そばチェーン「ゆで太郎」の名物の一つが、無料クーポンだ。池田智昭社長は「創業5年を迎えた2009年に始めた企画で、当初は年1回だけのつもりだったが、好評だったため現在は年4回実施することになった」という――。

※本稿は、池田智昭『ゆで太郎の儲かる仕組み 22年連続黒字を支えるがっちり経営術』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■モーニングは500円、ランチは800円台
私は、価格はコストを積み上げて決めるものではないと思っています。
先に価格を決める。そして、その値段で提供するために何を工夫するかを考える。つまり、ゆで太郎の商売は「価格ありき」です。
私の中には、おおよその価格基準があります。朝は500円。昼は800円台。夜は特に上限を設けていません。
朝はモーニングが500円で食べられます。昼は900円台のメニューを日替わりで「得ランチ」に設定して、100円引きにして800円台に収めます。これは私なりの「これくらいなら払ってもいい」と思える価格なのです。

■定番4メニューの価格は何としても死守
だから、朝セット、もりそば、かけそば、かき揚げそばの最低価格だけは、この3年間ほとんど維持してきました。
原材料費も人件費も上がっていますから、経営としては決して楽ではありません。それでも、この価格だけは守りたい。
ただ、3年値上げしていないことは誇りではありますが、今の価格が安いとも思っていないんです。むしろ、上がってしまったな、という申し訳ない感覚の方が強い。だからこそ、毎年の価格改定の対象から、この4つだけは外して死守してきました。
なぜそこまで価格にこだわるのか。理由は単純です。その価格で提供したいからです。
■価格を決めてから、経営を考える
価格を先に決めるからこそ、その価格を実現するために、原材料を見直し、ダシの取り方を変え、製麺方法を工夫し、仕入れ先も何度も見直してきました。
価格に合わせて商品を作るのではなく、価格を守るために経営そのものを変えてきたのです。
朝の時間帯は、この考え方が最もよく表れています。
朝は価格を重視して来店されるお客様が非常に多い。「安いから来る」という前提がある以上、その価格を維持すること自体が競争力になります。
もし昼と同じ価格帯だったら、お客様は半分以下になっていたかもしれません。もちろん、時代とともに相場は変わります。いつか朝食が700円でも普通と言われる時代が来るかもしれません。
また、もっと安い価格で朝食を提供しているチェーンもあります。しかし、それは24時間営業というビジネスモデルがあるから成立する価格です。同じ価格をそのまま真似しても、同じ結果にはなりません。
ゆで太郎には、ゆで太郎に合った価格があります。朝は500円、昼は800円台。まず価格を決める。そして、その価格で「美味しい」「満腹」「また来たい」を実現する方法を考える。

価格は経営の結果ではありません。経営の出発点なのです。
まとめ

価格を先に決めるから、経営は強くなる

■「天ぷらには玉子」と鶴の一声
商品開発をしていると、「もう少し利益率を上げられないか」という話は必ず出ます。
原価を下げる。量を少し減らす。トッピングを減らす。経営だけを考えれば、どれもありそうです。
でも私は、「お客様が得したと思えるか」を先に考えます。その考え方を象徴しているのが、朝そばです。
もともと朝のメニューは、ご飯付きのカレーと納豆の2種類しかありませんでした。ところが、「朝はそばだけでいい」「こんなに食べられない」という声を多くいただくようになり、新しい朝メニューを考えることになりました。
最初は、かき揚げを半分にして、かけそばと同じ価格で提供する案でした。
ところが実際にやってみると、半分に切る方が手間がかかる。切り方によっては崩れてしまいますし、社内からも「半分じゃ、せこく見える」という声が上がりました。
それなら、いっそ1枚そのままのせよう。そんな話になりかけた時、当時の東京・竹芝店の店長が言いました。
「社長、天ぷらには玉子でしょう。やっぱり天玉そばですよ」

「じゃあ、それでいこう」
本当にそのくらいの勢いで決まりました。
■「たった20円でこんなに」という驚き
かけそばが430円。そこへ20円足すだけで、かき揚げと玉子が付く。今考えても、「よくこの値段で始めたな」と思います。
でも、その価格だからこそ、お客様は驚いてくださったのです。
「20円でここまで付くの?」

