■複数人から金銭を騙し取ったA氏
筆者・黒島暁生の友人から、金銭を騙し取った元詐欺師の男性がいる。A氏(仮名)は、この友人とは別の被害者に対する詐欺事件によって2023年に逮捕され、懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡された。
懐に入ることに長けたA氏は、被害者である友人と現在も懇意にしている。今回、その友人を介して「私の体験を啓発のために役立ててほしい」と連絡があり、筆者はA氏を直撃。語られたのは、「騙した相手は60名前後、総額は20億円にのぼるのではないか」という事実だった。
「いまは罪悪感しかない」として、生涯かけて被害者弁済を進める意向だという。話を聞いていくと、多くの人が開放的な気分になる夏休みや帰省が、詐欺師にとって極めて都合のよい場になる実態が見えてきた――。
(参考:セルフレジで「困っている高齢者」は格好の標的に…有罪確定の元詐欺師が告白「詐欺師が潜んでいる身近な場所」)
筆者の前に現れたA氏は、風貌がまったく印象に残らない男だった。背が極端に高くも低くもなければ、人相が悪いわけでもない。さりとて、変にへりくだって愛嬌があるわけでもない。
その人柄に甘えて、聞きたいことをすべて聞かせてもらうと、A氏の得意とする詐欺パターンが2つほど見えてきた。
■運転資金の工面に困り、“投資”を募った
1つ目は、投資詐欺だ。契約書を書いて契約を結ぶことによって、外見上はA氏が出資者から「金を借りた」ことになっているが、その「借りた」金を運用して運用益をバックすることを暗黙の了解としていた。
A氏は、詐欺師となる前、投資で信頼を得た実績があった。もとは九州地方に生まれ、進学を機に関西地方に移り住むと、そのまま会社に就職した。職場の知り合いに進められた投資が大きく当たり、独立資金を得た。結果として、何店舗も展開する老舗の飲食店を買収している。
ここまでのA氏は、いわゆる青年実業家だ。しかし数十店舗以上を稼働させる飲食店の運転資金が足りなくなると、経営者仲間から募っていた金に手を付け始めた。最初は「返済遅れてほんまごめん」で済んだが、もはや返せるあてなどないことが明白になると、A氏は新たな“カモ”を探しては自分に金を貸すように巧みに誘導した。
「金を前にしても、平静を装っていました。
■クレジットカードを悪用した“転売”
2つ目の詐欺パターンは、相手のクレジットカードで何かを買わせて、それを転売することで現金化する手法だ。
前述のとおり、関西地方で飲食店を営んでいたA氏は、あらゆる経営者仲間から投資のための金を募り、投資に使うと嘘をついて運転資金にしていた。完全に督促を無視することはなく、月に数万円でも必ず返済して関係性を続けた。だが経営していた飲食店が倒産すると、関西地方にはいられない。そこで見知らぬ土地を転々として、新たな“獲物”を捕まえたときにやっていたのが、クレジットカードの手法だ。
たとえば有名ブランドのバッグなどの値打ちが高いものを複数の“獲物”に買ってもらい、手元に1つを残して売りさばく。最初のうちは返済をきちんとするが、徐々にフェードアウトしていくのは投資詐欺のときと同様だ。
もうひとつ、A氏がクレジットカード詐欺で買わせていたものに、新幹線の回数券がある。
「地方から東京に出てきて、友人関係がまだ構築できていなそうな人に話しかけるんです。『俺も田舎から出てきてぜんぜん友達いないねん』と最初は近づきます。それで、新幹線の回数券を買うためにクレジットカードを切ってもらうんですね。
■ホテルのロビーに注意、テーマパーク併設も対象
A氏の毒牙にかかった筆者の友人もそうだが、騙されてなお氏に絶大な信頼を置いている被害者がいるようだ。氏の弁によれば、「逮捕されてからも、信頼してくれる被害者がいて、『他の人に先返してあげなさい』と言ってくれる」とのこと。この点について、筆者は“獲物”への近づき方が巧みであることと、ある部分まではA氏自身も本気で人間関係を構築しようとしているからではないかと考えた。
