日本でもおなじみの玩具チェーン「トイザらス」。日本法人は現在も営業を続けているが、アメリカ本社は2017年に連邦破産法11条の適用を申請し、翌年には米国内の全店舗を閉鎖した。
原因としてよく語られるのは、アマゾンなどECの台頭だ。だが、財務コンサルタントの村上茂久さんは「決算書を読み解くと、倒産直前まで本業では利益を出していたことがわかる。『稼げていた会社』が倒産した最大の要因は、買収時に背負わされた“危険な借金”にある」という――。(3回目/全4回)
※本稿は村上茂久『最高の教訓 倒産』(大和書房)の一部を抜粋、再編集したものです。
■日本法人は無事だったトイザらス
親会社が倒産したと聞けば、多くの人は「その子会社も危ないのではないか」と考えるでしょう。資本関係がある以上、運命を共にするのが当然だと思われがちです。
しかし現実には、親会社が倒産しても、事業を継続できる子会社は存在します。トイザらスは、その代表的な事例です。アメリカ本社が破産手続きを行う一方で、日本法人は事業を続けることができました。
なぜ、このような違いが生まれたのでしょうか。親会社と子会社の関係は、どこまで事業の命運を共有するものなのでしょうか。
トイザらスの事例を通じて、資本関係と事業実態のズレ、そして地域ごとに異なる事業構造が企業の存続に与える影響について考えていきます。

かつて、ガラパゴス諸島の動物たちは、外界から隔てられた島の中で、それぞれに異なる姿へと進化しました。この現象になぞらえて、日本では“ガラパゴス化”という言葉が使われています。
世界の潮流とは異なる独自の進化。その象徴の一つが「ガラケー(ガラパゴス携帯)」です。日本独自の高機能を備えながらも、世界標準からは外れた存在でした。
同じように、“ガラパゴス的進化”を遂げた企業があります。米国本体が2017年に破綻した「トイザらス」です。米国では事業が頓挫したものの、日本のトイザらスは米国から独立して事業を継続し、今なお多くの家族連れで賑わっています。同じブランドでありながら、たどった運命はまったく異なりました。
なぜアメリカでは倒れ、日本では生き残ることができたのでしょうか。以下では、その背景を財務の視点から探っていきます。
■アマゾンエフェクトの影響
まずはアメリカ本体のトイザらスの売上高と営業利益の推移を見ていきましょう。
トイザらスが連邦破産法11条(以下、チャプター11)を申請したのは、2017年9月です。トイザらスは1月決算のため、2017年1月期(FY2016)から過去10年を遡って売上高と利益をそれぞれ見ておきましょう。
まずは売上高からです(図表1)。
トイザらスの売上高のピークはFY2011(2012年1月期)の139億ドルです。その後、売上高は右肩下がりに落ちていき、チャプター11申請の直前のFY2016には115億ドルまで下がりました。ピーク時のFY2011と比較をすると、17%も売上高は落ちています。
なぜ、これほどまでにトイザらスの売上高は落ちたのでしょうか。トイザらスのチャプター11申請、つまり倒産理由としてよく言われているのがアマゾンエフェクトの存在です。
アマゾンエフェクトとは、アマゾンのビジネスモデルや成長によって、他の産業や企業の構造に大きな影響を与えることを言います。
具体的には、アマゾンの登場により、多くの人はEコマースを通じて買い物をするようになりました。その結果として、リアル店舗の小売売上高が減少することになりました。これこそが典型的なアマゾンエフェクトです。

