■申請を忘れると過去の年金が消えてしまう
日本の公的年金は「申請主義」であり、自動的に支給されるものではありません。そのため、必要な時に申請しておかないと、受け取れなくなってしまいます。
年金や給付関連で「申請しないともらえない」代表例は、年金生活者支援給付金(低所得の年金受給者向けの上乗せ給付)や、障害年金・遺族年金など各種年金給付の請求になります。老齢年金も含め、公的年金は原則「請求しないと支給されない」仕組みなので、受給要件を満たしたら必ず日本年金機構や年金事務所で手続きを行いましょう。
代表的な給付と申請のポイントは次のとおりです。
【1:老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)】
65歳(特別支給は生年月日ごとの年齢)から受給可能の年金です。65歳の誕生日前に緑色の封書で必要な書類(年金請求書など)が送付されてきます。
65歳の誕生日の前日(受給権発生日)以降に年金の請求が可能になりますので、年金事務所や市区町村窓口で「年金請求書」を提出して裁定請求します。年金には時効があるため、長期間請求しないと5年を超える過去分は時効で受け取れない場合があります。
書類は失くしてしまう場合もありますので、繰り下げ受給を予定している人は、年金請求書の受取開始時期の項目欄の「今回は請求しません。後日あらためて繰下げ請求予定です。」にチェックを入れて提出しておき、受給を開始する時に窓口で手続きするようにしてください。
■年金に上乗せしてもらえるお金
【2:障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)】
病気やけがで仕事や生活が制限されるときに請求します。初診日や保険料納付要件などの確認が必要で、診断書などを添えて申請します。
【3:遺族年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金)】
被保険者や受給権者が亡くなったとき、遺族が請求します。死亡診断書、戸籍関係書類などを添えて申請します。
【4:年金生活者支援給付金】
市町村民税非課税など低所得の年金受給者向けの給付金です。老齢・障害・遺族年金を受給しつつ、市町村民税非課税などの要件を満たす人向けの上乗せ給付になります。対象者には案内が届きますが、請求書を提出しないと支給されません。
■見逃すと損する受給額を増やせる制度
【5:加給年金・振替加算】
振替加算は原則として、年金請求を行う際に自動的に判定されますが、老齢基礎年金の請求書に配偶者情報や年金加入歴を正確に記入する必要があります。加給年金のもらい忘れは、単なる記入漏れだけではありません。
年金請求時に配偶者や生計維持関係の申立が漏れるケースに加え、受給開始後に配偶者の退職や収入減、結婚や再婚などで後から要件を満たしたのに、加給年金額加算開始事由該当届を出さず見落とすケースもあります。
さらに、65歳到達後に厚生年金の加入期間が20年以上になった場合や、在職定時改定や退職改定で対象になった場合も届出が必要になることがあり、制度の分かりにくさが見逃しにつながります。
この配偶者情報を正しく申告することが最重要ですから、必ず確認して提出しましょう。
【6:未支給年金】
「未支給年金」とは、亡くなった方に支給されるはずだった年金のうち、まだ支払われていない分を遺族が受け取れる年金です。繰り下げ受給の待機期間中だった故人がもらえるはずだった年金も、遺族が最大5年分をまとめて受け取れます。
未支給年金の申請は、年金受給者が死亡した後、遺族が「年金受給権者死亡届兼未支給年金・未支払給付金請求書」と必要書類をそろえて、年金事務所または市区町村窓口へ提出することで行います。
請求期限(原則5年)や添付書類(戸籍・住民票・通帳など)を確認し、不備がないよう記入して提出しましょう。
■条件が合えば65歳前にもらえる可能性も
【7:特別支給の老齢厚生年金】
1961年(昭和36年)4月1日以前生まれの男性、1966年(昭和41年)4月1日以前生まれの女性は、65歳前に「特別支給の老齢厚生年金」を受給できる可能性があります。この年金は自動的には支給されず、請求しないと受け取れないため、通知を見落とすと時効で受給できなくなることがあります。
特別支給の老齢厚生年金には繰り下げ制度がないため、請求を遅らせても増額されることはなく、5年以上経過した部分は消失する可能性があります。65歳前に通知が届いたら必ず内容を確認し、該当する場合は早めに請求手続きを行いましょう。
【8:企業年金(厚生年金基金・確定給付企業年金)】
厚生年金基金や確定給付企業年金の制度がある会社に勤めていた場合、短期間の勤務でも企業年金連合会から年金が支給される可能性があります。しかし、企業年金は公的年金とは別の制度であり、こちらも必ず請求が必要です。
結婚による名字・住所変更、実家の引っ越しなどで通知が届かず、企業年金の存在に気づかないまま時効を迎えるケースが多くあります。企業年金連合会の年金は時効5年が適用されているため、請求が遅れると受け取れるはずだった年金が消失してしまいます。
過去に厚生年金基金や確定給付企業年金のある会社で働いたことがある方は、短期勤務でも受給できる可能性がありますので、念のため企業年金連合会に問い合わせて確認しましょう。
■総額約300万円を失った70歳の男性
さまざまな年金があり、知らない・申請し忘れによって本来もらえていたはずの年金が受け取れず損する人は多くいます。実際に損をしたケースを3つご紹介しましょう。
【特別支給の老齢厚生年金】
