平成の“アムラー細眉”から太眉ブームなどを経て、眉メイクは大きく変わってきた。そしていま、一部の10~20代女性の間で、眉を金や白にブリーチしたり、そり落として“ゼロ”にしたりする「眉消しメイク」が広がっている。
芝浦工業大学の原田曜平教授は「ここまで尖ったファッションが、相当なボリュームをもって出てきたのは、20年以上の若者研究で初めてだ。一般的な“かわいい”とは異なる装いを選ぶ若者たちの背景には、いまの時代特有の“板挟み”の心理がある」という――。
■渋谷や下北沢で見かける「眉消し」「お歯黒」
いま、一部のZ世代女子の間で、大人の世代なら思わず二度見してしまうようなトレンドが広がっています。
ひとつは「眉消し」。眉をブリーチで金や白に染めたり、そり落として“ゼロ”にしたりするスタイルです。平成の“アムラー細眉”や、太眉ブームを知る世代からすれば、眉を「消す」という発想は理解しがたいかもしれません。ただ、これは“細くなり続けた眉がついに消えた”という一直線の話ではありません。5~10年ほど前までは自然体の眉を好む女性たちも多く、眉のトレンドはその時々で変わってきました。いくつもの流行の波を経て、いま現れたのが「消す」という選択です。
もうひとつは「お歯黒」。歯を黒く塗ってSNSに投稿するものです。僕たちの次世代生活研究所で調べた限りでは、今年の成人式でインフルエンサーが投稿したことが話題の発端になったとみられます。

ほかにも、毛先をツンツンに尖らせる「スパイキーショート」、口の中や鼻にピアスをつける「スクランパー」「セプタム」など、昔なら本当にロックバンドくらいしかできなかったような装いを、普通の女子大生が取り入れ始めています。
正直に言えば、これはかなり多くの人がやっているというより、ファッション感度のかなり高い人たちのトレンドです。マジョリティではありません。ただ、それなりのボリュームはいます。渋谷、下北沢、中目黒あたりを1日歩けば、何人かには会えるくらいには広がっています。
僕は20年以上、若者を研究してきました。しかし、ここまで尖ったファッションがこれだけのボリュームで出てきたのは、初めてのことです。
なぜ、若い女性たちは「かわいい」とは異なる姿を、あえて選ぶのか。調査を重ねるなかで、若者たちをめぐる複雑な構図が見えてきました。
■表向きは「多様な美」、リアルは「過剰なルッキズム」
まず前提として、社会全体では「ルッキズム(外見至上主義)はよくない」という価値観が浸透し、今の若者はそういう教育を受けて育ってきました。人気アイドルを見ても、XGやHANAのように、これまでのアイドル像とは違う容姿や坊主頭の女性が支持を集めています。表向きは、多様な美が認められる時代に見えます。

ところが、SNS上やリアルの生活では、真逆の動きが起こっているのです。加工して嘘をついてもダメ、本当に美人以外は認められない、というくらいの状況になっている。ちょっと複雑なのですが、これが実態だと思います。
象徴的なのが、今年上半期に爆発的に拡散した「ルッキズム風刺画」です。着飾って可愛くメイクした女の子と、着飾ってはいないが生まれつき顔立ちの整った女の子を並べたイラストで、若者ならみんな知っているほど広まりました。努力(メイクや加工)では、生まれ持った骨格には勝てない――そんな現実を突きつけるものでした。
さらに、若者にとって美容整形は珍しいものではなくなり、マンジャロという薬を痩身目的で使う動きが物議を醸しました。今までは加工アプリで足を細くしたり顔を小さくしたりしていたのが、もう原型そのものを変えなければいけない、という流れになってきている。多様性があるように見えて、実は美の基準がひとつに絞られてしまっているのです。
この過剰な同調圧力への反発として、自分の見た目に自信のある一部の女性たちが、極端に真逆のことをやり始めた。それがお歯黒であり、眉消しだと僕は考えています。
■BeRealやsetlogで「ありのまま」が評価される傾向
では、なぜこの反発が「今」起きたのでしょうか。
大きいのは、SNS環境の変化です。
インスタ映えの時代なら、一生懸命メイクして、加工アプリを使えば、SNS上では美しくなれました。ところがここ1~2年、BeRealやsetlogといった“加工できないSNS”が若者の間で広がってきました。その場で撮ったものをそのまま投稿する仕組みで、写真の加工は一切できません。加工したり着飾ったりしても、どうにもならないものが評価される土俵に変わったのです。
加工が効かないなら、盛る意味は薄れます。“自分より可愛い子”の投稿を見ても「どうせ加工でしょ」と思えていたのが、ありのままを映すSNSでは通用しません。先ほどのルッキズム風刺画の大流行は、ある意味で「インスタ的な価値観が終わった」ことを象徴する出来事だったと僕は思っています。
もちろん、若者がインスタをやめたわけではありません。ただ、温度感と実際に使っている時間は、BeReal、setlog、そしてAIへと移ってきています。“加工ではもうダメ”ということを、鋭く突きつけられた瞬間だったのです。
■“AI超えのインパクト”が求められるように
そしてもう一つ、重要なのがAIの存在です。

