日本のマンガは、世界からどのように評価されているのか。出版ジャーナリストの飯田一史さんは「日本は児童向けコミックの輸出で存在感が薄い。
欧米で日本のマンガが読まれるのは中学生くらいからで、小学生は読まない」という――。(第1回)
※本稿は、飯田一史『9割の日本人のための「ゆる読書」入門』(時事通信社)の一部を再編集したものです。
■欧米で急拡大する「児童向けコミック」
なぜ日本と海外でコミック読書に対する認識の差があるのか。
欧米の現状から見てみよう。
米国の図書館調査では、Z世代やミレニアル世代の過半数(59%)がテキストのみの本よりもグラフィック版(コミック)を選ぶと答えている(※1)。
ニールセンの調査によると、英国で2024年には児童向けグラフィックノベルの売上高が年間2020万ポンド(約38億円)、2025年には2600万ポンド(約57億円)と過去最高規模に拡大した(※2)。
日本のマンガが大人気で読まれている、わけではない。日本は児童向けコミックの輸出では存在感が薄い。
米国の学校図書館調査によると、高校図書館では「生徒に最も人気のあるジャンル」として65%が「マンガ(Manga)」を挙げる一方、小学校図書館では「ユーモア」ジャンルのグラフィックノベルが圧倒的1位(60%)であり、「マンガ」を1位に挙げたのはわずか1%だ(※3)。
■日本人だけが知らない大ヒット作品とは
欧米ではMANGAを読むようになるのは中学生くらいからで、小学生は読まない。海外で人気の日本のマンガのなかに、いまや『ドラえもん』のような児童マンガはほとんど含まれていない。
北米の出版市場調査会社Circana BookScanによると2024年の児童書部門のトップセラーは約130万部を売り上げたデイヴ・ピルキーの『ドッグマン』というコミック、2025年は1位がジェフ・キニー『グレッグのダメ日記』最新刊で約82万部、2位が『ドッグマン』の最新作で約77万部だった(※4)。

逆に、『ドッグマン』のような欧米産の子ども向けコミックが日本に紹介されることも少ない。翻訳版が刊行されてもなかなか売れない。たとえば2025年1月に世界各国で劇場公開されたアニメーション映画『ドッグマン』はヒットを飛ばしたが、日本では原作グラフィックノベルの翻訳は3巻で打ち切られ、映画は公開されなかった(配信では視聴できる)。
こうした日本の市場環境も、欧米が急速に「コミックも本物の読書」という考えに変わっていることが伝わってこない一因だろう。

※1:Kathi Inman Berens、Rachel Noorda「Gen Z and Millennials: How They Use Public Libraries and Identify Through Media Use」American Library Association、2023年

※2:Alex Call"Volumes of volumes: the graphic novels wave keeps rising",THE BOOKSELLER,2025.9.12

※3:「SLJ Graphic Novels Survey Summary Report 2023」School Library Journal、2023年

※4:Rich Johnston“Dog Man: The Scarlet Shedder Sold 1,266,780 Copies In The USA In 2024”Bleeding Cool、2025年1月11日

およびHeidi MacDonald“Graphic novel sales rose 9.2% in 2025”Comics BEAT、2026年1月9日
■図書館でコミックが認められた経緯
欧米でも、むかしはコミックに好意的ではなかった。北米でも1990年代以前、コミックは学校図書館や公共図書館では「本物」の本として認められてこなかった。
ではいかにして変わったのか。
ここから欧米と日本の「コミック読書」へのスタンスの落差の要因が見えてくる。
1990年代に粗悪な紙に印刷したペラペラのコミック・ストリップ(薄い雑誌形態のコミック)とは異なる内容と造本で刊行される「コミックス書籍」であるグラフィックノベルが台頭し、文学的なコミックが賞を獲るようになる。
さらにそのころからMANGAも日本のコミックス単行本のように200ページ前後の単行本フォーマットで、書店で販売されるように変化する。それ以前はスーパーヒーローもののコミック雑誌同様に、もっと薄い冊子形式で販売されていたが、外形的にも「書籍」になった。
さらに並行して、先ほどいったクラッシェンらによる「マンガを読むことは読書全体にとってプラスの効果がある」という考えが広がるといった変化も追い風となり、書店や図書館でもMANGAが購買されるようになる。


