※本稿は、安斎勇樹『新 問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■レトリック 比喩法 別のものにたとえる
比喩法とは、伝えたい文章を、別の何かにたとえて表現することによって、理解をしやすくしたり、イメージをふくらませたりするテクニックです。
「まるで~のようだ」といった形式で比喩を明示する「直喩」や、「恋は盲目」のように比喩を明示しない「隠喩」などバリエーションがありますが、その区別は割愛します。
たとえば「この会社で、あなたはどんなふうに働きたい?」という願望を尋ねるシンプルな質問のアレンジを考えてみましょう。
「この会社で、あなたはどんなふうに働きたい?」
→「この会社という舞台で、あなたはどんなパフォーマンスをしたい?」
→「この会社という船で、あなたはどんな航海をしたい?」
比喩法の基本は、質問で扱っている内容と同じ性質や構造を持った別のものを借りてきて、表現に加えることです。
「会社」の性質を考えたときに、会社を「人材の活躍の場」として捉えていて、相手にどんな活躍のイメージを持っているかを聞きたいのであれば、「舞台」という比喩を加えるとニュアンスが伝わるでしょう。
あるいは「会社」とは、「不確実な外部環境を乗り越えるための集団」として捉えていて、相手に共に乗り越えていくための意思を聞きたいのであれば「船」という比喩がよいかもしれません。
このように、組み立てた質問の意図や、相手に伝えたいニュアンスに立ち返りながら、近い性質を持った「別のもの」を表現に加えることで、印象を整えることができます。
■レトリック 擬人法 人間に見立てる
擬人法とは、人間でないものを、人間のようにたとえて表現するテクニックです。比喩法の一種でもあります。以下の質問を例に考えてみましょう。
「もしあなたが社長だったら、この使われていない自社技術をどう活用しますか?」
会社の中で使い古されて活用されなくなってしまった「自社技術」にスポットライトを当てて、再活用のアイデアを探るための質問です。
自分ごととして、事業目線を持って考えてもらうために「もしあなたが社長だったら」という仮定法を組み込んでいます。ただし、やや無味乾燥で、すでに不要になりつつある「自社技術」に、いまいち思い入れが湧かないかもしれません。
そこで、「自社技術」に擬人法でアレンジしてみます。
「もしあなたが社長だったら、この泣いている自社技術をどう活用しますか?」
「もしあなたが社長だったら、このすっかり自信をなくした寂しそうな自社技術をどう活用しますか?」
「もしあなたが社長だったら、『もっと俺を活かせ!』と叫ぶこの自社技術をどう活用しますか?」
いかがでしょうか? 「泣いている」「自信をなくした」「寂しそうにしている」といった感情を表現されると、人によっては「なんとかしてあげたい」「いいところを見つけて、励ましてあげないと」という感情が芽生えるかもしれません。
また「もっと俺を活かせ!」というセリフがあると、また違ったキャラクターが思い浮かび、チャレンジングな発想が浮かぶかもしれません。質問に感情が込められます。
■レトリック 共感覚法 五感に関する表現を使う
共感覚法とは、人間の感覚機能である五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)に関する表現を使ったテクニックです。
たとえば「このビールは最高です」と表現されるよりも、「きめ細やかな泡と黄金色が特徴的な、とても芳醇なビールです。ほろ苦いけれど口当たりがよく、喉越しが最高です」と表現されたほうが、五感のそれぞれにイメージが働き、魅力的に感じませんか?
