■若者の関心が「東南アジア」へ向かっている
Z世代の女性のファッションは、長らく海の向こうに手本を求めてきました。この15年ほどは、ずっと韓国でした。
ところが、その視線が、これまで一度もなかった方向に動き始めています。
ベトナムと、タイ。いわゆる「東南アジアトレンド」です。感度の高い女子大生や若いOLさんたちが、ベトナムやタイのインフルエンサーやブランドを参考にし始めているのです。
僕は20年以上、若者を研究してきましたが、東南アジアのファッションが日本の若者のお手本になるのは、初めてのことです。かつて「Look East」という言葉があったように、日本や韓国に憧れる側だったアジアの国々が、とうとうトレンドを生み出す側に回り始めた。これは歴史に残るかもしれない大きな転換点で、とてもエッジーな出来事だと僕は考えています。
■韓流が下火に…中国→タイ・ベトナムへ
日本の若者が手本にしてきた国は、この15年で段階的に移り変わってきました。
まず、約15年続いた韓流です。いまでも強いことは強いのですが、ここ1~2年、僕は韓流が少しずつ下火になり始めていると見ています。韓国側も、あまり新しいトレンドを作れなくなってきました。スイーツはドバイチョコベーグル、ドバイチョコ餅と、似たようなものばかりが続き、K-POPアイドルもNewJeans以降、爆発的にマスになるグループが出てきていません。ドラマも、「イカゲーム」は別格としても、若者に刺さるものが少なくなってきました。
代わってこの1~2年で強くなってきたのが、中国大陸のトレンドです。コスメも、「ワンホン」と呼ばれるインフルエンサーもそうですし、広く言えばTikTokも、SHEINも、マーラータンも、去年の夏に流行ったスイカジュースも中国のものです。中国のイケメンに会える遊園地もめちゃくちゃバズりました。
数の上ではまだ圧倒的にソウルへ行く人のほうが多いのですが、感度の高い人たちは上海に行くようになっています。Tagi.というかわいらしい雑貨屋さんなど、韓国とは違ったテイストの店が増えているからです。現地で中国の民族衣装をまとう「漢服体験」も流行りました。
そして、その次に――直近半年ほどで――初めて浮上してきたのが、ベトナムやタイの東南アジアトレンドなのです。日本でのポップアップが異常に増えたのも、この半年ほどのことです。
■最大の理由は「真似のしやすさ」
なぜ、憧れの対象が東南アジアに向かったのでしょうか。
きっかけのひとつは、K-POPです。BLACKPINKのリサ、NewJeansのハニ――いま世界的な人気を誇るスターの中に、東南アジアにルーツを持つメンバーがいます。彼女たちの人気が、Z世代が東南アジアのインフルエンサーに興味を持つきっかけになりました。
そのうえで、最大の理由は「真似のしやすさ」だと僕は見ています。
そもそも欧米のファッションは、骨格や顔立ちの違いから、日本の女性には参考にしづらいものでした。では韓国や中国はどうか。
韓国や中国のインフルエンサーは、極度に痩せていたり、正直、真似したくてもできない体型をしていたりします。ファッションも、ミニスカートやタイトな服が基本です。よほど自信のある女性でないと、なかなか手を出しにくいのです。
一方、東南アジアのインフルエンサーは違います。割と自然体に近い体型の人が多い。そして、韓国では過度なまでに色白が求められるのに対し、東南アジアの人たちは血色がよく、健康的な肌の人が多いのです。
ファッションも、フリルがついて可愛らしくて、でも露出はそんなに多くありません。日本でいま人気の可愛い系――KAWAII LAB.のFRUITS ZIPPERあたりに近い感覚もあって、特にタイはもともと可愛いものが好きな文化です。
考えてみれば、若者の憧れの対象は「芸能人」から「少し身近なインフルエンサー」に移ってきました。女性の俳優やモデルは無理でも、インフルエンサーなら真似できる。東南アジアのインフルエンサーは、その流れのさらに先にある、「もっと身近な憧れ」なのかもしれません。
■「安価な生産拠点」から「自ら発信する側」へ
もう一つ、産業構造の変化も見逃せません。
ベトナムやタイは、長年、世界のアパレルの生産拠点として安価な衣服を作り続けてきました。その過程で、縫製やデザインの技術を着実に蓄積してきたのです。
その技術が花開き、いまや自分たちのデザインで洋服を作り、発信する側に回り始めました。
ほかにも、KiiiKiii(キキ)のメンバーが着用して話題になったベトナムのmangata、28店舗を展開しモンチッチとのコラボでも話題になったタイのGENTLE WOMANなど、日本のZ世代に刺さるブランドが次々と出てきています。
向こう側もそれに気づいて、オンラインで買えるようにしたり、日本でポップアップを開いたりする。この動きが異常に増えたのが、この半年くらいなのです。
■「XG・HANA」と「美容整形・痩身目的で薬」…相反する流行
さて、ここからが本題です。この現象の奥には、若者たちのどんな心理があるのでしょうか。僕が面白いと思うのは、「これもまた、この時代だから流行ったんだな」という点です。いま若者の世界では、本当に矛盾したものが両方流行っています。
一方には、「ルッキズム(外見至上主義)はよくない」という流れがあります。いまの若者はそういう教育を受けて育ってきましたし、実際、XGやHANAのような、これまでの画一的な美の基準にとらわれない、ありのままの自分を肯定するスターが支持を集めています。
ところがもう一方で、SNSやリアルの生活では真逆のことが起きています。
ただ、どちらの道も、実は行き止まりなのです。
XGやHANAには、圧倒的な歌やダンスの実力、人間的な力があります。見た目だけ真似しても、同じ存在にはなれません。かといって、過剰なルッキズムの方を目指すと、その領域には上には上がいる。結局「芸能人強いよね」「整形している子強いよね」という話になってしまう。どこにも行き場がなくなっているのです。
■「行き場をなくしたZ世代」が見つけた身近な手本
そんな中で、ちょうど程よい着地点として見つかったのが、東南アジアのファッションやインフルエンサーだったのではないか――僕はそう見ています。
そもそも韓流も中華も、突き詰めればすごく「美を追求する」カルチャーです。東南アジアトレンドは、そのアンチテーゼというか、もう少し身近なものとして受け入れられている。
このトレンドは、まだ来始めて半年ほどです。広がりとしては、感度の高い層が取り入れ始めた段階で、マジョリティにはなっていません。担い手は、わざわざベトナムやタイまで買いに行く方たちも含めて、女子大生や、すごく若いOLさんが中心です。
ただ、思い返せば韓流も、最初は一部の感度の高い人たちから始まりました。大人の世代には、正直、見分けはつかないと思います。でも、それは韓流ファッションだって同じで、説明されて初めてわかるものです。「タイトでミニスカートが多いのが韓国系」だとするなら、「ダボっとしていて、フリルがついて可愛くて、でも露出は控えめ」なのが東南アジア系。そういうファッションが、実はいま、少しずつ街に増え始めているのです。
韓国・中国という“真似しきれない憧れ”の間で行き場をなくしていたZ世代が、より身近な手本を見つけた。この変化は、これからの若者向けビジネスや消費トレンドを考えるうえで、見逃せない兆しだと僕は思っています。
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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。
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(マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授 原田 曜平)

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