「ビックカメラの街」といえる東京・池袋で、家電量販店の勢力図が大きく変わろうとしている。西武池袋本店の一部にヨドバシカメラが進出し、ビックカメラ、ヤマダデンキ、ノジマも対抗セールを展開。
ライターの宮武和多哉さんは「ヨドバシはもはや“電器屋さん”ではない。勝敗を分けるのは、家電の価格だけではなくなっている」という――。
■家電四天王が「ビックカメラの街・池袋」に
1日230万人が行き交うターミナル駅・池袋に、ヨドバシカメラが悲願の進出を果たした。長らく池袋を本拠地としてきたビックカメラだけでなく、ヤマダデンキ・ノジマも徹底対抗セールを打ち出し、各社が鎬を削る「家電量販・四天王」の競争が始まった。
ただ、ヨドバシカメラにとって、今回の池袋進出はなかなかリスキーだ。国内有数の百貨店「西武池袋本店」を3000億円もかけて取得し、1000億円以上をかけて改装したうえで出店。開店後も、長らく池袋東口を本拠地としてきたビックカメラとの死闘が待っている。
国内家電への需要そのものが縮小していく中、なぜヨドバシカメラは、あえてライバルの目の前に旗艦店を出店したのか。年間売上1兆円以下(2024年度は8162億円)なのに、池袋以外でも巨大投資を繰り返すのはなぜか? オープンセールに沸く現地を歩いて観察したところ、むしろビックカメラの方が危機にあるのでは? といった感想を抱いた。
■ビックは駅前、ヨドバシは駅直結
JR池袋駅ホームの発車メロディは「♪ビーックビックビック、ビックカメラ」、駅構内はビックカメラの広告だらけ。改札口の至近距離には本館・ITTower店など4軒のビックカメラがあり、区のイベント協力や成人式の記念撮影など、どこに行ってもビック、ビック、ビック……もはや「ビックカメラの街」ともいえる様相であり、ビックカメラありきで池袋を訪れる人々も相当数いるだろう。
しかし、そんな人々の行動様式が、新店「ヨドバシカメラ マルチメディア池袋」(以下:ヨドバシ池袋)の存在によって、変わってしまうかもしれない。
ヨドバシとビックの運命を分けるポイント、それは「立地」。簡単に言うと「ビックは駅前、ヨドバシは駅直結」なのだ。
ビックカメラの本館・パソコン館がある東口のメインエリアは、駅や地下街と直結しておらず、短距離とはいえ駅を出て地上に上がり、歩く必要がある。一方でヨドバシ池袋は、JR山手線、地下鉄丸ノ内線・有楽町線などが集積した地下改札から、最短20秒ほどで入店できる。たとえビックカメラへの来店目的で池袋を訪れようとも、ここまでの至近距離ではついついヨドバシに立ち寄ってしまうだろう。
また、地下街「池袋ショッピングパーク」でもビックカメラ方面にアクセスできるものの、2023年に百貨店・地下街がともにヨドバシ傘下になって以降、道案内となるような行先表示が不自然に消えてしまった。表示がないと、地下道経由のルートは土地勘がある人しか使えない。
ビックカメラがいくら広告で誘導しようとも、各路線の改札と直結しているヨドバシカメラが、人流を根元から吸い取ってしまう。オープンセール期間中も、ビック・ヤマダ方面への動線の賑わいが薄く、集客面で若干苦戦しているように見えたのは、気のせいだろうか?
■「日本一の百貨店」半分がヨドバシに
ではなぜ、ヨドバシ池袋がこんな場所にオープンしてしまったのか? 数年にわたって大きく報じられたので、ご存じの方も多いだろう。きっかけは、「西武百貨店の運営会社(そごう・西武)の外資ファンド傘下入り」だ。
1940年からこの地で営業を続ける「西武池袋本店」は、バブル期の1982年には単独で年間2749億円という脅威の売上を誇り、まぎれもなく「日本で一番売れる百貨店」であった。
しかし、コロナ禍で地方店舗が軒並み不採算となったあおりを受けて、運営会社である「そごう・西武」が2020年度から赤字に転落。
池袋本店はまだまだ競争力を保っていたにもかかわらず、米投資ファンドの「フォートレス・インベストメント・グループ」(以下:フォートレス)にたった2200億円で売却されてしまい、うち池袋西武本店を含む主力物件が、約3000億円でヨドバシに売却されてしまった。
異業種のままなら家電量販店・百貨店で競合も発生しなかった池袋西武本店が、あれよあれよという間に売却されて、建物がヨドバシ所有となったうえで、北半分がヨドバシ化、南半分には西武池袋本店がテナント入居する形で残った。
しかも、ビックカメラ方面に流れそうな人流をピタリと止めそうな、JR・地下鉄の改札に直結した場所に店がある……池袋の“ヌシ”としての立場を長らく維持してきたビックカメラにとっては、想定外にも程があるだろう。
■2000年代初頭から続く「陣取り争い」
ただ、駅前・カメラ系量販店同士としての「ヨドバシ・ビック」の抗争は、いまに始まったことではない。
両社とも全国各地で一等地の確保に力を注ぎ、2000年代初頭の大阪進出では、ヨドバシが梅田・キタエリアのJR大阪駅北側を買収、ビックが張り合うように難波・ミナミエリア(百貨店「プランタンなんば」跡)にテナント入居。“キタvsミナミ”地域間競争も相まった激しい商戦を繰り広げたのも、記憶に新しい。
首都圏でも八王子・川崎・大宮などで、ヨドバシ・ビックが至近距離で競合。地方でも福岡市で「先発の天神ビックを後発の博多駅ヨドバシが猛追」、京都市で「ヨドバシの京都駅前出店に追いやられて先発のビックが完全閉店」など、各地での集客戦争の激化は、留まることを知らなかった。
その中で、聖域として守られてきた「ヨドバシは新宿、ビックは池袋」の勢力図が変わったのは、2002年のこと。ビックカメラが小田急百貨店(小田急ハルク)の5フロアを借りる形で、ヨドバシ創業地の目の前に「ビックカメラ新宿西口店」をオープン。2012年には東口にも進出し、「新宿=ヨドバシ」の構図を、ビックカメラが一気に塗り替えようとしたのだ。
■JR経済圏を取り込んだビック
さらにビックカメラは、JR東日本と提携したクレジットカード「ビックカメラSuica」を同時期に発行した。
