なぜ自衛隊の10式戦車には「乗員用クーラー」がないのか

 戦車は、ぶ厚い装甲で乗員を守りつつ、敵を撃破するために大口径の戦車砲を撃ちます。そのため、夏場は車内が高温になりやすく、冬場は厳しい低温にもさらされます。

それでも乗員は、状況によってはハッチを閉めた状態で長時間活動しなければなりません。

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 文字通り「戦うための車両」だけに、戦車では乗員の快適性よりも戦闘に必要な装備が優先されてきました。結果、近年まで、戦車や装甲車両には一般の自動車のような乗員用の冷房装置が標準装備にならなかったのです。

 たとえば陸上自衛隊では、現用の90式戦車にはクーラーはありません。21世紀に入ってから採用・生産されている10式戦車にも、乗員用のクーラーは用意されていません。10式には搭載電子機器を冷やすための「要部冷却装置」があり、間接的に車内の気温を下げることで乗員の快適性向上に寄与すると言われています。しかし、あくまでも乗員は「副次的」に冷やしてもらう形です。

 なぜ乗員ではなく、電子機器を冷やす必要があるのでしょうか。その理由は、戦車が「戦うための車両」だからです。

 戦闘では、いかに相手よりも先に発見し、先に射撃し、正確に命中させて撃破(無力化)するかが重要です。そのためには、優れた視察装置、各種センサー、通信機器、高性能な射撃管制装置などを備える必要があります。

 また、いかに高威力な戦車砲と機銃を積んでいても、弾がなくなったら意味がありません。

そのため、ある程度継続して戦えるよう、大きな砲弾を何十発も、そして機関銃の弾も数多く搭載します。

 限られた重量やスペース、電力をどこに振り分けるか。戦車の設計では、こうした厳しい制約のなかで戦闘能力を最大化することが求められます。

 では、海外の戦車はどうしているのでしょうか。

海外は「中東の灼熱」で激変 自衛隊にもようやく変化の波

 外国製の戦車、たとえばアメリカのM1「エイブラムス」やドイツの「レオパルト2」、ロシアのT-72なども、当初はクーラーはありませんでした。

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インド陸軍のT-90(画像:インド国防省)

 しかし、イラクやアフガニスタンなど、中東地域をはじめとした高温環境での運用を考慮するようになった結果、次々とクーラーを増設するようになっています。

 なお、ひと昔前はクーラー自体が大きく、電力も大量に必要とされたため、増設するにしても車内の結構なスペースを占有したほか、エンジンや発電機も出力に余裕がないと、その電力を賄えませんでした。

 20年ほど前の装甲車の写真を見ると、家庭用ルームエアコンの室外機のような大型の冷却ユニットを車体後部に無理やり取り付けた車両を見かけることがあったほどです。しかし電子機器と同じく、改良によって戦車用クーラーも年を経るごとにコンパクト化、省エネ化が進み、今では欧米の戦車ではほぼ標準装備と言えるまでに普及し、不格好な車体はほとんど見かけなくなっています。

 こうした諸外国の動きを見てか、ようやく自衛隊の戦闘車両でもクーラーの標準装備化が急ピッチで進んでいます。

 現在調達中の16式機動戦闘車は、初期ロットこそクーラーがありませんでしたが、途中でクーラーが標準装備化され、未装備の初期ロット車体に関しても順次、改修で設置が進められています。

 いかに高度なシステムを搭載していても、それを運用する乗員が熱中症などで倒れてしまっては、戦闘車両はその機能を全く発揮できません。

過酷な環境下でも隊員のパフォーマンスを維持することは、戦闘力を保つことに直結します。防衛省・自衛隊における近年のクーラー標準化の動きは、乗員の保護が戦力維持に不可欠であるという認識の表れと言えるでしょう。

 実際、2003年12月から2009年2月まで行われた自衛隊イラク派遣では、エアコンが標準装備されていた軽装甲機動車に対し、大型の96式装輪装甲車はエアコン未装備であったため、急きょ車内に増設されています。

 エアコン(冷房)、それは一見すると戦車のスペック表には一切表れない目立たない装備ですが、戦い続けるためには欠かせない存在なのです。

【日本では見られません】全身真っ白な外国専用「自衛隊装甲車」です(写真)

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