■「お風呂上がりのビール」が危険なワケ
お風呂上がりのビールや牛乳はじつにおいしい。汗をたっぷりかいて、入浴前よりも体の水分が800ml程度も少なくなったためだ。脱水状態に近いから、普段以上においしく感じるのも無理もない。しかし、水分補給が本当に必要なのは、入浴後ではなく入浴前だ。
短時間で急に水分を失うと、血液が濃く粘っこくなり、血管が詰まりやすくなる。体の負担はとても大きく、血管が弱っている人の場合、心臓病や脳梗塞などの原因になり得る。そこで、お風呂に入る前に、コップ1杯程度の水を飲んでおく。
そのとき、のどがかわいているかどうかは関係ない。大量の水分が失われるのを見越して、前もって補給しておくのだ。お風呂上がりのビールの幸福感が減ってしまいそうだが、血管を危険にさらさないため、この行動を入浴前のルーティンにしよう。
そして、家の中で、最も危険な場所は浴室。厚生労働省研究班の推計によると、年間約1万9000人が入浴時に亡くなっている。お風呂が危険なのは、大きな寒暖差にさらされるからだ。
■寒い脱衣所でいきなり裸になるのはNG
とくに冬場、暖房をきかせた温かい部屋から、寒い脱衣場に行ったときが危ない。
服を脱いだとたん、冷たい空気が体を直撃。血管が一気に収縮し、血圧がぐんと跳ね上がる。このヒートショックにより、心筋梗塞や心不全、動脈解離といった心臓病をはじめ、血管の急変が原因となる事故を引き起こす。
血圧や心臓に不安があるなら、冷たい脱衣所でいきなり裸になるのは禁物だ。対策としては、前もって脱衣所をヒーターなどで温めておくこと。20℃以上になっていれば、裸になっても血圧はほぼ上がらないので、ヒートショックも起こらない。
いくら脱衣所を温かくしておいても、浴室内が外気と変わらないほど冷たかったら、血管に大きな負担がかかる。心臓にショックを与えないためには、前もって浴室も温かくしておかなければいけない。
■熱いシャワーを浴室にかけると効果的
心臓に不安がある人の場合、2番目以降に入るようにしよう。お湯のため方としては、シャワーを使って給湯するのがおすすめだ。このシャワー給湯でお湯をためると、浴室の温度が10℃ほど上昇するという報告もある。
設備の点で可能なら、このやり方に切り替えよう。床の冷たさもヒートショックの原因になる。脱衣所で裸になる前に、お湯を何度か流す、または熱めのシャワーを20~30秒かけておこう。
お風呂のお湯は、どれくらいの温度が好みだろうか。昔の江戸っ子のように、ゆでだこになるような熱々のお湯に限ると思っているのか。その一方、ぬるめのお湯にゆっくり浸かるのが好きなのか。血管や心臓の健康を考えるなら、どっちの入浴方法が適しているのかは明らかだ。
軍配が上がるのは、もちろん、ぬるめのお湯。
寒い季節、脱衣所で裸になり、冷たい浴室に入ると、体温を保とうとして、血管がギュッと収縮する。このとき、血圧が急上昇。そのままの状態で、熱々のお湯に入ると、激しい温度差による刺激が体を直撃する。
■リラックス効果のある温度は40℃以下
お湯の温度が42℃以上あると、交感神経の働きがぐっと高まる。交感神経は心身を「活動モード」にする自律神経。活発に機能すると、血管が収縮して血圧を高めるように働く。その結果、血液の粘り気が増し、凝固しやすくなる。
こうした体のメカニズムによって、血管と心臓が危険な状態にさらされてしまう。お湯に浸かって体が温まるにつれて、今度は血管が拡張して血圧が下降する。熱々のお湯に浸かった場合、血圧がいったん急激に上がり、その後、一気に下がっていくわけだ。こうした血圧の急上昇と急降下も、血管に対する負担がとても大きい。
一方、40℃以下のお湯に入ると、交感神経ではなく、心身を「休息モード」にする副交感神経が刺激される。その働きは、交感神経と正反対。血管が拡がって血流が良くなるので、血圧が上昇することはない。ぬるめのお湯にゆっくり浸かると、筋肉や神経がほぐれて、心身ともにリラックスできるのもメリットだ。