月に1度、2度しか家電量販店に足を運ばない顧客でも、Suicaへのチャージや定期券購入でたまったポイントを消化するため、テレビ・冷蔵庫の買い替え検討でも優先してビックに足を運ぶようになる。
池袋よりはるかに鉄道の利便性が良い新宿に進出した上で実施した「JRとのポイント連携」によって、ビックカメラはいわば「JR経済圏」の顧客を取り込み、ヨドバシを効率的に追い詰めることに成功したのだ。
■池袋を諦めなかったヨドバシ
一方で、ヨドバシカメラも黙っていない。2024年4月17日・日本経済新聞のインタビュー記事では、ヨドバシホールディングス・藤沢昭和社長(現:会長)が「何度も池袋への出店を考えてきた」と語っている。2009年の「池袋三越」が撤退した際にも跡地への出店を検討したといい(駐車場などの条件が合わず断念、のちにヤマダ電機が入居)、ビックカメラの牙城・池袋での好物件を待ち続けていたようだ。
そんなヨドバシカメラも、条件をすべて兼ね備えた「池袋西武本店」の売却は想定外だったようで、フォートレスから購入の打診を受けた藤沢氏も「まさか(西武が)売りに出るとは思っていなかった」と語っている。それでも、3000億円もかかる物件取得にたった数日で結論を出せるあたり、非上場で同族経営(現在の社長は、藤沢昭和氏の長男・和則氏)という体制が経営判断の速さに繋がっていると言えるだろう。
そんなヨドバシカメラにとって、池袋進出のメリットは「20年前のビック新宿進出時のリベンジ」「本拠地・池袋でのビックの勢いを削ぐ」だけではない。池袋ヨドバシは、全国でも屈指の鉄道駅からのアクセスの良さを生かして、池袋に集積する西武・東武などの鉄道沿線を「ヨドバシ経済圏」に塗り替えていくだろう。
オープンセールでお得な家電を購入した人々は、店員の巧みな接客トークで「ヨドバシ・ゴールドポイントカード」を申し込み、使っているうちに「家電を買うときは、まず池袋のヨドバシ」状態に囲い込まれる……駅前タイプの家電量販店にとって、立地戦略はオセロゲームのようなもの。いかに鉄道沿線を経済圏として取り込み、ライバル店に向かう人流を封じ込めるかにかかっている。これから池袋では、ヨドバシvsビックの“リアルウォーズ”が繰り広げられる。
眺めるために、池袋に足を運ぶのも良いだろう。
■勝敗を分ける“ヨドバシの脱家電戦略”
池袋でのヨドバシ・ビックの競争で、もうひとつ差が出そうな要素がある。簡潔にまとめると「ヨドバシは集客施設・デベロッパー、ビックは電器屋さん」といった表現が、しっくりくるのだ。
ヨドバシが大型店化するきっかけとなった「マルチメディア梅田」出店(2001年)では、「売場が広大すぎて家電量販店の経営は成立しない」との風説を覆すかのように、家電以外の売場づくりに注力し続けてきた。
取扱商品もホビーやプラモデル、旅行用品など増加の一途をたどり、かつ自社物件への出店の駒として「石井スポーツ」を傘下に収め、スポーツ用品の売り場も飛躍的に拡張した。そして、2019年に梅田ヨドバシに大阪・梅田の店舗に併設して開業した「LINKS梅田」では、「GU」「ユニクロ」「ニトリ」「ABC-MART」などのテナントを誘致、各フロアを埋めている。
もはやヨドバシカメラのフロアは相当な比率で「脱・家電」であり、店内も電器屋さんというより「複合商業施設」「テナント経営者・デベロッパー」といった印象が先に来る。だからこそ、広大で細長い西武池袋本店を取得したうえで、どのスペースでも収益を生める商業施設に転換できたのだ。
■家電以外にほぼ手を出さないビックの“諸刃の剣”
一方でビックカメラは過度な投資を行わず、東京・有楽町や大阪・なんばなどの旗艦店も賃貸のまま。池袋の本館や各店舗でも、ヨドバシと共通する「家電以外」はホビー・スポーツ用品(いずれもヨドバシより小規模)くらいであり、専門外であるレストラン街などに手を出していない。全体的に「電器屋さんは電器屋さん」のまま、ここまで来たようにも見える。
積極策に出る革新的なヨドバシと、石橋をたたいて渡る保守的なビック。
そう見える社風の背景には、ヨドバシ・藤沢昭和氏、ビックカメラ・新井隆二氏といった創業者の経営スタイルもあるだろう。
社長がすでに長男・藤沢和則氏に継承されているヨドバシは、株式非公開のままとあって、投資を決断する経営スピードも迅速そのもの。池袋と同時に千葉そごう・ジェンヌ館のヨドバシ化(ヨドバシカメラ マルチメディア千葉の移転。2024年11月開業)も進め、この後には旧・名鉄百貨店への限定出店、札幌の新幹線駅化に伴うヨドバシ主導の再開発ビルも、1667億円を投じて建設中だ。
この環境の中で、フォートレスからの「約3000億円」という物件取得の打診に数日で受託の返答をしたという。ヨドバシ=藤沢家のこういったフットワークの軽さは、並大抵の企業が持てるものではない。
一方でビックカメラは、2代目以降は叩き上げの社員や関係者に社長を任せ、株式公開による資金調達で安定成長を続ける。家電以外にほぼ手を出さない社風から推測すれば、おそらく「西武池袋本店が売却される」と聞いても手を出さなかったと思われ、フォートレスもそれを分かっていて、ビックカメラではなくヨドバシに声をかけたのだろう。
■最高の立地でも課題山積
では、ヨドバシカメラはあっさりと、池袋でビックカメラを駆逐できるのか? ホームエリアである池袋を盗られることで、ビックカメラは縮小の道を歩むのか? ……結論から言うと、そう簡単な筋書きを歩むわけがない。
まず現時点で、ヨドバシ池袋の課題が山積しすぎている。建物の半分・半分で残した西武池袋本店にヨドバシの喧騒が聞こえてしまい(二重扉で遮蔽している場所でも聞こえてしまう)、なかにはルイ・ヴィトンのように「ヨドバシの歌を大音量で聞かされながら、ハイブランド商品を接客」せざるを得ないな場所もある。落ち着いて買い回りたいであろう旧来の百貨店の常連客やインバウンド富裕層に適した環境を、ヨドバシならびに池袋西武本店が提供しているとは思えない。

