日本にとっても米国にとっても経済安全保障上重要な鉄鋼産業で、日本製鉄は世界トップクラスの技術力を保持しています。にもかかわらず株価はPBR0.64倍の低評価。


 日本製鉄はUSスチールの100%買収を実現し、これから米国で成長していく期待があります。投資判断をHOLD(保有継続)から「買い」に引き上げます。


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日本製鉄の投資判断

 日本製鉄(5401)が4日に発表した2026年4-6月期決算は、昨年買収したUSスチールの収益が大きく貢献して、好決算でした。事業利益(持続的な事業活動から得られる利益)は前年同期比58.1%増の1,455億円、連結純利益752億円の黒字(前年同期は▲1,958億円の赤字)でした。


 決算発表と同時に、2027年3月期(通期)の事業利益予想を5,300億円から6,300億円に、純利益予想を2,200億円から2,900億円に上方修正しました。USスチールが通期の事業利益で1,800億円の貢献となる見込みです。


<日本製鉄の業績推移:2023年3月期~2027年3月期(会社予想)>
日本製鉄の投資判断を「買い」に引き上げ。USスチール黒字転換(窪田真之)
出所: 2027年3月期は会社予想、同社有価証券報告書・決算短信より楽天証券経済研究所作成

 PBR(株価純資産倍率)とPER(株価収益率)から見た割安な株価に加え、USスチールを再生して米国で新たな成長を目指す戦略が順調に始動していることを評価して、日本製鉄の投資判断を「買い」に引き上げます。


<日本製鉄の株価指標:2026年8月7日時点>
日本製鉄の投資判断を「買い」に引き上げ。USスチール黒字転換(窪田真之)
出所:QUICKより楽天証券経済研究所作成、配当利回りは2027年3月期1株当たり配当金(会社予想)24円を8月7日株価で割って算出

 日本製鉄の未来に対する期待は大きいものの、後述するように、さまざまな投資リスクがあることから、私はこれまでレポートで「ファンドマネジャーとして積極的に投資していきたいが、アナリストとしての投資判断はHOLD(保有継続)」と述べてきました。


 投資リスクは引き続き高いと思われるものの、USスチール買収による成長戦略が順調に始動したと考えられることから、投資判断を「買い」に引き上げます。


 以下、日本製鉄の魅力とリスクについて、私の考えを解説します。


日本製鉄の投資魅力

 以下3点から、私は日本製鉄を高く評価しています。


【投資魅力1】割安な株価、2027年3月期業績回復の期待

 日本製鉄は、世界でトップクラスの技術力を有し、USスチール買収で米国で成する期待があるにもかかわらずPBR0.64倍と、株価指標でみて割安と判断しています。


【投資魅力2】経営力

 日本製鉄は過去、何度も厳しい世界的な鉄鋼不況に見舞われ、巨額の赤字を計上したこともあります。それを構造改革・技術開発・業界再編で乗り切ってきた経営力を高く評価します。


 一方、日本製鉄が買収したUSスチールには、米国政府が保護すればするほど弱体化していった歴史があります。USスチールは1960年代には世界トップの製鉄企業でした。ところが1970年代以降、競争力が低下、日本にトップの座を奪われ、さらに2000年代以降は中国に追い越されその差は拡大する一方です。米国は自国の鉄鋼産業に対して度重なる保護主義政策を打ち出してUSスチールを守ろうとしましたが、保護すればするほど高コスト体質の改善が遅れ、衰退が加速するという皮肉な結果となりました。米国トップの座も、電炉大手ニューコア(NUE)に奪われました。


 ただし、日本製鉄によるUSスチール買収が実現したことにより、USスチールの真の再生がスタートしつつあると評価しています。日本製鉄は技術導入・設備刷新してUSスチールを技術競争力のある強い会社として復活させる計画を持っています。


