※本稿は、名郷根修『瞬動力』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■「自分にはできる」という感覚を持てるか
すぐやる人になるために、まず取り組みたいテーマが「自己効力感を高める」ことです。自己効力感を育て、「できる自分」のイメージを自分自身にインストールしていきましょう。
ここで、「自己効力感」という言葉について、改めて整理しておきましょう。
自己効力感は、カナダの心理学者アルバート・バンデューラ氏が提唱した概念で、「自分は結果を出せる」と思える感覚のことです。言い換えれば、「未来の自分に対する自信」と言えるでしょう。
人は、行動や成果を求められる場面で、「自分にはできる」という感覚を持てるときにこそ、一歩を踏み出せます。逆に、「どうせ無理だ」と感じた瞬間に、行動は止まります。つまり、すぐやる人になるための土台となるのが、この自己効力感なのです。
よく混同されがちなのが、似た言葉である「自己肯定感」。自己肯定感を上げよう、という言葉は自己啓発本やSNSなどでもよく目にしますが、自己効力感とは違う意味を持ちます。
■自己肯定感の高さだけでは習慣化に失敗する
気分が落ち込んでいるときや自信を失いそうなときに、「今のままの自分で良いじゃないか」と思う気持ちは、自分の心を守るために大切なことです。
しかし、それは「できない自分」も肯定することになります。たとえば「毎朝早起きしようと思っていたのにできなかった。でもがんばったから良いよね」といったように、こと習慣化を目指す上では、自己肯定感が高いだけでは失敗してしまう可能性があります。
一方、自己効力感というのは、「これからの自分なら行動できる」という未来への期待や自信のことです。習慣化できない、いつも三日坊主という人は、自己効力感が下がっている状態と言えます。
習慣化のためには自己効力感を高めていくことが大事なので、自己効力感を上げる、あるいは低くしないための工夫をさまざまなやり方で取り入れています。
具体的な方法については、本稿でもくわしく解説していきますので、「できる」「できた」を積み重ねて、自己効力感を育てていきましょう。
■すぐやる人は目標の立て方が違う
掲げた目標に対し、「できる」という成功体験を重ねることで、自己効力感を高めることができます。
「先延ばしする人」と「瞬動力が高く、すぐやる人」の目標設定の違いを見ていきましょう。
①目標の大きさと解像度
脳は曖昧で輪郭のはっきりしない目標に対して、本能的に身構えます。
すると、不安やストレスが高まり、無意識のうちにブレーキがかかります。その結果、行動が止まり、気づけば先延ばしがはじまってしまうのです。
瞬動力のある人は、「今日やること」に目標を落とし込むことができます。そうすることで、大きい目標を掲げても、不安にならず最初の一歩を踏み出せるのです。
先延ばしする人の目標
・英語を話せるようになりたい
・本を書きたい
・売上を上げたい
大きくて抽象的な目標は、「今日、何をすれば良いのか?」が見えづらいです。
脳は曖昧で大きすぎる目標を脅威としてとらえやすく、不安やストレスが大きくなり、行動が止まりやすくなります。
瞬動力が高い、すぐやる人の目標
英語を話せるようになりたい
→今日やること:朝7時30分~7時40分で、テキストの1ページだけ声に出す
本を書きたい
→今日やること:第○章の見出し案を3つだけ、箇条書きする
売上を上げたい
→今日やること:今週アプローチする既存顧客を3社リストアップする
同じ目標でも、すぐやる人は[ゴール(最終地点)→中期の目標(3カ月・3週間など)→今日の目標(足元の一歩)]と細分化するため、「今日何をやるか」が行動レベルで明確で、最初の一歩を踏み出しやすいのです。
■「できた」を積み重ねていく
②がんばり前提の目標か、「続けられる目標」か
先延ばしする人はがんばれば達成できる目標を設定する傾向にあります。
私自身も、過去に「毎日10キロ走る」など、そのときの自分にとっては負担が大きすぎる目標を立てて、結局続かずに目標設定を低めに設定し直した経験があります。がんばろうとした結果、自己効力感を下げてしまっては本末転倒。
瞬動力が高い人は、「これなら自分にもできる」「これなら毎日続けられる」と思える目標設定をしています。
先延ばしする人の目標
・毎日2時間勉強する
・毎日10キロ走る
今の自分から見ると負担が大きすぎる目標設定を立ててしまいがち。一度崩れると、「やっぱり自分は続かない」と自己効力感が下がり、ますます動けなくなる。
瞬動力が高い、すぐやる人の目標
・まずは10分だけ勉強する
・まずは5分だけ散歩する
「これなら続けられそう」と思える小さな目標からスタート。最初は少ない回数からはじめ、慣れてきたら少しずつ増やしていく。「できた」が積み重なるほど、「自分はやればできる」という感覚(自己効力感)が上がり、自然と行動が続きやすくなる。
■目標を細分化する3つのメリット
すぐやる人は目標を細分化している、と言われても、なぜそこまで細かくする必要があるのか、ピンと来ない方も多いと思います。ここでは脳の仕組みや認知科学の観点から見た「細分化のメリット」を3つ、解説していきましょう。
①不安が減り、「脳が動きやすいサイズ」になる
大きくて抽象的な目標ほど、「どこから手をつけたら良いかわからない」「失敗したくない」という不安や抵抗感を呼び起こします。見通しの立たない課題は、脳にとって未知であり、不確実なものだからです。
こうしたときに関与するのが、不安や恐怖に反応する扁桃体です。扁桃体は、危険の兆候を察知し、私たちを守ろうとする役割を担っています。
