カプセル式コーヒーマシンに注目が集まっている。なかでも米国でシェアNo.1の「KEURIG(キューリグ)」は、日本でも6年で家庭用の売り上げを8倍に伸ばした。
タリーズコーヒーや丸山珈琲など20以上のブランドのカプセルを1台で選べるのが最大の特徴だ。本来は競合するはずのブランドが同じ棚に並ぶという業界の常識外れを、なぜ実現できたのか。運営会社カップスの西本圭吾社長に取材した――。
■2001年日本上陸、転機は7年前
KEURIGが米国で生まれたのは1998年。日本に上陸したのは2001年で、当初は業務用が中心で、長らく地味な存在だった。2019年に転機が訪れる。運営がUCCから、コーヒー豆の焙煎やコーヒー商品の製造販売などを担うグループ会社のユニカフェに移ったのだ。
さらに2020年4月に事業会社カップスが発足する。ユニカフェ時代からすでに複数ブランドのカプセルを扱う構想は始まっていたが、それを本格的に育て上げたのがカップスだ。
簡単にカプセル式コーヒーマシンの仕組みとビジネスモデルを紹介しよう。KEURIGの場合、専用のコーヒーマシンにカプセルと水をセットして、湯量を設定してスタートボタンを押すだけだ。カプセルにお湯が注がれ、ドリップコーヒーならではの蒸らし工程を経てコーヒーが抽出される仕組み。

通常のコーヒーマシンのようにフィルターをセットする手間はなく、使用後はカプセルを捨てるだけと手軽。1杯あたり、数十秒でコーヒーを入れられる手早さも魅力だ。
■7300円のサブスクなら1杯約121円
現在、コーヒーマシンは2モデル(カラーバリエーションを含めると6種類)用意されており、1万7000円~(カプセル24杯分付き)のスターターセットか、7300円~のサブスクリプションモデルで、60杯分のカプセルが選べる「よりどり定額便60杯 マシン付き」で始められる。サブスクリプションは毎月、2カ月ごとなど配送のタイミングが選べる仕組み。カプセルはWebサイトで組み合わせられる。
長く続けてもらうほど得をする設計も特徴だ。1年(12回)以上継続すると、第15代ワールド・バリスタ・チャンピオンの井崎英典氏が手がける「HIDE IZAKI」など通常1回の注文で1箱しか選べないSELECTカプセルが2箱まで選べるようになるほか、コーヒーマシンを70%オフで買い換えられるクーポンなどが得られる。
さらに18カ月続くと、丸山珈琲のゲイシャ GIFT BOXが選べるようになったり、単品の追加購入が5%オフになったりする特典が用意されている。
「コーヒーって胃袋があるビジネスなので、いくら使ってくれたかで序列をつけるのは正しくない気がして」(西本さん)。購入量でランク付けするのではなく、長く続けたユーザーがお得になる仕組みを作り込んだ。
■個人向けに6ブランドで舵を切る
KEURIGで使えるカプセルのラインナップは「20ブランド以上」だ。上島珈琲店やプロントといった大手チェーンから、北海道の人気カフェ「森彦」、コーヒー業界の重鎮が手がける「丸山珈琲」まで。
本来は競合関係にあるはずのブランドが同じマシンの上に並んでいる。
KEURIGはUCCが米キューリグ・ドクター・ペッパー社からライセンスを受けて展開している。このため、最初はUCCブランドを冠した状態でサービスを展開していた。運営がグループ会社に移行したことで方針が変わる。UCC関連のブランドのカプセルによる法人向け中心のサービスから個人向けに舵を切ったのだ。
代表取締役社長に就任した西本さんが目指したのが、KEURIGを「家の中でリラックスドリンクを楽しむためのプラットフォーム」にすることだ。そこでラインナップを一新。2019年5月より、上島珈琲店、カフェ英國屋、小川珈琲、セガフレード、タニタカフェ、プロントの6ブランドを用意し、マルチブランド戦略に打って出た。
■親会社UCCの看板を外し、無名で勝負
このとき、西本さんが取ったもうひとつの改革がある。それがカプセルからUCCロゴを外したことだ。ロゴがあるとどうしてもUCCの製品という印象になる。あくまでプラットフォームであることを目指すため、KEURIGオリジナルとしてリニューアルをおこなった。

