2026年に入り、中国製レーダーが供与されているベネズエラとイランで相次いで戦闘が起こった。評論家の宮崎正弘さんは「250キロ先に進入したステルス機を索敵し、ミサイルで撃ち落とせるはずの中国製レーダーは実戦でまったく役に立たなかった。
赤恥をかかされた習近平が調査を命じた結果、レーダーの研究所ではある異変が生じた」という――。(第1回)
※本稿は、宮崎正弘『次の戦争を人間が決めない日』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■兵器ではない現代戦の「裏の主役」
2026年の幕開けはド派手な米軍の軍事作戦だった。米軍特殊部隊のベネズエラ奇襲である。ニコラス・マドゥロ大統領を拘束し米国へ輸送して裁判にかけた。
そして同年2月28日、米軍はイスラエルと一緒になってイランと戦争を始めた。イスラエルと米軍のイラン攻撃の主役は空爆とミサイル。表の主役はトランプ&ネタニヤフ。裏の根回しはウィトコフ特使とトランプの女婿のクシュナーだったが、裏の裏、つまりCIA、モサドの諜報活動を成功させたのはAIエージェントだった。人工知能(AI)搭載のソフトウェア・システムが戦争の舞台裏での主人公だ。
イスラエルと米国のイラン攻撃により攻撃開始から3日間でイラン最高指導層48人が不在となって後継政権の出方が注目された。また米軍とイスラエルの最終目標に齟齬があることも浮上した。

米国の目標はレジームチェンジだが、イスラエルはそれに輪をかけてパーレビー皇太子の復権、すなわち王政復古も視野に入れている。たぶんどちらも実現性が希薄で、レジリエンス(回復力)の強いイラン革命防衛隊の殲滅は不可能だろう。通常戦争ではなく非対称戦争だからである。
■役に立たなかった中国自慢のレーダー網
中国が衝撃を受けたのはイランに供与した自慢のレーダー防衛網がまったく役にも立たなかったことである。
中国自慢のレーダー防衛網がなぜ破壊されたのか? しかもベネズエラとイランの両方で。
中国は「これで250キロ先に進入したステルス機を索敵し、ミサイルで撃ち落とせるから安心」と豪語した。このYLC8Bシステムは低周波で物体の進入をキャッチする。つまりステルスの風圧を感じ、それがレーダーに映し出される仕組みだ。
逆にいえば米軍は囮の飛翔体を先に飛ばしていた可能性もある。高周波レーダーによる迎撃ミサイルを撃つのだが、米軍のステルス戦闘機には高周波を無力化する電磁波妨害システムが組み込まれている。
赤恥をかいた習近平は直ちに調査を命じた。このレーダーを作ったのは合肥28研究所と南京14研究所といわれている。
責任者の呉蔓清、趙憲康、魏毅寅の3人は当該研究所のHPから名前が削除された。またイラン現地で指導に当たっていた中国軍人多数が爆撃に巻き込まれて死亡したと言われる。
しかしながら、アメリカも懸念がある。開戦から3週間後、米軍がミサイル不足に陥っていることがわかったのだ。武器のハードウェアはカウントできるから状態はすぐに把握される。イランの非対称的なドローン攻撃で米軍もイスラエルも高価なミサイルを撃ち続けたために在庫が枯渇状態となり、在韓米軍に配備してきたTHAADまでも中東へ転換させなければならなくなった。
■5億円のトマホークvs.50万円のドローン
イスラエルは3週間でおよそ1万2000発の爆弾をイランに投下した。このうち3600発はテヘラン地域に集中し、戦闘機590機の出撃回数は5700回に及んだ。別途、ヒズボラに対して2200発の爆弾を投下した。
ピート・ヘグセス国防長官は、“エピック・フューリー(壮絶な怒り)作戦”の費用と、発射された弾薬の補充のために、議会に10兆円規模の予算を要請した。
「悪者を倒すには金が必要だ。議会と関係者に働きかけ、これまで行ってきたこと、そして将来行うかもしれないことのために、適切な資金が確保されるよう要求する」というものである。