■「ハリポタ」の会社が人気に火をつけた
今日の盛り上がりの直接的なきっかけを作ったのは、老舗児童書・児童誌出版社のScholastic(スコラスティック)社だ。アメリカで『ハリー・ポッター』を刊行する権利を持っている会社である。
スコラスティックは2005年にGraphixという出版レーベルを立ち上げ、ジェフ・スミス『ボーン』のフルカラー版を刊行した。
『ボーン』はそれ以前に別の出版社で刊行されていたが、公共図書館の児童書担当者のあいだで「置いておくとめちゃくちゃ借りられるグラフィックノベルがある」とウワサになっていたのである。スコラスティックはここに目を付けた。
アメリカでは、MANGAにしてもいわゆるアメコミにしても、基本的には児童向けではない。
しかし児童が好んで読んでいるグラフィックノベルも一部にある。ということは、需要はある。だがそこには先行するコミック出版社は手を付けづらい。
■世界各地で次々ベストセラーに
なぜなら図書館、学校、保護者が求め、設定してきた「こういう表現は8~11歳向け」「こういう表現を含む場合は13歳以上」といったレギュレーション(自主規制)、レイティング(年齢区分)の勘どころが、当時のコミック出版社にはあまりわからなかったからだ。書店や図書館の児童書担当者がどんなことをすれば動くのかという児童書業界のセオリーに関しても、当然ながら児童書出版社のほうが熟知している。
まさにそうした児童書出版社であるScholasticは、図書館や学校、保護者が求める対象年齢や「教育的配慮」がどんなものかをよく知っていた。

『ボーン』を皮切りに、Graphixのタイトルは(日本を除く)世界各地で次々にベストセラーになった。国際的なコミックのアワードであるアイズナー賞を複数作品で受賞・ノミネートされ、十数作品がニューヨーク・タイムズのベストセラー入りを果たし、Circana Bookscanの児童グラフィックノベル部門のトップ20リストをほぼ独占する。
■文字を読む練習になるという評価
売れただけでなく、評価も変わった。
2023年のSLJの調査によると、公共図書館の96%が児童向けグラフィックノベルの棚を設置し、90%の公共図書館員が「読むことに困難を感じている読者」の読みの流暢さ(スムーズに読む能力)を高めるためにグラフィックノベルを推奨している、と回答している。アメリカの司書は、字を読むのが苦手な子にとって、コミックを読むことが文章を読む練習になるという観点からも評価している。
こうしてコミックは、
・調査によって文字の本と対立するものではなく、コミック以外の読書への呼び水にもなるとわかった

・作品・芸術として高く評価されるグラフィックノベルが台頭し、社会的なステイタスが向上した

・児童書出版社が参入し、保護者や司書、教師が安心して推薦できるタイトルが増えた
といった理由が重なり、重宝されるようになった。
日本でももう少しマンガ読書を家庭や学校、図書館でも広く認めた方が、読書の敷居を下げ、また、字だけの本が苦手な子も本の世界に入ってきやすくなると思われる。
■かつては覚醒剤と同列の扱いだった
まだ「マンガなんか読書とは認めない」と思っているひとのために、欧米でコミックがちゃんとした読書だと認められ、図書館に入りやすくなった背景について、よりくわしく整理してみよう。
①コミック読書に関する調査、研究が進展し、ポジティブな効果が確認され、共有された
かつてはコミックを読むと「バカになる」「暴力的になる」と語る大人が無数にいた。文字の本の読書を遠ざける、低俗で害のあるメディアだと思われてきた。
日本でも1950年代後半に最初のピークを迎えた「悪書追放運動」では、マンガはヒロポン(覚醒剤)と並べて非行の原因と決めつけられ、燃やされた。子どもがマンガを次々と読んでいく様子は「シャブ中と同じだ」などとまじめに論じられていた。

