血管を損傷する血糖値と血圧の上昇を防ぐには何をするといいか。医師の池谷敏郎さんは「血圧と血糖値の上昇を抑えるには、食後に体を動かすといい。
私が長年推奨しているのが、通常のウォーキングよりも運動量が2~3倍あり、4、5分行うだけでウォーキング10分間と同等の運動効果が得られる『ゾンビ体操』だ」という――。
※本稿は、池谷敏郎『血管の専門医が30年間欠かさない すごい習慣』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
■血管の酸化を防ぐ体内の「サビ取り部隊」
活性酸素が発生することで血管は著しくダメージを受けます。このダメージにストップをかけるのも、運動がもたらすメリットの一つ。
活性酸素は、ストレス、紫外線、喫煙、そして加齢によっても過剰に発生します。この活性酸素が暴走して血管の壁(内皮細胞)を攻撃し続けると、血管が硬くなったり、内側にプラーク(コブ)ができたりしてボロボロになってしまいます。
この活性酸素によって血管が攻撃されている状態を「酸化ストレス」と呼んでいます。
しかし、人間の体はとてもよくできていて、このサビを防ぐための「サビ取り部隊」を生まれながらに持っています。それが「抗酸化酵素(SODなど)」です。この酵素たちが体内をパトロールし、暴走する活性酸素を無害な水などに変えて、血管を守ってくれています。
ただ、悲しいことにこのサビ取り部隊は、年齢とともに少しずつ減って弱くなってしまうのです……。そこに福音をもたらすのが、運動です!
■「強い防衛スイッチ」が入るメカニズム
実は、運動をして息が上がると、一時的に体内の「活性酸素」は増えます。
「えっ、じゃあ運動すると血管がサビちゃうの?」と思いますよね。でも違うんです。
運動によって一時的に「ちょっとだけサビの原因(敵)」が増えると、体は「ヤバい! 敵が来た! サビ取り部隊を増強しろ!」と強い防衛スイッチを入れます。その結果、運動で増えた活性酸素の量をはるかに上回る量の「抗酸化酵素」が体内で大量につくられるのです。
あえて弱いウイルスを体内に入れて、強い免疫をつくる「ワクチン」の仕組みによく似ていますよね。いわば、運動は「血管の酸化を防ぐワクチン」なのです。
定期的に適度な運動を続けることで、この「サビ取り部隊(抗酸化酵素)」が常にスタンバイしている状態をキープできるようになります。そうなれば、血管がサビず、しなやかで若々しい状態を保てるようになるというわけです。
■血管の構造を太く、たくましくする
運動には、一時的な血流アップで血管を広げるだけではなく、血管の構造そのものを太く進化させる効果もあります。
例えば、有酸素運動をすると全身の筋肉にたくさんの酸素を運ぶために、心臓からポンプのように血液が勢いよく送り出されます。このとき、血液が血管の内側の壁(内皮細胞)をこするようにザアザアと流れます。
道路で例えると、急に交通量が増えて、車が道路の端っこギリギリをビュンビュン走っているような状態です。

