人間関係で悩む人とそうでない人の違いは何か。一般社団法人日本聴き方協会代表理事の松橋良紀さんは「人間関係でトラブルが絶えない人は、抑圧された感情が“圧縮ファイル”となり潜在意識に格納され、人生の大事な場面で“予期せぬバグ”として噴き出す。
代表的なのが『親を尊敬するいい人』という理想的な子供を演じて、『親を完璧な存在』と見なすことで、自分を防衛していく方法だ」という――。
※本稿は、松橋良紀『誰とでもうまく「話せる人」と「話せない人」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■無理難題と幼少期の苦しい「経験」の違い
あなたは今までの人生で、
「どうしようもない。こんな出来事を乗り越えるなんてできないよ」
と、いったんはあきらめかけたものの、誰かのサポートなどのおかげで何とか乗り越えられたという経験はありますか?
当時は無理としか思えなかったことを乗り越えられた体験は誰にでもあるはずです。
そして当時、あなたを苦しめた無理難題は、乗り越えたあとにすばらしい経験として、一生の支えになっていきます。
このように、苦しんで乗り越えたものは、「経験」という名前の武器として助けてくれます。
しかし幼少期の経験は違います。
カウンセリングをしていて思うのは、幼少期の苦しい経験のせいで、苦しんでいる人はとても多いということです。
私たちは幼少期に、しつけという名のもとに、いろいろ注意されたり、怒られて育ちます。
怒られた経験がなくても、親の不機嫌な表情や声色で、親が悲しんでいる、怒ってると察する能力を身につけた人もいるでしょう。
何かしてほしいことを口にしたとたんに頭ごなしに怒られて、
「ああ、自分の望みは叶えてもらえないんだ」
という拒絶を体験した。
あるいは、
「自分よりも他の兄弟が大事なんだ……。
自分は愛されないんだ」
という喪失を経験した。そんな人もいるでしょう。
■25個の禁止令を見つける
このようなときに、幼少期のあなたは、その痛みを感じないようにするための武器を手に入れました。
例えば、
「人に近づいてはいけない」

「目立ってはいけない」

「実行してはいけない」

「個人の意見を言ってはいけない」
などなどです。
これらを心理学で禁止令といいます。
現在禁止令は、25個あるとされていて、生きづらさを感じている人は、幼少期に作ってしまった禁止令に支配をされている人だらけです。
禁止令を見つけるためにはどうしたらよいでしょうか?
まず、過去の体験を思い出してみましょう。
「問題ない」
と自分では思っていることもいちどすべて書き出してみます。
そうすると、自分を止めている禁止令が見えてきます。
今、生きづらさを感じていたとしたら、幼少期に作ってしまった禁止令が原因です。
自分を縛っているものは何かを探求していくと、何十年も抱えて来た問題があっさりと解消します。
生きづらさを感じたら禁止令を探してみよう!

■いろんなものを目かくしする危ない言葉
「両親に対して、感謝しかありません」
何かいい言葉のように思いますよね。

けれど、心理学の現場に立って20年。
私は「いろんなものを目かくししてしまう危ない言葉だ」と確信するに至りました。
感謝という言葉は、一見ポジティブな響きを持ちます。
しかし感情には光と影があります。
うれしい事や楽しいことの裏側には、怒りや哀しみ、嫉妬や憎しみがあります。
「親には感謝しかない」と言い切った瞬間、ネガティブな感情はなかったことにして、いい人仮面をかぶってしまうことになります。
そうしてネガティブなものが、心のどこかに押し込められていきます。
問題なのは、抑圧された感情は消えてなくなるわけではないということです。
抑圧された感情は、“圧縮ファイル”になって潜在意識に格納されます。そして深い部分で動き続けます。そうしてたいていは人生の大事な場面で“予期せぬバグ”として噴き出します。
■人間関係のトラブルを生む3つの圧縮ファイル
人間関係でトラブルが絶えない人は、3つの圧縮ファイルを抱え続けています。

防衛機制という、自分を守るためのメカニズムの中でも、代表的なのが「理想化」「否認」「反動形成」の3つです。
①理想化
理想化とは、「親を尊敬するいい人」という理想的な子供を演じて、「親を完璧な存在」と見なすことで、自分を防衛していく方法です。健康的な成長なら「親は完璧ではないんだ」ということを知り、反抗期を通じて、親離れをしていきます。しかし、特に優等生タイプは「いい人仮面」を被り続けてその機会を失いがちです。
②否認
怒りや寂しさ、失望といった負の感情を「なかったことにすること」を否認といいます。「親に対してネガティブな感情を持つなんていけないことだ。私にはそんな感情なんてない」と自分を思い込ませて痛みを感じなくする防衛方法です。
③反動形成
本当は痛みが大きいほど、それを覆い尽くすように「感謝」を声高に叫ぶようになることで、自分を守る防衛方法です。
SNSでも、「感謝」や「ポジティブに」というキーワードで埋め尽くされた投稿をする人がいます。そんな投稿を見ると、無理をしていて苦しさばかりを感じてしまいます。
これら3つの反応は、防衛本能が作動しているサインです。
しかし、いくらごまかしても蓋をされた感情は消えることはありません。
圧縮されたファイルは、心の奥深くで膨張を続けていきます。
■自分の心を救う問いかけ
では、どうすればよいのでしょうか。
それはまず、「私は本当に負の感情がないのだろうか?」と自分に問いかけることです。
その問いに対して、最初は何も感じないかもしれません。それでも、丁寧に心の奥に目を向けていくと、忘れていた記憶、見て見ぬふりをしてきた出来事が、少しずつ浮かび上がってきます。
怒りや寂しさがこみ上げてきたら、それは回復の兆しです。自分の感情を自分自身が見つめ直している証拠です。
これらの感情に気づき、言葉にすることは親を否定することでも、恩を忘れることでもありません。自分の心を救うための旅の第一歩なのです。
自分の感情を見つめ直そう!

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松橋 良紀(まつはし・よしのり)

一般社団法人日本聴き方協会代表理事

著書31冊52万部超え。30年以上にわたり、話し方や聴き方のスキルを研究し続けてきた心理学の専門家。『聞き方の一流、二流、三流』 『すごい雑談力』 『話さなくても相手がどんどんしゃべりだす 「聞くだけ」会話術――気まずい沈黙も味方につける6つのレッスン』 など、書籍を多数執筆。
聞き方スキル、雑談スキル、心理スキルをテーマとした研修やセミナーで活躍中。

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(一般社団法人日本聴き方協会代表理事 松橋 良紀)
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