意思決定するには、どのくらい情報を集めるといいか。データサイエンティストの中村一也さんは「情報が少なすぎる決断は無謀だが、多すぎても人はかえって判断を誤る。
Amazon創業者のジェフ・ベゾスは『ほとんどの意思決定は欲しい情報の9割まで待つと遅い』と述べている」という――。
※本稿は、中村一也『すぐ決められる人がうまくいく』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■情報は70%以上集めない
もしあなたが重要な決断を迫られたとして、どのくらいの情報が集まれば「決断できる」と感じますか?
100%の確信が得られるまで、徹底的に情報を集め、分析するべきでしょうか。それとも、ある程度の情報で見切り発車し、リスクを取るべきでしょうか。
情報が少なすぎる決断が無謀であることは明らかです。しかし、情報が多すぎても、人はかえって判断を誤ってしまいます。
このジレンマに対して、実践的で示唆に富んだ答えを示してくれるのが、元米国国務長官であり、軍人としての経歴を持つコリン・パウエルが提唱したとされる「40-70ルール」です。
これは、彼が絶えず重大な意思決定を迫られるリーダーとしての経験から導き出した、実践的な経験則として広まっています。その内容は次のようなものです。
「必要な情報量が40%未満の段階では決断しないが、70%を超えるまで待ってしまうのは遅すぎる」
このルールは、2つの重要な教訓を私たちに与えてくれます。
まず、「40%に満たない情報での決断はするな」という部分。これは、単なる勘や当てずっぽうで動くことの危険性を戒めています。
最低限の事実(ファクト)を集め、判断に必要な情報の4割程度が揃うまでは、慎重に分析する必要があるということです。
■100%を目指してはいけない理由
そして、このルールの真骨頂は、後半の「70%を超えて集めるな」という部分にあります。
なぜ、100%を目指してはいけないのでしょうか。
パウエル氏は、70%以上の情報を集めようと努力している頃には、好機(チャンス)はすでに失われている、と指摘します。
変化の激しいビジネスの世界や、一刻を争う戦場では、完璧な情報を待っている間に、競合他社や敵はすでに行動を起こし、状況は刻一刻と変化してしまっているのです。
ここで認識しておきたいのが、「スピード・アキュラシー・トレードオフ」についてです。
これは、速さを上げると精度(正確性)が犠牲になり、逆に精度(正確性)を高めると速さが犠牲になるということです。
同様に、決断のスピードを上げれば精度は下がり、精度を追求すれば決断のスピードは犠牲になります。
このトレードオフの中で、リーダーの決断が効果的となる情報量は40%から70%の間であると主張しているのが、このルールなのです。
他にも、Amazon創業者のジェフ・ベゾスは「ほとんどの意思決定は、自分が欲しい情報の70%程度で行われるべきだ。90%まで待つと、ほとんどの場合、おそらく遅いと言える」と述べています。
■コストが価値を超えたら集めるな
コリン・パウエルの40-70ルールは、個人の経験則ではあるものの、「情報価値理論」という考え方によって、ある程度裏付けることができます。

情報価値理論とは、「その情報を得るためにかかるコスト(時間や労力)」と、「その情報を得ることで、決断の質がどれだけ向上し、利益が増えるか(情報の価値)」を天秤にかける考え方です。
そして、情報価値理論の基本的な結論は、「情報の価値が、その情報を得るためのコストを下回ったとき、情報収集は打ち切るべきである」というものです。
完璧な情報を求めてしまうと、まさにこの「コスト>価値」の状態に陥ってしまい、意思決定が遅れてチャンスを失うことにもなりかねません。
情報収集をどこで止めるか、という「見切り」もまた、重要な決める力の一部なのです。
普段の仕事でも、ぜひこのコリン・パウエルの40-70ルールを意識してみてください。たとえば、資料を作成するときなど、どこまでも徹底的に情報を集めるのではなく、方向性が決まり、なおかつ価値を出せると思ったタイミングで情報収集をストップしましょう。
思考の負担を軽くするためには、情報の「集めすぎ」を意識的に避ける必要があります。
40%から70%の情報が集まったとき、あなたはもう決断を下す準備ができています。残りの30%は、あなたの直感と勇気、そして実行しながら修正していく柔軟性で埋めるのです。
完璧な情報など永遠に手に入らないと割り切り、好機を逃さない。それこそが、現代のビジネスパーソンに求められる決める力なのです。
■考え続ける人ほど答えが出ない
難しい問題に直面したとき、机にかじりつき何時間も考え続けたけれど、良いアイデアは全く浮かんでこない……。

一方で、一度すっかり諦めて散歩に出かけたり、お風呂に入ってリラックスしたりと、全く別のことをしているときに、まるで天啓のように、突然「あ!」と解決策がひらめくことがあります。
古代ギリシャの科学者アルキメデスが風呂に入っているとき、浮力の原理を発見して「エウレカ!(わかった!)」と叫んだという有名な逸話もありますよね。
実はこの「ひらめき」、単なる偶然や幸運などではありません。脳科学や心理学などの研究によって、科学的に説明がつく現象なのです。
その鍵を握るのが、「無意識思考理論(Unconscious Thought Theory)」です。
これは、ラドバウド大学のダイクスターハウスらが提唱した理論で、「複雑で難しい問題ほど、意識的に考え続けるよりも、一度その問題から離れて無意識に思考を任せた方が、質の高い結論に至りやすい」というものです。
■複雑な問題ほど無意識に任せる
彼らは、被験者に、自動車やアパートなど、異なる数の属性(特徴)を持つ選択肢を提示し、次の3つのグループに分けて意思決定を行わせました。
①即時意思決定:考える時間を与えずに即座に選択するグループ