【投資魅力3】技術力・収益力

 昔も今も、人類にとって不可欠な鉄鋼生産で、世界トップクラスの技術力を維持してきたことを、高く評価します。同じ鉄鋼製品であっても、中国メーカーが量産する汎用スチールと、日本製鉄がひも付きでトヨタ自動車(7203)などに供給する高級鋼はまったく異なる製品です。日本製鉄が自動車業界などに供給している高級鋼には、いろいろな種類があります。


【1】高張力鋼板(ハイテン材)


 最も重要なのは、硬さ(引張強度)です。日鉄のハイテン材は、板厚を薄くしても強度が確保できるため、自動車の軽量化に貢献してきました。

日鉄は強度1.5ギガパスカル級と、世界最高水準の超ハイテン鋼板製造技術を有します。


 強度とともに重要なのは、加工性です。強度が高いほど延性・成形性が低くなりますが、それでは自動車用鋼材として使えません。日鉄は、微量元素の配合・調整・焼きなまし工程の工夫でこの課題を克服しており、門外不出の技術です。


 ところで近年、鉄より硬く鉄より軽い素材として「炭素繊維」が注目されています。東レ(3402)の炭素繊維は航空機に使われるほか、自動車の車体にもトライアルとして使われています。ただし炭素繊維は高額で加工が難しく自動車で本格的に使われる見通しはたちません。自動車向け高級鋼として日鉄の超ハイテン鋼への需要はこれからさらに高まると考えられます。


【2】冷間プレス用高張力鋼板


 日本車の競争力を支える重要素材。常温で鍛造する冷間プレスは、高精度の自動車部材の生産に不可欠。日本の自動車メーカーは、冷間プレスを多用。ホットスタンプ工法を使うことが多い欧米自動車メーカーに対する差別化となっています。

ただし、この鋼材は製造が難しく、日鉄などの独自技術となっています。


【3】電磁鋼板


 電動化が進む自動車産業において重要性を増している素材です。電磁鋼板は薄いほど内部に渦電流が流れにくくなり性能が向上します。日鉄は、ハイブリッド車や電気自動車の電動モーターに使われる0.5~0.35mmという極めて薄い電磁鋼板を製造しています。


 21世紀に入り、中国による無秩序な鉄鋼大増産によって鉄鋼の国際市況が下落して深刻な鉄鋼不況が起こりました。2014年ころ,中国の国営企業は赤字でも補助金を得て増産を続けたため、過剰供給に歯止めがかかりませんでした。その影響で世界中の鉄鋼会社が赤字になった時も、日本製鉄(当時の社名は「新日本製鉄」)は相対的に堅調な業績を維持しました。


 中国企業と競合する汎用品が少なく、競合の少ない高級鋼主体の生産とした効果が出ました。トヨタ自動車などにヒモ付き(生産する前に販売先・納入先が決まっている取引)で生産・販売することで、中国増産の影響を直接受けずに済みました。


 ただし、それでも世界的に鉄鋼市況が暴落した時は、ヒモ付き価格も不当に低く据え置かれたため、収益的に厳しい状況が続きました。


 近年、中国による鉄鋼の無秩序増産は抑えられるようになり、ヒモ付き価格の値上げも通るようになりました。その効果で、2023年3月期に日本製鉄は最高益を更新しました。


 2024年以降、また中国企業の過剰生産で、鉄鋼の世界市況は下がっています。その影響もあり、汎用スチールで利益を上げるのは困難な時代が続くと思われます。


日本製鉄に投資するリスク

 私は、日本製鉄の未来に期待していますが、そこには大きなリスクがあります。重要なリスクとして、【1】USスチール買収に関するリスク、【2】脱炭素に伴うリスクがあります。


【重大なリスク1】USスチールの経営に関するリスク

 USスチールの買収を実現したことによって、米国で新たな成長が見込めると私は考えています。ただし、鉄鋼業が政治の影響を大きく受けることがリスクとして強く意識されます。以下2点に注意が必要です。


◆米国政府がUSスチールの黄金株を保有していること


 米国政府が黄金株を保有していることが、経営の制約となるリスクがあります。日本製鉄がUSスチールの設備を刷新し技術導入をする過程で、米国政府が過剰に介入してくると、再生が思うように進まなくなるリスクもあります。