当初のヨドバシ側の目標であった「百貨店で高級ブランド品や美術品を購入した富裕層の顧客が、そのまま家電フロアへ流れる」「外商の取扱商品のなかにヨドバシの家電を入れてもらう」といったシナジー効果が上がるようには、まだ見えないのが難点だ。また、固定費削減のためにも見える極度なトイレ削減の影響か、頻繁に発生するトラブルがSNSを賑わせており、全面解決には時間もかかるだろう。
■家電量販店の泥仕合の行方は…
ただそうは言っても、ヨドバシ池袋は「ヨドバシカメラ マルチメディア梅田」の店長を10年にわたって務め、今では常務取締役を兼任しているヨドバシのエース・池島政広氏を、店長として投入している。
もちろん、ヨドバシの脱:家電戦略を担う「LINKS」業態の1号店(大阪・梅田)立ち上げにも関わっており、「LINKS IKEBUKURO」を併設するヨドバシ池袋でも、同様の路線をとっていくだろう。
池袋での「家電四天王」の現状は、家電にとどまらないフロア構成を打ち出したヨドバシに対して、ビックカメラは現状維持で徹底対抗、ヤマダは家電売場を大幅に拡張するなど、各社の対応は分かれている。
しかし、各社ともEC(通販)の進化・利用増加などで実店舗の役割が薄れつつあり、広大な売場を維持するためには、家電以外に活路を見出すしかない。
駅前・カメラ系量販店向けの広大な物件を確保するためにも、家電以外の商品多様化が求められるはず。いまの積極路線を維持するためにも、「LINKS出店」「西武百貨店とのパートナーシップ」の成功に、今後のヨドバシの行方がかかっていると言っていい。

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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)

フリーライター

大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。プライベートでは8人家族で介護・育児問題などと対峙中。

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(フリーライター 宮武 和多哉)
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