とにかく、熱々のお湯に浸かるのはNG。とくに、心臓に不安がある場合は、必ず38℃から40℃程度のお湯に入ることが大切だ。
■浴室で心地良くなったら要注意
入浴中の事故で、とくに多いのが浴槽での溺死。著名な芸能人が、若くしてこの亡くなり方をしたのも、まだ記憶に新しいところだ。お湯に浸かっていると、いったん上昇した血圧がぐんぐん下がっていく。
この急激な変動から脳の血流が減少し、しだいにぼぉ~としはじめ、最終的には意識がなくなることもある。意識を失ったら、体を浴槽の中で支えられなくなり、お湯の中に沈んでしまうしかない。
こうした悲惨な事故を避けるには、お湯の中で気持ち良くなってきたら、あるセリフを自分に言い聞かせるといい。
お風呂に入るときには、小さな子どもでもない限り、勢いよくお湯に飛び込みはしない。足先からゆっくり入っていくだろう。これは理にかなった行動の仕方。お湯に少しずつ慣れながら浸かると、血圧の急上昇をある程度は防ぐことができる。
では、お湯から上がるときはどうだろう。
入るときとは違って、さっと素早く行動する人がほとんどではないか。けれども、じつはお風呂に入るときよりも、上がるときのほうがゆっくり行動することが大切だ。お風呂に浸かっていると、副交感神経が高まって血管が拡張し、血圧がぐっと低下する。
その状態で急に立ち上がると、脳の血流不足から立ちくらみを起こし、事故につながる危険がある。
■中高年は入浴前の楽しい晩酌も避ける
外出から帰宅した夜、つまみを食べながら晩酌を楽しみ、そのあとで入浴する。あるいは、温泉旅館に泊まった際、一杯やりながら夕食を味わい、ほろ酔い気分で露天風呂に向かう。お酒を飲んでからお風呂に入ると、一層リラックスできるような気がする。
しかし、中高年になったら、この順番で行動するのはNGだ。お酒を飲むと、アルコールの作用で血管が拡張し、血流が良くなって血圧が下がる。この状態でお風呂にゆっくり入ると、さらに血圧が低下してしまう。
アルコールの利尿作用や発汗作用によって、体の水分が失われているのも良くない。ゆっくり温まってから立ち上がると、その瞬間に失神して倒れる恐れがあるのだ。飲んだらお風呂に入るな、お風呂に入るのなら飲むな。こう肝に銘じておこう。
■朝のお風呂は血圧が急上昇しやすい
昨晩は帰宅が遅くなった、あるいは体をシャキッと目覚めさせたい。こんな理由から、朝にお風呂に入ったり、シャワーを浴びたりする人もいる。若くて血管や心臓が元気なうちならいいかもしれないが、中高年の場合、問題のある行動といえる。
朝目覚めてからの2~3時間は、夜に下がっていた血圧がぐんぐん上がっていく時間帯。このとき、熱いお湯に浸かったり浴びたりすると、さらに血圧が急上昇する。冬の寒い朝なら、リスクは一層アップ。血圧が高めの人や、心臓に不安がある人なら、この入浴の仕方は禁物だ。
また、夏の朝、冷たいシャワーを浴びる人も少なくない。これも血圧が気になる人にはNGだ。どの季節であっても、寒冷刺激は血圧を急上昇させる大きな要因になる。夏でもぬるま湯程度の温度のシャワーにしておこう。
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工藤 孝文(くどう・たかふみ)
内科医
工藤内科院長。福岡県みやま市の同医院で地域医療を行う。糖尿病内科、ダイエット外来、漢方医療を専門として、テレビや雑誌などでも活躍。著書に『痩せグセの法則』(枻出版社)ほか多数。
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(内科医 工藤 孝文)

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