米軍のミサイル消費数は有力シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)の推計で、トマホーク168発(3月27日にペンタゴンは850発と修正)、SM長距離が159発、SM2が268発、SM6が280発と報告されている。高価なミサイル(「トマホーク」は一発5億円)が安価なドローン(一発50万円から)によってきりきり舞いさせられるとは!
ハードウェア方面では精巧なミサイルとて、ドローンの集団攻撃の前には脆弱性が露呈したわけだ。イスラエルが誇ったミサイル迎撃システムの「アイアン・ドーム」も破れ傘状態となり、映画『エンド・オブ・ステイツ』で描かれたように、大統領の釣船を襲うドローンの集団攻撃という空想物語が、いまや現実となったのである。
■「パイロット救出作戦」の舞台裏
2026年4月6日、イラン上空で撃墜され、行方不明だった米軍戦闘機のパイロット救出作戦は、大規模な陽動と囮作戦、そして200名のデルタフォースを動員して行われた。標高2000メートルの山中に潜んだ戦闘機のパイロットは暗号通信で本部に位置を知らせ、救助を待った。一方、米軍機、輸送機、ヘリなどは遭難場所とは関係のないイラク国境付近を飛行してイラン側の判断を狂わせる陽動作戦を展開した。
軍事作戦は詳細に報じられたが筆者が注目したのは、①乗員の居場所を突き止めるCIAの「特殊な機材」、②乗員が所持していたのは拳銃と「居場所を知らせる発信器」の2点だ。
ホワイトハウスでの記者会見でラトクリフCIA長官は秘密兵器の一部を明かした。同席したトランプ大統領もご機嫌で、「このパイロットを見つけるのは干し草の山から針を探すようなものだった。CIAの働きは信じられないほど素晴らしいものだった。この小さな点を発見するうえで非常に大きな役割を果たした」とその功績を称えた。
■「心音」で行方不明者の位置を特定
米軍パイロットの救出に「ゴースト・マーマー」と呼ばれる音声技術を用いて40マイル離れた場所から行方不明のF-15戦闘機パイロットの位置を特定したという。

この「ゴースト・マーマー」は、「スタジアムで声を聞くようなものだが、この救出作戦におけるスタジアムは1000平方マイルの砂漠だ。難しいがパイロットの心臓が動いていれば見つけ出す。『雑音』は心臓のリズムを表す臨床用語だ。『幽霊』とは、事実上姿を消した人物を見つけることを指す」。
パイロットが潜んだ場所は電磁干渉が少なく、人間の痕跡もほとんどない。夜間は生体と砂漠の地面との温度差があるため、オペレーターにとってそれは二次的な確認手段となる。まさに「望みうる限り最もクリーンな環境」だった。ただし「通常、この信号は非常に微弱なため、センサーを胸にほぼ密着させた状態で病院内でしか測定できないものだ」とCIA長官は付け加えた。
■高度だったイラン軍の対空攻撃
ゴースト・マーマーの運用前に、捜索隊は、ボーイング社の戦闘生存者位置特定装置を起動した。これは生存者捜索が最初の動機となり順次改良されてきた技術である。
軍事転用されたこの装置は敵に自分の位置を明かすことなく暗号化された位置情報やステータス情報を短時間で送信できる装置で、乗員は山中からこれを作動させた。すなわちボーイング社の戦闘生存者位置特定装置を作動させたことと合わせて、米軍は捜索範囲を絞り込み、「ゴースト・マーマー」を活用したのだ。

AIを搭載した長距離量子磁気計測監視ツールが、ノイズを除去することで、複雑な環境下でも人間の心拍の磁気信号のような微弱なものを遠距離から検出するということはおそらく盗聴技術の発展だろう。
イランはアフガニスタンでムジャヒディンが使った赤外線追尾携行ミサイル「スティンガー」を使用して米軍機撃墜に成功した。現在の米軍は格段の改良型に移行している。スティンガーはソ連が侵略したアフガニスタンで、米軍から供与された携行ミサイルはロシア製ヘリコプターを次々と撃ち落とした。映画『ランボー3 怒りのアフガン』にもでてきたが、かなりの戦果を挙げた。トランプ大統領が言ったような「まぐれ当たり」ではなかったのだ。

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宮崎 正弘(みやざき・まさひろ)

評論家

1946年生まれ。石川県出身。早稲田大学中退。「日本学生新聞」編集長、雑誌『浪曼』企画室長を経て、貿易会社を経営。1982年、『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。30年以上に亘る緻密な取材に定評がある日本を代表する中国ウォッチャー、海外からも注目されている。
近著に、『常識 コモンセンスで取り戻す日本の未来』(ハート出版)、『豊臣兄弟と家康』(育鵬社)、『テクノ・リバタリアンの野望』(ワック)、『あの人の死にかた 死ぬことは生きることである』(ビジネス社)、『ステルス・ドラゴンの正体』『悪のススメ』(いずれもワニブックス刊)など。著作は300冊近い。5冊が中国語に翻訳されている。また作家として『拉致』『謀略投機』(共に徳間書店)などの国際ミステリーも執筆。

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(評論家 宮崎 正弘)
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