■「60歳で定年退職」は少数派
みやおチャ太郎
会社員(58歳)。子どもは独立し、パート勤務の妻と2人暮らし。定年が近づき、「退職金はどう受け取るのがいいのか」「年金だけで暮らせるのか」と気になることが増え、定年前後のお金に詳しいみなみ先生に相談することになった。
――最近は60歳を過ぎても働き続ける人って増えていますよね。
そうですね。60~64歳だと男性で84%、女性で65%の人が働いています(※)。もはや60歳で定年→引退という時代ではなくなりつつあります。それに加えて、2025年4月からは「65歳までの雇用確保」が完全義務化されました。本人が希望すれば65歳まで会社は雇用を確保しなければならず、制度面でも働き続けられる環境が整ってきているんです。
※内閣府「令和7年版 高齢社会白書」
――国も働くシニアを後押ししているわけですね。
■働き続けても収入は3~4割減
高齢者の就業を支える流れはますます強まっていますが、その一方で問題になるのが収入の変化です。
――60歳以降の収入って、そんなに下がるものなんですか⁉
60歳定年後、嘱託社員や契約社員などの形で再雇用されるケースも多いです。その際、給与が3~4割減になることもあります。同じ仕事を同じ場所でやっているのに、給与だけが大きく下がるのですから、気持ち的にもモチベーション的にもつらいですよね。
――ほんとうにそうです……。どうにかならないんでしょうか?
■25%以上減った人の手取りを補てん
そこで収入のサポートになるのが「高年齢雇用継続給付」という制度です。これは60歳から65歳の間に給与が下がった場合、その差額を補うために国が給付金を出す制度です。一定の条件を満たせば、申請できますし、受け取ったお金は非課税です。つまり、手取りがそのまま増えるということなんです。
――そんな頼れる制度があるんですね~。給与が下がれば必ず対象になるのですか?
いくつか要件があるんです。詳しくご説明しますね。
この給付金を受け取るには、次の3つの要件を満たす必要があります。①60歳以上65歳未満で雇用保険に加入している②60歳になるまでに雇用保険の加入期間が通算5年以上ある③60歳時点の給与に比べて、再雇用や再就職後の給与が75%未満に下がっている。ただし、役員扱いで働いている人は対象外になります。
つまり、60歳時点に比べて、再雇用後の給与が25%以上少なくなった場合が対象ですね。
■上限が「給与の15%→10%」に
――どのくらい給付されるのですか?
支給率は給与の下がり方によって変わります。例えば再雇用後の給与が大きく下がって60歳時の64%以下になった場合は、一律で再雇用後の給与(月額)の10%を支給。64%超75%未満の範囲では、支給率は0.39~10%の間で決まります。
――それほど下がってない場合は、支給額が減るのですね。
この給付金は、かつては給与の最大15%まで受け取れましたが、制度が改正され、2025年4月に60歳になる人以降は、10%が上限に変わりました。近年は65歳まで働ける環境が整ってきたことから、国としても“給与が下がった人への補助”という役割に絞って見直しが進められているのです。
■もらえるうちに確実に受け取っておく
――そういう背景があるんですね。この制度ってこれからどうなっていくのでしょうか?
実は、今後は、給付そのものが段階的に縮小されていく方向で進んでいます。
――もし減額されたら……。わたしは対象になりますか?
安心してください。現状でいくと、チャ太郎さんは上限10%の対象にはなりますが、条件に当てはまっていれば、給付自体はしっかり受け取れますよ。「もらえるうちに確実に受け取っておく」という意識が大切ですね。
――わかりました。心得ておきます。手続きは大変ですか?
手続き自体はそこまで難しくありません。原則として、会社がハローワークを通じて行います。60歳になったタイミングで「受給資格確認」という手続きが必要で、その後は2カ月に1度、会社が「高年齢雇用継続給付支給申請書」を提出します。そのため、手続きは会社まかせで進みます。
■会社の担当者が把握していないケースも
――それなら、手続きは自分でやらなくてもいいんですね?
