物価高が家計を圧迫する中、医療費負担を引き上げる動きが進んでいる。ファイナンシャルプランナーの小沢美奈子さんによる、個人でできる家計防衛策を紹介する――。

■国会で進む「高齢者も原則3割負担」
2026年4月28日、国の財政制度等審議会・財政制度分科会が開かれ、高齢者の医療費の窓口負担について、今の1~2割から「原則3割」に引き上げる制度改革の工程表(スケジュール表)を作るべきだ、という提言が示されました。
現在の窓口負担は、年齢によって次のように分かれています。
会議では、まず70~74歳の人を3割負担に、その後75歳以上の人についても段階的に3割に近づけていくべきという考え方が示されました。あわせて、70歳以上の一部の人が定額で何度でも外来を受診できる「外来特例」という仕組みも、廃止すべきと提言されています。
■高額療養費の自己負担上限額も引き上げ
医療費負担が増えるのは高齢者に限った話ではありません。2026年8月から高額療養費の自己負担上限額が引き上げられ、患者の負担が増えることが予想されます。
高額療養費制度とは、1カ月にかかった医療費の自己負担額が上限を超えたとき、超えた分が払い戻される制度です。入院や手術など、まとまった医療費がかかったときの「セーフティネット」となっています。
ただ、2026年8月から、自己負担の上限額が段階的に引き上げられるため、その分個人の医療費負担が増えることになります。
今回、年間上限額が新たに設定されるなど、高額療養費制度を多数回利用する方などで負担が軽くなる場合もあるとされていますが、それに該当しない方は負担が増えることになりそうです。
■OTC類似薬の「25%追加負担」
もうひとつ、見逃せない議論が「OTC類似薬」の扱いです。
OTC類似薬とは、ドラッグストアで買える市販薬(OTC医薬品)と、ほぼ同じ成分・効果を持つ「処方薬」のことです。
たとえば、痛み止めのロキソプロフェンや、アレルギーの薬などが該当します。
これらの薬は病院でも処方されますが、「市販でも買えるのに、病院で処方してもらえば安く済む」という状態が、医療費を押し上げている一因とされ、以前から見直しの声が上がっていました。
2027年3月より、病院でOTC類似薬を処方してもらう場合、25%を患者の追加負担として余計に支払うことになります。
OTC類似薬については、完全に保険適応外にする案もありましたが、最終的には、対象となる約77成分・1100品目について、薬代の4分の1を自己負担させる形で決着しています。
なお子どもやがん患者、低所得の人などは対象から外れる方向です。
■工夫次第で医療費を減らすことも可能
このように、政府はなりふり構わず医療費抑制に取り組んでいますので、高齢者をはじめ、個々人の医療費負担はさらに増えることが予想されます。
ただ、そうやって負担が増えていく一方で、政府は個々人の医療費支出を減らせる仕組みづくりを進めてきました。
こうした制度をうまく活用することで、医療費を減らすこともできるわけです。
ここではその代表的な制度をご紹介します。
①セルフメディケーション
セルフメディケーションとは、軽いケガや体調不良を、病院に行かずに市販薬などで自分で手当てすることです。
頭痛、発熱、軽い胃もたれといった軽い症状で毎回病院に行っていると、診察代・処方箋代・薬代がかさみます。高齢者の場合、患者本人の負担は1~2割ですが、残りは医療保険から支出されています。

