※本稿は、朝日新聞取材班『ルポ アルゴリズム政治』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■YouTube視聴班の「おすすめ動画」実験法
2025年4月15日朝、取材班は一斉に実験を開始した。
YouTube視聴班の実験の手順はこうだ。最初の5日間は、3人がそれぞれの趣味に関する動画を検索し、一番上に表示された動画を視聴する。動画は基本的に最後まで見るが、5分を超える動画については、冒頭から5分を視聴対象とした。実験の監修を依頼した土方氏(※1)からは、「5分も視聴すれば、YouTube側はその動画に興味があると判断してくれると思う」との助言も得た。
最長5分間視聴した後で、視聴した動画の下に「関連動画」として出てくるもののうち、一番上に表示される動画を同様に最長5分間見る。関連動画とは、その動画を見ている人が次に何の動画に興味を持ったり関心を示したりするかを、YouTube側がその人の過去の視聴履歴などをもとに判断して提供する仕組みで、レコメンド機能の一つと言える。
関連動画を選択する仕組みは明かされてはいないが、多くの人がこの動画を見た後に次に何の動画を見ているかや、今見ている動画と内容が類似する動画、さらにはそのユーザーがこれまで視聴してきた動画の種類やジャンルなどを考慮して、そのユーザーが好みそうな動画が自動的に選ばれていると考えられる。
■まずは「趣味動画」でスマホを染めていく
関連動画を視聴すると、さらにその動画の関連動画が表示されるので、一番上の動画を同様に最長5分間視聴する。こうすると、1日に3本、最長で計15分間、「趣味動画」を見ることになる。毎回同じ動画を視聴することにならないように、検索ワードは毎回少しずつ変えつつ、サッカーならサッカー、園芸なら園芸というように、同じ分野の動画を見るようにした。
動画を見るのは、毎朝9時ごろからと決めた。例えば、朝の通勤時間帯の電車の中で、スマホで趣味の動画を数本見るような人の情報摂取環境と似せてみたのだ。土方氏からも「この方法を続ければ、その趣味に関する動画を広く閲覧しているというプロファイルができ、比較的誰にでも起こりうる状況を作れる」との助言をもらった。
次に、前述のような視聴行動をした結果、YouTubeのトップ画面にどんな動画が並ぶようになったかを記録する必要がある。そこで毎朝、アプリを起動したらまず、トップ画面に表示される動画を上から10本スクリーンショットで記録した。
※1 兵庫県立大学大学院情報科学研究科の土方嘉徳教授。日本IBMの研究員から学術研究の道に進み、ソーシャルメディア論や社会情報学、社会心理学を専門とする研究者。
■「キャンプ好きのアウトドア派」として検索
言い出しっぺの私(41歳男性)はYouTube視聴班の一人となり、趣味のキャンプ動画を見始めた。作ったばかりのグーグルアカウントからYouTubeアプリにログインすると、お馴染(なじ)みの赤いアイコン以外は真っ白で、おすすめ動画で埋め尽くされたページを見慣れていた目には新鮮に映った。
動画はまだ一つも表示されておらず、検索窓と「まずは検索してみましょう おすすめ動画を表示するには、まず動画を視聴しましょう」の文字。まさに「白紙状態」というわけだ。
最初の検索ワードは「ファミリーキャンプ 山梨」と入れてみた。
真っ先に表示されたのは、山梨県の富士五湖の一つ、西湖の湖畔にあるキャンプ場を紹介する動画だった。家族キャンプの動画をたくさんアップしているチャンネルのもので、再生回数はこのとき9863回。動画を5分見ると、続いて関連動画の一番上に表示された動画を見た。最初の動画と同じキャンプ場を紹介する、別のチャンネルの動画だった。
さらにこの動画の関連動画の一番上のものを見ると、すぐ近くの別のキャンプ場を紹介する動画。配信者は前二つとは違うチャンネルだった。
いずれも、一般の人がキャンプを楽しみながらキャンプ場を紹介するという似通った構成で、再生回数も9000~1万回前後。新規アカウントに他に視聴履歴がないからだろうか、かなり類似性の高い動画を薦めてきた。
■「編み物好き」と「釣り好き」も参入
YouTube視聴班の残り2人も、編み物が趣味の女性記者(30代)が「編み物 初心者」の検索ワード、釣りが趣味の男性記者(30代)が「釣り 福岡」の検索ワードを入力し、それぞれ趣味に関する動画視聴を始めた。
編み物動画を見た記者は、最初の1本が登録者数約10万人という比較的人気のある編み物チャンネルの動画で、残りの2本も同じチャンネルの別の動画だった。釣り動画も同様、最初に見た動画が登録者数約16万人の釣りチャンネルのもので、残り2本もこのチャンネルが配信している動画だった。
翌朝、実験用の新規アカウントからYouTubeアプリを開き、どんな動画が並んでいるかを確認してみた。すると、トップに表示されていたのは富士五湖近辺の湖畔のキャンプ場を紹介する動画だった。
前日見た3本の動画と似た内容で、配信者は違った。スマホの画面をスクロールしていくと、同じような一般人が配信しているキャンプ動画のほか、キャンプ好きとして知られる芸能人の動画などがあった。上位10位までの動画を記録したところ、10本中5本がキャンプ関連の動画になっていた。
YouTubeがさっそく私を「キャンプの動画をよく見る人」と認識し、表示欄を調整していることがよく分かった。
■次々と見続けてしまうショート動画
他の動画は、民放のニュース番組の動画やアメリカ大リーグの大谷翔平選手の活躍を伝えるスポーツニュース、人気漫画の内容を紹介するショート動画などだった。