質問をアレンジする際にも五感を意識すると、表現がふくらみます。特に「視覚」や「聴覚」は使い勝手がよく、アレンジに重宝します。
BEFORE 「3年後のあなたのキャリアの目標はなんですか?」
AFTER 「3年後、あなたはどんな景色を見ていたいですか?」(視覚)
BEFORE 「あなたがもしユーザーだったら、この商品のどこを改善したいですか?」
AFTER 「この商品を見たユーザーから、どんなセリフが聞こえてきそうですか?」(聴覚)
頭で思考するだけでなく、感覚的に質問に向き合えるため、発想がふくらみます。
■レトリック 声喩法 オノマトペを足す
声喩法とは、擬音語や擬態語などの特徴的な音の表現を用いたテクニックです。「オノマトペ」とも呼びます。たとえば、「不安でドキドキする」「しくしく泣いている」「びしっと伝える」「うんざりした」といったようなものです。
質問が堅苦しく、相手の論理的な回答を誘発しそうな場合などに、オノマトペという調味料で味つけをする感覚で、「ちょい足し」をするとよいでしょう。
「来期の事業戦略は?」→「来期のガンガン攻めていくための事業戦略は?」
「この技術のポテンシャルは?」→「この技術のきらりと光るポテンシャルは?」
ほんの少しオノマトペを加えるだけでも、質問の情緒的な印象を増すことができます。
■レトリック 緩叙法 二重否定を使う
緩叙法とは、直接的な表現をするのではなく、その逆の意味の否定形を使うテクニックです。たとえば「嫌い」と表現するのではなく「好きではない」と表現する方法です。
この緩叙法の効果は、主に2つあります。
第一に、直接的な表現をオブラートに包む効果です。たとえば「何か良いアイデアはありますか?」という質問は、あまりにも直接的で、相手を萎縮させてしまうかもしれません。しかし「良いアイデア」を「検討の余地があるボツネタ」と緩叙法でレトリックを効かせると、印象が変わらないでしょうか?
「何か良いアイデアはありますか?」→「検討の余地がありそうなボツネタはありますか?」
第二に、緩叙法にはかえって言葉のニュアンスを強調する効果もあります。たとえば「私たちが取り組むべきミッションとは?」という質問は、非常に重みがありますが、文言が簡素で、軽く受け止められてしまう可能性があります。
「私たちが取り組むべきミッションとは?」→「自分たちが取り組まないわけにはいかない、私たちのミッションとは?」
一見遠回しな言い方に見えますが、受け手の印象はだいぶ変わります。
■レトリック 婉曲法 オブラートに包む
婉曲法は、露骨な表現を濁して、あえて曖昧に表現するテクニックです。たとえば「便所」を「化粧室」「お手洗」と表現する方法のことです。
一般的には、恐怖や不快感を強く与えるネガティブな言葉や、タブーである表現をぼやかすために使われます。チームのポテンシャルを引き出すために組み立てた質問に、強烈にネガティブな表現が混ざっていることは稀でしょう。
しかし、組織の役割や立場の違いによって、ある人にとって馴染みのある言葉が、別のある人にとってはネガティブな言葉に感じられる、ということが稀にあります。
たとえば、事業数値を管理している経営チームにとっては、「経営危機」「赤字」「倒産リスク」といった言葉は身近であるかもしれませんが、現場のメンバーからすると、自分の人生に脅威をもたらすような、恐ろしい言葉に感じられるかもしれません。
経営チームのミーティングのアジェンダは「AI時代の経営危機を打開するために、自社プロダクトにどんな新機能が必要か?」といったものでもよいかもしれませんが、現場チームのミーティングのアジェンダとしては、婉曲な表現にする必要があるでしょう。
「AI時代の経営危機を打開するために、自社プロダクトにどんな新機能が必要か?」
→「AI時代に適応するために、自社プロダクトにどんな新機能が必要か?」
他にもたとえば、人事担当者にとっては「落ちこぼれ社員のフォロー」という言葉は馴染みのある言葉かもしれませんが、事業担当者からするとギョッとする言葉です。
「リモートワークにおける落ちこぼれ社員のフォローをどうするか?」
→「リモートワークですべてのメンバーが輝けるためにはどんなフォローが必要か?」
問いかけによってチームの仲間を傷つける言葉になってしまっては、本末転倒です。投げかける前に、相手の視点に立って強すぎる言葉になっていないか、チェックしましょう。
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安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)
MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 客員研究員
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人の創造性を活かした新しい組織・キャリア論について探究している。主な著書に『ルールのデザイン』『静かな時間の使い方』『冒険する組織のつくりかた』『問いのデザイン』『新 問いかけの作法』などがある。Voicy『安斎勇樹の冒険のヒント』放送中。
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(MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 客員研究員 安斎 勇樹)

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