウンター越しに女性がついてくれるシステムだ。
■40分で1万円、1日おきに営業DM
「ドリンクいただいていいですか?」
断るのも何なのでOKすると、赤髪の女性はドリンクを一気飲み。すぐさま「もう一杯いいですか?」言われ、苦笑するしかなかった。試しにと思い、「断ったらどうなるの?」と聞くと、
「コンカフェは指名制度が無いので、キャストはお客さんに付く必要が無いんです。ドリンクをくれない方には、じゃあ付かないでいいよね、ってことになります」
とのことだった。つまり、ドリンクをくれない客は、相手にされないこともあるそうだ。
結局、その子以外にも3人の女の子がつき、ドリンクをねだられ、40分で料金は1万円を超えた。「コンカフェ」と銘打っているものの、実質的には、若い女性が接客してくれることが売りの「ガールズバー」だと感じた。

帰り際、赤髪のキャストが、SNSを交換しようと言ってきた。応じたところ、1日おきくらいに「今日来れない?」「明日は?」と営業のDMが来た。返事をしたり、放っておいたりしていると、約3カ月後にその子のアカウントは消え、店も無くなっていた。
■無許可営業と未成年就労で相次ぐ摘発
秋葉原のコンカフェで約4年間働いている蘭さん(仮名)が取材に応じてくれた。4年前と比べて街が大きく変わったのは、コンカフェの増加と、それに伴って客引きも増えたことだという。
「客引きの女の子の幅が、明らかに超狭くなっています。お店が増えたから、競争が激化しているんです。ここ1~2年は、黒服が客引きをしているお店もある。そこまでしないとお客さんを呼べないくらい、財政状況がヤバいんだと思います」
キャストに客引きをさせず、集客のためにSNSの活用や、媒体に広告を出すなどしているコンカフェも一部あるという。だが、SNS運用のノウハウが無い、予算が無いなどの理由で、路上でひたすら客引きをする店のほうが多いと蘭さんは続ける。
ここ数年、無許可での接待営業や、未成年を働かせたことで、コンカフェが摘発されたという報道が相次いでいる。やはり、ぼったくりや違法営業のコンカフェは多いのだろうか。
尋ねると、「ほぼ無いと思う」と蘭さん。理由として、近隣の万世橋警察署の立ち入りが多く、法に触れるとすぐ摘発されてしまうからだ。
ただし、違法営業ではなくても、「キャストドリンクをねだられる」「サービス料やTAXが加算される」などの理由で、料金が想定より高くなり、不満をあらわにする客もいるのだそう。まさに筆者の体験そのものである。
■自己顕示欲の強さからくる熾烈な“推し文化”
蘭さんの店の客層は、観光客やオタクが多いという。オタクたちの飲み方からは、秋葉原独特の「推し文化」が見えてくると話す。
「オタクたちはお金を使うところがほかにないので、バンバン落としてくれるイメージです。イベントの日に、1本20万円のシャンパンを3本入れてくれたオタクがいました。キャストをものにしたいというわけじゃなく、自己顕示欲が強いんだろうなって。これだけお金を使ったぜ、っていうオタクたちの見栄の張り合い合戦みたいなのはありますね」
そしてキャストの多くも、コンカフェで働くことで、承認欲求を満たしていると蘭さん。実際に蘭さんも、コンカフェ内にあるステージで、かつて習っていたダンスを披露したいがために働きだしたという。そういえば、筆者が行ったコンカフェでも、「かわいい衣装を着たくて入店した」というキャストが何人もいた。

そもそもキャストの大半は、恋人がいないという。その理由を「彼女がコンカフェ嬢って、彼氏からしたら嫌じゃないですか。辞めてほしいって思う」と蘭さんは説明する。仮に彼氏に反対されても、コンカフェ勤務を選ぶ。その根底にあるのは、「何者かになりたい」という思いなのだろうか。
「男も女も、自己顕示欲をどこにぶつけたらいいか、わからない人たちであふれかえっています。秋葉はそういうのがたくさん観察できますよ」
蘭さんはそう締めくくった。
■コンカフェに敗れ、メイド喫茶は壊滅状態
秋葉原名物のメイド喫茶は、2011年に100店舗以上あったとされる。だが蘭さんによると、現在は10グループ・30店舗も無いという。代わってコンカフェが台頭し、200店舗以上あるともいわれる(広義ではメイド喫茶もコンカフェの一種だが、ここではガールズバー形態の店をコンカフェとする)。
秋葉原の街を歩くと、駅から10分ほど離れた裏路地の雑居ビルにも、コンカフェが入っていた。コンカフェブームに乗じて、どこか物件が空くと、我先にとコンカフェが開業していったのではないかと想像できる。

