日本の日焼け止めが海外で高く評価されている。外国人YouTuberが日本製とオーストラリア製を比べた動画は300万回再生を突破。
日本では1990年代の「美白」ブームを背景に、紫外線を防ぎながら滑らかな塗り心地を実現する製品が進化した。一方、アメリカでは、日焼け止めの新たな有効成分が1999年以来追加されず、2026年にようやく27年ぶりの新成分が承認された。日本製はなぜ世界をリードできたのか。海外メディアが報じている――。
■世界に進出する日本の日焼け止め
「オーストラリアで試したどの製品よりも、ずっと良いんです」
2012年に日本に移住したというYouTuberのハンナ・プライスさんは、初めて日本の日焼け止めを使ったときの感想をAFPに語った。母国の製品が「重く、ベタつき、油っぽかった」のに対し、日本のものは塗った瞬間から質感が違うという。
この違いを伝えようと日豪の比較動画を作り始めた彼女は、実際にビーチへ赴いてテストを行ったほか、SPF値(日焼けや炎症の原因となるUVBを防ぐ指標)の算出方法や成分の規制などを本格的に検証した。1年を費やした調査の甲斐あって、公開した動画の再生回数は2年間で300万回を超えた。
欧米では日焼け止めが皮膚がん防止のヘルスケア商品と認識される一方、日本ではシミ予防やアンチエイジングの観点から日常的に広く使われている。そのため、UVカットの性能だけでなく、常用に耐える軽やかな製品が進化した、と彼女は分析する。
世界市場でも注目を集めており、AFPによると、花王の「ビオレ UV」は日焼け止め売上高で世界10位、アジアに限れば2位に入る。近年では、K-ビューティー(韓国発のスキンケア製品)で世界を席巻する韓国にも進出した。

一方、アメリカでは、すでに日本や欧州で使われてきた成分が今年6月、27年ぶりの新規有効成分として解禁された。ライトなタッチの使いやすさで一日の長がある日本ブランドだが、アメリカでも新成分の解禁を機に製品開発の裾野が広がろうとしている。
■季節を問わず売れていく
海外掲示板のレディットでも、日本製を使って驚いたという声が飛び交う。
「日本に行くまで、あっちの日焼け止めがどれだけ上なのか全然知らなかったよ」
「塗りやすくて、しかも私たちが知ってるような『いかにも日焼け止め』っていう(ベタつく)感じが全然しない」
訪日観光客も多く訪れる、東京・渋谷にあるドラッグストアチェーンの「マツキヨココカラ」。店舗では、棚に日焼け止めがずらりと並ぶ。
その数、約90種類。同チェーンの商品統括本部で化粧品を専門とする大槻剛士氏はAFPに、「売り上げは年々伸びています」と語る。かつて主な客層は女性だったが、今は男性客や訪日観光客も目立つ。日焼け止めは、季節を問わず売れていくという。
日本では、なぜ日焼け止めへの関心が高いのか。歴史的にも6世紀ごろから色白の肌を重んじる文化があったが、1990年代に入ると、日焼けを避けて白い肌を維持する「美白」がブームになった。
今では日本では女性に限らず、シミや肌の老化を防ぐために日焼け止めを塗る習慣が広がっている。