この物理的な摩擦の刺激が数週間~数カ月と定期的に繰り返されると、血管の内側の細胞はこう学習します。
「毎日こんなにすごい激流が来るなら、今の細いパイプのままじゃいずれ耐えられなくなる! もっと太くて余裕のある道に作り変えよう!」
こうして、血管の細胞を増やすためのスイッチ(成長因子などの物質)がオンになり、本格的な血管の「拡張工事」のサインが出されるというわけです。
指令を受けた血管の壁の中にある筋肉(平滑筋)やコラーゲンなどの組織が細胞分裂をしたり、配置を変えたりして、自らを新しくつくり変えていきます。その結果、血管の直径そのものが物理的に太く、立派に進化します。
これが「血管のリモデリング」です。
単にゴム管がビヨーンと引っ張られて伸びているのとは違い、細胞レベルで再構築されて「2車線の道路が、4車線の立派な幹線道路に生まれ変わる」ようなイメージです。
この進化(血管の太径化)が起きると、運動していない安静時にもさまざまなメリットが得られるようになります。通り道が太くなるので、心臓が無理な圧力をかけなくてもスムーズに全身へ血液が巡るようになって血圧が下がったり、心臓が「省エネモード」で働けるようになったり。
また、広い道路を通って、隅々の細胞までたっぷりの酸素と栄養が届くため、日常的なスタミナがアップして疲れにくくなるのもメリットです。
■少しの動きが最高のアンチエイジング薬に
ここまで読み進めていただいたところで、「今すぐ体を動かしたい!」という気持ちがムクムクと湧いてきたのではないでしょうか。
中には、「頭ではわかっているけど、毎日忙しくて運動のために割く時間なんて到底とれない」、「キツイ運動や、ジムでのハードなトレーニングは苦手……」という人もいるかもしれません。
しかし、安心してください。
最新の医学研究によって、血管を若く健康に保つために「キツイ運動」や「長時間のトレーニング」は、必ずしも必要ではないことが次々と明らかになってきています。
むしろ、まとまった時間がとれない多忙な人こそ実践できる、日常生活の「ちょっとした動き」が、血管にとって最高のアンチエイジング薬になることがわかってきました。
■「30分に1回、ただ立ち上がるだけ」
まず、見直すべきは「座りっぱなし」の時間です。現代人は、デスクワークや自宅でのリラックスタイムなど、一日の大半を座って過ごしがちですが、これが血管にとっては大きなダメージとなります。
2024年にアメリカ生理学会(APS)の専門誌で発表されたミズーリ大学(アメリカ)の研究では、長時間の座位が血管の機能低下を招き、動脈硬化のリスクを高めることが改めて示されました。
座っている間の足の筋肉はほとんど動かず、下半身に血液が滞留してしまいます。すると、血管の内側を健康に保つための「適度な血流の刺激」が失われ、血管がどんどん硬く、もろくなってしまうのです。
逆に言えば、これを防ぐ方法は極めてシンプルです。
「30分に1回、ただ立ち上がるだけ」。
これだけで、滞っていた血流が再び全身を巡り始め、血管の内皮細胞が刺激されて元気を取り戻します。
仕事や作業の合間に少し立ち上がって背伸びをする、お茶を淹れに行く。そんな「座りっぱなしをリセットする行動」そのものが、立派な血管を守る運動になります。

■「その場で足踏み」で血圧が下がる
「立ち上がった後、どうせなら少しは運動しようかな……」という気持ちになれたら――例えば、ウォーキングやその場で足踏みをしたりといった、「適度な上下動」がある動きをするのもおすすめです。
そうした動きだけでも、血管と筋肉にポジティブな影響が現れて、血圧を下げる効果があります。
実際に、国立循環器病研究センター(国循)などの研究グループが発表した報告(2023年)によると、日常生活のなかで生じる「適度な上下動」を伴うわずかな身体活動でも、血圧を下げる効果が期待できることがわかりました。
上下運動で足が地面に着地したとき、頭に適度な振動が伝わり、脳内の組織液が動きます。すると、脳内の血圧調節中枢の細胞に刺激が伝わって、血圧を上げるタンパク質の発現量が低下し、それに伴って血圧が下がることがこの研究で確認されました。
ちょっと歩いたり、階段を上り下りしたり。その場で軽くジャンプをしたり……そんなちょっとした運動をするだけで、「血圧を下げろ!」という体の仕組みが働きだすということです。血圧が安定し血流がよくなれば、血管にかかる余計な圧力が減り、血管の老化を強力に防ぐことにもつながります。
■血圧&血糖値を下げる「食後のゾンビ体操」
わざわざウェアに着替えて外を走らなくても、家事のついでに行う「ちょこっと上下動」だけでも、血管は十分に元気をとり戻してくれます。
ちなみに、こうした“ちょこっと運動”をするタイミング次第では、血糖値コントロールにもつながります。
というのも、最も血糖値が高くなるタイミングは、食後30分~1時間ごろ。このときに血糖値が急上昇する「血糖値スパイク」を起こすと、血管を老化させてしまうことは、すでにお伝えした通り。

この血糖値のピークタイムを狙って体を動かすことで「体を動かして糖質をエネルギーとして即消費させる!」のが、私の狙いです。
この血圧も血糖値も低下させる運動として私が長年推奨しているのが、次の「ゾンビ体操」です。
私が考案した「ゾンビ体操」は、通常のウォーキングよりも運動量が2~3倍あり、4、5分行うだけでウォーキング10分間と同等の運動効果が得られます。
適度な上下運動で血圧を下げ、食後30~1時間以内に行うことで血糖値上昇も抑えられるので、朝・昼・夕の食後の習慣にしてください。

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池谷 敏郎(いけたに・としろう)

池谷医院院長、医学博士

1962年、東京都生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。97年、医療法人社団池谷医院理事長兼院長に就任。専門は内科、循環器科。現在も臨床現場に立つ。生活習慣病、血管・心臓などの循環器系のエキスパートとしてメディアにも多数出演している。東京医科大学循環器内科客員講師、日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医。

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(池谷医院院長、医学博士 池谷 敏郎 イラストレーション=小坂タイチ)
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