日本のコンビニは全国各地に普及している。流通アナリストの中井彰人さんは「日本型コンビニを作り上げたのが、鈴木敏文氏だった。
現在生き残っている大手3社のビジネスモデルは、いずれもセブンをベンチマークとしている。だが、コンビニ市場が飽和しているのも現実だ」という――。
■鈴木敏文氏の功績
コンビニの父と言われた鈴木敏文氏が亡くなられて、少し前には様々な媒体で追悼記事が掲載されていた。言わずと知れたコンビニ最大手セブン‐イレブンの実質的創業者なのであるが、そもそもセブン‐イレブンというビジネスは日本由来のものではない。元々は総合スーパー大手イトーヨーカ堂の新事業として、北米コンビニ大手、セブン‐イレブンのエリアライセンス契約の下、日本に持ち込んだのが鈴木氏であったというのが最初の経緯である。
ただ、北米のコンビニというのは、幹線道路沿いのガソリンスタンド(GS)の売店という位置付けであって、広大なアメリカの荒野を貫くハイウエイで次の売店までどのくらい時間がかかるかよくわからない中で、移動の際、必須となる飲食料品を販売するという、いわば人の足元を見た商売をやっていた(今でも基本は大差なく、北米のコンビニはGS併設店が主流なのは変わらない)。
つまり、飲み物と食べ物をほぼ言い値で売れる、店側にとって都合のいい商売でもある。日本で比較的近い存在といえば、鉄道駅や高速道路サービスエリアの売店を想像してもらえばイメージができると思う(日本とは次の店までの距離のケタが違うため、需要の緊急性、逼迫(ひっぱく)性は比較にならないが……)。
■「日本型コンビニ」を作り上げた
本家がそんな店なので、1970年代当時はクルマの普及もそこまでではなく、人口密集地である日本で、そのまま展開するわけにもいかず、日本のセブン‐イレブンは相当なローカライズが必要だったようだ。ここからは皆さまもご存じの通り、おにぎり、おでん、コンビニコーヒーをはじめとする日本独自の商品開発、公共料金支払い、ATMの導入、自治体サービス……などなど、消費者の利便性を追求した多様な独自商品、独自サービスを次々と導入して、社会インフラとも言うべき日本型コンビニを作り上げた、というのが鈴木氏の功績として自他ともに認めるところであろう。
初期のころは、多種多様なコンビニが全国で勃興したのであるが、40年以上の時を経て、セブン、ファミリーマート、ローソンの3社が全国シェア9割の寡占化を成し遂げた。ただ、生き残った3社のビジネスモデルを見ると、基本的にはセブンをベンチマークした企業が生き残った、ということに異論はないだろう。
セブンモデルのコンビニが日本をほぼ制したのであり、そして今では世界シェアトップの存在でもあるのだから、鈴木氏の功績がいかに凄いかは、もう語るまでもあるまい。
■「言い値商売モデル」が真骨頂
多くの追悼記事をみると、鈴木セブンの勝因は、流通業界の常識にとらわれない素人目線で新たな仕組みづくりを躊躇なく実施したこと、顧客の立場に立って利便性の高い商品サービスを開発したこと、とされている。確かに実際、現在のコンビニの機能は、消費者の日常生活にとって欠かせない存在となっており、今この国でコンビニと関わりなく生きている人は少数派であろう。
ただ、この消費者にとっての利便性提供という考え方は、決して利他の精神でできているものではない。利便性に対する適正な対価を要求されるし、その付加価値については、基本的に価格競争する気がない。逆にいうと、言い値で買ってくれる人、もしくは、タイミングを対象にしたビジネスモデルが、鈴木コンビニモデルの真骨頂と言える。規模拡大のため、熾烈な価格競争で戦い続けてきた小売業界において、コンビニのような言い値商売モデルは異質な存在といえる。
■高くてもペットボトル飲料が売れる
全く同じ商品だとしても、コンビニの価格帯はスーパー、ドラッグストアなど他の業態よりも高い、ということに違和感はないだろう。今は定価というのはなく、希望小売価格というメーカーの目安の価格があると思うが、コンビニはその水準を基本として、少し安く設定していたり、クーポンで少しだけ値引き可能といったイメージだと思う。
例えば、ペットボトルの茶系飲料600mLは、コンビニでは138~150円くらいだとすると、スーパー、ドラッグストア、ディスカウントストアなどなら、68~88円くらいで手に入る、ということは皆知っているのだが、コンビニで買ってしまう場合は多いだろう。これは経済合理性だけで考えるなら、不合理な話なのであるが、安い店に行く時間がない、もしくは、行く時間を考えると高くてもコンビニで買った方がましだ(タイパ>コスパ)といった別の理由があるからだ。
つまり、我々消費者は購買を価格だけで決めているのではない、特に時間価値と考量して決めることが多い、という現実につきあたることになる。

