いつまでも健康で長生きするには、どうすればいいか。順天堂大学医学部特任教授の小林弘幸さんは「入浴は質の良い睡眠を手助けしてくれる上に、心臓や血管の状態を維持してくれる効果もある。
毎日お風呂に入る人とそうでない人とでは、要介護認定になるリスクすら変わってくるほどだ」という――。
※本稿は、小林弘幸『科学的に証明された 自律神経を整える習慣』(アスコム)の一部を抜粋・再編集したものです。
■年を取ると眠れなくなる理由は副交感神経
もっともわかりやすい自律神経失調症の症状のひとつは、睡眠の不調です。
日中とは違い、夜には副交感神経が優位になるはずなのに、そうならない。すると、なかなか寝つけない、ぐっすり眠れない、睡眠のリズムが乱れる……といった悩みを抱えることになります。
睡眠不足が続き、休日でも疲れがとれるどころか、かえって眠りのリズムを崩してしまい、より疲れた感覚で月曜日を迎えてしまうこともあります。こうした負の連鎖は、「睡眠負債」とも呼ばれています。
ところで、睡眠の不調を訴える人の多くは、ある程度年齢を重ねた人たちです。子どもの多くはスイッチが切れたように長時間眠りますし、10代、20代のころから不眠で悩む人はあまり見かけません。この原因も、自律神経が関係しています。副交感神経は男性は30代、女性は40代から下がる傾向にあります。
つまり、その年代になっても副交感神経をなるべく下げないようにすれば、睡眠も改善され、どんどん「睡眠貯金」ができるはずなのです。

■鍼治療を受けても睡眠不足では効果半減
どんなにそのほかの方法で自律神経を整えようとがんばっていても、睡眠を充分に満たせていなければ、たちまち不調になります。なぜなら、睡眠不足は副交感神経を抑えてしまうからです。
副交感神経が充分に上がらないまま再び朝を迎え、仕事や学校に出かければ、やるべきことが山積みでさらに交感神経が刺激されます。徹夜明けにハイテンションになるのは、交感神経が優位になっているからです。
「いまは忙しい時期だから仕方ない」とか「睡眠時間を削ってでもがんばるしかない」なんて考えていると、そのうちどうやっても副交感神経が上がらなくなってしまいます。これこそ、深刻な自律神経失調症を招く典型的なパターンです。
もっとおそろしい話もあります。睡眠不足などで自律神経が乱れた状態だと、医学的治療を受けても効果が半減してしまうこともあるのです。肩こりや腰痛などの理由で鍼治療を受けた場合でも、自律神経が乱れている人は、そうではない人の半分程度しか効果が表れません。
眠れないほど忙しい、という考え方は、つい睡眠不足を正当化してしまいます。でも、その結果自律神経が乱れれば、体の回復もままならず、脳に血流も行き届かず、結局、仕事でもよいパフォーマンスができなくなってしまうのです。睡眠は自律神経を整える基本だと考えるようにしましょう。

■規則正しい睡眠のカギは「光と体温」
睡眠を大切にするためのポイントは、副交感神経が上がってくるタイミングに合わせてしっかり眠り、自分に必要な睡眠時間を確保して起床することです。
必要な睡眠時間は個人や年齢によって差がありますが、多くの人は最低でも6~7時間は必要だといわれています。もっとも、私はいわゆる「ショートスリーパー」で、4~5時間も眠れば充分なのですが、これは全体の1割にも満たないやや特殊な例です。
環境や職種によっては、夜眠って朝起きるという時間軸に沿わない方もいらっしゃるかと思いますが、その場合でも、規則正しい睡眠をとることができていれば問題ありません。
では、「規則正しい睡眠」を続けるには、何が大切だと思いますか? それは、大きく分けて「光」と「体温」です。このふたつを気遣うことで、質のいい睡眠を得ることができるようになります。
■寝る2時間前の「最強の入浴法」
まず「光」について。基本的には「暗くなる=眠る」「明るくなる=起きる」が原則です。目が明るさを感じ、自律神経を通じて指令を出すからです。
ただ、現代は夜でも照明で充分明るいですから、寝るべき時間が近づいたら、「光」をなるべくさえぎるように努めることが必要です。寝ると決めた時間の1~2時間前には照明を暗くし、テレビも見ないようにしましょう。スマホやタブレットも眠りを妨げる大敵なので、なるべく触れないほうがいいでしょう。

次に、「体温」。体温は下がると副交感神経が活性化しやすく、上がると交感神経が活性化しやすくなります。
お風呂に入る場合は、寝る直前に入ったり、熱い風呂に長時間入ったりするのは逆効果です。遅くとも就寝の2時間くらい前までに、39~40度くらいのぬるま湯に15分くらいつかるようにしましょう。
それも、肩までつかるのは最初の5分、残りは半身浴でストレッチをするくらいがベストです。リラックスして血管が拡張され、うまく睡眠モードに切り替えられます。これは、私自身が試してきたなかで編み出した、「最強の入浴法」です。長湯をするとかえって交感神経を刺激してしまいますから、その点にも気をつけましょう。
■寝起きのシャワーは38度スタート
入浴はお湯につかることでリラックスし、副交感神経を活性化しやすくする作用もありますし、反対にぐっすり眠ったあとの体をシャキッとさせて、交感神経を活性化していく切り替えのきっかけとして使うこともできます。つまり、バスタイムを効果的に使うことで、自律神経を整えることができるということです。
まず、寝起きでシャワーを浴びるときの方法から。初めはぬるめのお湯で体を慣らしましょう。
38度くらいが目安です。慣れてきたら、自分にとっての適温(例として40度くらい)までお湯の温度を上げます。なぜこうするかというと、いきなり適温を浴びてしまうと、急に交感神経が刺激されてしまうからです。
そして、仕上げがポイントです。温水と冷水を3~4回交互に浴びて、最後は冷水で終わります。こうすると、頭も体も引き締まります。
■スーパー銭湯は自律神経の調整に最適
大きな浴場のある温泉やスーパー銭湯は、私も大好きです。自律神経を整えるという名目で、たまには出かけてみるのはいかがでしょうか。
まずおすすめは、ジェットバスです。勢いよく出てくる気泡は、破裂するときに超音波を発します。これにマッサージの効果があり、血流をよくしてくれます。
そして、サウナもいいでしょう。
サウナのように非常に強い温かさがある場所にいると、交感神経と副交感神経が互いに連携をとり合って体温調節を行なうようになります。そうすることで、体温調節機能、すなわち自律神経がしっかりと働くようになるのです。
そして、最強のリラックス入浴法は、やはり露天風呂です。景色や空を眺めながらの入浴は、単に入浴の効果を得るだけではなく、最高のリラックス状態を生み出し、副交感神経への助けになります。自然を感じられる時間は、自律神経を整える観点からはいい効果しかありません。
そもそも入浴の習慣は、元気で長生きするという観点からもおすすめです。千葉大学の研究によれば、高齢者のうち、週に7回(つまり毎日)以上入浴する人は、週に0~2回の人に比べ、要介護認定になるリスクが約3割も少ないそうです。なぜなら、よく入浴をする人は血流がよく、心臓や血管がいい状態に保たれているからです。
忙しい人ほどつい億劫になりがちな入浴ですが、自律神経を整え、元気で長生きするためだと考えれば、多少無理してでも習慣づけていくのがよいでしょう。

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小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)

順天堂大学医学部特任教授

1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。
自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。

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(順天堂大学医学部特任教授 小林 弘幸)
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