■関東地方は今がハイシーズン
関東地方だと、時期は大体7月後半頃から。時間は、日が落ちて夜に変わってゆく18時半頃から。場所は、公園の植え込みや街路路の暗がりなど。そうした条件下で、樹木や植え込みをライトを照らし、何かを探しているような人を見かけたことはないだろうか。そうした人たちは、とある高級食材を探している可能性が高い。
その高級食材というのが、夏の風物詩であるセミだ。
セミは枯れ木などに産み付けられた卵から孵化(ふか)すると、土の上へ飛び降りて、地中へと移動し、木々の根から樹液を吸いながら幼虫期を過ごす。そして数年後、夏の夜に地上へと出て羽化し、成虫として2週間から1カ月ほどの間「ジリジリ」と賑やかに鳴き交わし、次の世代へ命をつないでいく。成虫も食べられるが、めっぽううまいのは幼虫なので、土から這い出してきたタイミングで捕まえることが多い。
コオロギ食などで昆虫食が広く知られるようになった今でも、「セミを食べる」と言うと、驚く人は少なくない。しかし、セミはアジア圏をはじめとした世界各地で、古くから親しまれてきた食材なのだ。
■中国では養殖も始まるほど人気
世界でセミを食用にする文化のある国は、主に中国、タイ、ラオスなどが挙げられる。
ところが、日本では基本的に食材としての流通はほぼない。飲食店で提供されるセミは、海外から輸入したか、自力で採ったか、ハンターから買い上げたもののいずれかだろう。おそらく、その「ハンター」が、近年発生している「セミ採り」を巡る摩擦の原因となっている。
昨夏のニュースで知った人も多いと思うが、中国人や日本人などのハンターが商用目的でセミを大量捕獲したり、夜間に集団でセミ探索をすることに不安を覚える人が続出した結果、さまざまな公園に「食用を目的としたセミの採取は禁止」といった多言語対応の看板が設置される事態となっているのだ。
なお、夏の楽しみや学びのための昆虫採集は問題ないことが多いが、もともと「採取した生き物や植物を持ち帰ってはいけない」というルールを設けている公園もある。
■セミを合法で採取できる場所
では、どこなら採取していいのか。筆者は20年近く、毎年セミを採って食べている。ルールを守れば、個人で楽しむことは可能だ。
その1・一般的な都市公園・自治体管理の公園(採取禁止の規定がない場所)
都市部に住んでいる場合、公園での採取が最もラクである。その場合、都市公園法、各自治体の公園条例に基づいて判断する。一部の自治体(例:東京都杉並区など)では、公園条例により「鳥獣魚貝類・動植物の捕獲・殺傷」を禁止している。それ以外の場所も、商業目的や大量乱獲は条例違反や指導の対象となるが、一方で常識の範囲内(数匹程度の採取)であれば容認されるのが一般的だ。いずれにしても、管理者の指導やルールは厳守しよう。公道の街路樹などにいるセミは、民法上「所有者のいない生き物(無主物)」とされるため捕獲は自由だが、交通の妨げにならないようご注意を。いずれの場合も、樹木や公園設備を傷つけず、周囲に配慮して行うことが必須だ。
その2・河川敷・河川敷緑地(公有地)
河川敷は「河川の自由使用」の原則に基づき(河川法)、一般的な昆虫採集自体は法律で直接規制されていない。動植物も個人利用の範疇であれば採取可能なので、いわゆる「野食ユーチューバー」などは、ここで活動している人が多いだろう。ただし河川敷内に整備された河川敷公園・スポーツ広場などの場合は、管理する自治体の公園条例や利用ルールが適用される。
その3・私有地
所有者の許可を得た里山なども採取可能だ。
■「捕獲ポイント」をどう探すか
さて、場所のめどがついたら、次は捕獲ポイントだ。まずは昼間の明るいうちに、セミの抜け殻がたくさんある場所、地面に穴があるポイントを探しておく。セミが出てきた、“痕跡”を追うのだ。
捕獲に必要な道具は、ライト、セミの入れ物の2点のみ。筆者の場合は虫カゴだとかさばって邪魔になるため、小さな洗濯ネットにセミを放り込むようにしている。そして日が落ちる19時くらいを目安に、目星をつけておいた樹の幹をライトで照らすと、地中から這い出て羽化ポイントを探して登っていくセミの幼虫が見つかる。樹皮の質感と明らかに違い、ツルッとした外骨格が、光を跳ね返す。宝探しで宝を見つけたときのように、最もテンションがあがる瞬間だ。
セミは結構なスピードでスルスルと登っていってしまうので、20時を過ぎると手が届かないほど高い場所へいってしまうことが多い。
■セミの幼虫の美味しい調理方法
