■近づく「テレビが日常風景から消える日」
日常的に接するメデイアがテレビからスマートフォンへと移行していることは、だれもが実感するところだが、相次いで明らかになった信頼できる統計調査で、子供からシニアまでこぞって「テレビ離れ」が加速し、メディアライフが激変している実態が鮮明に浮かび上がってきた。
かつてはどこの家庭でも必ずと言っていいほど見かけた新聞を目にする機会がめっきり減ったように、かねてささやかれてきた「テレビが日常風景から消える日」が足音を立てて近づいているようだ。

最近、公表された総務省の「2025通信利用動向調査」と、NHK放送文化研究所の「国民生活時間調査2025」をもとに、メディアライフの変容ぶり、とりわけテレビというメディアが近い将来にどのような存在になるのかを考えてみたい。
筆者は、本サイトで5年前にメディア環境の変化について分析を行っている(参考:2021年7月12日付「『毎日テレビを見るの老人ばかり』キー局が冷や汗をかく“テレビ離れ”の最新データ 衝撃『若者の半分はテレビを見ない』」)が、近年のAIの爆発的普及もあいまって、メディアの利用実態は当時の予想以上に複雑化・高度化している。
■世帯保有率はスマホがテレビを逆転
まず、総務省の「通信利用動向調査」をみてみる。1996年から毎年実施されている全国規模の公的統計調査で、スマホやテレビの保有状況、インターネットの利用状況、SNSの利用動向などを継続的に調べており、メディアトレンドの指標として重視されている調査だ。
2025年調査(1万7916世帯回答)によると、スマホを保有する世帯の割合が前年から1.3ポイント増えて91.8%となり、逆に1.4ポイント減って90.1%となったテレビを初めて上回った。家庭のメディアの主役は、ついにスマホがテレビを逆転したのである。
スマホの保有調査を始めた2010年は9.7%だったことを振り返ると、15年の間に、「スマホをほとんどもっていない世帯」が「スマホをほとんど持っている世帯」に180度ひっくり返ってしまったことになる。
一方、テレビは、2010年まで一貫して世帯保有率が99%を超えており、「テレビのない家庭はない」という「テレビ黄金時代」が続いていたが、直近数年間で徐々に保有率が減り始め、9割を割り込むのも時間の問題となってしまった。
また、ネットの利用状況を個人レベルでみると、13~69歳までの各年齢階層で9割を超え、利用するデバイスも、スマホが74.3%と、パソコンの45.6%を大きく上回った。
利用目的は、全体では「SNS」が82.3%で最も高く、次いで「メール」(78.2%)、「検索」(77.5%)の順だが、世代別に見ると、6~12歳では「動画投稿・共有サイト」、13~49歳は「SNS」、50歳以上は「メール」で、くっきりと分かれた。
こうしてみると、スマホが名実ともに家庭の主役に躍り出るとともに、SNSがコミュニケーションの必須ツールになったことがわかる。
■Z世代は7割前後が「ほぼテレビを見ない」
NHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」は、日本人の生活実態を明らかにするため1960年から5年ごとに実施され、長期にわたって定点観測していることから信頼度が高い調査として知られる。

「2025年調査」(全国の10歳以上の7200人を対象に実施、有効回答率は52.7%)のデータを見てみる。調査項目は多岐にわたるが、ここではメディア利用に特化したデータを取り上げる。
もっとも注目されるテレビ視聴について。
「平日にリアルタイムで15分以上テレビを見た人」は全体で71%となり、2020年調査の79%から8ポイントも減少した。15年から20年にかけては6ポイントのマイナスだったので、減少幅が加速していることになる。
さらに、世代別でみると、
10~15歳42%(←20年56%、以下同)

16~19歳27%(←47%)

20代33%(←51%)

30代43%(←63%)

40代55%(←68%)

50代73%(←83%)

60代84%(←94%)