このショート動画については、少し説明が必要だろう。通常の動画より再生時間が短い短編動画で、元々はTikTokで人気を博し、YouTubeも2021年に日本などで導入した。横長の画面で見る通常の動画に対し、ショート動画はスマホの画面の形に合った縦型が主で、最長でも60秒と短い(2024年10月以降180秒)。画面を上にスワイプすると簡単に次のショート動画に移ることができるという特徴がある。
いったんショート動画を見始めてしまうと、次々と画面をスワイプして見続けてしまい、気づいたら長時間スマホを眺め続けていたなんて経験をしたことがある人も多いのではないだろうか。
YouTubeのトップ画面でショート動画がどう表示されるかは時期によって変遷があるみたいだが、実験当時は通常の動画に交じってショート動画4本がひとかたまりで画面に表示される仕様だったようだ。ショート動画のかたまりは必ず上から2番目の場所で、あとは8番目のことが多かった。この本を執筆している2026年4月現在では、ショート動画は2本ひとかたまりや6本ひとかたまりで表示されているのが確認できた。
実験の際は、1かたまり4本のショート動画の中に、1本でも関連動画があれば1カウントとするルールにした。
■趣味に染まったYouTubeが5日で完成
実験は、上記のような手順を踏んで進めていった。私が検索窓に入力したワードは、2日目が「キャンプ 道具」、3日目は「キャンプ場 フリーサイト」、4日目は「ファミキャン 車」、5日目は「キャンプ 料理 簡単」だった。いずれの日も、関連動画はすべて、キャンプにまつわるものが表示された。
動画視聴の結果、翌朝のYouTubeのトップページの表示がどうなったかというと、2日目の翌朝も3日目の朝も10本中7本がキャンプ動画だった。4日目に6本になったが、5日目にはまた7本に戻った。
一番上の動画は連日キャンプ動画だったほか、2番目に表示されるショート動画4本のかたまりも、必ず左上のショート動画がキャンプ関連だった。さらに3番目か4番目のどちらかもキャンプ動画だった。
つまり、アプリを開いたら、かなり下まで画面をスクロールしていかないと、キャンプ以外の動画がなかなか目につかない状態だ。
■編み物好きにススメてくる「皇室」動画
この傾向は他の2人も同様だった。5日目まで、釣り動画を視聴したアカウントは上位10本中釣り動画が5~9本を占め、トップと2番手は必ず釣り動画だった。
編み物動画を視聴したアカウントも上位10本中6~8本が編み物動画で、こちらもトップと2番手は必ず編み物動画が表示されるようになっていた。この時点で3人のYouTube画面はそれぞれ「キャンプ」「釣り」「編み物」で染まっている。
興味深かったのが、編み物動画のみを視聴したアカウント(30代女性)で、編み物以外に多く表示されていたのが、芸能関係の動画と皇室の話題を取り上げた動画だった点だ。YouTube側に、「このユーザーは編み物以外だったら芸能や皇室について興味がありそうだ」と判断されたということだろうか。
釣り動画のアカウント(30代男性)は、釣り以外ではパチンコの動画が目立った。キャンプ動画を視聴していた中年男性の私のYouTubeには、パチンコ動画も皇室動画も出てこなかった。
土方氏によると、YouTubeのこうした挙動から、「動画をおすすめする仕組みに『協調フィルタリング』というアルゴリズムが採用されていることが分かる」という。協調フィルタリングとは、好みが似ている他の人の行動をおすすめしてくるという手法だ。
■おすすめ動画を一変させた検索ワード
実験6日目、いよいよ3人中2人が検索ワードを変えた。キャンプ動画ばかりを視聴してきた私は「財務省解体」を、編み物動画ばかりを視聴してきたアカウントは「ディープステート」の動画の視聴を始めた。釣り動画のアカウントだけはそのまま釣り動画の視聴を続けた。
検索窓に「財務省解体」と打ち込むと、最初に出てきたのは2日前に財務省前で行われたデモの様子を実況する動画だった。再生回数は約3万3000回、「消費税廃止」などと書かれたタスキをかけた男性らが、マイクをリレーして演説する様子を固定カメラで撮影し、延々と流し続ける内容だった。
5分間視聴すると、関連動画の一番上にあった動画をタップした。財務省解体デモを報じる1カ月前の民放のニュース番組の動画で、約129万回視聴されていた。
この動画を最後まで視聴すると、関連動画の一番上に出てきたのが、著名インフルエンサーが財務省解体デモの現場を訪れて配信する内容のものだった。タイトルは「テレビでは報じられない財務省解体デモに突撃してみた」。視聴回数は約162万回に上る、いわゆる「バズった動画」だ。
財務省解体デモを報じる民放のニュース番組動画の関連動画が「テレビでは報じられない財務省解体デモ」というのは、なかなか皮肉が効いていた。
■キャンプが消え、スマホを埋めた動画
いずれにせよ、最初に「財務省解体」と検索しただけで、これまでトップページを埋めてきたキャンプ動画は一度も関連動画には出てこなくなり、視聴した3本はすべて財務省解体デモ関連の動画だった。
翌朝、YouTubeアプリを開くと、トップページの様相が一変していた。
最初に出てきたのは財務省や消費税廃止に関する動画で、2番手に表示された4本のショート動画は、うち3本が財務省解体デモ関連だった。3番手でようやくキャンプ動画が出てきたが、その後も財務省解体デモ絡みの動画が続いた。
上位10本中6本が財務省関連や政治系動画で、キャンプ動画は激減した。
(朝日新聞取材班)

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