なぜ被害者は騙されてなお、信頼を寄せるのか。筆者が水を向けると、A氏は「詐欺師は異常に記憶力がいいことが多いので、『特別な配慮をしてくれている』と思ってもらえるのかもしれません」と言った。
続けて、「日常生活の少しだけ特別な1コマ、たとえば旅行先などに、詐欺師が入り込むことがある」と警鐘を鳴らす。
「私が詐欺師時代によく訪れていたのは、高級ホテルやリゾートホテルのロビーやラウンジです。有名テーマパークにあるホテルもそうです。近づき方は、たとえば子供連れならちょっとしたおもちゃやお菓子を買ってあげるんです。でも男一人だとさすがに不審ですよね。だから女性と一緒に旅行をする。
そして翌朝、もっとも混む時間帯を狙って、朝食会場に行く。その家族が来る可能性は高いし、混雑していれば会話も聞こえにくいから席を近づけても不自然ではありません。そうやって『旅行から帰ったら連絡しますね』と連絡先交換だけをして、目的は果たされる。これを1日で6組くらいやるのです」
■電話の演技で「金がありそうな素振り」
家族連れの場合は子供が会話の糸口になるが、それは犬や猫にも置き換えられるとA氏は話す。そして旅行が終わってから、外食をしたり、あるいは自宅に招かれるなどして、関係性を深めていく。
「夫婦をターゲットにするときは、奥さんが喜ぶように動きました。外食の場合はブランド物のハンカチ、自宅の場合は『奥さん、今日ご飯作らんで大丈夫ですよ』とあらかじめ言っておいて、叙々苑弁当を持参することが多かった」
もちろん、そのあと投資の話に誘導するが、ここにも詐欺師ならではの罠が仕掛けられている。
「基本は、ちらっと金がありそうな素振りを見せつつ、無理に誘わないことです。たとえば仲間と電話をしている声を聞かせる。電話越しの仲間と結託して、億単位の取引を成功させているかのように演出する。
『あぁ、すんません、音うるさいですよね』とか謝りながら相手の反応を見ました。仮に投資に乗り気な相手だとしても、『いやいやボクが詐欺師かもしれませんから! ね? いったんお金は出さんときましょ』みたいにストップを掛けて、相手に判断させるようにします」
■新幹線で“隣に座った他人”に注意
ほかにも、”ちょっとだけ特別な日常”のなかに詐欺師が紛れることはあるのだとA氏は警告する。
「新幹線移動も危険が潜んでいます。隣にひとりの客が座ったときは、詐欺師にとってはチャンスになってしまう。昔は移動販売があって、車両内を練り歩いていました。販売員さんに『こちらのお兄さんに渡してください』とか言って、その人の分もお金払ったりして、それで乾杯して、ちょっとだけ自分の話をする。『田舎から出てきて友達おらんのです』とか『やってた会社があったんですが、潰してしもて』など。興味を持ってもらったら、新幹線を降りるときに連絡先を交換します。あとは同様の流れです」
単なる移動が、詐欺師にとっては接点を作る格好の場になる恐ろしさ。旅行中、出張中など、実にあり得そうな話である。ちょっと良さそうな偶然の出会いに、注意が必要なのが、怖さを感じる。
だが、市井の人々が一度詐欺師に目をつけられれば、絡め取られてしまうことはある。元詐欺師であるA氏からみて、詐欺師に共通する特徴は何か。
■「気取らない服装」「酒の席に出ない」「SNSやっていない」
「まずは特徴のない服装であることはいえると思います。たとえば、胸にデカデカとブランドロゴが載った主張の強い洋服を着ていることは、あまりないように思います。これには理由があると思っています。金持ちを対象にしたときに、金持ちから疎まれやすい服装、いかにもな金持ちっぽさを漂わせると胡散臭さが出るからではないか。
ちょうど、SNSの普及とともに『本当の金持ちは下品にブランドを見せびらかさない』みたいな言説が広まってくれたことも、追い風になってしまっていると思います。詐欺師側からすると単にブランド物を購入できないだけだったりもするのですが、無地のTシャツを着ているだけで勝手に金持ちだと周りが思ってくれるのはあります。
それから、お酒の席に積極的な詐欺師は少ないと思います。詐欺師は常に気を張っているため、酔えないものです。したがって、酒の席にいたとしても本当にわずかしか飲まない人が多いように感じます」