70歳以上92%(←95%)
と、全世代で大きく減少した。「テレビ大好き」のシニア層も減少に転じ、すべての世代で減ったのは現在の調査方法となった1995年以来初めて。
中でも、30代以下の若年層は14~20ポイントも激減、半数以上が「ほぼテレビを見ない」結果となり、とくに団塊ジュニア世代の子世代である10代後半~20代のいわゆるZ世代は7割前後がテレビとはすっかり縁が薄くなってしまったようだ。
40代から60代も10ポイント以上の大幅減少で、団塊ジュニア世代の50代前半はまだしも、40代となると半数近くが「ほぼテレビを見ない」状況となっている。
もっとも、録画によるタイムシフトや、ネットの見逃し配信サービスで、放送番組を見ている人は除外しているので、より正確には「リアルタイム・テレビ離れが加速している」と言った方がいいかもしれない。
■30代以下はテレビよりもネット動画
これに対し、「平日にネット動画(YouTube、Amazonプライム・ビデオ、Netflix、ABEMA、TVer、NHK ONEなど)を15分以上利用した人」は、全体で29%と、2020年から9ポイント増え、3割近くの人が毎日、ネット動画に接するようになった。
これも世代別でみると
10~15歳53%(←20年54%、以下同)

16~19歳48%(←48%)

20代58%(←46%)

30代44%(←32%)

40代40%(←25%)

50代30%(←20%)

60代26%(←12%)

70歳以上10%(←8%)
になる。

ここで重要なのはテレビとの比較で、30代以下の若年層は、軒並みネット動画と逆転してしまった。
「テレビvsネット動画」の視聴割合を並べると、以下の通りになる。
10~15歳42%vs 53%

16~19歳27%vs 48%

20代33%vs 58%

30代43%vs 44%
5年前の2020調査では、わずかに16~19歳の層が拮抗していただけだったが、今回の調査で30代以下の若年層は軒並みテレビからネット動画に大きくシフトしていることが明らかになった。若年層のメディアライフには、もはやテレビは眼中にはないといっても言い過ぎではなさそうだ。
実際、筆者が講座を持っている大学でも、一人暮らしの学生で「自宅にテレビを持っている人」を探すのに苦労するのが実情だ。
■急増する「TVer」、伸び悩む「NHK ONE」
ここで、放送番組のネット配信サービスの現状を簡単に整理しておく。
民放の公式番組配信サービスが「TVer」。
ドラマ、バラエティ、アニメなど、在京キー5局を中心に全国の民放局の主要番組を、おおむね放送後1週間程度、だれでも無料で視聴できる。
2015年のスタート後はしばらく低迷していたが、20年春に月間利用者数(MUB、月に1回でも配信サービスを利用した人)が1000万人に到達。その後、コロナ禍による在宅時間の長期化や高速スマホの普及、加えて全国の民放局が参加し番組ラインナップが充実したこともあって、22年秋には2000万人、23年夏に3000万人、24年夏に4000万人超と、利用者が急増し、現在は約4500万人が利用しているという。10年で「0 → 約4500万」という急成長ぶりで、3人に1人以上が月に一度は利用している計算になる。
当初は「録画忘れの救済サービス」的な位置づけともいえたが、現在は「放送番組に触れる主要ルート」の一つになりつつあるようだ。

