※本稿は、深津貴之、けんすう(古川健介)、尾原和啓『メタスキル 努力の価値が変わる時代の「AI×自分」戦略』(NewsPicksパブリッシング)の一部を再編集したものです。
■就職活動は「面接でうまく話せるか」ではなく「早い者勝ち」
メタゲーム的な思考を理解する上で、一番わかりやすい例が「就職活動」なのではないか、と思っています。
多くの学生さんは、「いかにテストで高得点を取るか」とか「いかにエントリーシートを魅力的に書くか」「面接でいかにハキハキ話すか」という、決められたルール内での最適化に、すごく一生懸命になります。でも、これは「ゲームの中のゲーム」で必死に戦っている状態です。これだと、「優秀で、学生時代にも特別な経験をした人」や「話がうまい人」など、元々その就活のゲームに強い人が内定を取ることになります。
一方で、メタゲーム的な思考を持つ人は、まったく別の動き方をします。
学生は受験などのテストに慣れているので「そのテストの中でいかに高い点数を取るか」をイメージしがちですが、実は就活は、早い者勝ちなのです。
■早ければ早いほど採用基準は低い
どういうことかというと、採用には大体目標があります。今年は100人採用しよう、みたいな感じですね。そして、採用担当者は、その目標の達成度合いによって、評価が決まって、給料が変わったりします。
その場合、採用担当者というプレイヤーはどう動くでしょうか。
つまり、4月1日と、4月30日では、もはや採用基準が全然違う、ということすらあり得ます。
そうなると、就職活動生がやるべきは「最速で面接を受けること」になります。僕は第一志望の会社の採用活動がスタートする4月1日の一番早い時間に面接の予定を入れ、二次面接の予定は4月2日に入れてもらいました。そして、その日のうちに内定をもらったのです。つまり、一番採用基準が低い時に面接ができるように調整したわけですね。
万全の準備をしたいからという理由で、5月以降に受けた人とはもう難易度が全然違います。というのも採用人数には限りがあるので、初期に採りすぎた場合は内定基準が極めて高くなるからです。「前に内定出したけど、やっぱりなしね」とはできないので、自ずとまだ採用が決まっていない人に対する基準が厳しくなるわけです。
■採用担当者の目標を想像できれば「就活ゲーム」に勝てる
または、「志望企業の採用担当者が、実はSNSで熱心に発信している」という事実を見つけたら、その発信に対して非常に質の高い反応を送り続けたりします。「この投稿を見て、応募したくなった」などと書いてリポストしたり、といったことですね。
採用担当者は、おそらくSNSでの就活生の反応を見ているわけですし、その反応が良ければ、上司からの評価が上がるわけです。
このように、就職活動を「自分の能力をアピールして、高い点数をつけてもらうゲーム」と考えると他の人と同じゲームになりますが、「採用担当者の目標やゴール、出世への道を想像して、そこをいかにサポートするか」というゲームにしてしまうと、まったく別の戦い方が出現するわけです。
こうすると、従来の「就活に強い人」でない人でも、ゲームに勝ちやすくなったりします。
■資本主義社会はお金持ちが圧倒的に有利
人生において、このメタゲームの概念を持っていると、弱者が構造的に勝てる戦略が見えやすくなります。
僕たちの世界の基盤ともなっている金融資本をめぐる勝負について考えてみましょう。
今の世の中にあるように、資産の額を勝利条件として考えると、強者が強すぎるんです。新NISAとかでコツコツ投資する人が増えましたが、投資で一番強いのは、シンプルにお金を持っている人です。
100万円持っている人が5%で運用すると年に5万円増えていきますが、10億円を持っている人が5%で運用すると、年間5000万円程度増えていくわけです。さらに、そのまま、20億円まで資産が増えれば、年間に増えるお金は1億円まで膨れ上がります。さらに複利の効果もありますから、資産が大きければ大きいほど、雪だるま式に増えるわけですね。
この「総資産ゲーム」の盤面上では、強者が勝ち続ける構造ができあがっています。
でも、評価軸(KPI)を変えて、別のゲームを定義するとどうでしょうか?
