将来への不安からデリケートになっている受験生に、親はどう対応すればいいのか。志學舎副塾長の松澤保成さんは「親が不安な気持ちでいると、声をかけても子どもを追い込んでしまう。
まず、朝の声がけから変えるようにしてほしい」という――。
※本稿は、松澤保成『「自ら勉強する子」の親がしているたった1つのこと』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■朝の声がけでメンタルがダウン
朝は、親子関係の深さがもっともストレートに伝わる時間です。
朝という1日のスタートで子どもが受け取る、たった5秒の言葉が、その日の集中力も、メンタルも、粘り強さも変えてしまいます。
だからこそ、わずかな5秒が子どもの合格の可能性を大きく左右するのです。
ある高校3年生の男の子の話です。
彼は真面目で努力家なのに、模試になると点数が安定せず、自己肯定感が下がり気味でした。
そんな彼が、ある秋の日、ぽつりとこう言いました。
「最近、朝の母のひと言で、その日の気分が下がるんです」
聞くと、お母さんは、毎朝のように「今日はちゃんとやるのよ。昨日あんまり進んでなかったでしょ」と声をかけていました。
心配だからこそ、です。
でも、その言葉が彼の胸にはプレッシャーとして届いてしまっていました。

そこで私はお母さんに、「安心を渡す5秒にしてみてください」とお伝えしました。
■肯定の言葉を言うようにした
翌日から、お母さんは意識して言葉を変えました。
「行ってらっしゃい。昨日もがんばってたね」

「今日も大丈夫。あなたならできるよ」
すると一週間後、彼の表情が見違えるように明るくなりました。
「朝にあれを言われると、心がスッと落ち着くんです。なんか味方がいるって思えるんですよね」
それから彼は模試でも実力を発揮できるようになり、最終的に第一志望の大学に合格しました。
勝因を聞かれると、彼はこう答えました。
「母の言葉のおかげで、自分を信じられるようになったからです」
勉強の内容よりも、参考書よりも、お母さんの言葉が彼のメンタルを支える土台になっていたのです。
■子どもを変えるのは「親の気持ち」
子どもの1日は、「朝の親の表情」「朝の親の声」「朝の親からの安心感」で決まります。
大切なのは、どんな気持ちで、その言葉を届けたかという親のあり方です。
「あなたを信じているよ」

「昨日の努力、ちゃんと見えたよ」

「今日もあなたの味方だよ」
この3つさえ伝われば、子どもはその日、揺れにくくなります。

毎朝の5秒の積み重ねが、親子の関係を深め、子どもの心に折れない芯を育てます。
■親の言葉は毒にも薬にもなる
こんな経験はありませんか?
同じ言葉を言ったはずなのに、ある日は子どもが笑ってくれたり、別の日には不機嫌になってしまったり。
「え、なんで? 昨日は喜んでくれたのに……」
じつは、これは珍しいことではありません。
言葉そのものに魔法の力はないからです。
同じ言葉でも、毒にも薬にもなります。
大切なのは、言葉のなかに流れる親の心のあり方です。
■薬になった「がんばって」
ある中学3年生の女の子の話です。
受験直前で緊張していたとき、お母さんはそっと言いました。
「がんばってね。あなたなら大丈夫」
その瞬間、娘さんは目に涙を浮かべて笑いました。
「お母さんが言うと、安心する」
このときのお母さんの心には、あせりはありませんでした。
「信じてるよ」という言葉の温かさ。

子どもの胸に薬のように染み込んだのです。
■毒になってしまった「がんばって」
一方で、別の家庭の話です。
模試の成績がふるわない中学3年生の男の子。
結果を見た瞬間、お母さんは思わず言ってしまいました。
「ほら、がんばらなきゃダメじゃない!」
同じ「がんばる」という言葉。
でも、このときの「がんばって」は、あせりや不安、失望が混じっていました。
親御さんは、子どもの未来を思うからこそ、口が先に動いてしまっただけかもしれません。
けれども、子どもは敏感です。
そのひと言を聞いた息子さんは、肩を落として言いました。
「無理だよ、もう……」
言葉の意味は同じでも、届ける心によって刃になる。
魔法の言葉はありません。
あるのは心の温度。