■タイパを価格に反映した
コンビニができた当時は、「価格破壊」を唱えたダイエーなどの総合スーパーが全盛で、大きな店に大量の商品を並べつつ、価格競争を繰り広げて安さを競う時代だった。そんな時代に、鈴木セブンは、利を削る競争に明確に不参加を表明、これまでにない新しい「閉鎖商圏」の世界を作ろうとしたのである。言い方が悪いかもしれないが、利便性、今で言うタイパを実現することで、その時間価値を価格に反映する、というものであり、そのためにはこれまで世の中に存在していない「時短」を商品化して、その分の「適正利潤」を乗せて売った、ということなのだ。
おにぎりも弁当も家で作って持っていくもの、というのが当時の常識であり、そんなものを商品化して売っている店はなかった。でも、多忙なビジネスパーソンが多くなり、朝そんな時間があれば寝ていたい人は増えつつあったし、その時間をカネで買えるならそのほうがいい、という判断も増えていく。
そもそも、単身者にとっては食事を一人分作ることは割に合わないという感覚もあり、こうした時短商品は相当数の消費者に受け入れられた。就労人口の増加、単身世帯の増加という背景が需要の拡大に直結したため、コンビニは新たな需要=食の外部化需要を開拓し、取り込むことに成功した。こうした需要創出の方向性自体を新たに生み出したのが、鈴木セブンであった、ということができるのだろう。
■鈴木モデルコンビニの市場飽和
時間価値の提供方法の進化はそのキャッチフレーズの変化からもうかがえる。初期のセブンは「あいててよかった」であったが、その後「近くて便利」に変わり、今は「明日の笑顔を 共に創る」となっている。昔はスーパーや商店が閉まっている深夜早朝も開いている、ということがウリだったのだが、その後、商品・サービスを充実させて店舗数を増やすと、近くて便利という、まさにタイパをアピールする店であることを宣言するようになった。
今では全国に普及するインフラとなったコンビニは、社会との共創をテーマとしているのだが、それはタイパ機能の充実が一段落し、機能による差別化は難しくなっていることを示している。
これこそがインフラにまで行き渡った≒鈴木モデルコンビニの市場飽和、を暗黙に皆が分かっている、ということでもあろう。
■売上の7割弱は「すぐに食べられるもの」
こうして今では、国内セブン‐イレブンの売上構成は、加工食品27.3%、ファストフード28.5%、日配食品12.2%、非食品32%という比率となっている(図表1)。要は売上の7割弱がすぐに食べられる食べものとなっている。
コンビニは即食=中食の店として完成し、内食(≒家で料理を作る)のための材料を買う店であるスーパーマーケットとは、はっきりとした棲み分けができていることもわかるだろう。と言うことは、コンビニ中食市場が飽和に近づいたとしても、隣接するスーパーの市場を取りに行くことができるなら、飽和から脱却することが可能なのだ。コンビニはスーパーから内食需要を奪うことで再成長する戦略を構築すべきであり、これ以外に自らの強みを生かす道はないのである。
■スーパーが成り立たない商圏を開拓
しかし、コンビニとスーパーが棲み分けを超えて、需要を奪い合う場合、時短閉鎖商圏を作ってきたコンビニは、スーパーと価格競争ができるのか? という疑問がある。その点は現在の首都圏に勃興したイオン「まいばすけっと(以下、まいばす)」との関係をみると、その懸念が現実のものであることが分かるだろう。コンビニと売場サイズで同じながら、中身は小さいスーパーであるまいばすは、イオンのインフラをフル活用して価格訴求でライバルと競争している。
まいばすの近くにあるコンビニも、重なる商材に関しては売上を奪われる影響が出ているという。価格競争というスーパーの土俵に入って戦うやり方は、時短閉鎖商圏を前提に生きてきたコンビニには向かない、というのが素直な感想だ。
とすれば、コンビニが内食需要を開拓するなど無理だ、ということになってしまうが、スーパーの経営が成り立たない商圏を開拓できれば、そんな競争とは無縁となる。
一つの答えになりうると思われる事例が、ローソンによる地域共生コンビニの実験であろう。
地方において人口減少、高齢化などで商圏需要が減ると、損益分岐点売上が5~10億円のスーパーは閉店してしまうが、平均売上2億円ほどのコンビニは2~5店舗ほど存在できる計算にはなる。加えて、スーパー業界の事業環境変化がこうした立地の発生を後押しする。これから、スーパーの寡占化が急速に進むため、これまで以上に中小零細スーパーの閉店が加速することは避けられないからだ。
■ローソンの「実験」
これまでスーパーは生鮮品、惣菜などの加工、製造、パック詰めなどを、鮮度を優先して各店舗のバックヤードで行っていたが、人件費高騰、人手不足の進行で集中加工センター(プロセスセンター、セントラルキッチン等)を活用しなければ、採算が合わなくなってきた。このため、今後は集中加工センターを投資する余力がない、もしくは投資効果のある事業規模がないスーパーは淘汰される可能性が高い。こうした事情もあり、スーパーは大手による寡占化が急速に進むことになるだろう。そしてスーパーが撤退した中小商圏が大量に発生し、そこがコンビニの出店適地となるのである。
ローソンはその跡地に出店して地元と協力して、生鮮品も供給するコンビニを維持できないか、と数多く実験している(経済産業省「第2回 地域生活維持政策小委員会」での「資料2 ローソンの取り組み」に詳しい)。地元有志や地元スーパーが生鮮品売場を維持しつつ、生活必需品の大半を供給できるコンビニにローカライズするのである。この実験は概ね順調な成果を上げているらしく、様々な地域ごとの加盟店スタイルが成立しているらしい。そこは、スーパーが再投資することはなく、まさに「閉鎖商圏」だったのだ。