たとえば高橋健二「悪書は良書を駆逐するか」では「努力なしに読める漫画や俗悪な物語は、惰性的にいくらでも読める。ヒロポンのように、ぐったりしながら」と形容されている(※5)。
■科学的な研究で証明された効果
常識的に考えて、違法の向精神薬と本は同じ効果を持ちえない。
また、ヒロポンはシャキッとするのであり、ぐったりはしない。したがって比喩としてもおかしい。批判派の科学的なリテラシーはこの程度のもので、思い込みでマンガを攻撃していた。
こういう非科学的な偏見は、読書研究の世界では過去のものだ。
クラッシェンをはじめ、中立的なスタンスで研究すると、コミックの読書には悪い効果は見られない、むしろいいことのほうが多いという結果が次々に出てきた。たとえば
・生徒の読解スキルを向上させる

・学校のカリキュラムの一部にグラフィックノベルを使うことで、複雑なアイデアや批判的リテラシーの理解を高める
といったものだ。
英国NLT(国立識字基金)の子ども・若者のコミックの読書の調査報告書を見ても、ほとんど良い影響しか書かれていない(※6)。
コミックを読む子ども・若者は、読まない子どもより「読書を楽しむ」割合が約2倍(58.6%対33.1%)高い。また、毎日何かを読む割合が、読まない子どもより高い(35.7%対22.8%)。

コミックは、より複雑なテキストへのかけはしとなり、ウェブコミックの活用が学びの理解力向上につながる。

※5:「學鐙」52巻6号、40p、丸善、1955年

※6:"Children and young people’s engagement with comics in 2023"、National Literacy Trust、2024年
■絵と文字を組み合わせるメリット
また、多くの読者が、コミックを通じて現実世界の不安や心配から一時的に解放される感覚を得るなど、メンタルヘルスへのよい影響を感じている。子どもの声として
「コミックは現実世界に影響を与えないフィクションの宇宙だから、心配ごとから心を離すのを助けてくれる」

「世界がみじめに見えなくなる」
などが挙げられている。ファンタジーやSF、ロマンスのコミックを読むことが、前向きでいられる手助けとなっているのである。
また、字を読むことに困難を感じる子たちにとっては、絵と文字の組み合わせが、読書への抵抗感を減らす。なお、「字を読むのが苦手」とひとくちに言っても、そこには多様なひとたちが含まれる。
たとえば学習障害(LD)に分類される、生まれつきの脳の特性によって、努力しても読字能力の向上に限界がある発達性ディスレクシアのひと。あるいは知的障害のひともいるし、ADHD(注意欠如・多動症)で集中力がつづかないといったひともいる。また、移民や移民二世で言語のカベがあって読めない場合、ネグレクト(育児放棄)によって基本的な教育を受けられなかった、あるいは強いストレスや精神疾患が原因で「文章が頭に入ってこない」場合もある。もちろん、視覚や認知、脳機能などにかかわるさまざまな課題によって読みにくい、読めない場合もある。
■自分で自由に本を選ぶ体験の重要さ
2025年調査によれば「読書を楽しんでいない」と答えた層でも23.0%が紙のコミックを読み、12.0%がタブレットなどの画面上でコミックを読んでいる。さらに、多くの読者がコミックを読むことで「自分でもコミックや詩の創作をしてみたくなった」とも言っている。


スコラスティック社も、コミックに限らず自社の子ども向けの本事業を後押しし、より普及させるのに必要なエビデンスを獲得するべく2006年から調査報告書の刊行を始めている。
同社の報告書では、子どもたちの89%が「自分で選んだ本が一番好き」と回答している(※7)。自分で自由に選んで読み切る体験は重要だ。そしてコミックはそういう経験をつくりやすい。
日本でも広く大人に、そして学校や図書館現場、あるいは行政や政治家にもマンガ読書の効用が正しく共有され、具体的な予算獲得につながることが望まれる。

