■結党のきっかけは「日本の少子化」
現代の政党政治の姿が、端的に表れた現象だ。
ひろゆき氏と前兵庫県明石市長の泉房穂参院議員は、政治団体「ひろゆき&いずみ新党(仮)」を設立した。東京新聞デジタルによると、同党は2027年春の統一地方選にて、都内11区長選の全てに候補者擁立を目指すという。
この報道をリポストし、ひろゆき氏は以下のようにXで応じている。
日本経済が縮小して、円安による物価高が起きてます。
国家の経済成長は、人口と教育レベルに比例します。
日本人は、1年で91万人減りました。
日本人の出生数は67万で過去最少。外国人は過去最多。
でも、政府は日本人が増える政策をしないままです。
なんとかしたほうがいいんじゃないの?
さらに、ひろゆき氏は『ABEMA Prime』で、平石直之アナウンサーから新党の設立に関し「どうしてそういう話になったんですか、そもそも?」と尋ねられ、「まあやっぱりそのー、日本人の人口増やさないとまずいよねって、みんな思いません? こんな単純な当たり前のことをおじいちゃんおばあちゃんたちやんないから」と答えている。
注目すべきは、これが個別政策を尋ねられた際の発言ではなく、結党の経緯を尋ねられた際の回答だったことだ。少なくとも結党の入口では、少子化対策が中心争点として置かれているのだろう。
■既存のファンコミュニティを政治化
もちろん、泉氏を取材した朝日新聞が「新党では『住民の負担減』『子ども・教育』、ITやAI(人工知能)を活用した『デジタル行政の推進』を重点政策に掲げる」と報じているように、同党が少子化対策しか扱わないわけではない。なお、重点公約は10月上旬に公表予定としている。
さて、そんなひろゆき氏と泉氏は、2023年に共著『少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?』(KADOKAWA)を出版。2025年5月22日には、泉氏の街頭演説会にひろゆき氏が駆け付け、同年6月19日には泉氏のYouTubeチャンネル「泉房穂の情熱チャンネル」にて対談の模様を公開している。新党につながる地ならしはあったのだ。
しかし、この新党の背後には、極めて現代的な構図があるように思える。従来であれば、中道改革連合がそうであったように、既存の集票組織を束ね新党をつくるという道筋が常套手段であった。が、現代の潮流は様相が異なる。一言でいえば、既存のファンコミュニティを政治化してしまうのである。
■従来型の新党設立はもう限界
単純にそれぞれの得票数を足し算すれば、中道改革連合の集票力は強力に見えた。
同党のように、政党および集票力を有する中間団体・圧力団体などの準政治組織を、いかにして取り込むかが新党設立の鍵であり、これらの異なる政党・組織を束ねるためにも理念やイデオロギーは必要だった。
結果、建て前のうえでは、まずは理念やイデオロギーを大々的に掲げ、それに共鳴した政党・組織が集うという構図があり、一方で実態としては、異なる利害を持つ政治的・準政治的組織を「生活者ファースト」という理念で包み直したということになる。
しかし、周知のとおり、その結果は惨敗だった。その一因として右派でも左派でもない中道という概念の分かりにくさがよく指摘される。が、その指摘には「SNS時代においては」という枕詞が欠けている。高速で大量の文章が流れるSNS上では、どれほど精緻に理念を掲げても理解されにくい。
ましてや、今回は結党の前年10月まで与党だった公明党と野党第一党だった立憲民主党との連合であり、そもそも有権者を説得するのが難しかった。
それに対し、「同党は選挙互助会にすぎない」とするシンプルかつ端的な批判は、これ以上ないほどSNSと相性がよい。
■「論破」はSNSでは好相性だが…
一方、「ひろゆき&いずみ新党(仮)」は様相が異なる。既存の(準)政治的組織を理念やイデオロギーによって束ねるのではなく、既存のファンコミュニティを少子化対策という中心争点によって政治化しようとしているように見える。
2026年7月30日現在、ひろゆき氏をXでフォローする274.5万のユーザー群の内部に、事実上のファンコミュニティが含まれていることは説明不要だろう。
ひろゆき氏への批判に対し、本人に代わって反駁する熱心なユーザーも散見されるが、彼らは新党の政治活動を熱烈に支える潜在的な担い手である。
それでは、SNS上での最適な行動とはどういったものか。
その答えは驚くほど簡単だ。SNS上でやるのだから、SNSのプラットフォーマーに最も多くの利益をもたらす行為をすればよいに決まっている。つまり、論争に次ぐ論争を巻き起こすことで多くのユーザーをSNS上に釘付けにし、大量のインプレッションを稼げばよい。そうすれば、アルゴリズムによってSNS上での存在感が高まり、多くの有権者に声が届くだろう。
ただし、プラットフォーマーの利益を最大化するのは、精緻で冷静な論争では決してない。それとは似ても似つかない、過度の単純化をともなう断言、反復、罵倒、揶揄の応酬といった、まさに論破文化を体現したような「論争ならぬ論争」だ。
■「論争」を行うことはできるのか
そしてだからこそ、「少子化対策」という分かりやすい中心争点と、日本でも指折りの論争家であるひろゆき氏と、政治経験が豊富な泉氏の組み合わせというのは意外でも何でもなく、SNS選挙時代に対応した一つの解答だとさえいえる。
