※本稿は、渡部雅浩『地球はどこまで暑くなるのか 世界の「異変」がわかる気候変動の真実』(マガジンハウス新書)の一部を再編集したものです。
■猛暑や豪雨は増えている
Q:温暖化で異常気象はどう変わるのか
A:平均気温が少し高くなるだけで「極端な高温」は大きく増える
猛暑や豪雨、干ばつといった異常気象そのものは、温暖化が始まる前から起きています。大気や海はもともと変動しているので、ある年にひどく暑くなったり、ある地域で大雨が降ったりすること自体は、自然のゆらぎの中でも起こります。
一方で、近年は猛暑や豪雨が実際に増えていることも、観測データから見えてきています。ここでは、その話をもう少し踏み込んで考えてみましょう。ポイントは、温暖化が異常気象をゼロから生み出すということではなく、もともと起こりうる極端な現象の起こりやすさや強さを変えていく、という点です。そのことを理解するうえで役に立つのが図表1に示すような「確率分布」という見方です。
そもそも「異常気象」とは、平年と比べてかなりまれな高温、大雨、少雨、低温などの現象を指します。気象の世界では、ある地点で年に一度程度しか起こらないような現象を目安にすることがあります。つまり異常気象は、「本来は絶対に起こらないこと」ではなく、もともとまれに起こる現象です。
■「まれに起こる現象」の頻度が変わる
温暖化が進むと、この「まれに起こる現象」の頻度が変わります。
ですから、温暖化の影響は「平均気温が何度上がったか」だけでは判断できません。
平均のわずかな上昇が、猛暑日の頻度や、これまで経験しにくかった高温の起こりやすさを大きく変えることがあります。
■日本の観測でも「猛暑日」は増えている
実際、日本の観測でも、猛暑日は長期的に増えています。図表2は、都市化の影響が比較的小さいと見られる全国13地点について、日最高気温35℃以上の猛暑日の年間日数を示したものです。1910~2025年で見ると、猛暑日は100年あたり2.9日の割合で増加しています。最近の夏の暑さは、単なる印象ではなく、長期の観測にも表れているのです。
もちろん、この図だけで、ある年の猛暑の原因をすべて説明できるわけではありません。年ごとの暑さには自然変動も重なります。
■猛暑日はさらに増える予測
そして将来、猛暑日はさらに増えると予測されています。文部科学省と気象庁が作成・公表している『日本の気候変動2025』では、21世紀末の日本では20世紀末と比べて、猛暑日の年間日数は「2℃上昇シナリオ」で全国平均2.9日、「4℃上昇シナリオ」で17.5日増加すると見積もられています。熱帯夜も、2℃上昇シナリオで8.2日、4℃上昇シナリオで38日増えるとされています。
観測で見えている極端な高温の増加は、この先の温暖化によってさらに強まる可能性があるのです。
なお「2℃上昇シナリオ」「4℃上昇シナリオ」とは、21世紀末の世界平均気温が工業化以前よりそれぞれ2℃、4℃上昇したと想定した場合に、日本の気候がどう変わるかを見積もったものです。2℃上昇シナリオは、パリ協定の2℃目標が達成された場合に近い気候状態、4℃上昇シナリオは、温暖化がより大きく進んだ場合の気候状態として見ることができます。
■強い雨が増える地域、水不足になる地域
異常気象の変化は、気温だけに限りません。豪雨についても、温暖化との関係が見えやすくなっています。気温が上がると、大気が含むことのできる水蒸気の量が増えます。水蒸気は雨のもとですから、雨が降るときに、より多くの水が一度に落ちやすくなります。
一方で、温暖化は単に「雨が増える」方向だけに働くわけではありません。気温が上がると地表や植物からの蒸発も増えるため、乾燥しやすい地域では水不足が深刻になりやすくなります。つまり温暖化は水循環全体を強め、ある地域では強い雨が増え、別の地域では乾燥が進むことがあります。そのため干ばつについては、豪雨以上に地域差に注意して見る必要があります。
■豪雨は「降る時に強く降る」方向へ
Q:温暖化は豪雨や台風をどう変えるのか?