※7:Scholastic Inc. "Kids & Family Reading Report: 7th Edition" 2019年
■児童向けとティーンズの明確な境界
②レイティング(年齢区分)制度を確立した
ここまで読んできて、「そうは言っても、マンガは『これ、子どもに読ませて大丈夫なの?』と思うタイトルが多すぎる」と感じた方もいるかもしれない。その不安はもっともだ。
欧米ではこの問題は日本よりはクリアされている――逆に言えば日本では制度的な不備がある。
たとえばスコラスティック傘下のレーベルGraphixはミドルグレード(8~12歳または小3~中1)向けに設定されている。スコラスティックはほかにも
・4~7歳向けのレーベルAcorn

・5~8歳向けのレーベルBranches

・YA(ヤングアダルト。13-18歳向けの本。日本では「ティーンズ」などとも呼ばれる)でも日本マンガスタイルの作品や人気小説のグラフィックノベル版などを展開と分けてラインナップを用意している。
児童書・YAの世界では明確に読者の年齢を区切り、レイティング(年齢区分)を読者・購買者に示す。そうしないと書店や図書館で扱ってもらいづらい。だからコミックについても同じようにレイティングする。
■コナンが欧米では「小学生NG」なワケ
そのコミックに暴力表現や性表現、裸体描写などがどのくらいあるのか、司書も保護者も気にする。大人が触れさせたくないレベルの表現から、子どもを遠ざけられるようにしなければならない。
この点が、MANGAはいわゆる少年マンガ、少女マンガでも欧米ではほとんどが13歳~18歳というYA/ティーンズのカテゴリーに分類される理由である。
たとえば青山剛昌『名探偵コナン』は、殺人描写があるため欧米ではハイティーン(以上)向けになることが多い。戦いや殺人描写は、鳥山明『ドラゴンボール』のかめはめ波のようなファンタジー的な表現よりも、リアルな銃殺表現などのほうがきびしく見られる。
また、「12歳以下でもOK」「13-18歳向け」といったレイティングを逸脱しない内容でシリーズ全巻が統一されていることが図書館現場からは求められる。ところが日本のマンガでは、シリーズ序盤はコミカルだったのに徐々にシリアスになり、表現もエスカレートするのがめずらしくない。
■日本の「曖昧な年齢基準」がもたらす課題
また、日本の少年マンガの作家は軽いノリで肌や下着を露出させるシーンを描きがちだ。これもレイティングが上がる要因だ。実際、過去には「12歳以下でもいいというレイティングだったのに、裸体表現がある」と図書館にクレームが来る、といったことが生じてきた。
日本でも「小学生や中学生も読むマンガ雑誌なのに表現が過激すぎる」といった批判は何度も巻き起こり、そのたびに各社が自主規制の水準を変更してきた。そのため、むかしと比べると少年マンガや少女マンガの暴力、性表現の自主規制はおおむねきびしくなってきている。
ただ欧米とは異なり、コミック出版社と図書館や書店のあいだで「おおよそこういう表現は何歳までは避ける」というコンセンサス、基準が設定されていない。児童書のように「何歳(何年生)以上推奨」と明示する商習慣が、マンガ業界ではポルノを除けば根付いていない。
パッケージからは「これは小学校低学年でも内容的に読めるのか、読んでいいのか」がわからない。つまり司書や教員からするといちいち中身をたしかめないと
「これは小学校に置いていいのか」

「児童書コーナー、ティーンズのコーナー、一般書の棚、どこに置くべきなのか」

「誰でも手に取れる開架にではなく、問い合わせがあったら書庫から出す閉架にすべきか」
が判断できない。保護者も自分の子どもの年齢に合っている作品なのかがわからない。
日本でもマンガ読書を学校や図書館、家庭に広げやすくするには、出版社側の工夫や配慮が不可欠だ。

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飯田 一史(いいだ・いちし)

出版ジャーナリスト・ライター

1982年青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。出版社にてカルチャー誌やライトノベルの編集者を経て、独立。マーケティング的視点と批評的観点から出版産業、読書調査、子どもの本、マンガ、ウェブ小説、ウェブトゥーン等について取材、執筆している。著作に『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』『「若者の読書離れ」というウソ』(平凡社)『いま、子どもの本が売れる理由』『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)『作文ぎらいのための文章教室』『ウェブ小説30年史』『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社)など。

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(出版ジャーナリスト・ライター 飯田 一史)

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