コンカフェがここまで増えた理由は何か。要因のひとつが、秋葉原駅周辺の再開発だろう。2005年につくばエクスプレスが開通し、2006年の「秋葉原クロスフィールド」をはじめ、高層複合ビルが次々と竣工した。
それに伴って地価・賃料が上がり、通常の喫茶店の料金形態であるメイド喫茶は、経営が難しくなった。また、ネットショップの普及により、物販の店の閉業も増えた。そこへ、小さいスペースでも開業でき、「推し文化」もあって高単価が見込め、ガールズバーやキャバクラより低賃金でキャストを雇える「コンカフェ」が爆発的に増加したことが推察できる。
■メイド喫茶=善、コンカフェ=悪ではない
この状況を、メイドカフェ側はどう考えているのか。メイドカフェ「あっとほぉーむカフェ」で13年働き、現在はフリーのメイドとして活動する、メイド歴19年の純子さん(はかせ名義でも活動)にもお話を聞いた。
純子さんによると、メイドカフェの関係者や客たちで、秋葉原の印象や治安を悪化させた元凶として、コンカフェをあからさまに非難する人たちもいるという。だが純子さんは、その状況を「ばからしい」と切り捨てる。
「確かにコンカフェは違法な客引きをしていて、反社とのつながりが噂される店もあります。けれど、メイドカフェでも違法な客引きはあるし、一部では反社とのつながりもある。だから、メイドカフェが正義でコンカフェが悪、っていう風潮を私は良くないと思っています」
確かにイメージだけで言えば、可愛い制服を着て、笑顔で「萌え萌えキュンキュン」をしているメイドは、悪と正反対の存在に見える。だが、メイドも経営者も人間で、メイドカフェもビジネスである以上、その舞台裏ではさまざまなことが起きていると純子さんは続ける。
■メイド喫茶も文化より収益が最優先
例えばほとんどのメイドカフェで、メイドは客と私的に繋がることはNGになっている。だがメイドの中には掟を破り、恋愛や金銭の授受を行う子もいるという。バレてクビになるメイドもいれば、店側が見て見ぬふりをすることもある。なぜなら、人気のあるメイドであれば、店からいなくなることは大きな損失であるからだ。
客とのつながりがバレる理由も、同僚のメイドからのリークが多いという。水商売の女性同士の、ドロドロした関係性を連想させる。そもそも、メイドカフェもコンカフェも等しく水商売だと純子さんは言う。
「界隈には、メイドカフェは水商売じゃないって言い張る人もいます。でも、人気によってメイドの価値が流動して、経営が成立しているって、どう見ても水商売。否定している人には、辞書を引いてみればって言いたくなります(笑)」
多くのメイドカフェの経営陣も、文化より収益を重視するようになっている、と純子さん。例えば、メイドと写真を撮れる「チェキ」という有料サービスがある。このチェキの数で、メイドの評価が決まる傾向が強くなったというのだ。すると、「可愛くて売り上げを作れるメイド」が正義になり、メイドカフェ文化そのものは、経営の中でやや置き去りにされてしまっている。
■秋葉原から薄れつつある「萌え」の文化
「メイドカフェって、メイドさんから普段言われないような言葉を言われたり、ちょっと恥ずかしいなと思う言葉を一緒に言ったり、非日常を味わうテーマパークみたいな空間だと思うんです。でもコロナ前くらいから、可愛い女の子のチェキをいっぱい撮らせる場所になってしまっている。そういうやり方を、大手のメイドカフェでもしているのが現状です」
そんなメイドカフェの関係者が、コンカフェをあからさまに侮辱するのは違う、と純子さん。自分たちの立場やブランド力を維持したいがために、コンカフェと対立しているだけと冷静に話した。
確かに街の風景から、一昔前の秋葉原の象徴だった「オタク」「萌え」の文化は薄れている。ノスタルジーを語るつもりはないが、やはり寂しさは感じてしまう。一方で、ブームとはいえ、コンカフェの経営が必ずしも安泰かと言ったら、そうではないだろう。超レッドオーシャンであるため、疲弊している経営者もキャストも少なくない。実際、キャストの離職率も高いと、蘭さんは証言していた。
コンカフェ嬢がずらりと並ぶ現在の街並みも、競争の激化の挙句、いずれまた変わっていくに違いない。
「おにいさん、寄っていきませんか」

「1500円でいけますよ、どうですか」
コンカフェ嬢たちの声を背に聞きながら、秋葉原駅へ向かう。21時を回っていたが、秋葉原の夜はまだ長そうだ。この街の変化を今後も見届けたい。そう思いながら、改札をくぐった。

----------

肥沼 和之(こえぬま・かずゆき)

ジャーナリスト

1980年東京生まれ。大学中退後、広告代理店勤務を経てフリーのジャーナリストに。社会問題や人物ルポ、歌舞伎町や夜の街を題材に執筆。陽が当たりづらい世界・偏見を持たれやすい世界で生きる人々や、そこで生じている問題に着目した記事を書くことを使命としている。著書に『炎上系ユーチューバー 過激動画が生み出すカネと信者』(幻冬舎新書)など。新宿ゴールデン街「プチ文壇バー月に吠える」、四谷荒木町「ブックバーひらづみ」の店主でもある。

----------

(ジャーナリスト 肥沼 和之)
編集部おすすめ