不確定なことや新しい挑戦に直面すると、「今は動かないほうが安全だ」とブレーキをかける。
しかし、この防御反応が強く働きすぎると、必要な一歩まで止めてしまう。その結果として生まれるのが、先延ばしです。
一方で、目標を「今日やるのは、この10分だけ」「最初の一歩は、タイトルを3つ書くだけ」というように小さく分解すると、「これくらいならできそうだ」という感覚が生まれます。
すると脳は、その課題を対処できるものとして受け止めます。不安や抵抗感は和らぎ、ブレーキをかけていた扁桃体の働きも落ち着いていきます。その結果、計画や判断をつかさどる前頭前野がスムーズに働きはじめるのです。
■「やる気」や「気合い」に頼る必要がない
②「できた」が増えて、自己効力感が上がる
目標を細分化することで、一つひとつが達成しやすくなり、「小さな成功体験」を積み重ねることができます。「今日は10分だけやると決めた→本当に10分できた!」「タイトルを3つ書くと決めた→3つ書けた!」、このような、小さな「できた!」の積み重ねが、「自分はやればできる」という自己効力感を育てます。
自己効力感の研究では、この「できた!」という感覚によって「行動の継続」「困難な場面でもあきらめにくくなる」「新しい挑戦への前向きさ」につながることが示されています。
逆に、細分化されていない大きすぎる目標ばかり立てると、達成がむずかしくなり、「また守れなかった」「やっぱり続けられない」という自己否定の材料を増やすことにつながります。
③行動が自動化しやすくなり、習慣に変わる
目標を細分化するもうひとつの重要な効果は、行動が「条件反射」に近づき、習慣として定着しやすくなるという点です。
たとえば、「毎朝7時30分になったら、机に座って10分だけ勉強する」「このカフェに来たら、最初の5分は資料作成をする」のように、「いつ・どこで・何をどれくらいするか」まで落とし込まれた小さな目標は、脳にとって“処理パターン”として記憶されやすい形になっています。
これをくり返すことで、「やるぞ!」と気合いを入れてから取りかかるような「意識してがんばる行動」から、朝起きたら顔を洗って歯を磨くように「気づいたらいつもやっている行動」へと切り替わっていきます。
その結果、毎回「やる気」や「気合い」といった不確定なものに頼る必要がなく、疲れているときでも条件がそろえば自然と動きはじめられるという「すぐやる習慣」の土台ができます。
■日々のタスクの3つの細分化候補はこれ
日々のタスクは大小さまざまありますが、それらすべてを細分化する必要はありません。あらゆるタスクを細分化しようとすると、今度は細分化すること自体が作業になってしまいます。
「サッと手をつけられるタスクは、そのままやる」、「見ただけで気が重くなる/いつも先延ばしするタスクは、細分化してからやる」というメリハリをつけることをおすすめします。
日々のToDoの中での細分化する・しないの見極めについて、次の通りにまとめました。1~3のどれかに当てはまるなら、それは日々のタスクの細分化候補です。
①見るたびに気が重くなるタスク
例:「提案書を作成」「資料をまとめる」「確定申告」など
→曖昧で大きくて、脳が脅威として感じやすいもの。
②「1時間以上かかりそう」と感じるタスク
例:「プレゼン資料を作る」「企画書を書く」「動画を1本撮る」など
→手間や工程が多いもの。
③何日もToDoに居座っているタスク
毎日リストに書いては消えずに残っているもの
→「ずっと気になってはいるが、そのままでは動き出せない構造になっている」というサイン。
基本ルールとして、そのタスクが「終わるまで」ではなく、「最初の5~15分でできること」に分けるのがポイントです。
例:タスクが「提案書を作成する」の場合
「何ページもある提案書を完成させること」を目標にしてしまうと、重くて手が止まりやすくなります。この場合、以下のような小さなタスクに分けます。
・過去の似た提案書を3つフォルダから探す
・今回の提案書の“目的”を3行だけ書く
・見出し候補を5つメモに書き出す
・1枚目の“表紙スライド”だけラフをつくる
こうすることで、「提案書を作成する」という大きなタスクを脳が動きやすいミニサイズにできます。
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名郷根 修(なごうね・しゅう)
エグゼクティブコーチ/ハイパフォーマンス代表
Rotterdam School of Management, Erasmus University 経営学修士(MBA)。1978年岩手県生まれ。海外法人の米国戦略コンサルティングファームであるBoston Biomedical Consultants(現:IQVIA)、日本法人のグローバル医療機器メーカー「フィリップス・ジャパン」で勤務後、現在はグループ合計年商180億円の医療分野の会社・南部医理科とフィンガルリンクの経営に携わり、世界最先端の医療技術や製品の普及に努めている。「伝説の戦略コーチ」として知られ、Strategic Coach社を創設したダン・サリヴァン氏に師事し、同社が提供している「10x Ambition Program」を卒業した唯一の日本人。著書に『10x 同じ時間で10倍の成果を出す仕組み』(日本実業出版社)、『習慣は3週間だけ続けなさい』(SBクリエイティブ)がある。
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(エグゼクティブコーチ/ハイパフォーマンス代表 名郷根 修)

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