そして、SNSとの距離感についても、詐欺師を見分けるためのリトマス試験紙になるのではないかとA氏は指摘する。
「やたら『SNSをやっていない』ことを強調する人は、結構怪しいのではないかと個人的には見ています。現代社会において、組織ではなく個人でも自由に動けて情報も入手できるという恩恵があるのに、それをまったくやっていないと公言するのは、不自然です。SNSをやるメリットよりも、アカウントを見られて行動の矛盾がバレるデメリットのほうが大きいからではないかと考えてしまいます」
■「交友関係が広くない人」が狙われる
詐欺師は多くの“獲物”のなかから、最適解を素早く弾き出して騙しにかかる。だとすれば、詐欺師の側からみて「旨味が少ない」と思われることが最大の防御策ではないか。この点について、A氏はこんな話を聞かせてくれた。
「詐欺師は交友関係が広くない人を狙います。なるべくひとりで、相談する相手が少ない人です。したがって、陽気な人は、詐欺師からすれば不適格です。くわえて、人付き合いが多い人は飲食代などの交際費が多く、そもそもあまりお金を持っていないことが往々にしてあります。
それとも関連しますが、出会ってすぐに自己開示をたくさんしてくる人は、こっち側から『やめておこう』となります。
少しややこしい話なのですが、騙されやすい人を狙いに行くのは定石であるものの、あまりにも世間一般の言説をそのまま信じ込んでいる人は、逆に騙しづらいんです。『この前テレビで言ってた』『YouTuberがこんなの紹介してたよ』というように、定説を疑わない人は投資などにも食指を動かしません。そういう価値観の人は、『汗水垂らして働くのがいい』と思っている可能性が高いからです。投資詐欺は、ある意味では裏技を求めている人との相性がいいとも言えます。そもそも投資に興味を持たない人は騙しにくい、騙されないですよね」
■「あなただけのおいしい話」は存在しない
最後に、現在は執行猶予中であるA氏に、騙されないようにするにはどうすればいいのか。注意点を聞いた。
「多くの人が往来するホテルのロビーなどは、詐欺の同業者が複数いました。目を見ればだいたい予測がつきますし、“獲物”を探すときの行動は旅行者のそれとは明らかにことなるので観察すれば発見がたやすい。さまざまな手口で詐欺師はあなたに近づいてきます。
ただ、原則として、『あなたにだけに来るおいしい話はない』と知っておいてほしいです。詐欺師はさまざまな方法で自分を大きく見せようと、運用実績などを語ります。ですが、個人で人の金を預かって投資する人間のほとんどは運用実態がありません。もしも本当にみんなが驚くほどの実績があるのだったら、その人はすでに大手証券会社からヘッドハンティングされているはずなんです。ホテルのロビーでうろうろしているはずがありません。自分の身に起きたことを冷静に分析して、被害に遭わないように判断していただければと思っています」
ホテルや新幹線など、私たちが「非日常」を過ごす空間は、警戒のハードルが下がりがちだ。詐欺師が狙ってくるのはその緩みなのか。開放的になる場所にこそ、罠が仕掛けられていると疑う必要があるのかもしれない。
一方で、人を騙していたA氏の内実は、決して優雅とは言えなかった。A氏は取材中に何度も「後悔している」と漏らした。詐欺師でいる間は、眠りも浅く、深い呼吸ができなかったのだという。人生が詐欺と無縁であるために、どのような関係性の知り合いであってもフラットな目で見ることが肝要なのだろう。
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黒島 暁生(くろしま・あき)
ライター、エッセイスト
可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。
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(ライター、エッセイスト 黒島 暁生)

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