お盆休みの新幹線は、毎年ちょっとした試練です。荷物は重く、ホームは人だらけ、自由席は満席。
ぐったり乗り込んで通路に立たされたとき、目の前にぽっかり空いた指定席を見て、「少しの間だけ座らせてもらえないかな」と魔が差しかけたことのある人は、案外少なくないのではないでしょうか。
新幹線の指定席を「渡り歩く」50代男性。疑念を抱いた乗客が車...の画像はこちら >>
実はその「少しだけ」が、想像より重たい話につながっていることをご存じでしょうか。鉄道営業法第29条では、有効な乗車券を持たずに乗車した場合や、きっぷに指示されたものより上等の車両に乗った場合、2万円以下の罰金または科料と定められています。加えて、鉄道運輸規程第19条とJR各社の旅客営業規則(第264条・第267条)により、乗車駅からの運賃・料金に、その2倍にあたる「増運賃・増料金」——つまり合わせて3倍を請求されることになります。

今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードから、新幹線の指定席を“渡り歩く”50代男性の話。ある乗客が抱いた小さな違和感が、やがて車掌を巻き込む騒動へと発展していきます。

記事の後半では、“車内改札”が姿を消した現在の新幹線が、どんな仕組みで座席をチェックしているのか——お盆の新幹線を気持ちよく使うために、ちょっと調べてみました。

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新幹線内で見かけた「指定席を渡り歩く男」

新幹線の指定席を「渡り歩く」50代男性。疑念を抱いた乗客が車掌にチクった結果…/車掌はどうやって座席をチェックしている?“車内改札”が消えた新幹線の仕組みを調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
国内旅行には欠かせない新幹線。利用客も多いだけに、「ありえない」人物を目撃することも少なくない。加藤光さん(仮名・20代)も、新幹線のなかで目を疑うような光景を目にした経験を持つ。

「『常識がない』と感じる客を目撃する機会は多いですね。大きないびきをかいて寝る迷惑男、席を向かい合わせにして酒盛りをする若者など、いろいろな迷惑客に遭遇しました。そのなかでも『とんでもない』と感じたのが、自由席券しか持っていないのに、指定席に座る50代の男でした」

「私は広島駅から新幹線に乗りました。
左隣に50代の男が座っていたのですが、岡山駅に着いたところで、新幹線に乗り込んできた男性客と話していました。聞き耳を立てると、『ここは私の席だ』と。どうやら、50代の男が違う席に座っていたようなんです。『すみませんでした』と丁寧に謝罪すると、別の席に移っていきました。その時点では、単純に席を間違えたんだろうなと見ていました」

新幹線の指定席を「渡り歩く」50代男性。疑念を抱いた乗客が車掌にチクった結果…/車掌はどうやって座席をチェックしている?“車内改札”が消えた新幹線の仕組みを調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
当初、座る席を間違えたと思っていた加藤さん。しかし、様子を見ているうちに「おかしいな」と感じたという。

「新大阪駅でも新たに乗ってきた女性客に『ここ、私の席では?』と声をかけられていました。ここでは謝りもせず、なぜか『うんうん』と頷いて、別の空いている席に移っていきました。『どうも怪しいな』と見ていると、京都駅でも同じことがおきました。『これは自由席の切符で指定席に座り、空いている席を渡っているんではないか?』という疑念を持ちました。こちらは経費とはいえ、指定席の金額を払っているわけですから、イライラしましたよ」

「車内改札廃止」でチェックが甘くなった?

新幹線の指定席を「渡り歩く」50代男性。疑念を抱いた乗客が車掌にチクった結果…/車掌はどうやって座席をチェックしている?“車内改札”が消えた新幹線の仕組みを調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
指定席を渡り歩く男に憤りを覚えた加藤さん。車掌は気がつかなかったのだろうか?

「私が新入社員のときは、車掌が乗客1人1人に切符を確認する『車内改札』というものがありました。現在は携帯端末のようなもので座席を確認していると聞きましたが、なぜか男が咎められることはありませんでした。
レアケースなのかもしれませんが、『意外とバレないものなんだな』とも思いましたね。また、私の目には男が慣れた感じで席を渡り歩いているようにも見えました。声をかけられても、驚くことをしないんです。『やっぱり来たか』みたいな様子に見えて、常習犯のような気がしていました」

車掌にチクられた男の末路は…

名古屋駅で加藤さんの怒りは頂点に達した。

「名古屋でも乗ってきた男性に『ここ、私』と咎められていました。その後、しばらくして男が名古屋で降りた人の席に座ったことで、『自由席券しか持っていない』と確信しました。乗務員室まで行き、『自由席券で指定席に座っている男がいる』と申告しました」

