ネガティブな状況下で、一流はどんな言葉を使うのか。スピーチコンサルタントの阿部恵さんは「ネガティブな状況をそのまま伝えるのではなく、次につながる前向きな言葉に変えることは、重要な技術だ。
例えば、青山学院大学陸上競技部の原晋監督は、第100回箱根駅伝の直前にアクシデントがあった際に、逆境を前向きな言葉へと変換し、チームを鼓舞した」という――。
※本稿は、阿部恵『一目置かれるリーダーの戦略的話し方』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■NG発言をOK発言に変える視点と言葉
政治家や企業トップの発言が炎上する場面は、決して珍しくありません。しかし、こうした発言の多くは、必ずしも悪意から生じているわけではなく、多くの場合、「視点の置き方」と「言葉の選び方」に問題があるケースがほとんどです。
NG発言を防ぐ一番の方法は、「誰の立場で語るか」を考えることです。
トップリーダーの言葉は、多くの人に届きます。テレビの向こうの視聴者、SNSのフォロワーやユーザー、その発言の当事者。さまざまな立場の人が、その言葉を受け止めます。だからこそ、自分の立場だけで語るのではなく、聞く側の視点を想像することが重要です。
具体的には、次の2つのポイントに気をつければよいでしょう。
ポイント①:視点を「自分」ではなく、「相手」に置く

リーダーが発言するとき、「自分はこう思う」という言い方だけでは、誤解を招くことがあります。「相手がどう感じるか」「当事者はどう受け取るか」を想像しましょう。

特に、災害や生活に関わるテーマでは、発言を聞く人の中に当事者がいる可能性があります。その人たちの立場に立って考えれば、言葉の選び方は自然と慎重になるはず。聞き手の視点を意識するだけで、言葉の伝わり方は大きく変わります。
ポイント②:強い評価言葉を避ける

「意味がない」「排除する」といった強い言葉は、この部分だけを切り取られた場合、相手を傷つけたり、対立を生んだりする可能性があります。評価を断定するよりも、状況や姿勢を語るほうが、メッセージは伝わりやすくなります。
■逆境を前向きにする青学・原晋監督の言葉
言葉選びの観点で参考になるのが、青山学院大学陸上競技部の原晋監督です。
たとえば、2024年、第100回箱根駅伝の直前で、チーム内でインフルエンザが広がり、主力選手が相次いで体調を崩すというアクシデントがありました。原監督自身、「もうシードを取れるかどうかというレベルだった」と振り返っています。
しかし、監督は、そこで悲観的な言葉を口にするのではなく、
「早めに疲れが取れてよかったね」
と、前向きな言葉を選び、チームに声かけをしました。本来であれば、不安を口にしてもおかしくない場面でしたが、原監督は逆境を前向きな言葉へと変換したのです。
これなどは、ポイント①、相手(学生)がどう感じるかを意識した言葉選びといえるでしょう。ネガティブな状況をそのまま伝えるのではなく、次につながる前向きな言葉に変える。
こうした言葉選びは、組織を率いるリーダーにとって重要な技術です。
■菊池風磨が発した、言葉のリスク管理の本質
もうひとつ、言葉の受け取られ方を考える上で、印象的な発言があります。
男性アイドルグループtimelesz(タイムレス)の追加メンバーを決定するオーディション番組「timelesz project-AUDITION-」で、メンバーの菊池風磨氏が発したコメントです。
番組の中で、応募理由を聞かれたオーディション参加者の一人が、
「僕とtimeleszの皆さん、そしてsecondz(セカンズ)(timeleszのファンの名称)の皆さん、全員がまだつかめていない、“本物の景色”をつかみに来ました」と語りました。
この発言を聞いた菊池氏は、それは自分たちのそれまでの歩みが、本物じゃなかったということか? と確認した上で、彼にこう言ったのです。
「ひとつの言葉が、受け取り手によって、悲しくも聞こえるし、プラスにも聞こえる。いろいろな側面から言葉を考えてほしい」と。
このシーンを観たとき、私はハッとしました。
たしかに、この番組を観た人がtimeleszの前身であるSexy Zone時代からのファンだったら、自分たちが応援してきたグループを侮辱されたと受け取るかもしれません。あるいは、高圧的に受け取られて反感を買う可能性もあるわけです。
菊池氏は、芸能界を志す者の「言葉選び」の大切さを説いたのですね。
まさに、言葉のリスク管理の本質をついた指摘ではないでしょうか。

発言する側がどんな意図を持っていても、受け取る側の立場によって意味は変わる。だからこそ、言葉は多くの視点から考える必要があるのです。
■NG発言をOK発言に言い換える
では、実際にどう言い換えればよいでしょうか。
NG発言を例に、一緒に考えてみましょう。
NG発言①(決算説明会でのCEO発言)

記者「今期は大幅減益となりましたが、その原因をどのようにとらえていますか?」

CEO「戦略自体は間違っていなかったと思います。ただ、実行が伴わなかったことが要因です」
本人にそのつもりはないのでしょうが、これでは責任を現場に押し付けているようにも聞こえてしまいます。社員の士気を下げるだけでなく、投資家にも「経営陣の統率力不足」を印象づけてしまいます。
これを、次のように言い換えてみましょう。
OK発言①

CEO「今期は市場の変化に対応しきれませんでした。社員とともに力を合わせ、来期は成長軌道に戻します」
OK発言では、社員の非難を避け「ともに」を強調しました。これなら、社員・投資家双方に前向きな姿勢を示し、信頼を維持することができます。
NG発言②(今村雅弘〈復興相〉2017年、東日本大震災被害についての発言)

今村氏「まだ東北でよかった。
これがもっと首都圏に近かったら、甚大な被害だった」
この発言は被災者の感情を深く傷つけ、「被害の大小」を比較したと受け取られました。これを言い換えると、どうなるでしょうか?
OK発言②

今村氏 「東北でこれほどの被害が出た。一刻も早い復興に向けて、全力で取り組まなければならない」
こう語るほうが、リーダーとして深刻に受け止める姿勢が伝わるでしょう。
言葉を変えるというのは、単なる言い換えではありません。
トップリーダーの言葉には、組織の姿勢や価値観が表れます。だからこそ、「どの立場から語るのか」をつねに意識することが必要です。これがリスク管理の本質であり、一目置かれるリーダーの「戦略的話し方」の要なのです。

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阿部 恵(あべ・めぐみ)

スピーチコンサルタント

元TBS系列中部日本放送アナウンサー、元国会議員政策担当秘書。神奈川県川崎市出身。中部日本放送(CBC)にアナウンサーとして入社。CBC「サンデードラゴンズ」キャスター、TBS「おはようクジラ」中継キャスター等を歴任。TBS系列28局の中で最も優れたアナウンサーに与えられる「アノンシスト賞・最優秀賞」ほか、数々の賞を受賞。
その後、フリーアナウンサーとして活動したのち、出産を経て、キャリアチェンジ。国会議員政策担当秘書資格を取得し、政財界のトップリーダー、官僚らとやりとりしながら政策立案、国会質問原稿作成、選挙戦略策定等に従事。有権者にきちんと伝わる説明や話し方指導を行う。政治家や元総理夫人、上場企業の社長・役員、弁護士等のトップリーダーから企業研修まで、これまで6000人以上にスピーチ指導を実施。

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(スピーチコンサルタント 阿部 恵)
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