「朝からこんなに食べられるの?」
その驚きが、そのまま満足につながりました。
今でも朝そばが人気なのは、利益率ではなく、お客様の満足度を優先したからだと思っています。
実は、こういう商品は計算通りには生まれません。ヒット商品は、理屈より勢いで決まることが多い。
「これならお客様が喜びそうだ」
そんな現場の感覚から生まれた商品ほど、不思議と長く売れ続けます。
もちろん利益は大切です。会社ですから利益が出なければ続きません。でも、一つ一つの商品で利益を最大化しようとすると、お客様は敏感に気づきます。
「前より少なくなった」

「なんだか得した気がしない」
そう感じた瞬間、次の来店は遠のいてしまいます。
一方、「こんな値段でここまでやるのか」と感じてもらえれば、お客様はまた来てくださる。その積み重ねの方が、結果として会社は強くなります。私は、商品を作る時に「利益率は何パーセントか」より、「お客様は得したと思うだろうか」を考えます。その感覚がある限り、お客様は何度でも足を運んでくださる。
そして、その積み重ねが、長く愛される店をつくるのです。

まとめ

お客様の満足が利益を連れてくる

■「50円引き」は絶対にやらない
ゆで太郎へ行くと、お会計の時にお客様がお財布から小さな券を取り出して店員へ渡している光景をよく目にします。
今ではゆで太郎の名物になった無料クーポンです。海老天、かき揚げ、コロッケなど8種類の無料券が1冊になっていて、430円以上のお会計で1枚使える仕組みです。
このクーポンを始めたのは17年前、2009年のことでした。創業5年を迎え、「感謝セールでもやろうか」という、ちょっとした思いつきから始まった企画です。
ただ、一つだけ最初から決めていたことがありました。「10円引き」「30円引き」「50円引き」は絶対にやらない。そう決めていたのです。
■数字ではなく、体験でオトクと感じる
理由は単純です。30円引きと言われても、お客様はそれほど得した気分にはなりません。財布に入れておこうという気持ちにもなりにくいでしょう。でも、「海老天無料」と言われたらどうでしょう。
「これは得だ」
そう直感的に感じてもらえます。人は数字ではなく、体験でお得さを感じるのです。
この読みは当たりました。
当初は年1回だけのつもりだったクーポンは、好評だったため年2回になり、現在では3月・6月・9月・12月の年4回実施しています。実際には各回15日ほど配布し、残った分を翌月初めに配布するため、「月初になるとクーポンをもらえる」という印象を持たれている方も多いでしょう。
もちろん、有効期限も設けています。「また来よう」と思っていただくための仕掛けだからです。
■加盟店も納得しやすい「原価処理」
実は、このクーポンには社内の仕組みにも一つこだわりがあります。例えば海老天を無料でお渡しした場合、その分は販促費ではなく、原価として処理しています。一見すると、販促費として計上した方が自然に思えるかもしれません。
しかし、そのやり方ではお店の売り上げが見かけ上増えてしまいます。さらにロイヤリティーが売り上げ歩合なら、その分だけ加盟店の負担も増えてしまいます。
私は、それが嫌でした。ゆで太郎のロイヤリティーは売り上げの5パーセントです。だからクーポン分は売り上げを立てず、原価として処理する。その方が加盟店さんにも納得していただけます。
クーポンは値引きではありません。お客様にもう一度来ていただくためのセールスプロモーションです。
「得した」
そう感じてもらえれば、その満足感は次の来店につながります。実際、今では加盟店の皆さんもクーポンを歓迎してくださっています。現場で、お客様が喜んでいる姿を見ているからです。人は、30円引きではあまり心は動きません。でも、「無料」という言葉には強く反応します。同じような金額でも、伝え方一つで価値の感じ方はまったく変わる。
何気ない思いつきから始まったこのクーポンは、今ではゆで太郎にとって最も強力な販促ツールの一つになっています。
まとめ

値引きではなく、「無料」という体験がお得感を生む

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池田 智昭(いけだ・ともあき)

ゆで太郎システム社長

1957年生まれ、東京都出身。明治大学文学部卒業後、1980年にほっかほっか亭FCオーナーとして独立。1984年にFC店オーナーを辞め、ほっかほっか亭入社。フランチャイズ本部の社員になると、スーパーバイザーとして手腕を発揮。多くのオーナーを支援してきた。2004年ゆで太郎システム設立。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)「がっちりマンデー‼」(TBS系)出演でも話題。

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(ゆで太郎システム社長 池田 智昭)
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