もう一つは、NHKが運営する「NHK ONE」。
2025年秋にネット事業が必須業務化されたのに伴い、従来の番組配信サービス「旧NHKプラス」を軸に再構築された統合ネットサービスで、既に受信料を払っている人には新たな負担は生じない。
NHKによると、2026年3月末時点で「契約確認済みアカウント数」は362万件。「旧NHKプラス」がサービスを終了した2025年9月末では668万件だったから、増えるどころか、半減してしまっている。
新たにネット配信だけの利用者に課すことになった「ネット受信料」の契約件数は、2025年度決算によると2026年3月末までの半年間で7000件に過ぎないという。
NHKは、あらゆる番組内で「NHK ONE」のPRに躍起だが、視聴者の反応は鈍い。米大リーグなどの有力コンテンツを擁するBS放送を見られないし、ニュースでも一部が「フタかぶせ」で視聴できない不快さは否めない。
同じ番組配信サービスでも、「TVer」と「NHK ONE」では明暗が分かれている。
■業容転換もままならない放送界
いうまでもなく、「テレビ離れ」は放送界を直撃する。
広告収入を主な財源とする民放局は、収入減に直結する。
電通がまとめている「日本の広告費」によれば、コロナ禍後の地上放送テレビ局127社の広告収入は1兆6000億円台で推移しているが、キー局の放送事業の収益は停滞しており、ローカル局に至っては2割程度が赤字を計上する事態に陥っている。
視聴者の「テレビ離れ」が加速すれば、広告主(スポンサー)の「テレビ離れ」も加速することは容易に想像がつく。
今やテレビ広告の2.3倍の規模になったネット広告に、広告主がシフトするのは止められそうにない。
いつまでも広告収入に頼るわけにはいかない民放各局は、「TVer」の活用をはじめ、Netflixなど動画配信サービスへの番組提供やイベント開催といったライツマネジメントなど、業容転換で収益源の多角化に注力している。だが、民放界全体として、どこまで奏功するかは見通せない。
一方、NHKは、受信料収入が7年連続で減少。受信料値下げの影響もあって3年連続の赤字を計上、2026年度も赤字予算を組んでおり、目標とする2027年度での収支均衡も達成できるかどうかは微妙だ。
「ネット受信料」の創設は、ネット社会への移行を見込んだNHK開局以来の一大改革だが、視聴者の理解が得られているとは言い難い。
井上樹彦会長は就任直後から「受信料収入のアップ」を最大の目標に掲げているが、ネット事業の必須業務化に伴い、肝心の受信料そのもののあり方が根底から問い直され、「公共メディア・NHK」のあり方を問題視されている重大な転換期に、旧来のNHK的思考の延長線上で収益を上げようとする姿勢には違和感を禁じ得ない。
■5年後の若年層は「テレビを見ない人」ばかりに…
これまで「テレビ=放送」という文脈で捉えてきたことからわかるように、「テレビ離れ」は「放送離れ」を意味する。したがって、「テレビが日常風景から消える日」というのは、「放送が見られなくなる日」と言い換えることができる。
「テレビ離れ」の要因として、スマホやSNSの利用あるいはネット動画の視聴が進んだことが、総務省やNHK放送文化研究所の調査結果で裏づけられた。
「国民生活時間調査」の2020年調査から、「テレビ離れ」はある程度予測されていたものの、2025年調査で明らかになった急加速ぶりは、メディア関係者の予想をはるかに上回ったようだ。
衝撃的なデータを突きつけられて、放送界の困惑は隠せず、悩みは深い。

5年後の2030年ころを見通すと、「テレビ」を取り巻く環境は、もっと様変わりしているに違いない。
50代でもネット動画の視聴がテレビを上回り、シニア層でさえ「テレビ離れ」が進んでいる光景が予見される。さらにいえば、20代以上になるZ世代はもとより、その次の「テレビをあまり見ない家庭で育つ」α世代(アルファ世代)が10代を占めることになるため、若年層は「テレビを見ない人」ばかりになってしまうかもしれない。
また、ネット動画を視聴する人は着実に増えていくとみられるが、放送番組をネットで見る人がどこまで増えるかは予断を許さない。
なにしろ、タイムパフォーマンス(タイパ)を重視する若年世代は、YouTubeなど短尺のネット動画を視聴する場合も、もっぱらスマホで倍速にして見るという。「テレビの前で、長尺の放送番組なんか、まだるっこしくて見てられない」という人は、増えることはあっても減ることはなさそうだ。
「テレビが家庭からなくなる」というトレンドは不可逆的で、もはやテレビというメディアがスマホやSNSを凌駕するとは考えにくい。
メディアライフの主役が交代した今、もはや「テレビ=ディスプレー」という一デバイスに過ぎなくなりつつある。今後も、テレビは家庭に鎮座し続けるとしても、放送番組を見るためではなく、ネット動画を視聴するデバイスとして機能する存在と化していくのではないだろうか。
メディアの興亡は数十年単位で大きく変動するが、衰退する時のスピードは速い。コミュニケーションツールとして定着したSNSや瞬く間に広がった生成AIが闊歩する中、長くメディアの主役であったテレビも、その例外ではない。

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水野 泰志(みずの・やすし)

メディア激動研究所 代表

1955年生まれ。
名古屋市出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。中日新聞社に入社し、東京新聞(中日新聞社東京本社)で、政治部、経済部、編集委員を通じ、主に政治、メディア、情報通信を担当。2005年愛知万博で博覧会協会情報通信部門総編集長を務める。日本大学大学院新聞学研究科でウェブジャーナリズム論の講師。新聞、放送、ネットなどのメディアや、情報通信政策を幅広く研究している。著書に『「ニュース」は生き残るか』(早稲田大学メディア文化研究所編、共著)など。
■メディア激動研究所:https://www.mgins.jp/

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(メディア激動研究所 代表 水野 泰志)
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