仮にこれが、「中道」のような分かりにくい理念であれば、SNS上で論争が起きるだろうか。ひろゆき氏のような論争家ではなく、精緻な議論を好む知の巨人が登壇していたら、どうしてSNS上で多くの人々に可視化されるだろうか。
アントニオ猪木氏がその典型であったように、以前にも著名人が政党をつくる事例はあった。しかし、どれほどの知名度があっても、ファン同士が日常的かつ気軽に交流するインフラが乏しく、個人的人気を潜在的な政治組織へ転換することは難しかった。が、その弱点は、今やSNSが補ってくれる。
■参政党との比較でわかる”最大のアキレス腱”
参政党もまた、一定の知名度を有した人物たちが発足に携わった。しかし、ひろゆき氏や泉氏の知名度や影響力には及ばないだろうし、だからこそ結党初期の参政党は新型コロナワクチンに強い不信感を有するコミュニティや、いわゆる自然派コミュニティといった、既存政党が手を出さないリスキーな票田をも取り込んだのだろう。
一方、「ひろゆき&いずみ新党(仮)」は、すでに多数の潜在的支持者を含む巨大なフォロワー圏を有しているため、参政党のようなリスクを負う必要がない。この点は、参政党と比較した際の明確な強みだと考えられる。が、同時にそれは最大のアキレス腱でもある。
なぜならば、その潜在的支持基盤が、ひろゆき氏という個人に依存しているためだ。もっとあけすけにいえば、ひろゆき氏の意欲がどれほど強く、そしていつまで持続するのかという点に大きく左右されてしまう。
この「個人に依存する強み」を、ひろゆき氏の意欲が続いているうちに「組織に依存する強み」に転換できるかどうかが、新党の行く末を左右するだろう。
■事実上の白紙委任に繋がる
郵政民営化の是非をめぐる衆院選がそうであったように、これまでも中心争点を前面に出した選挙戦略は散見されたし、有効に機能した実例が多数確認できる。そしてSNS時代において、ますます同様の戦術が力を持つようになるのは容易に想像がつく。それとともに、理念やイデオロギーは、ますます後景に退いていくだろう。
しかし、理念やイデオロギーは決して捨てたものではない。それが提示されれば、曖昧だとしても各政策の方向性が理解できるからだ。新自由主義的、社会主義的、またはその他の理念やイデオロギーを掲げれば、諸問題に対し、どういった政策をとるのかはおおよそ分かる。
だからこそ、理念やイデオロギーに注目して一票を投じるという行為には意味があった。諸問題の優先順位を、理念やイデオロギーが漠然とではあるが示してくれたと言い換えてもよい。
一方、中心争点ばかりが可視化されるほど、理念やイデオロギーの意義は薄れていく。その結果、少子化対策以外の政策における事実上の白紙委任に繋がりかねない。選挙で前面に出された中心争点だけで有権者が判断するようになれば、それ以外の膨大な問題や課題について、いったい有権者はどういった判断をしたことになるのだろうか。
■有権者が「危うさ」を嗅ぎ取れるか
選挙戦術に徹するのであれば、選挙戦を中心争点へ集約する戦略と「論争ならぬ論争」によって熱を高め、その熱を利用しSNS内外で組織づくりをすればよいのかもしれない。
だからこそ、「ひろゆき&いずみ新党」に問われているのは、少子化対策以外の政策をどれだけ数多く並べられるかではない。少子化対策を入口としながら、それ以外の問題について、どのような原則で判断するのかを、SNSでも届く言葉によって示せるかである。
そして同時に、過度の単純化、罵倒、揶揄の応酬という越えてはならない一線を見極め、なるべく「まともな議論」をSNS内外で活発化することである。それができないならば、SNSを主戦場に選ぶべきではない。無論、「論争ならぬ論争」には参加せず、冷めた評価を下すという姿勢は、有権者の側にも求められる。
中心争点の分かりやすさを保ちながら、複数の政策を貫く方向性まで有権者へ伝える。それができれば、この新党はSNS時代の新たな政党モデルになり得る。一方、それを経ずに選挙で大勝を収めてしまえば、SNSを利用して政治を変えた成功例ではなく、SNSの文法に政治が従属した危険な先例として歴史に刻まれるだろう。
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物江 潤(ものえ・じゅん)
作家・批評家
1985年福島県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東北電力、松下政経塾を経て、政治・社会・教育などについて執筆活動を続けている。著書に『空気が支配する国』(新潮新書)『入試改革はなぜ狂って見えるか』(ちくま新書)『現代人を救うアンパンマンの哲学』(朝日新書)など。近著に、尾崎行雄記念財団「咢堂ブックオブザイヤー2025」選挙部門大賞を受賞した『SNS選挙という罠』(平凡社新書)がある。
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(作家・批評家 物江 潤)

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