■日焼け止めで売上高350億円を目指す
2023年4月、イギリス。ドラッグストア「スーパードラッグ」の棚に、花王が欧州で初めて発売したUV防御機能付きフェイスケア製品「ビオレ UV アクアリッチ」が並んだ。
オランダ・ファッション業界専門メディアのファッション・ユナイテッドによると、同じ週にドイツ、オーストリア、スイスの一部小売店でも発売されている。
1996年発売の「ビオレ UV」は日本市場で改良を重ね、2025年2月時点で27の国と地域に展開する。2026年3月現在、ブランド全体では66の国と地域で販売されていることを考えれば、日焼け止めが届く市場はその半数に満たない。
花王は、高付加価値製品で特定分野のトップを狙う「グローバル・シャープ・トップ」戦略の中核に「ビオレ」を据える。2027年までに日焼け止めの売上高を350億円とする目標は、2023年の売上高の1.6倍にあたるとAFPは伝える。インドネシア、ブラジル、ドイツに新工場を開設し、海外生産を強化する計画だ。
紫外線を確実に遮りつつ、日本の消費者が求める滑らかな塗り心地も両立させなければならない。花王でスキンケア製品の研究開発を統括する福井崇氏は、科学的な知見を駆使してこの難しいバランスを実現している点こそが「欧米のメーカーとの違い」だと強調する。
■コスメの本場・韓国で勝負に出る
品質の高いコスメが集まる韓国でも、花王は攻勢をかける。
今年3月19日、ソウル・聖水洞(ソンスドン)。
古い工場や倉庫がカフェやショップへと姿を変え、ブランドのポップアップストアが集まる「聖地」として知られるこの街に、世界中のインフルエンサーが集まった。花王が主催する「YOUR ONE AND ONLY. ビオレ グローバルブランドイベント」のイベントであり、ビオレの韓国市場参入を記念する場だ。
イメージキャラクターに起用したのは、韓国発のグローバルスター「Stray Kids(ストレイキッズ)」。アンバサダー就任は2年連続で、「SUNLIGHT IS YOUR SPOTLIGHT(日差しはあなたのスポットライト)」を掲げるキャンペーンは15カ国・地域以上で同時に展開されている。
なぜ韓国市場に参入したのか。花王はプレスリリースで、韓国が美容業界において大きな影響力を持ち、日焼け止め市場も世界最大級であるためだと説明する。
その影響力は国境を越える。AP通信によると、市場調査会社ユーロモニターのデータでは、2024年、韓国はアメリカへ化粧品・スキンケアの出荷量で首位に立ち、フランスがこれに続いた。花王も、韓国を世界のトレンドと消費者基準を生む重要なハブと位置づけている。
花王の戦略は、この地で技術力への信頼を勝ち取り、アジア、そして世界へと事業を広げることにある。
■並行輸入品が招いた値崩れ
ただし、アジアで足踏みしている日本ブランドもある。
今年5月、資生堂の第1四半期決算説明会
経営陣は中国およびトラベルリテールを含む事業のなかで、日焼け止めブランド「アネッサ」が在庫の最適化と市場の正常化を図る「調整期」にあり、売上高が大幅に減少したと説明した。
海外で苦戦するのは、価格統制力の低下に原因がある。正規ルート以外の並行輸入品が流れ込んだことで、値崩れが始まったのだ。安値の品があふれれば、長年築いたブランド価値も削られていく。
とはいえ、品質や人気が落ちたわけではない。同四半期、アネッサの国内売り上げは2桁の伸びを記録した。冒頭のプライスさんも、お気に入りの日本製日焼け止めトップ2の1つに、アネッサ パーフェクトUV スキンケアミルクを挙げる。
やや高価だが、ウォータープルーフで軽く、滑らかで絹のようだと彼女はいう。もっとも、日本製一般に、耐水品質はオーストラリア製に劣るとした。汗をかきにくい日本人に合わせた作りで、だからこそライトな塗り心地につながったとの分析だ。
■1時間に2人が皮膚がんで亡くなる国
アジアから欧米へ目を向ければ、日焼け止め製品はまだ伸びる余地がある。
テキサス州オースティンのプールサイドに足を運べば、まるで香水のように1プッシュだけ、日焼け止めをスプレーする人々の姿がみられる。