■イーロン・マスクはお金はあっても自由な時間はない
たとえば、世界トップクラスの資産家であるイーロン・マスクは、圧倒的な金融資本を持っていますが、一方で「自由な時間」は極限まで削られているはずです。
旅行ブロガーや旅行YouTuberは、相当な時間が必要なので、イーロン・マスクに勝てるかもしれません。彼は絶対に、「1年間、貧乏旅をして、YouTubeで配信する」みたいな贅沢なことはできないはずです。
「たくさんの思い出を作ることが人生においての勝利条件」と、勝利条件を変えてしまうと、「各駅停車で日本縦断貧乏旅行をしてすごく楽しかった」といった思い出を作れたあなたは、イーロン・マスクよりも良い思い出を持っている、とできる可能性もあります。
■AIの時代こそ「非効率」が価値を持つ
以前、写真家の丸山晋一さんが、ニュージーランドの洞窟で「月虹(ムーンボウ)」を撮るために30時間かけたがうまくいかなかったというnoteを見ました。
AIを使えば、どんなに美しく幻想的な虹の画像も、今や10秒足らずで生成できてしまう時代です。そこを、真夜中に、暗闇の中を歩きながら奇跡の瞬間をただひたすら追い続ける。そんな、効率性から見れば「非実用的」でしかない時間の使い方は、分刻みで動く強者には絶対に不可能なプレイングです。
AIによって精巧に作られた「100点の正解画像」があふれ返り、その価値が暴落していくからこそ、その1枚の背景にある「30時間、苦労して写真を撮ろうとした」というナラティブには、AIには決して真似できない代替不可能な価値が宿ります。
「効率」ではなく「実体験の濃さ」を勝利条件に据えれば、強者が手出しできない領域で構造的に勝利を収めることができる。「競争から降りる」のではなく、「自分が勝てる別のゲーム盤に書き換える」のが、メタゲームの真髄なのです。
■強者は非効率や非合理を嫌う、そこに弱者の特権がある
メタゲームを攻略するために僕がよく考えているのが、「非対称戦略」です。
多くの人は、あらかじめ決められたルールや評価軸の中でいかにうまく立ち回るかという「ルール内最適」を目指しますが、資本力とAIの演算能力で勝る強者の前では、その努力はすぐに無効化されます。弱者がメタゲームで勝つためには、強者が有利になる「暗黙のルール」をAIに客観視させた上で、その逆を突く「非対称戦略」を取る必要があります。
これは市場の論理から見れば、非効率極まりない馬鹿げた行動に映るでしょう。しかし、メタゲーム的な視点で見れば、これほど理にかなった行動はありません。
何より、「効率」と「最適化」を追求することで勝ち上がってきた彼らの巨大なシステムには、こうした「手触りのある非合理」を許容する余白が最初から存在しないのです。つまり、これは「強者が合理的な判断ゆえに模倣したくない(できない)非合理」にあえてリソースを投下する、弱者の特権を活かした戦術なのです。
■強者が捨てた場所こそが「弱者の聖域」
強者が採用している「効率」や「リーチ数」という評価軸をAIに整理させ、あえてその逆、あるいは強者が合理的判断ゆえに模倣したくない「非合理」に活路を見いだす。それが、強大すぎるアルゴリズムの引力から自由になり、自分らしい方法で勝利するための近道なのだと、僕は思っています。
僕が学生時代にやっていた掲示板の運営も、まさにこの「弱者の戦い方」でした。
当時、インターネット会社はほとんどなく、まともな株式会社は「リスクが高すぎる」という理由で匿名掲示板には手を出せませんでした。管理が大変なわりに儲からないし、何が起こるかわからない。だから、「時間はあるけど失うものがない」暇な学生だった僕やひろゆきさんくらいしか、そのゲームをプレイしていなかったんです。
強者が「合理的判断」として捨てた場所に、弱者が「時間」という資本を投下して居座り続ける。すると、そこがいつの間にか巨大なコミュニティになり、強者が後から入りたくても入れない独自の聖域になる。これもまた、AI時代に個人が組織を凌駕するための、1つの形です。
■「勝たなくていい」ではなく「違うゲームで勝とう」
ここまで、「戦うゲームを変える」という話をしました。
この話をすると、「みんなが価値を置いているところじゃなくて好きなことをやろうね」とか「ゲームから降りてもいいんだよ」というような、達観した考えだと捉えられることもあるんですが、そうではなく、「みんながやっているゲームとは違うゲームで、きちんと勝っていこう」ということに近いなと思っています。
たとえば、みんなが「ヒット」を狙おうとする時に、「ヒットなんかしなくていいから自分の納得するものを作ろう」ではない、ということです。どちらかというと「ヒットしなくてもいいから長く売ることで利益が得られるようにしよう」とか「同じ製品なんだけど、違うターゲットユーザーに売ろう」とかのイメージに近いです。
書籍だとしても「たくさんの部数が売れれば成功」という軸ではなくて、「部数はそこまででもないが、その本によってコミュニティができて、そのコミュニティの月額課金によって、100万部売れるよりも売上が上がる」というのも1つの成功、みたいなゲームの変え方はどうか、ということですね。