A:豪雨は「降るときに強く降る」方向へ変わる
気温が上がると大気中の水蒸気量が増え、強い雨が起こりやすくなります。ここでは、その変化が日本でどのような豪雨リスクとして現れるのかを、具体的に見ていきましょう。
日本の大雨は、梅雨前線や秋雨前線、台風、低気圧など、さまざまな気象条件のもとで起こります。温暖化は、それらの気象現象を一つひとつ新しく生み出すわけではありません。しかし、大気中に含まれる水蒸気が増えることで、雨雲が発達したときに、一度に降る雨の量が増えやすくなります。
とくに、暖かく湿った空気が同じ地域に流れ込み続ける条件が重なると、発達した雨雲が連なり、線状降水帯のような大雨につながることがあります。つまり温暖化は、雨を降らせる気象条件がそろったときに、その雨をより強くする方向に働きうるのです。
そして実際に日本の観測でも、短時間に非常に強く降る雨は増えています。
1時間に50ミリ以上の雨というのは、滝のように非常に激しく降る雨です。1976~1985年の平均では年間約226回でしたが、2016~2025年の平均では約350回となり、およそ1.5倍に増えています。これは、短時間に強く降る雨が、長期的に増えていることを示しています。
■極端な大雨はさらに増える予測
そして将来についても、極端な大雨はさらに増えると予測されています。前で触れた「2℃上昇シナリオ」と「4℃上昇シナリオ」で見ると、21世紀末の日本では、1時間降水量50ミリ以上の雨の年間発生回数は、20世紀末と比べて、2℃上昇シナリオで約1.8倍、4℃上昇シナリオで約3.0倍になると見積もられています。
また、1年の中で最も多く雨が降った日の降水量、つまり年最大日降水量も、2℃上昇シナリオで約12%、4℃上昇シナリオで約27%増えるとされています。豪雨は「起こる回数」だけでなく、「降ったときの強さ」も問題になるのです。
なお、これは年降水量が全国で一様に増えているという意味ではありません。雨の降り方が極端になり、降るときには強く降る一方で、雨の少ない日も増える。
そうした「雨の降り方の変化」として見ることが重要です。
■台風は「数」「強さ」「雨量」を分けて見る
台風については、豪雨や猛暑に比べて、温暖化の影響を単純に読み取りにくいところがあります。
とはいえ、台風が温暖化による影響をまったく受けないということではありません。台風は、暖かい海から水蒸気と熱を受け取りながら発達しますから、海面水温が上がれば強い台風を支える条件は整いやすくなります。また、大気中の水蒸気が増えれば、台風がもたらす雨量も増えやすくなります。
現在の研究では、世界全体で見ると、将来的に熱帯低気圧の総数は減る、または大きく変わらない一方で、強い熱帯低気圧の割合や、一つひとつの熱帯低気圧がもたらす降水量は増えると予測されています。
日本付近でも、台風の強度が強まり、台風に伴う降水量が増えると見積もられています。しかし、台風がどこで発生し、どんな経路を通り、日本に接近・上陸するかは、海面水温だけでなく、大気の流れや上空の風、湿り具合など多くの条件に左右されます。そのため、台風については、発生数、強度、雨量、進路を分けて考える必要があります。
また、同じ強さの台風でも、進む速度が遅ければ、同じ地域に長く雨を降らせ、被害が大きくなることがあります。台風のリスクは、単に「来る数」だけではなく、強さ、雨量、進路、移動速度が重なって決まるのです。
■災害になるかは気象現象だけで決まらない
温暖化によって雨量が増えれば、洪水や氾濫のリスクが高まりやすくなります。
河川の氾濫、浸水、土砂災害などにより、死者13人、行方不明者1人、負傷者14人、3000棟を超える住家被害が報告されています。この大雨については、地球温暖化の影響で総雨量が増加していたと報告されています。
ただし、豪雨や台風が災害になるかどうかは、気象現象そのものだけでは決まらないことも大切です。同じ雨量でも、山がちな地域か、低い土地か、都市化が進んでいるかによって被害は変わります。河川の管理、ダムや堤防、排水設備、避難情報の伝わり方、住民の備えも影響します。これは自然災害に共通することです。
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渡部 雅浩(わたなべ・まさひろ)
東京大学教授
東京大学大気海洋研究所気候システム研究系教授、専門は気象学、気候力学。2001年度日本気象学会 山本・正野論文賞、2012年度日本気象学会学会賞、2015年度日本地球惑星科学連合西田賞を受賞。気象庁異常気象分析検討委員会委員、国土交通省交通政策審議会部会委員、日本学術会議CLIVAR小委員会委員などの国内委員だけでなく、世界気候研究計画(WCRP)傘下の結合モデリング部会委員やIPCC第6次評価報告書の執筆者なども務める。著書に「絵でわかる地球温暖化」(講談社)など。
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(東京大学教授 渡部 雅浩)

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