そして、トイザらスが倒産した理由として最もよく語られるのは、「アマゾンエフェクトにより、大規模型の店舗を強みとしていたトイザらスの売上高が下落した」というものです。実際、図表1でも見たように、倒産直前ではピークよりも17%売上高が下落しています。
■トイザらス米法人、利益率は改善していた
ここまでは、あくまで売上高の話です。では、利益はどうでしょうか。図表2は、トイザらスの営業利益と営業利益率をグラフで表現したものです。
図表1で見たようにトイザらスの売上高は確かに減少を続けていました。一方で、営業利益はチャプター11申請の直前のFY2016(2017年1月期)でも意外にも黒字だったのです。それどころか、チャプター11申請までの過去10年間で、営業利益ベースで赤字になったのはFY2013(2014年1月期)の一度だけです。それ以降は、黒字を維持するとともに、利益率自体は改善していったのです。
では、なぜFY2013にのみ、これほどの赤字をトイザらスは計上をしたのでしょうか。その理由は、のれん※の減損を3.78億ドルも計上をしたためです。
※編集部註 買収価格から買収先企業の純資産の時価を引いたもの。

こののれんは、2005年にプライベートエクイティファンドであるベインキャピタル、KKR(コールバート・クラビス・ロバーツ)、そして不動産投資信託のボルネード・リアルティ・トラストによるトイザらスの買収を通じて発生したものです。
しかしながら、トイザらスの業績の見通しが悪化したことで、のれんの減損となり、FY2013に大きな赤字を計上することになったのです。その後トイザらスは、チャプター11直前まで営業利益をしっかりと確保していたことが、トイザらスの業績の真実なのです。
■米トイザらスを追い詰めた巨額な支払利息
営業利益ベースでは黒字だったにもかかわらず、なぜいきなりトイザらスはチャプター11を申請するに至ったのでしょうか。それを理解するには、営業利益と当期純利益を比較する必要があります。図表3は営業利益と当期純利益を比較したグラフです。
FY2014(2015年1月期)以降も営業利益ベースでは黒字だったのですが、実は最終利益ベースでは赤字続きというのが実態でした。企業の決算分析や企業価値評価の際には、多くの場合、営業利益もしくは営業利益から派生した指標(たとえば、EBITDA等※)が重視されます。なぜならば、営業利益は本業が生み出す利益だからです。

※編集部註

Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略。金利支払い前、税金支払い前、有形固定資産の減価償却費及び無形固定資産の償却費控除前の利益を指す。買収価格の目安などとされる。


簡便には「営業利益+減価償却費(+のれん償却などの非現金費用)」で計算します。
一方で、株主に帰属する当期純利益(最終利益)も、もちろん重要です。営業利益ベースでは黒字でも、最終利益が赤字続きならばさすがに財務の健全性に黄色信号が点灯します。
この営業利益から当期純利益までの推移を滝チャートで表現したのが図表4です。ここでは、営業利益と当期純利益の差が最も大きいFY2013で比較してみましょう。
図表4からもわかるように、1.91億ドルの営業利益は4.51億ドルの利息の支払いによって、最終利益段階では大きくマイナスに転じることになっています。これはFY2013だけでなく、他の年度でも同様です。
■3倍の借金を生んだ“金融スキーム”
では、なぜこれほどまでにトイザらスは支払利息が多いのでしょうか。その理由は、先述したベインキャピタル、KKR、そしてボルネード・リアルティ・トラストによる買収の際に、レバレッジドバイアウト(LBO)といった負債を多額に活用する金融スキームを用いたためです。
LBOとは、買収先の企業が生み出すキャッシュフローを担保に借入をして、買収する仕組みのことです。3章で解説をした不動産のノンリコースローンとは、取得予定の不動産のみを返済原資にして借り入れる手法でしたが、LBOも同様に買収する企業が生み出すキャッシュフローに基づいて借入を通じて企業を買収する仕組みのことを言います。
このLBOにより、トイザらスは多額の負債を抱えることになり、金利の負担も多くなったのです。