もちろん「売上」を目標とせずに「本を出したことによってより有名になり、チヤホヤされてめっちゃ人生が幸せになる」とかにしてしまうのもありです。とにかく「部数を売れば成功だ」という常識的なゲームで戦う以外の道もあるし、そのゲームで勝つこともできるよ、ということです。
■ゲームのルールは時代ごとに常に変化している
今の社会の中で動いているゲームのKPIは、とてもシンプルな形になっています。
企業なら利益を出すこと、個人ならお金を稼ぐこと、といったような感じです。
そういったものが、ゲームのルールのように思われがちです。
ただ、今は少し状況が変わってきています。
たとえば、100億円の利益を出している会社と、1億円の利益だけれど社会に大きな価値を生んでいる会社があったとします。
以前なら、100億円のほうが「圧倒的にすごい」と言われていたでしょう。
でも、今は必ずしもそういう評価にはなりません。
社会の価値基準が、少しずつ多様になってきているからです。
「利益はすごいが詐欺に近いことをやっていた」みたいなものは昔から当然評価されなかったと思いますが、今では「どのようなスタンスで、どのような思いを持って、どのような文脈でそのビジネスをやっているか」まで見られることもあります。
つまり、今までは「このゲームで勝つしかない」と思われていた世界から、多様な価値が認められ、他のゲームで勝負することもできる世界に変わってきているのではないかなと考えています。
時には負けることもあるかもしれませんが、僕自身は戦略を練って負けたとしても、試すことができて、その知見も増えるし、楽しいよね、と感じています。
そうした時代背景をもとに自分なりのゲームを考えていく時に、生成AIと一緒に考えるとよさそうなことなどをまとめていきたいと思います。
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深津 貴之(ふかつ・たかゆき)
note CXO、THE GUILD CEO、インタラクション・デザイナー
1979年生まれ。武蔵工業大学(現・東京都市大学)卒業後、2年間のイギリス留学でプロダクトデザインを学んだあと、株式会社thaを経て、Flashコミュニティで活躍。独立以降は活動の中心をスマートフォンアプリのUI設計に移し、クリエイティブユニットTHE GUILDを設立。メディアプラットフォームnoteのCXOとしてnote.comのサービス設計を担当。著書に『先読み!IT×ビジネス講座 画像生成AI』(共著)、『Generative Design-Processingで切り拓く、デザインの新たな地平』(監修)、『UI GRAPHICS ―世界の成功事例から学ぶ、スマホ以降のインターフェイスデザイン』(共著)など。
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けんすう(けんすう)
アル社長、連続起業家
学生時代からインターネットサービスに携わり、2006年株式会社リクルートに入社。新規事業担当を経て、2009年に株式会社ロケットスタート(のちの株式会社nanapi)を創業。2014年にKDDIグループにジョインしSupership株式会社取締役に就任。2018年から現職、Podcastの記事化ができる「Pody」の運営やAIとIPを掛け合わせた共創事業などを手がける。
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尾原 和啓(おはら・かずひろ)
IT批評家
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用システム専攻人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート(2回)、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、オプト、Google、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー等を歴任。著書に『アフターデジタル』(共著、日経 BP)、『ITビジネスの原理』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎 NewsPicks book)、『プロセスエコノミー』(幻冬舎)など多数。
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(note CXO、THE GUILD CEO、インタラクション・デザイナー 深津 貴之、アル社長、連続起業家 けんすう、IT批評家 尾原 和啓)

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