■経験したことのない「真夏の被災地」
近年、わが国を襲った大規模地震の多くは「寒さ」との戦いを強いる時期に発生してきた。
1995年1月17日の阪神・淡路大震災、2011年3月11日の東日本大震災、そして2024年1月1日の能登半島地震――。いずれも真冬、あるいはまだ凍てつく寒さが残る早春に発生し、被災者の命を脅かしたのは暖房の途絶や低温症、感染症のリスクであった。
10年前、平成28年(2016年)に発生した熊本地震も4月中旬であり、徐々に暑くなっていく最中とはいえ、発災後の時期は真夏に比べればしのぎやすい時期であったと言える。
私たちは近年で「酷暑の真夏の被災地」という過酷な現実をほとんど経験してこなかった。豪雨による避難は長期化することは少なく、影響する範囲も広くないことが多かった。防災訓練も、備蓄資材の選定も、避難所の開設マニュアルも、その多くは春秋や冬場を想定したものがベースになっているのが実情だ。
地震の被害想定で被害が大きくなるのは、冬の北風で火災による被害が懸念される冬場である。
■「危険な予兆」は1年前にあった
しかし、もしも最高気温が35℃を超えるような「真夏の猛暑」の真っただ中に巨大地震が発生したら、避難所は、被災された方はどうなるのか。じつは昨年、その予兆ともなるべき地震があった。それは、今から1年前の7月30日、カムチャツカ半島沖の地震だ。
真夏の避難ということで、多くの方が高台などへの避難を余儀なくされた。幸いにも津波による人的被害はなかったが、避難中に熱中症で11人が搬送されたということがあった。これがもし、日本に人的被害や家屋被害をもたらす巨大地震であったらどうなっていたか。その懸念が現実化してしまったのが、10年ぶりに熊本県で最大震度7を記録した「令和8年熊本地震」であった。
著者の横山は、地震被害調査の専門家として、発災直後の地震被災地調査を続けている。その一環として、今回も7月29日から30日にかけて、被災地となった熊本の現場へ足を踏み入れた。そこでまず体感したのは、他でもない、暑さそのものであった。
■35℃の炎天下、外で過ごす被災者たち
福岡空港で、現地事情に詳しい熊本県内の建築関係者と合流し、最大震度7を観測した宇城(うき)市から氷川町の現場に到着して真っ先に肌を刺したのは、息をするのも苦しいほどの狂暴な熱気だった。私が住む南関東は、7月後半は不安定な大気の影響でそれまでの猛烈な暑さが若干和らいでいたこともあり、そのギャップは身にこたえるものがあった。
29日は宇城市から氷川町、30日は八代市から宇城市を主に調査を実施したが、29日の宇城市、30日の八代市の最高気温はいずれも35.2℃に達していた。現地入りして調査のために車を出ると、少し歩くだけでアスファルトからは強い陽炎が立ち上り、立っているだけでも汗が噴き出し、頭がクラクラとしてくるような暑さに見舞われた。
そこで私が目にしたのは、非常に痛ましい、そして危険な光景だった。幸いにも電気が通電している地域であっても、家の近くの車内で過ごす方、あるいは家の前や庭先で裸同然となって過ごしているお年寄りも見かけた。
挨拶がてらお話を聞いてみると、「また大きな地震が起こるのが心配だ」とのことであった。この、「繰り返しの大地震」を懸念する声は、現地で何度も耳にすることとなった。地震発生翌日の余震が続く中、熊本県の方々には10年前の恐怖が強烈に焼き付いていたのだ。
■家の中にいて、また「本震」が来たら…
10年前とは、「平成28年熊本地震」のことである。平成28年(2016年)4月14日の21時26分、最大震度7を観測する地震が起きた。翌15日は若干地震が少なくなり、家を出て避難していた人のなかには、翌日(15日)に自宅に帰宅した人もいた。
しかし、14日の「前震」発生から約28時間後、再び最大震度7を記録した「本震」は、その晩の4月16日午前1時25分に発生した。本震で命を落とした12人のうち、少なくとも半数がいったん避難しながら帰宅したという報道もある。
「令和8年熊本地震」でも、気象庁は28日の会見で「今後1週間、特に2、3日の間は同程度の地震に注意が必要」であることを示唆した。「同程度」とはほかでもない、「最大震度7の地震」の繰り返しだ。
古い木造家屋も多く、一部に亀裂が入った壁、きしむ柱、傾いた家具――まだ応急危険度判定も進んでおらず、余震はおろか「再度の震度7の地震」も懸念される段階で、それらを目にしながら室内に留まることは、心理的に難しいはずだ。
■ガソリンを求め300mの車列ができる
さらに、調査中にある地域の区長さんと会ってご挨拶をしたが、いろいろな人が出入りしているので、防犯上の観点から町内の見回りが欠かせないという。「設備のいい避難所や、都市部に行けばいいのではないか」と思われがちであるが、損傷した家もある地域から離れにくいことには、防犯上の理由もあるのだ。
八代市では自宅からの避難直後の隙を突いた「火事場泥棒」が発生したとの報道もあり、被災地での窃盗犯罪が現実となっている。
