年金や貯蓄があれば、老後は安心できるのか。ファイナンシャルプランナーの橋本絵美さんは「年金額がそれほど多くなくても穏やかに暮らす人がいる一方、現役時代に高収入だったにもかかわらず、老後にお金が足りなくなる人もいる。
その違いを分けるのは、現役時代の暮らしの習慣だ」という。老後に困らない人の習慣とは――。
■高収入でも老後にお金が足りなくなる
かつて、老後2000万円問題が話題になりましたが、物価高や将来不安が続くなか、老後資金に不安を感じている人はますます増えています。値上げが続く昨今では老後2000万円の貯金では足りないのではないかと、思う方がほとんどではないでしょうか。
ただ、FPとして実際に多くの家計相談を受けていると、老後の暮らしやすさは単純に貯蓄や収入の多い少ないだけで決まるわけではないと感じます。
年金額がそれほど多くなくても、穏やかに暮らしている人がいる一方で、現役時代に高収入だったにもかかわらず、老後にお金が足りなくなる人もいます。
この違いを分けるのは、現役時代の暮らしの習慣にあります。年金だけでも暮らせる人は、決して極端な節約をしていたわけではなく、若いうちから少ないお金でも回る家計を自然につくっています。今回は、年金だけでも穏やかに暮らせる人が現役時代から続けている節約習慣についてお話しします。
■固定費は「解約・変更・支払い方法」で減らす
節約というと、多くの人は食費を削ったり、特売をはしごしたりするイメージを持つかもしれません。ですが、節約とは、やみくもに支出を減らすことではありません。節約とは支出の無駄をなくすことです。
どうしてもやりくり可能な食費に目が向きがちですが、まずは固定費から見直してみましょう。毎月決まってかかる固定費が大きい家計は家計メタボの状態です。この固定費を削減できれば日々の暮らしは楽になります。固定費の削減方法は次の3つです。
1解約する

2変更する

3支払い方法を変える
この3つのいずれかを行えば、確実に固定費を削減することができます。
例えば、使っていないサブスクはないでしょうか。解約すればそれだけで固定費を削減できます。ほとんど乗らない車を手放せば駐車場代、維持費を削減できます。スマホは毎月いくら支払っているでしょうか。格安SIMに変更すればほとんど品質を変えることなく削減することができます。保険料などは口座引き落としではなくクレジットカード払いに変えることでポイント分お得になります。また月払いから年払いに変えることで割引される場合があります。

固定費は一度削減すればその後は何もしなくても効果が長く続きます。固定費を洗い出し、この3つのいずれかができないかを、1つひとつ順番に検討してみてください。年金だけで暮らせる人は、固定費の無駄を削減したら浮いたお金は将来のために投資をしています。月2万円削減し、7%で運用できれば、20年後には1041万円になります。
■「余ったら貯金」ではお金は残らない
余ったら貯金しようと思っても、気づけば毎月ほとんど残らないという人がほとんどなのではないでしょうか。お金が貯まる人は意志が強い人だと思われがちですが、実際は違います。お金が貯まる人は意志の強さにかかわらず、貯まるようなしくみを作っています。
強制的に貯まるしくみとは、次の3つのポイントを押さえた貯蓄方法です。
1自動で