誰もが知る親会社の看板を外し、当時まだ無名だったKEURIGという名前だけで勝負する。社内には「本当に大丈夫か」という不安の声や反対もあったが、「当時の経営陣が『やってみたまえ』というスタンスだったので、自由にやらせてくれた」(西本さん)ことで実行できた。
そして、UCCグループ以外のコーヒーブランドにカプセル化をお願いして回ったが、前例がないこともあって反応は鈍く、当初は40ブランド以上から断られたそうだ。
「転機となったのは丸山珈琲さんでした。丸山さん自身がアメリカでKEURIGが広がっていることを知っていて、加わっていただけました。レジェンドとも言えるブランドが参加してくれたことで信頼が積み上げられました」(西本さん)
コーヒー業界で圧倒的な知名度を持つ丸山珈琲が加わったことで、品質の高いコーヒーブランドがKEURIGに参加しても大丈夫だという空気が業界内に広がり、他ブランド展開に光明が見えた。
UCC色を薄めたことで、KEURIGはさまざまなブランドのコーヒーカプセルが共存できる中立の場としての信用を積み上げていく。そして現在ではその結果、以前は断られる一方だった立場が逆転した。「近年ではブランドから売り込みがくるようになりました」(西本さん)。
■あの店の味を数値化し、二人三脚で再現
現在ではコーヒーだけでなく紅茶やほうじ茶、緑茶、ジャスミン茶までカプセルを用意している。アレルギー対応などの問題があるため、現在はできていないが、将来的にはココアなども用意してプラットフォームをさらに充実させていきたいと語る。
複数ブランドのコーヒーカプセルを展開するうえで欠かせないのが、味の再現技術だ。
カプセルを製造するのはグループのユニカフェ。同じ豆をそのまま使うのではなく、店で抽出したコーヒーそのものを味覚センサーと香りセンサーにかけて数値化する。そのデータをもとに豆の種類や焙煎度を組み合わせ、カフェ側が「うちの味だよね」と認めるまで調整を重ねていく。
「同じ豆を使っても、ドリップが違うと同じ味にならないんです。だからお店で出しているコーヒーを元に完全に数値化するのが特徴です。そしてそれをカプセルで出せるように調整していきます。テクノロジーも使うし、職人的なカッピング技術も使います。カフェの方と二人三脚で作っています。この技術がユニカフェにあるので、ブランドに対して『あなたの味を作ります』って言えるんです」(西本さん)
■米国版とは違う、日本版だけの工夫
抽出の仕組みにも工夫がある。実はアメリカ版のKEURIGのコーヒーマシンはお湯を一気に注ぐだけだが、日本版はカスタマイズされており、少量のお湯でじっくり蒸らしてから抽出速度を上げる、いわばハンドドリップを再現する制御になっている。カプセルの中身もコーヒー豆が膨らむための空間を確保し、茶葉は粒度を細かく調整するなど、ブランドごとの「らしさ」を一杯に落とし込む工夫が随所に施されているのだ。
現在は20以上のブランドのカプセルがラインナップされ、期間限定カプセルなどが定期的に追加される安定的な状態になった。
今後はブランドの数を無闇に増やすつもりはなく、方針としては「増やす」より「入れ替え」に近いという。
「以前は売れるブランドを入れたいと思っていましたが、毎年何個かを入れ替えていくことで、お客様にいろいろなコーヒーを楽しんでもらえたらいいと思っています。1年限定でもKEURIGに愛着を深めてもらえるブランドを展開していきたい」(西本さん)
■「タリーズコーヒー」が新たに参加
そして8月20日から新たに追加されたのが「タリーズコーヒー ハウスブレンド」カプセルだ。米国シアトル発祥のタリーズコーヒーの味を家庭で手軽に楽しめるようになった。上島珈琲店やドトールコーヒーなどに並ぶ人気コーヒーチェーンのスタンダードブレンドだ。
西本さんは「タリーズらしい深みのある味わい。自宅でタリーズと他のカフェを並べて何を飲むかと迷うのは楽しい時間になると思います」と語る。KEURIGのカプセル選びの幅がさらに広がった。
■継続率8割、目標は5年で100億円
カップスが事業を引き受けてから約6年。設立当初は業務用が売り上げの8~9割を占めていたが、家庭向け事業が大きく伸長し、現在は家庭用が半分ほどを占めるまでになった。しかも、家庭用の利用者の9割はサブスクを選んでおり、継続率は1年経過時点でおよそ8割に達するという。
カプセル式コーヒー事業は最初にコーヒーマシンを無償に近い低価格で配り、カプセルの販売で利益を出していくビジネスモデルのため、初期投資が重くのしかかる。
しかし、KEURIGは家庭用市場での普及と継続率の高さによって、2025年の売り上げ(家庭用事業)は2019年と比較して8倍を実現した。この結果、マシンコストの回収フェーズを抜け、2026年には黒字化を達成する見込みだ。そして次の目標として掲げるのが、今後5年をめどに、KEURIGを売り上げ100億円規模まで育てることだ。
「朝、家族それぞれがKEURIGで好きなブランドのコーヒーやその他ドリンクを選んで飲む。そんなアメリカと同じような状態にしていきたいというのが一番の思いです」(西本さん)
カプセル式コーヒーマシンは他にも複数のブランドがあり、日本市場ではKEURIGは後発だ。しかし、複数のブランドのコーヒーが共存し、選んで飲めるのはKEURIGだけの魅力。さらに近年、コーヒー豆が高騰し、カプセル式との価格差が小さくなっていることも追い風だ。1杯約125円以下(定期便の場合)のKEURIGならコンビニコーヒーと変わらないコストで好きなブランドの1杯が手軽に淹れられる。ハンドドリップの技術や手間も不要だ。
さまざまな有名カフェやブランドのコーヒー、そして緑茶や紅茶。売り上げを大きく伸ばし、黒字化を達成見込みの今、KEURIGは家庭のドリンクのプラットフォームとして大きく広がりをみせているのだ。

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コヤマ タカヒロ(こやま・たかひろ)

デジタル&家電ライター

1973年生まれのデジタル&家電ライター。家電総合研究所「カデスタ」を主宰。大学在学中にファッション誌でライターデビューしてから約30年以上、パソコンやデジタルガジェット、生活家電を専門分野として情報を発信。家電のテストと撮影のための空間「コヤマキッチン」も構える。企業の製品開発やPR戦略、人材育成に関するコンサルティング業務も務める。

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(デジタル&家電ライター コヤマ タカヒロ)
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