被災地域では、被災直後から熱中症疑いによる搬送が急増している。7月31日の共同通信調べでは、地震発生翌日の29日から30日までの2日間で少なくとも計42人に上ったとしている。宇城市や八代市の地元消防は集計ができていないとしており、実態はさらに多い恐れがある。これまでの停電や断水で対策が難しい状況に加え、8月3日には熊本市で40.3℃を観測するなど厳しい暑さが続いており、一層の警戒が必要だ。
そして、ついに痛ましい事態も起きてしまった。氷川町では、7月30日に自宅敷地内の軽乗用車の車内で、ガソリンが切れてエアコンが止まった状態で発見された70代女性が、熱中症の疑いで死亡するという痛ましい事案が発生した。「初の災害関連死」の疑いとして調査されている。
ガソリンを得るのも容易ではない。熊本市以南のガソリンスタンドには、在庫切れで営業をしていない店舗や、在庫限りという看板が出ている店舗もある。営業中のスタンドでは、少なくとも300mほどの長さにわたって車列ができている場所もあった。移動だけでなく、エアコンの燃料となるガソリンも入手が困難となっていたのだ。
■「トイレに行きたくない」の悪循環
ご迷惑を避けるために避難所となっている周辺には立ち寄らなかったが、断水している地域もあり、命の水も得られない地域もあった。現実、炎天下で体を冷やすには冷感タオルが役に立ったが、それすらも水がなければ冷やすことができない。
宇城市内では防災無線で「水は1人4リットルまで」という放送が繰り返し流れていた。八代市では、車で山側の地域の沢筋に入って、さまざまな容器を持ち込んで水を汲みに来ている方も見かけた。
被災地では、「水が貴重だから飲むのを控える」ことに加えて、不足しがちで衛生面や暑さも心配なトイレには行きたくないという心理がはたらきやすい。そうなると、「トイレに行きたくないから水分を摂らない」という、避難生活で懸念される水分摂取の抑制行動につながりやすい。水分摂取を減らした状態で、35℃超の炎天下に長時間さらされれば、熱中症や心筋梗塞、脳梗塞のリスクは爆発的に跳ね上がる。加えて、車内という空間で過ごせば、エコノミークラス症候群が起きやすいというリスクがある。
■猛暑と地震が同時に襲う最悪のシナリオ
熊本の被災地で発生した炎天下の地震は、決して一地域の特殊な事例ではない。近いうちに発生が懸念されている「首都直下地震」や「南海トラフ巨大地震」が、7月や8月の真夏に発生した場合、被害のスケールは熊本の比ではない。
これらの地震では、最新の想定で数百万から1000万人以上という、けた違いの人数が避難生活を余儀なくされるとされる。地震自体による死傷者もけた違いになるだろう。さらに、都市部の膨大な人口が熱中症のリスクに晒されたとき、医療機関はすでに傷病者でパンクしており、熱中症から点滴ひとつ受けることすらできずに命を落とす事態も懸念される。
加えて、平時のようなきれいなトイレもない、それでも排泄物を出すしかなく、猛暑の中で排泄物は山のようにたまっていくだろう。最悪なケースでは、亡くなった方がなすすべもなく腐敗して腐臭を放っていくような事態まで想定されるのだ。
■求められる「夏の防災」へのシフト
私たちが真剣に向き合わなければならないのは、「地震の揺れから助かった命が、その後の暑さによって簡単に奪われる」という恐怖の現実なのだ。「地震から助かった。だから大丈夫」ではない。真夏の被災地において、生き延びた後の猛暑は地震そのものにも匹敵するリスクとなって被災者に襲いかかる。
まずは、地震自体で命を落とさないこと(住まいの耐震性確保)、次に怪我をせず(家具の配置見直しや固定)、加えて夏の暑さや冬の寒さに耐えて備えが必要だという意識を持ってほしい。
次にやってくる巨大地震が、真夏の太陽の下で起きないという保証はどこにもない。「揺れへの備え」だけで終わらせるのではなく、猛暑という新たな敵からいかに命を守るか――私たちは今、大地震に加えて、猛暑・酷暑という新たな脅威に対する準備を整えるべき時に来ている。
----------
横山 芳春(よこやま・よしはる)
さくら事務所 地盤・防災コンサルタント
地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。平成28年熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、令和8年熊本地震などでは発生当日又は翌日に現地入り。人が住み、暮らしていく不動産や住宅、地域社会に、災害による被害を減らしていく(減災)考え方が広まることで、「幸せな暮らし」を続けていける社会づくりを進めていきたいと考えている。立地のリスクを知り、ただしく災害を恐れ、我が家で災害によって亡くなる、健康を損ねる、我が家を失う方が少なくなることを願う。
----------
(さくら事務所 地盤・防災コンサルタント 横山 芳春)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