■人口減少を前提としたコンビニのあり方
こうした商圏は、実験のため地方や過疎地から始めているが、同様のニーズが特に大都市部の周辺に数多く存在していることは、食料アクセス問題(農水省)といわれる課題の調査結果などから明らかになっている(図表2)。
例えば、2026年6月、ローソンはKDDIとともに、大阪府池田市、H2Oリテイリングと連携して、ハッピーローソンタウン構想の第1号店「ハッピーローソンタウン池田伏尾台店」をオープンした。買い場の維持、交流の場の創出などを目指したまちづくりを行い、ローソンの店にH2Oリテイリングのスーパーが生鮮、惣菜を供給するといった店となっている。これも地域創生コンビニと共通した、人口減少を前提としたこれからの社会に合わせた新たなコンビニのあり方といえよう。
■「しんがりを務める小売業」が求められている
チェーンストア理論は、基本的には縮小する商圏を想定してはおらず、右肩上がりの社会で、フロンティアを開拓して、店舗を増やしながら成長していく前提で構築されている。しかし、課題先進国日本では、右肩下がりの社会の中でしんがりを務める小売業が必要とされているのであり、その答えを用意する者が、この何十年か残存者利益を享受できる。そこで求められるのは、損益分岐点が最も低い店であり、それこそが最後まで生き残る権利を持っている。そこに最も近いのが、言わずと知れた店舗損益分岐点2億円を切るコンビニなのである。
コンビニはそのインフラ力を用いた社会貢献を通じて、新たな閉鎖商圏(課題解決と引き換えに、少しだけ高い利潤をもらえる商圏)とすることが可能である。そして、この新たな動きに関しては、ローソンがフロントランナーであるようだ。この実験を成功させることができたなら、ローソンは鈴木モデルではない、次世代コンビニを生み出したと胸を張れるようになるかもしれない。この取組は、単なるお題目的な社会貢献などではなく、これからのコンビニの成長余地を大きく左右することになることを、ローソンはわかって勝負に出ているのである。


----------

中井 彰人(なかい・あきひと)

流通アナリスト

みずほ銀行産業調査部を経て、nakaja lab代表取締役。執筆、講演活動を中心に、ベンチャー支援、地方活性化支援なども手掛ける。著書『図解即戦力 小売業界』(技術評論社)、共著『小売ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)。東洋経済オンラインアワード2023ニューウエーヴ賞受賞。

----------

(流通アナリスト 中井 彰人)
編集部おすすめ