②意識的思考:熟慮してから選択するグループ

③無意識思考:注意をそらすための別の作業に取り組ませてから選択するグループ
結果は次のようになりました。
・単純な課題の場合:即時意思決定グループと意識的思考グループが、無意識思考グループよりも良い選択をする傾向が見られました。

・複雑な課題の場合:無意識思考グループが、意識的思考グループよりも、より良い選択をするという結果が得られました。
すなわち、複雑な意思決定においては、一度情報を得た後に意識を別のことに向ける(寝かせる)ことで、より質の高い判断ができる可能性が示唆されました。
この実験は、複雑な問題解決や意思決定において、意識的な思考よりも無意識的な処理が優れている場合があることを示し、後の研究に大きな影響を与えました。

私たちの脳が、意識的に一度に処理できる情報量には限りがあります。しかし、無意識は、私たちが寝ている間や他のことをしている間も情報を処理してくれている可能性があるのです。
この無意識の働きを脳科学の観点から支えているのが、「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN:Default Mode Network)」の存在です。
DMNとは、私たちがぼーっとしているときや、リラックスしているときに活発になる脳の領域のことです。
このDMNが、あなたの頭の中にあるバラバラの知識や記憶をランダムに結びつけ、新しい意味のあるつながり、すなわち「ひらめき」を生み出していると考えられています。
私も何かアイデアを考えているとき、仕事から離れているときにふと良いアイデアを思いつき、あわててスマートフォンでメモを取る、ということがよくあります。
そして、この「寝かせる」という無意識思考を積極的に活用し、時間の節約を試みています。
■睡眠が洞察を生む60%対25%の差
さらに、無意識思考がなぜ有効かを考えるうえで、「寝かせる」という言葉の通り、睡眠という観点も無視できません。
複雑な問題に取り組む際、一度思考を中断して睡眠を挟むことで、脳が自然と情報を整理し、翌朝には前日まで見えなかった関係性や新たな視点が浮かび上がってくることがあります。
実際に、睡眠によって直観的な洞察が生まれやすいとも言われており、創造性や問題解決力を高める重要なプロセスと考えられています。リューベック大学のウルリッヒ・ワグナーは、睡眠が「ひらめき(洞察)」にどのような影響を与えるかを調べる実験を行いました。そして次のような3つのグループに分けました。

①夜に課題を解いて睡眠をとったグループ

②夜に課題を解いて徹夜したグループ

③日中に課題を解き、睡眠を挟まなかったグループ
実験の結果、睡眠をとったグループ(①)の約60%が課題を解くための「規則」に気づくことができ、睡眠を取らなかったグループ(②③)で気づけた人は約25%だったのです。
つまり、判断を「寝かせる」という行為は、単なる時間稼ぎではなく、脳の無意識的な処理能力を活用する戦略的なアプローチなのです。
■「行き詰まったら机を離れる」が正解
もしあなたが、今、難しい問題で行き詰まっているのなら、勇気を持って一度その問題から離れてみてください。
散歩をする、音楽を聴く、仮眠をとる。何でも構いません。あなたの脳の無意識領域に、仕事を委ねてしまうのです。
「未完了のタスクが気になってしまう」というツァイガルニク効果がありますが、未完了のタスクの存在により脳のリソースを一部使ってしまうということは、デメリットになり得ます。
しかし、このデメリットはメリットにもなりうるとわかります。
難しい課題に関しては、ツァイガルニク効果と無意識思考を利用し、「熟慮」という時間をかけずに問題を解決してしまおうという戦略が存在するのです。
「意識的に考え続けること」だけが、思考ではありません。
意図的に「考えない時間」を作り、思考の負担を軽くすることこそが、あなたを良い結論へと導くコストパフォーマンスの良い優れた思考法なのです。

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中村 一也(なかむら・かずや)

データサイエンティスト

京都大学経済学部卒業。
日本生命保険相互会社にて勤務後、退職。現在、DSE総研代表理事研究所長兼特別主席研究員。AI・機械学習・DXなど先端テクノロジー領域に加えて、生産性を向上させる個人・組織の行動を研究する組織行動学(経営学の一分野)にも精通。データと論文知識をベースとした科学的観点から組織の生産性向上をサポートしている。さまざまな企業・自治体・大学・各種団体にて講師として登壇。著書に『仕事のできる人がやっている減らす習慣』(フォレスト出版)、『7つのゼロ思考 外資系コンサルタントも知らない異次元スピード仕事術』(ぱる出版)、『だから論理少女は嘘をつく ビジネス・就活に効くロジカルシンキングがみにつく』(自由国民社)、『僕が無料の英語マンガで楽にTOEIC900点を取って、映画の英語を字幕なしでリスニングできるワケ』​(扶桑社)がある。

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(データサイエンティスト 中村 一也)
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