皮膚科医のアデウォレ・アダムソン氏は、米公共ラジオ放送局のNPRに、「ほとんどの人は、十分な量を使っていないんです」と指摘する。ベタつき、油っぽい質感を嫌ってのことだろう。
だが、アメリカでは1時間に少なくとも2人が皮膚がんで亡くなっており、国内で最も多いがんも皮膚がんだ。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、毎年610万人の成人が、皮膚に盛り上がったしこり等ができる基底細胞がんや扁平上皮がんの治療を受けていると推計する。
こうした皮膚がんの多くは紫外線の過剰な曝露が原因で、日焼け止めを使うなどでリスクを下げることができる。シンプルな予防策がありながら、どこかで予防策が機能していない。
アダムソン氏は、わずか数プッシュという使用習慣に加え、「一部の化学系日焼け止めは、本来必要な広いスペクトルに対応しておらず、UVA線を十分に遮断できていないのです」とも述べている。
UVAは肌の中間層(真皮)まで届き、肌老化を引き起こすとされる紫外線だ。米国がん協会は、UVAを含む紫外線一般について、「皮膚細胞のDNAを損傷する」可能性があり、「がんのリスクを高めることもある」としている。
■動物実験を求める米国、禁じる欧州
背景にあるのは規制緩和の遅れだ。ワシントン・ポスト紙は、アメリカの日焼け止めの有効成分の基準が1999年以来更新されておらず、これまで新成分を使用できなかったと指摘する。
そのため、望むレベルのUVカットを実現した製品が、アメリカの店頭で手に入らない。
NPRによると、多くのアメリカ人が、輸入品につきものの偽造品リスクを承知で、ヨーロッパやアジアから日焼け止めを取り寄せてきた。
障壁は1938年の古い法律だ。多くの国では化粧品として扱われる日焼け止めだが、アメリカはこの法律で「医薬品」に分類しているとNPRは説明する。
NPRは、承認申請には動物実験が求められると指摘。EUでは化粧品の動物実験が禁じられていることから、欧州の消費者の反発を招くことを恐れている。そのため、メーカー側はアメリカでの申請に二の足を踏んできたという。
結果、アメリカで手に入る製品の多くは、UVAを十分に防げない。米健康・環境保護団体のEWGが2021年に発表した査読済みの研究によると、アメリカで販売されている51製品を実験室での吸光測定で調べたところ、UVBの防御力を示すSPF値は表示されている値の平均59%にとどまった。UVAの防御力を示すUVA-PFは、EU基準ではSPF値の3分の1以上が求められるところ、平均24%だったという。
アメリカで長年承認が滞ってきた具体的成分に、海外で広く使われるベモトリジノールがある。スイスに本社を置く化学品メーカーのDSM-Firmenichは、このたった一つの成分の承認をアメリカで得るために20年をかけ、1800万ドル(約27億7000万円)を投じたと、同社の上級マネージャー、カール・ドルイス氏はNPRに語った。
■ついにアメリカが安全と認めた“有効成分”
こうして今年6月9日、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、日焼け止めの有効成分(UVフィルター)として、ベモトリジノールを承認した。新たな有効成分が追加されたのは1999年以来、27年ぶりとなる。
FDAのプレスリリースで、アメリカのロバート・ケネディ・ジュニア保健福祉長官は、「ヨーロッパで数十年にわたって安全に使用されてきました」と強調した。申請は最大6%までの濃度での使用を求めたもので、成人と生後6カ月以上の小児への使用を「一般的に安全かつ有効であると認められている」と判断された。
ベモトリジノールは、従来の一部のUVフィルターに比べ、日光で分解されにくい「光安定性」に優れている。同じ成分を長年使う花王の「ビオレ」などに追いついた形だ。
冒頭のプライスさんによると、現在ではオーストラリアでも毎日塗る習慣が広がり、各社が軽いタッチの日焼け止めを研究している。
シンプルに使えて肌を守れる日焼け止めは、科学研究の賜物だ。同時に、規制を戦い抜いた商品であり、人類をがんから守るシールドでもある。
「私にとっては、月面着陸にも匹敵する化粧品です」という彼女の言葉は、決して大げさではないのかもしれない。

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青葉 やまと(あおば・やまと)

フリーライター・翻訳者

1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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