■お金とは「感情のかたまり」だ
お金について考えるとき、最初になにを思い浮かべるだろうか?
ぼくはこの質問を何千回も投げかけてきた。その経験からいえるのは、答えは「表計算(スプレッドシート)」や「電卓」「数学」じゃないということだ。その代わりにみんなはこういう。「自由」「安心」。あるいは「不安」「興奮」「心配」と。
ぼくたちがお金についてなにか教えられてきたとすれば、それは「お金は数字の問題だ」ということだろう。表計算ソフトや電卓で扱うもの。合理的で理にかなったもの。
でも実際には、お金はたんなる数字ではない。それは子どもたちへの教育だ。家庭の安全であり、ホームレスになる恐怖であり、ずっと憧れていた旅行の夢でもある。
数学では、2+2はつねに4だと誰もが知っている。どんなに不安でも、恐くても、興奮していても変わらない。
でもお金は数字ではない。あらゆる感情のかたまりだ。不安、貪欲、劣等感、誇り、その他もろもろ。
・お金≠数字
・お金=感情
■もっとも強力な金融ツールは「人間性」
人間はアルゴリズムにきれいに収まる存在ではない。
これはとくに人間とお金に関して当てはまる。
人間とお金の組み合わせは、複雑な適応システムを生み出す。原因と結果の関係が相互に深く絡み合い、次になにが起こるか予測できないからだ。
とてつもなく複雑になるのは、ぼくたちがシステムと関わることでシステム自体が変化するからだ。
それをアルゴリズムに押し込めようとしてみてほしい。
みんなが「正しいお金の使い方」のための公式を欲しがる。
でも、お金に関する大きな疑問を無理やりひとつの簡単な公式に当てはめようとすればするほど、「時と場合による」という答えに行きつく。
人生も株式市場もお金も複雑だ。アルゴリズムはパターン分析には優れているけど、大きな投資判断に伴う不安や、目標を達成したときの誇り、家族を養う責任感といった感情までは感じ取れない。
もっとも強力な金融ツールは数学ではない――人間性そのものだ。
■豊かになる方法
まったく同じ条件のふたりがいたとしても、ひとりはゆたかだと感じ、もうひとりは閉じ込められたように感じていることがある。
なぜか?
世界を「足りない」と感じるか、「十分ある」と感じるかを決めるのは、必ずしももっているものの量ではない――多くの場合、どこに意識を向けるかの問題だ。
貧しさとゆたかさは、視点の関数だ。それは状況とは無関係に、ぼくたちが選び取る「姿勢」のようなものだ。
「世界は足りないものばかりで、自分は決して追いつけない」と感じるのを選ぶこともできる。あるいは、「世界は広がっていて満ちており、自分はすでに満足できるものをもっている」と信じるのを選ぶこともできる。
大切なのは、「もっと手に入れる」ことではない。すでにもっているものを愛するべきだと学ぶことかもしれない。
絶え間ない比較が横行する世界において、「ゆたかさ」の視点をもつことは、「もっと必要だ」という罠から抜け出し、成功の定義を自分で書き換える方法になる。
「なにが足りないか?」ではなく、「すでに十分なものはなにか?」と問いかけてみよう。
■感情のバランスシート
ぼくが愛する禅の寓話が、ジョン・マスの著書『Zen Shorts(禅の公案)』にある。
ふたりの旅の僧が町に着くと、若い女性が籠から降りようとしていた。雨で深い水たまりができ、絹の衣を汚さずに渡ることができなかった。女性はその場に立ち、とても不機嫌で苛立った様子で侍女たちを叱りつけていた。侍女たちは彼女の荷物を置く場所がなく、水たまりを渡る手助けができなかったのだ。
若い僧は女性に気づいたがなにもいわず通り過ぎた。年配の僧は素早く彼女を抱き上げて背負い、水たまりを越えて向こう側に降ろした。ところが彼女は年配の僧に感謝しないばかりか、彼を押し退けて去っていった。
その後の道中、若い僧はずっと黙り込んでいた。かなりたってから、沈黙を保つことができずに口を開いた。
年配の僧は答えた。「私はもうとっくに彼女を降ろした。なぜお前はまだ彼女を背負っているのだ?」
この古い物語の教訓は、いまも変わらず重要だ。
ぼくたちはどれほど頻繁に、過ぎ去ったはずの不満や衝突、失望を長く抱えつづけているだろうか。
過ぎ去ったあとも、どれほど頻繁にぼくたちはそれらを背負いつづけるだろうか? ぼくたちはそれらを握りしめ、心のなかでその場面を繰り返し再生する。まるで「感情のバランスシート」に記録しているかのようだ。もはやなんの役にも立たない負債、投資、損失を追跡している。
■人生に価値を生まないものを手放そう
ぼくたちは多くの悪い投資を抱えている――友人との口論、配偶者の行動や怠慢、運転中に割り込んできた相手など。それらは人生になんの価値も生まないのに、それでも手放そうとしない。
君の感情のバランスシートにはなにが載っているのか?
もはや、コストに見合わないものに固執しているのではないか?
もし投資ポートフォリオの資産が、四半期ごとにゼロかマイナスのリターンしか生み出さなければ、君は売却するだろう。
だったらなぜ感情のバランスシートを整理し、悪い投資を手放さないのか?
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カール・リチャーズ
認定ファイナンシャル・プランナー(CFP)
ニューヨーク・タイムズやモーニングスターに寄稿。
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橘 玲(たちばな・あきら)
作家
1959年生まれ。早稲田大学卒業。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部を超えるベストセラーに。05年の『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補に。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。著書に『「読まなくてもいい本」の読書案内』(ちくま文庫)、『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』(文春新書)、『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』(幻冬舎文庫)、『DD(どっちもどっち)論 「解決できない問題」には理由がある』(集英社)など多数。
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(認定ファイナンシャル・プランナー(CFP) カール・リチャーズ、作家 橘 玲)

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