 USスチールの真の再生を目指していることにおいて、日本製鉄と米国政府の利害は一致しているので、黄金株が障害になる可能性は、現時点では低いと考えています。


◆「トランプ後」リスク


 米国は近年、政権が変わる度に経済政策が大きく変わることがリスクとして懸念されます。トランプ政権は、鉄鋼アルミニウム関税を強化して、米国内の鉄鋼業を優遇していますが、トランプ政権後に、鉄鋼業関連の関税や政策方針がどうなるか、予測できません。


【重大なリスク2】脱炭素のリスク

 鉄鋼産業(高炉)は、電力産業と並び、CO2排出が大きい産業です。高炉の生産プロセスで、原料炭を使うためです。

将来的には、原料炭の代わりに水素を使う「水素還元製鉄」への転換が必要です。ところが、その技術開発・設備投資に莫大なコストがかかります。その負担に耐えるのには、相当な経営体力が必要と考えられています。


 ただし、私はこのリスクは10年以上先に問題となってくると考えています。数年以内に顕在化することは無いと考えています。


【参考】日本製鉄の過去46年の歴史


 ご参考まで、同社の過去46年の株価チャートをご覧ください。


<日本製鉄の株価月次推移:1980年1月―2026年8月(7日)>
日本製鉄の投資判断を「買い」に引き上げ。USスチール黒字転換(窪田真之)
出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 ご覧いただくとわかる通り、日本製鉄株は、1980年代以降、2回急騰相場があります。1回目は1980年代後半、2回目は2000年代の後半です。


【1】1980年代後半の大相場


 日本製鉄は明治の産業革命をけん引し、さらに戦後1960年代の高度成長をけん引した名門企業です。ところが、1970年代のオイルショックで低迷し、1980年代の前半には構造不況業種となりました。


 そこから「合理化・コストカット」の構造改革を経て大復活したのが、1980年代後半でした。バブル景気とも言われる内需景気で、建設ブームが起こり、鉄鋼産業も大復活を遂げました。

それを受けて、ご覧の通りの大相場となりました。


【2】2000年代後半の大相場


 バブル崩壊の1990年代に鉄鋼産業は再び構造不況に陥りました。ところが、その後、合併とリストラで筋肉質に生まれ変わった後、大復活しました。2000年代の後半は、BRICs(ブリックス)と言われた新興国(中国・インド・ブラジル・ロシア)の成長が加速して、鉄鋼需要が急拡大しました。日本の鉄鋼産業もその恩恵で大復活しました。


 ただし、2008年にリーマンショックが起こると、ブリックスの高成長による鉄鋼業の興隆も終わりました。中国の鉄鋼産業が、収益無視の大増産を続けたため、世界の鉄鋼市況が暴落し、世界中の鉄鋼産業が構造不況に陥りました。


 日本製鉄は、中国と競合する汎用品はほとんど手掛けず、ハイエンド・スチールに特化していたので、相対的には収益力を保ちました。それでも、汎用品の下落の影響を受けて、ヒモ付きの高級鋼材も安値が続き、収益低迷が続きました。


 日本製鉄は、リーマンショック後、さらに構造改革を進めました。国内で余剰だった高炉の閉鎖を進め、過剰設備が解消されたところで、極端な安値にとどまっていたヒモ付き価格の引き上げを進め、収益力を大幅に高めました。その成果で、2023年3月期は、売上高・営業利益・経常利益・純利益のすべてで過去最高益を更新しています。


 2024年以降、中国は鉄鋼の増産をまた始め、その影響で世界の鉄鋼市況が下落して、鉄鋼産業は世界的に不振となっています。日本製鉄は技術力で、USスチールは米国の鉄鋼アルミニウム関税に守られることで、中国の影響を回避していますが将来のリスクは続きます。


 先行きのリスクは山積していますが、日本製鉄がこれから新たな成長を目指す挑戦を続けることに期待しています。


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(窪田 真之)

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