セミの食べ方の基本は「揚げること」だ。
まずは、泥落としと洗浄から。持ち帰った幼虫をボウルに入れ、流水で表面についた泥や汚れをていねいに洗い流す。そして加熱が必須。寄生虫や細菌のリスクがあるため、生食は絶対に厳禁だ。大きめの鍋に湯を沸かし、最低でも3~5分以上しっかりと下茹で(茹で殺菌)してほしい。そうして水気をよく拭き取った後、油で素揚げにするか、多めの油と塩で炒めればOKだ。
一口噛むと「ザクッ」とした香ばしい歯ごたえとともに、口の中に広がるのはナッツやアーモンドを炒ったかのような芳醇なアロマ。続いて、エビやカニを想わせる濃密な旨味と濃厚なコクが追いかけてくる。虫特有の匂いが鼻に抜ける個体もあるが、珍味の範疇で楽しめるレベルだ。「お酒が無限に飲める味」と表現する人は多いが、塩気が好きな子どもも、意外とよく食べる。
揚げ物が苦手な人には、めんつゆで下ゆでして、桜のチップで軽くいぶす「セミの燻製(通称せみくん)」をおすすめしたい。
■種類や成長段階で味わいが違う
さらに深追いすると、セミには種類や成長段階によって風味や食感に明確なバリエーションが存在することもお伝えしておきたい。
まず、最も手堅いのはアブラゼミだ。ナッツ系の香ばしさと程よいナッツオイルのような油脂分があり、一番癖がなく食べやすい「王道の味」といえるだろう。ミンミンゼミは、それに比較するとややあっさりめ。西日本に生息する大型のクマゼミは濃厚かつ肉厚で、一匹での満足感が非常に高い種類である。
ここ数年、愛好家の注目を集め続けているタケオオツクツクという外来種は飛びぬけてうまい。竹林で発生することが知られているが、竹の樹液で育っているからか臭みがなく、実にいい味なのだ。この味を求めて、さまざまなYouTuberが発生スポットに大集合してしまう事態も目撃している。
一方、アメリカで定期的に大発生することで知られる周期ゼミは、正直おいしいとは言い難い味だった。肉が少なく繊維質が強く、味付けに左右される部分が大きかった。
なお、「幼虫」と「成虫」の味わいを比較すると、まったくの別物だ。羽化直前の幼虫は、体内に栄養と水分を蓄えているために皮が柔らかく、オイルリッチでジューシー。濃厚なコクと香ばしさが凝縮されており、グルメ界でも「幼虫こそが至高」とされる。成虫は飛翔筋(胸の筋肉)が非常に発達しているためヘルシーな味で翅や脚はカリッとクリスピーである。羽化したばかりで翅を乾かしている最中の成虫を「ソフトシェル」として楽しむ派もいる。
■じつは井伏鱒二も味わっていた
先に述べた通り、夜の公園でセミを探す人の中には外国人も多い。その背景には、自国の食文化があるのだろう。じつは日本でも昔は、「山の恵み」としてセミ食を楽しむ人たちはいた。
井伏鱒二の「スガレ追い」(筑摩書店『井伏鱒二全集25』に収録)にも、実においしそうなセミ食の描写が登場する。ハチの好物がアブラゼミの肉だという記述のあと、「人間が食べたって結構な食べ物です」と書かれている。そして、次のように続く。「あいつの幼虫も食べたらうまいんです」「幼虫はイモムシくらいの太さですが、このごろビールのつまみにいっぱい出ています」「バタいためもいいし、テンプラもかりかりしていいし、から揚げもいいです」。井伏鱒二が、さまざまなセミ料理を楽しんでいたのが、よくわかる。
戦後から人々の暮らしが急激に変わっていく中で、日本ではセミを食べるという楽しみは珍しいものになってしまった。しかし、今でも一部の愛好家の間では大人気の食材だ。地域のルールやマナーの遵守、環境への配慮は大前提となるが、「セミを食べる」という視点を持つことで、身近な自然や身の回りの生き物の見え方が一変するのも確か。この夏、夜の「ちょっとした冒険」と「新たな味覚」に挑戦してみてはいかがだろうか。また、夏の限定品としてセミを提供しているレストランも複数あるので、そういった店でチャレンジしてみるのもいいだろう。
----------
ムシモアゼルギリコ
ライター
1974年、東京都生まれ。ライター。昆虫料理研究会への参加を機に、2008年頃から“虫食いライター”として活動を始める。現在、TV、ラジオ、雑誌、トークライブなどで昆虫食の魅力を広めている。著書に 『むしくいノート びっくり! たのしい! おいしい! 昆虫食のせかい』(カンゼン)がある。
----------
(ライター ムシモアゼルギリコ)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