1955年(昭和30年)10月生まれのAさんは繰り下げ受給を希望していたため、昨年70歳になったことを機に年金受給の手続きをしましたが、その時に初めて「特別支給の老齢厚生年金」のもらい忘れに気が付いた、といいます。
Aさんの場合、62~64歳の3年間で受け取れるはずだった年金額は総額約300万円。しかし、すでに5年の時効が成立しており、約300万円が受け取れなくなってしまいました。
通知は来ていたようなのですが、繰り下げ受給を希望していたため、内容をよく読んでいなかったのが悪かったようです。繰り下げ受給を希望している方でも、65歳前に受給できる「特別支給の老齢厚生年金」は別になりますので、必ず請求手続きをして受け取るようにしてください。
この「特別支給の老齢厚生年金」には繰り下げ受給の仕組みはありませんので、請求をしないで放置し続けても増えることはなく、時効のリスクが高まるだけになります。なお、この年金を受け取っても65歳以降の公的年金は手続きが別になりますので、繰り下げ受給は可能になります。
日本年金機構からの通知は放置せず、必ず開封して内容を確認するようにしてください。
■72歳女性が見落としていた企業年金の存在
【企業年金】
短大を卒業後、3年間ほど中小企業でOLとして働いていた女性Bさんは、結婚を機に退職し、その後は専業主婦として生活してきました。
ちなみに、公的年金は偶数月の15日に振り込まれますが、企業年金は年金額に応じ年間の振り込み回数は違っており振り込み日は1日となっています。
企業年金は、厚生年金基金や確定給付企業年金の制度がある会社に勤めていた場合、短期間の勤務でも受給できる可能性があります。しかし、結婚で名字や住所が変わったり、実家が引っ越してしまったりすると、企業年金連合会からの通知が届かないことがあります。
Bさんもまさにこのケースで、企業年金連合会に問い合わせたところ、本来であれば60歳から受け取れるはずだった「特別支給の老齢厚生年金」と、65歳以降に受け取れる企業年金の一部が未請求のままになっていたことが判明しました。
企業年金連合会の年金は、「時効5年」が適用されています。そのため、Bさんが受け取れたのは過去5年分のみで、60~64歳の特別支給の老齢厚生年金(約40~60万円)と、65~67歳の企業年金(約15~25万円)を合わせた金額を受け取り損ねてしまったことになります。
厚生年金基金や確定給付企業年金の制度がある企業に勤めていた方は、短期間の勤務でも企業年金連合会から年金が支給される可能性があります。
結婚や独立で会社をやめてしまい、国民年金だけしかもらっていない人は多くいます。1カ月でも厚生年金基金のある会社で働いたことがある方は、念のため企業年金連合会に問い合わせて確認してみてください。
■総額117万円を受け取れなかったワケ
【加給年金のもらい忘れ】
フリーランスとして長く働いていた男性・Cさんは、40代になって叔父が経営する会社に雇ってもらったのですが、65歳時点では厚生年金の加入期間は20年に達していませんでした。
しかし、定年退職後の再就職で厚生年金の加入期間は20年に達し、これにより加給年金の条件に達していたのですが、加給年金の届け出を失念してしまい受給することができませんでした。
Cさんの場合、厚生年金の加入期間が20年に達したのは67歳のときでした。本来であれば、67歳から妻が65歳になるまでの約3年間、加給年金(年額39万100円)を受け取れるはずでしたが、届出をしなかったため総額117万300円を受け取れませんでした。
■もらい忘れを防ぐための「チェックリスト」
年金は原則、申請しないともらえませんので、勘違いや思い込み、知識不足などで「もらえなかった。」ということがないように気を付けましょう。図表2のような「年金申請チェックリスト」を作成しましたので、活用してください。
年金は「申請しないともらえない」という仕組みで運営されています。通知が届かなかったり、内容を読み違えたり、制度を知らなかったりするだけで、本来受け取れるはずだった年金が時効で消えてしまうことがあります。
今回ご紹介したように、特別支給の老齢厚生年金を300万円も受け取り損ねた人や、企業年金を約80万円ももらい忘れていた人は決して珍しくありません。
年金制度は複雑ですが、正しく申請すれば確実に受け取れる仕組みです。まずは日本年金機構から届く封書を必ず開封し、内容を確認すること。そして、今回のチェックリストを使いながら、「自分は申請漏れがないか」を一度見直してみてください。
知らないだけで損をするのが年金の世界です。大切な老後資金を取りこぼさないよう、早めの確認と手続きを心がけていただければと思います。
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川淵 ゆかり(かわぶち・ゆかり)
ファイナンシャルプランナー
川淵ゆかり事務所代表。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。国立大学行政事務(国家公務員)後にシステムエンジニアとして、物流・会計・都市銀行などのシステム開発を担当。その後FPとして独立し、ライフプランやマネープランのセミナーのほか、日商簿記1級、CFP、情報処理技術者試験の合格経験を活かして、企業や大学での資格講座・短期大学や専門学校での非常勤講師としても勤める。
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(ファイナンシャルプランナー 川淵 ゆかり)

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