新幹線の指定席を「渡り歩く」50代男性。疑念を抱いた乗客が車掌にチクった結果…/車掌はどうやって座席をチェックしている?“車内改札”が消えた新幹線の仕組みを調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
車掌から声をかけられ、乗車券を見せるよう求められた男。どうなったのだろうか。

「乗車券の提示を求められた男は『違うんです』と浮気がバレた男のような意味不明な言い訳をしていました。すると先に座られ『違う』と指摘した乗客の1人が『この人、ずっと他人の席に座っていましたよ』と申告。『俺も見た』『私も被害にあった』と声が上がったんです。結局乗務員室に連れて行かれることに。どうなったかはわかりませんが、おそらく、差額を請求されたのではないでしょうか。
常習性があった場合、刑事罰を受けた可能性もあると思いますよ」

自由席券で指定席に座る行為は契約違反であり、鉄道営業法第29条(有効な乗車券なしの乗車等に対し、2万円以下の罰金または科料を定める規定)に抵触する可能性がある。なによりも気分良く移動したい乗客に対する迷惑行為。くれぐれも繰り返さないでほしいものだ。

<TEXT/佐藤俊治>

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■“車内改札”が消えた新幹線、いまはどう見張られている?

新幹線の指定席を「渡り歩く」50代男性。疑念を抱いた乗客が車掌にチクった結果…/車掌はどうやって座席をチェックしている?“車内改札”が消えた新幹線の仕組みを調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
——それにしても、加藤さんが目撃した男性は、しばらく席を渡り歩けてしまったものの、結局は車掌の元へ連れて行かれることになりました。かつては車掌がひとりひとりのきっぷを拝見して回っていましたが、いまの新幹線では、その光景をあまり見かけなくなりました。いったい、車掌はどんな仕組みで座席をチェックしているのでしょうか。

東海道新幹線で「車内改札の省略」が始まったのは2016年3月のダイヤ改正から。JR東海のプレスリリース「東海道新幹線における車内改札方法の変更について」によれば、これは“チェックをやめた”のではなく、“チェックの方法が変わった”ということのようです。

仕組みはこうなっています。乗客が自動改札にきっぷを通すと、「どの列車の・何号車・何番の席のきっぷを持った人が改札を通ったか」というデータが、走行中の車掌が持つ携帯端末に送られます。車掌の手元には、担当列車の各座席について「そのきっぷを持つ客が改札を通ったかどうか」が表示されている状態です。加えて2015年のJR東海リリースには、「きっぷの券面に記載された座席とは異なる座席をご利用の場合は、これまで通り車掌がきっぷを直接拝見して改札させて頂きます」と明記されています。改札が省略されるのは、あくまで券面どおりの席に座っている人だけ、ということです。


JR東海が2018年に在来線特急向けの新型端末を導入した際のプレスリリースでも、「指定席・グリーン席では空席の有無や利用区間といった各座席の発売状況を端末で正確に把握できる」と明記されています(在来線特急の話ですが、新幹線でも同様の仕組みです)。要するに、車掌は自分の列車のどの席がいま空いているか、どの席のきっぷの客が改札を通ったかを、端末を見れば把握できるということです。

だから、空いているはずの席に人が座っていれば、その状況は車掌の端末上で「不整合」として浮かび上がります。加藤さんが目撃した男性のように駅ごとに違う席へ移動する行為も、周囲の乗客の”気づき”と端末情報を組み合わせれば、遅かれ早かれ気づかれる仕組みになっているわけです。

■目の前の空席は魅力的に見えるけれど…

お盆や年末年始の新幹線は、座れないことを覚悟のうえで自由席に乗り込むことも珍しくありません。予約自体が競争ですし、そもそも予定がぎりぎりまで固まらず、前もって指定席を取れない事情もあるでしょう。混雑に疲れ果てたところで目の前の空席が視界に入れば、やたら魅力的に見えてしまう瞬間もあるかもしれません。ただ、その“魔が差した数分間”の居心地は、思ったほど良いものではなさそうです——今回の加藤さんの話は、そんなことを教えてくれる一件でした。

新幹線の指定席を「渡り歩く」50代男性。疑念を抱いた乗客が車掌にチクった結果…/車掌はどうやって座席をチェックしている?“車内改札”が消えた新幹線の仕組みを調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
<再構成/日刊SPA!編集部>

【佐藤俊治】
複数媒体で執筆中のサラリーマンライター。ファミレスでも美味しい鰻を出すライターを目指している。得意分野は社会、スポーツ、将棋など
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