※本稿は、山極寿一、田島木綿子『人間が失いかけた ゴリラ・イルカの仲間を信じる力』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■現地の人と信頼関係を作る方法
私が、どのようにして現地の人と信頼関係を作ってきたかについて、少しお話しします。
一緒に食事をしたり酒を飲んだりダンスをしたりといったことはもちろんで、それについてもいろいろと面白おかしくお話しできそうなエピソードはあるのですが、それらはひとまず置いておいて、私はあるルールを自分に課しています。それは「味方を作らない」ということです。
が、これはあくまでもフィールドワークの最初の段階でのことです。いつまでも味方を作らずに地元の人たちと距離を置いたままでは、これはこれでフィールドワークにはなりません。
最終的には、地元の人たちと肝胆相照(かんたんあいて)らす仲にならないと実(み)のある調査はできないばかりか、逆に地元住民の反発を買ってしまって調査が立ち行かなくなってしまうことにもなりかねません。
ですから、最終的には味方を作るのですが、最初は味方を作らないし敵も作らないという考え方からスタートして、だんだんとじっくりと時間をかけて、信頼できる仲間を作って、地元の人たちと信頼関係を深めていきます。
■頑張って無理に勝ってしまわない
さらに、自分が騙されそうになったり、敵対したりしたときに、頑張って無理に勝ってしまわないようにしています。圧倒的に勝ってしまうと、「この人は助けなくても自分で何でもやっていける」と思われて、人々が遠ざかってしまうことがあります。
むしろ、少々騙されても、気のいい人間であることを示せば、「こいつは助けてやらんとな」と近寄ってきてくれるのです。
このように信頼関係を作るにはとても時間がかかります。信頼関係はインスタントには構築できないのです。
こうした経験を踏まえて、私が現代の人間関係において重要だと考えているのは、「自分と気が合わない人とあえて付き合う」ことの大切さです。
SNSなど文字や言葉によるコミュニケーションに頼りすぎていると、多くの人はSNSやメールでメッセージを受け取った瞬間に自分にとって都合のいい話か耳の痛い指摘かを判断することができます。
もしかしたら送信者の名前を見て、「あいつの言うことはいっさい聞かない」などとスルーしてしまうこともあるかもしれません。
文字や言葉だけでバーチャルなコミュニケーションばかりしていると、こういったことが起きてしまいます。
■気が合わない人と付き合う効用
一方、対面で人に会い、身体的なコミュニケーションを含めて対話をしていると、自分にとって耳の痛い話でも、その話がひとまず終わるまでは耳を傾けなければなりません。対面して相手の表情や身振り手振りを見ていると、相手が自分のことを慮(おもんぱか)ってあえてこんな耳の痛い話をしてくれているんだな、と感じられることもあるでしょう。
もう少し話を聞いてみようかと思うようになるかもしれません。こういったことが信頼関係の構築には不可欠なのです。
自分と気が合う人とばかり付き合っていると、話はよく通じるし、気分を害することがないから楽です。でも、相手も同じようなことを考えているから、新しいことに気がつく機会が少なく、発展性がありません。
気が合わない人と付き合っていると、価値観の違いから、別の見方に気がつき、今まで考えていなかったことに出合う機会が増えます。
気が合わないと思った人でも、付き合っているうちに親しくなることもあります。そういった付き合いは自分の幅を広げることに繋がるのです。
■「一緒に食事をする」のは人間だけ
もう1つだけ、少しやわらかいお話を。人が人との関係でお互いに共感し合い、信頼関係をうまく作り上げるために、私が今の世の中だからこそ必要だなと思うことがあります。
それは、「一緒に食事をする」ということです。
動物の中で食物を分け合う、子どもなどの家族以外と分かち合うのは人間だけです。
サルは分け合いません。強いサルがいわば独り占めです。類人猿は「たまに」分け合います。
分け合うのは、ゴリラでは果物、チンパンジーでは肉が多いのですが、それでも仲間から「欲しいんだけど、くれない?」と求められない限り、分け合うことはしません。
それともう1つ、人間と決定的に違うところ。それは、仲間が待っているところにまで食物を持ち帰って分け合うようなことは絶対にしない、ということです。
人間は、たとえば山に狩りに行って獲物を捕らえたら、持ち帰ってきてその集落の仲間と分け合ったりしますよね。山菜採りやキノコ狩りや潮干狩りでも、自分の必要以上の量を採って持ち帰ります。
もちろん動物でも、たとえば巣穴にいる子どもに獲物を持って帰って与えるといったことはしますが、家族以外の仲間がいるところにまで獲物を持ち帰って分け合うことはしません。ゴリラなど類人猿でも、餌を捕れた場所、食物がある場所でしか分け合わないのです。
■「共食」で信頼関係ができる
この人間だけがする「わざわざ持ち帰って分け合う」という行為、つまり「共食」は人間特有のもので、分け与える範囲も家族や仲間だけでなく、その場にいた見ず知らずの人にまで及ぶこともあります。
この「共食」という習慣は、実は人類の初期の祖先の時代に培(つちか)われ、その後、延々と人類に受け継がれてきた、いわばDNAのような「社会性」です。今を生きている人たちにも、身体の中に埋め込まれている、そう感じます。
そんな視点で考えると、たとえば各国の首脳同士が会談した後になぜ食事をするのか、どこかの国から要人が来日すると、なぜ日本の首相は「銀座のすし屋」に連れていくのかなども理解できるでしょう。ただおいしい料理をご馳走しているわけではないのです。
一緒に食事をすることは、あまたいる動物の中でも人間だけがする「共食」の習慣の表れであり、人間が社会を作り上げるために、ずっと以前から実践してきたことの一つです。
企業のトップ同士が「今度、お昼でも食べながら話しましょう」などと約束するのも、食事を共にすることで共感し合え、お互いの理解を深め合うことができ、信頼関係を構築しやすくなるからなのです。
だから、私は今の時代において、仲間と「一緒に食事をする」ことは、仲間を信じて信頼関係を構築するのに大切な役割を果たすと考えています。
在宅勤務、オンラインでのミーティング、フレックスな働き方などで人と直接に会う機会が少なくなりつつある今だからこそ、もう一度、あえて「会って一緒に食事をする」行為について考えてみるのは、おおいに意味があると感じています。
----------
山極 寿一(やまぎわ・じゅいち)
霊長類学者・人類学者
1952年東京都生まれ。京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士後期課程単位取得退学。理学博士。83年に財団法人日本モンキーセンターリサーチフェロー、京都大学霊長類研究所助手、京都大学理学研究科助教授、教授、京都大学総長等を経て、総合地球環境学研究所所長。アフリカの奥地で40年を超える研究歴を有し、ゴリラ研究の世界的権威。著書に『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』(家の光協会)、『ゴリラからの警告』(毎日文庫)、『共感革命』(河出新書)、『森の声、ゴリラの目』(小学館新書)、共著に『ゴリラの森、言葉の海』(小川洋子 新潮文庫)、『虫とゴリラ』(養老孟司 毎日文庫)、『動物たちは何をしゃべっているのか?』(鈴木俊貴 集英社)など多数。
----------
----------
田島 木綿子(たじま・ゆうこ)
国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹
1971年埼玉県生まれ。獣医・海獣哺乳類学者。
----------
(霊長類学者・人類学者 山極 寿一、国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹 田島 木綿子)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