■子が受け取る非言語的メッセージ
親の言葉が毒にも薬にもなる理由。
それは、子どもは意味より空気を受け取るからです。
心理学では、「言語的メッセージ」より「非言語的メッセージ」に人は左右されると言われています。
つまり、子どもは「声のトーン」「まなざし」「表情」「間」「呼吸」「その場の空気」を通して、言葉の温度を受け取っています。
だから、同じ「がんばって」でも、あせりから言うとプレッシャー(毒)となり、愛情から言うと勇気(薬)となり、子どもへの伝わり方が違ってくるのです。
大切なのは、言葉そのものではなく、言葉を届けるときの親の心のあり方です。
■「評価」と「支援」で伝わり方が違う
あせりから言う言葉は、子どもを追いつめる。
愛情から言う言葉は、子どもを前に進ませる。
その違いを私は「評価メッセージ」と「支援メッセージ」としています。
評価メッセージ

・「もっとできるよ」「今回こそは」「がんばらなきゃ」

子どもは足りない自分を意識してしまいやすい。
支援メッセージ

・「見ているよ」「応援しているよ」「一緒にがんばろう」

子どもは支えてくれる存在を感じ、力が湧く。
今日あなたが子どもに言うひと言は、毒にも薬にもなります。

この違いは、「どんな気持ちでその言葉を届けたか」だけなのです。
ゆっくり息を吸って、心を一度温めてから声をかけてください。
「いつも見てるよ」

「応援しているよ」

「ひとりじゃないよ」
そのひと言は、きっと子どもの力になります。
■「自分の将来」と突き放してはいけない
受験期になると、つい口からこぼれてしまう言葉があります。
「自分の将来でしょ? だったら、がんばりなさいよ」
親御さんがこの言葉を言ってしまうのは、決して突き放したいからではありません。
むしろ逆です。
「あなたの将来が心配」

「このままだと後悔するかもしれない」

「なんとかしてあげたい」
そう思うほど、苦しくて、あせりが出る。
そのどうにもならない気持ちの出口として、この言葉が出てしまうのです。
■大学受験前に傷ついた高校生女子
ある高校2年生の女の子の話です。
その子は成績は悪くないのに、勉強に身が入らず、スマホばかり触ってしまう。
お母さんは見るたびに不安になり、つい言ってしまいました。
「あなたの将来でしょ? なんでそんなに他人ごとなの?」
その言葉を聞いた瞬間、その子は黙り込み、部屋に戻ってしまいました。

数週間後、三者面談で彼女は私にこう言いました。
「『自分の将来でしょ?』って言われると……なんか、もう自分のことは自分でやりなさいって放り出された気分になるんです」
■母娘の間にズレがあった
お母さんは驚きました。
彼女を突き放したつもりなんて、まったくなかったからです。
言葉の裏にあったのは、愛情とあせり。
ですが、子どもが受け取ったのは、愛情とは真逆でした。
「いちばん不安なのは私なのに……その気持ちをわかってもらえなかった感じがして、悲しくなるんです」と、彼女は涙ながらに語りました。
それを聞いたお母さんも涙を流しました。
「そんなふうに聞こえていたなんて……。私はただ、がんばってほしかっただけなのに」
この親子はお互いの気持ちのズレに気づき、その日を境に対話が増えていきました。
■「親のあせり×子どもの不安」
「自分の将来でしょ?」という言葉は、親からすれば愛情の裏返しかもしれませんが、子どもからすれば、突き放されたように受け取ってしまいます。
なぜかというと、親がこの言葉を使うとき、その心の奥には、これ以上どうしたらいいかわからないという不安が潜んでいるからです。
一方、子どもはこの時期、自分ひとりで背負うには重すぎる将来の不安を抱えています。
だからこそ、「親のあせり×子どもの不安」という2つがぶつかった瞬間、子どもは「私だけに責任を押しつけられた」と感じてしまうのです。
子どもが本当にほしいのは、「将来はあなたのもの。でも、あなたはひとりじゃないよ」というメッセージです。
「自分の将来でしょ?」ではなく、次のような言葉が子どもに届きます。
「一緒に考えていこうね」

「あなたの気持ちを聞かせてほしい」

「あなたが選ぶ道なら、私は応援するよ」
親の役割は、未来を決めることではなく、未来へ向かう力を育てることです。
その力は、厳しい言葉ではなく、寄り添う言葉で育ちます。

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松澤 保成(まつざわ・やすなり)

志學舎副塾長

東京都日野市生まれ。志學舎副塾長、志學舎グループ東進衛星予備校統括。また、学習指導と家庭支援の両面から親子の教育に携わる。指導歴は15年を超え、これまでに1000名以上の生徒を指導。開成、筑駒、早慶などの難関高校合格者を多数輩出。大学受験ではMARCH早慶国立以上1000件合格、東大現役合格20名以上。「親が変わることで、子どもが変わる」の信念のもとに、毎日100人の保護者や生徒に寄り添う。

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(志學舎副塾長 松澤 保成)
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