実際、LBOを用いた買収が行われる前のFY2004の長期借入金は18.6億ドルでしたが、買収後のFY2005では、長期借入金は55.4億ドルと約3倍に増えることになったのです。この長期借入金の増加に伴い、金利もFY2004の1.3億ドルからFY2005では3.94億ドルまで増えたほどです。
■総資産の約7割が借金に
実際、トイザらスのB/S(バランスシート)を見ると、チャプター11を申請する直前のFY2016では、債務超過のうえ、総資産全体に占める長期借入金は67%となっていました(図表5)。金額で言うと、47.9億ドルもの借入金を抱えていました。総資産が69億ドルであることを踏まえると、いかに負債が多いかがわかるかと思います。
さらにトイザらスのCF(キャッシュフロー)の動きを把握するためにも、C/S(キャッシュフロー計算書)を確認しましょう(図表6)。
このC/Sからは次のことがわかります。第一に営業CFが徐々に減っているということです。FY2016に営業CFは、ほぼない状態にまで減りました。
第二に、継続的に投資CFが毎年2億ドル前後かかっているということです。これは主に資本的支出に使われています。つまり、店舗への投資に使われているというものです。
第三に継続的に財務CFがマイナスになっているということです。これはLBOで借り入れた金額の返済を毎年行っているためです。
これらの結果、キャッシュは徐々に減っていき、FY2016末時点では5.7億ドルまでに減少をしました。図表1でも見たように、FY2016の売上高は115億ドルでした。5.7億ドルしかキャッシュがないということは、1カ月分の売上の半分くらいしかキャッシュがないということです。
これまでの話をまとめると、次のようになります。営業利益ベースではしっかりと黒字を出していたものの、LBOによる多額の支払利息の発生、資本的支出を中心とした投資CFのマイナス、そしてLBOの返済にかかる財務CFのマイナスを通じて、キャッシュが徐々に減っていったということになります。
■米トイザらス破綻の真因
とりわけ財務CFをより詳しく見ると、トイザらスがなんとかギリギリでやってきたことがわかります。図表7はトイザらスの財務CFに記載されている長期借入金の弁済額と長期借入金の借入額を時系列でグラフにしたものです。
図表7のようにトイザらスには毎年15~30億ドル前後の弁済が発生していました。ですが、弁済できる資金的な余裕はありません。
そのため、トイザらスは金融機関から新たに借り入れることで、なんとか借入金の満期を凌いできたのです。これをリファイナンスと言います。
もちろん、金融機関は返済してもらうことを見込んで融資を出します。ですが、「返済は難しい」と金融機関が考えると、融資は出なくなります。となると、トイザらスは満期に借入金を返済できませんから債務不履行に陥ってしまいます。
実際、トイザらスのFY2016のForm 10-Kによれば、FY2018とFY2019で21.48億ドルの弁済と6.27億ドルの利払い、FY2020とFY2021では24億ドルの弁済と2.48億ドルの利払いが予定されていました。これら以外にもリースの支払いがFY2018とFY2019では8.21億ドルもあったほどです。
FY2016時点でキャッシュが5.7億ドルしかなく、営業利益では黒字でも、最終利益ベースで赤字が続き、FY2016では営業CFベースでもマイナスとなってしまったトイザらスにこれらの負債を支払う余裕は当然ありませんでした。
結果的に、負債の返済の目処が立たず、2017年4月にトイザらスはチャプター11を申請することになったのです。
このように、トイザらスがチャプター11に至った理由としては、売上面において、アマゾンエフェクトの影響もあったとはいえ、本質的にはLBOを通じた借入金の負担が大きすぎたことが主だと言えます。
仮にLBOを通じた買収が行われなければ、トイザらスは多額の負債を抱えることはなく、金利負担も倒産直前ほど多くはなかったはずです。事実、先述したように、チャプター11申請前においては、営業利益ベースでは黒字でした。
言ってしまえば、LBOによる買収で生じた多額の負債がなかったならば、トイザらスはまだ事業を継続できていた可能性は高かったと言えます。

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村上 茂久(むらかみ・しげひさ)

ファインディールズ代表

GOB Incubation Partners CFO。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。経済学研究科の大学院(修士課程)を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation PartnersのCFOとして新規事業の開発及び起業の支援等を実施。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行うファインディールズを創業。

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(ファインディールズ代表 村上 茂久)
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