2先取り

3別の場所
収入が入ったら使う前に先取りして貯蓄に回します。貯蓄は普段使っている口座に貯めるのではなく、別の場所に貯めることが大切です。その際、手動でお金をおろして移すのではなく、自動的に別の場所に資金移動させてくれるサービスを活用しましょう。自動定額振り込みサービスやNISAの自動つみたて、財形貯蓄や貯蓄型生命保険など、自動で別の場所に貯めてくれるサービスはいろいろあります。
収入の一部を最初からなかったことにするしくみを作っておけば、貯蓄は勝手に貯まっていきます。
蓄財の達人の本多静六博士は「四分の一天引き法」という考え方を実践して、巨万の富を築きました。
収入の4分の1を先に取り分け、残りで暮らすという方法です。もちろん、最初から4分の1は難しいかもしれません。ですが、1割でもいいので、先に取り分ける習慣を持つこと、しくみをつくることが大切です。なるべく若いうちからこのようなしくみをつくっておくと時間が味方となって、こつこつと老後資金をつくることができます。
■一度上げた生活水準は簡単に戻せない
年収が上がると、人は自然と生活レベルも上げてしまいます。広い家に住む、外食をする、便利なサービスを契約する、旅行の回数が増える、などなど……。そして人は一度上げた生活レベルはなかなか下げることができません。実はこれは有名な2つの法則として発表されています。
まず、1つ目は「支出の額は、収入の額に達するまで膨張する」というパーキンソンの法則です。人間は、手元にお金や時間などの枠があると、無意識にそれをすべて使い切ろうとしてしまいます。
収入が増えた分だけ、なんとなく贅沢をして口座を空にしてしまうのはこのためです。
そしてさらに厄介なのが、「一度上げた生活レベルは、簡単には下げられない」というラチェットの法則が働くことです。ラチェットとは「一方向にしか回らない歯車(爪車)」のことです。収入が増えたときに生活レベルを上げるのは簡単ですが、いざ収入が減ったときに元の質素な生活に戻すのは難しいというのは、もはや法則なのですね。
現役時代に月40万円使う暮らしが当たり前になっていた人が、年金生活に入って急に月25万円に落とすのは簡単ではありません。パーキンソンの法則で限界まで支出を広げ、ラチェット効果で元に戻せなくなる、これが老後破産の原因になります。
年金だけで暮らせる人は、現役時代からこの2つの法則を打破するしくみを意図的に作っています。収入が増えても生活レベルをあげません。そして先取り貯蓄によってなかったことにしています。
■月40万円使わなくても楽しく暮らせる
年金生活を楽しめる人には、共通点があります。それは、お金を使わなくても楽しめることです。例えば、散歩や読書、家庭菜園や料理、地域活動やボランティアなどの趣味は、大きなお金をかけなくても、日々の満足感を得ることができます。
一方で、お金を使うこと=楽しみになっていると、収入が減ったときに苦しくなりやすくなります。
ブランド品を買う。頻繁に旅行する。外食でストレス発散する。こうした習慣は、収入が多い現役時代には楽しめても、老後は経済的に負担になります。もちろん、お金を使う楽しみを否定する必要はありません。
ただ、お金をかけなくても満たされる時間を持っていれば、老後の幸福度も高くなるでしょう。節約は人生を小さくすることではありません。少ないお金でも、豊かに暮らせる力を現役のうちから育てておきましょう。
■「人の目」のための支出が家計を圧迫する
家計を圧迫している支出で意外と多いのが、人の目のための支出です。見栄のための住宅や車、なんとなく断れない付き合いなど、本当は必要ないのにみんなが持っているから、まわりから浮きたくないから、映えのため。こうした支出が家計をどんどん圧迫していきます。

年金だけでも暮らせる人は、人にどう見られるかではなく、自分たちが本当に必要かを基準にしています。特に老後は見栄のための支出を続けると家計はどんどん苦しくなります。だからこそ現役時代から自分軸でお金を使う習慣を持っていれば、老後の家計も安定しやすいのです。
まとめ

年金だけで暮らせる人は、特別なお金持ちというわけでもなく、無理な節約をしているわけでもありません。共通しているのは、現役時代から少ないお金でも満足して暮らせる習慣を少しずつ積み重ねていることです。固定費を増やしすぎない。先取りで貯める。生活レベルを上げすぎない。お金をかけずに楽しむ。自分軸で生きる。どれも取り立てて目立った節約術ではありませんが、こうした“小さな習慣”こそが、年金生活の安心につながっていきます。老後は、突然始まるものではありません。現役時代の暮らし方の延長線上にあります。だからこそ老後になったら考えるのではなく、今の暮らしの中で小さな節約習慣を育てていくことが、将来の安心への近道なのではないでしょうか。

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橋本 絵美(はしもと・えみ)

はしもとFPコンサルティングオフィス 代表

6人の子どもを持つママFP&お片づけプランナー。福岡県出身。小さな頃から「大家族のママになりたい!」という夢を持ち、慶應義塾大学商学部卒業後、学生時代から交際していた夫と結婚。現在、中学2年生から3歳まで2男4女の子育て中。

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(はしもとFPコンサルティングオフィス 代表 橋本 絵美)
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