基本的にはそうです。
――えっ。そうなんですね……。
もし、勤務先の担当者が制度を詳しく理解していないとしたら、要件を満たして給付金を受け取れるのに、手続きしていないため受け取り損ねてしまうケースもあり得ます。
――えっ⁉ 会社まかせだから大丈夫だと安心していたら、思わぬ落とし穴もあるっていうことか……。
■別の会社に再就職した場合もOK
60歳以降に再雇用されると賃金が75%未満になることは珍しくありません。つまり、この制度の対象に当てはまる人はとても多いということです。せっかく要件を満たしているのに「知らなかったからもらえなかった」というのは本当にもったいないですよね。だからこそ、ご本人が理解しておくことがとても大事なのです。
――わかりました。
再就職の場合でも、条件を満たせば受け取れますよ。まず、退職時に「受給資格確認票」をハローワークへ提出しておくことが必要です。その上で、転職先の会社で雇用保険に加入して働けば、給与が60歳時の75%未満に下がった場合に会社が申請してくれます。結果として、給付金を受け取れる仕組みです。
ただし、基本手当(再就職活動中にもらう給付)を受給すると、対象外になるので、転職の場合は注意しましょう。
――基本手当を受け取ると対象外になっちゃうのですね……。
■2年以内ならさかのぼって取り戻せる
基本手当を受給した場合、高年齢雇用継続給付の対象外にはなりますが、再就職後の賃金が低下した場合は「高年齢再就職給付金」があり、要件を満たすことで給付を受けられます。
――なるほど~。それはありがたいです。もしも、申請を忘れてしまった、という場合はどうなりますか?
高年齢雇用継続給付金は、申請を忘れてしまっても心配はいりません。支給には2年の時効があるため、2年以内であればさかのぼって手続きすることができ、未支給分を受け取ることが可能です。
――高年齢雇用継続給付金を受け取れる場合、実際の金額がどのくらいなのか、確認することはできますか?
目安の金額であれば試算できます。計算の過程を3つのステップでまとめました。
■50万→30万円なら年間36万円
――それなら、わかりやすそうです。具体的に教えてください。
STEP1で「60歳時点の賃金月額」の確認。この金額が給付額を試算する際の基準になります。ただし、上限額(月額50万8200円)があって、実際の賃金がこれを超える場合は、上限額で計算。超えない場合は、実際の金額を使います。
STEP2で、60歳時点と新しい賃金額の2つを使って「低下率」から給付の有無を確認します。
――低下率は75%未満じゃないとダメなのですよね。
その通りです。75%未満と判定されたら、STEP3で給付額を試算します。給付額は新しい賃金月額に支給率をかけて計算しますが、低下率によって変動します。
例えば、60歳時点の賃金50万円が30万円まで下がった場合は、低下率は60%。新しい賃金に、支給率10%をかけて計算します。給付額は30万円×10%=3万円です。なお、支給額にも上限があって、新しい賃金と給付金の合計が38万6922円を超えた分については給付を受けられません。
――月額3万円なら、年間36万円になるから結構多いですね。
ただし、この金額はあくまでも目安なので、正確な金額を知りたい場合は、ハローワークで確認してください。
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社労士みなみ(しゃろうしみなみ)
社会保険労務士 YouTuber
年金の最大化と、社長・従業員の退職金設計、企業型DCの導入支援を専門とする社会保険労務士。登録者29万人を超えるYouTubeチャンネルを運営し、主に50代~60代の会社員に向けて、定年前後のお金の不安を解消する情報を発信している。大手銀行で資産運用アドバイスに携わり、20代から長年にわたり資産運用を継続。50代で社労士として開業し、主婦としての実感を生かした「生活者目線」の解説が支持されている。著書に『年金最大化生活』(アスコム)、『50代からのお金の新常識』(かや書房)がある。
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(社会保険労務士 YouTuber 社労士みなみ)

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