いまや、行っていない旅先にいる写真も、推しとの2ショット写真も、AIが簡単に作ってくれます。理想の自分を、いくらでも画像で生成できる時代です。だからこそ、リアルでものすごくインパクトのあるものが、“逆張り価値”として大きくなっているのです。
考えてみてください。自分の写真を送れば、お歯黒にした画像なんてAIですぐ作れます。でも、リアルの場で歯が真っ黒な女性が目の前を歩いていたら、やっぱりすごいインパクトですよね。野球場に行った写真も、雪山の写真も、AIで作れてしまう。だからこそ、本物のお歯黒の女性が実際に街を歩いている方が、はるかに衝撃的なのです。AIを超えるものといったら、インパクトのあるリアルなものなのです。
さらに、SNSが「見られる場」としての価値を落としていることも大きいと思います。すごい写真が誰でも簡単に作れるようになった結果、1投稿あたりの価値が下がりました。AI上では何でも作れるけれど、AI以外では承認されにくくなっている“自分の素の姿”。
その承認欲求を、もう一度取り戻すための手段、とも言えるかもしれません。
お歯黒や眉消しは、リアルでもSNSでも一貫しているからこそ意味を持ちます。SNSだけで眉のない写真を上げても「メイクを忘れたのかな」と思われるだけです。でも、リアルでもSNSでも本気でやっていれば、「自分の主張でやっているんだ、かっこいい」と受け取られる。ここが肝心なところです。
■「超尖る個性」は、過剰な同調圧力から生まれた
念のため言及しておくと、これらのトレンドは、誰もが真似できるものではありません。あくまで、おしゃれに自信のある一部の人たちに限られます。同じことをしても、人望のある人がやれば称賛され、そうでない人がやれば陰口を叩かれてしまう。だから多くの若者は、むしろダイエットや美容整形、「浮かない格好」へと流れていきます。
では、この「超尖る」現象は、若者の健全な自己表現なのでしょうか。僕の見方は、少し複雑です。
本当に自分の好きなものを追求していい時代なら、そんな極端なことをやらなくてもいいはずです。
それなのに、極端なことをやる人たちが突如として一定量出てきた。これもまた“個性の圧力”だと思うのです。結局みんな、何かのスタイルで個性を出さないといけなくなっている。
SNSやAIは、本来、個人の自由を広げるはずのものでした。好きな情報を選び、診断で自分に合うものを知り、AIで理想を作り出す。ところが実際には、パーソナルカラー診断や骨格診断が「あなたに似合うもの」を細かく規定し、AIが似たような理想像を量産し、ありのままのSNSが逃げ場をなくしました。結果として、過去最高レベルの同調圧力が生まれてしまっている。
個性を出さないとSNS上で埋没するし、ルッキズムと戦わないと整形せざるを得ない。その圧力が極度に強すぎて、極端に個性を出す人たちが出てきた。本当の意味での自己表現というより、昔にはなかった過剰な圧力によって、生み出されざるを得なかった――冷静に分析すると、そういうことなのではないかと僕は思っています。
■若者は“板挟みのプレッシャー”の中で生きている
最後に、この世代を理解するうえで、いちばん大切だと思うことを述べます。
僕たち大人は、たいてい「どちらか一面」だけを見てしまいます。痩身薬や高額整形のニュースを見て「今の子はルッキズムがやばい」と眉をひそめる人。あるいは、娘や妻がXGやHANAに夢中なのを見て「個性の時代でいいなあ」と感心する人。この記事を読んでいる方も、どちらかに心当たりがあるのではないでしょうか。
でも、両方とも真実なのです。しかも、別々の人がそれぞれ言っているのではなく、多くの人が両方を心の中に同時に持ってしまっている。ここが、いちばん大切なポイントだと思います。
XGやHANAに憧れる。でも、彼女たちには歌やダンスの実力、強烈な個性があります。外見だけ真似ても「何もできない自分」になるだけだから、なりたくてもなれない。一方で、高額整形や痩身薬には「ビジュアルは羨ましいけれど、そこまでやるのはおかしい」と感じている。なりたくてもなれない理想と、なりたくない理想。その二つを同時に抱えて、板挟みのプレッシャーの中で生きているのが、今の若者たちなのです。
■Z世代の「両面」を知っておく
だから、「今の子はすぐ整形するのか」と言ってしまうと、若い人たちは“わかってくれていない”と感じます。逆に「容姿にとらわれない、いい時代だね」と言っても、“現実は違うのに”と思われてしまう。この両面を知っておくことが、若い人とコミュニケーションを取るうえで、すごく大切なのではないかと僕は思っています。
眉を消し、歯を黒く塗る。一見すると理解しがたいその行動の奥には、相反する二つの圧力の間で揺れる、Z世代のリアルな心理があるのです。

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原田 曜平(はらだ・ようへい)

マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授

1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。

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(マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授 原田 曜平)
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