そのため、政府としては、病院に行かなくてもいいくらいの軽い不調は「自分で対処」してほしいわけです。
このセルフメディケーションを支える存在が「スイッチOTC医薬品」です。
スイッチOTC医薬品とは、医療用の成分を市販薬に切り替えたもののことです。病院で処方される薬と同じ有効成分が入っているため、効き目はそのままに、薬局やドラッグストアで買うことができます。
また、スイッチOTC医薬品は、次でご紹介する「セルフメディケーション税制」の対象にもなっており、購入費用を所得控除につなげることもできます。
■これを選ばないと7000円も損をする
②ジェネリック医薬品
ジェネリック医薬品(後発医薬品)は、先発医薬品と同じ有効成分を持ちながら、価格を安く抑えた薬です。薬の特許が切れたあとに製造・販売されるため、開発コストがかからず、その分価格が抑えられています。
ジェネリック薬に切り替えるだけで、医療費の自己負担額を減らすことができます。かかりつけの薬局や医師に相談すれば、切り替え可能かどうか確認してくれるでしょう。
ジェネリックに切り替えるとどのくらい節約できるか、具体的に見てみましょう。
高齢者に多い脂質異常症(コレステロールが基準値から外れる状態)の薬の場合(1日1錠を1年間服用するケース、3割負担)、先発医薬品の年間自己負担額が1万5768円であるのに対し、ジェネリックに切り替えると7774.5円~8365.8円程度に抑えられ、差額は年間で7402.2~7993.5円にもなります。
■通院・診察の費用を抑える
③リフィル処方箋
リフィル処方箋とは、症状が安定している患者さんが、1回の診察で最大3回まで薬を受け取れる制度です。
2022年に導入されました。
リフィル処方箋に切り替えることで、通院にかかる診察代や交通費を減らすことができます。ただし、対象の薬や症状には条件があるため、まずは主治医に相談してみるとよいでしょう。
④セルフメディケーション税制
セルフメディケーション税制は、対象となる市販薬(スイッチOTC医薬品)を1年間に一定額以上買った場合に、確定申告で所得控除を受けられる制度です。
健康診断や予防接種など、健康維持のための取り組みをしていることが条件になります。
年間の対象医薬品の購入額が1万2000円を超えた部分(上限8万8000円)が控除の対象となります。市販薬購入時のレシートを保存しておく必要があります。
通常の医療費控除(年間10万円超が対象)とはどちらか一方を選択することになっており、有利な方を選ぶことになります。(※総所得金額等が200万円未満の人は「総所得金額等の5%超」が基準)
ちなみに対象の薬かどうか見分けるには、商品の箱に記載されたセルフメディケーション税制対象を示すロゴマークで確認できます。また、購入時のレシートに対象マークが記されているかといったことでも確認ができます。
■「医療保険の見直し」だけでもお得
⑤医療保険の再確認
「昔入った保険のまま、内容を確認していない」というケースは少なくありません。
ただ、窓口負担が3割に引き上げられることが予想されるなど、保険加入時と状況が変わってきています。

そのため、加入している医療保険の条件を再確認しておくとよいでしょう。
・入院時の自己負担をどこまでカバーできているか

・通院での治療にも保険金が出るタイプか

・高額療養費制度と保障内容が重複していないか
といった点をチェックし、必要なら保険を見直してみましょう。
医療保険の見直しによって月々の保険料が下がることもあり、家計が楽になる可能性もあります。
特に所得の低い年金生活者の場合、高額療養費制度によって自己負担の上限がもともと低く抑えられているため、民間の医療保険に加入している意味が薄いケースもあります。
ただし、見直しの際には次の点に注意してください。
必要に応じて、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談するのもひとつの方法です。
・解約のタイミングに注意

新しい保険は、申込・告知・審査・初回保険料の払い込みを経てはじめて契約が成立するため、旧保険を先に解約すると、その間に無保険期間ができてしまう恐れがあります。
・健康状態によっては新規加入できないことも

持病や年齢によっては、新しい保険に入れなかったり、保険料が割増になったり、特定部位が保障対象外になったりする場合があります。
・見直しても安くならないこともある

保険料は加入時の年齢で決まるため、高齢者になってからの見直しでは、かえって保険料が高くなることもあります。
■ウォーキングも立派な家計防衛策
⑥「お薬手帳」の活用
お薬手帳は、これまで処方された薬の記録を残しておく手帳ですが、実は家計防衛にも役立ちます。
複数の病院にかかっている場合、お薬手帳を活用すると、同じ効果の薬が重複処方されるのを防げます。
また、薬剤師にお薬手帳を見せることで、ジェネリックへの切り替えや、リフィル処方箋への変更について相談しやすくなります。

⑦フレイル予防に取り組む
フレイルとは、加齢によって心身の力が弱ってきた状態のことです。フレイルが進むと、転倒による骨折や、体力の低下から寝たきりにつながりやすくなり、結果として医療費や介護費用がかさむ原因になります。
フレイル予防の基本は、特別なことではありません。
・意識してタンパク質を含む食事をとる

・ウォーキングなど、体を動かす習慣を続ける

・人と話す、外に出るなど、社会とのつながりを保つ
こうした日々の積み重ねが、将来の医療費・介護費用を抑えることにつながります。
窓口負担が上がっていく時代だからこそ、「そもそも病院にかかる回数を減らす」という視点も、家計防衛の大切な一部です。

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小沢 美奈子(おざわ・みなこ)

ファイナンシャルプランナー、K&Bプランニング代表

大学卒業後、損害保険会社にて社員教育、研修講師などを経験。約12年間勤務後、外資系損害保険会社で営業に従事。ファイナンシャルプランナーとして活動開始後はWebや書籍などで記事執筆、セミナー講師、家計相談などを行う。シニアや生活困窮者のライフプランにも力を入れるほか、フォトライターとしても活動。趣味はカメラ。著書に『本物の節約 残念な節約』(河出書房新社)。

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(ファイナンシャルプランナー、K&Bプランニング代表 小沢 美奈子)
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