皇居をぐるりと1周すると約5km。信号がなく、景色も抜群で、休日にはランナーや観光客、散歩する人など約1万人でごった返す。
スポーツライターの酒井政人さんは「最近SNS上で『皇居ランを禁止にしてほしい』という意見が挙がっている。特に迷惑をかけているのは5つの典型的なタイプがある」という――。
■多い日は1万人がごった返す
東京を代表するランニングスポットである「皇居」周辺がザワついている。皇居周辺の歩道が、あたかも「ランニングコース」のようになっていることが問題視されているのだ。SNS上では「皇居ランを禁止にしてほしい」といった厳しい意見も見受けられる。
皇居の周回コースは一周約5km。信号待ちがなく、適度なアップダウンがあり、景色も素晴らしい。特に半蔵門からの下りで見える皇居のお堀と丸の内のビル群の夜景は格別だ。アクセスも抜群で、周辺にはシャワーやロッカーを備えたランニングステーションも多い。
本格的なランナーにとっては日常的なトレーニング場所であり、地方のランナーや初心者にとっては「一度は走ってみたい」場所でもある。そのため、多い日には1日のべ1万人ものランナーが通行することもある。
しかし、ランナーが増えたことで、歩行者との軋轢も生じている。
そこで、皇居ランナーが特に避けるべき「ワースト5」を挙げ、この問題を考えてみたい。
■「集団走」と「スピードランナー」の怖さ
●ワースト1:大人数での集団走
皇居ランで最も問題だと感じるのが、「大人数での集団走」だ。ランニングは、一人で走るより集団で走ったほうが一定のペースを維持しやすい。仲間がいることで、苦しい練習も頑張れる。しかし、それは陸上競技場や十分なスペースを確保できる場所での話だ。
皇居周辺には、通勤する人、散歩を楽しむ人、観光客、高齢者、子どもなど、さまざまな歩行者がいる。そこに10人、20人というランナーの集団がやって来たらどうだろう。ランナー側はひとつの集団として走っているだけでも、歩行者からすれば「大勢の人が自分に向かって走ってくる」ことになる。
さらに、前方に歩行者がいれば、集団が左右に分かれて追い越したり、後方から別のランナーが追い越そうとしたりする。人数が増えるほど、他者の行動を予測することも難しくなる。
皇居外苑の団体利用では、20人以上の場合に手続きが必要となり、「公園利用者、一般通行人等の利用及び通行の妨げになるような走行」は禁止されている。
そもそも大人数で走る場合、「自分たちは安全に走れるか」ではなく、「周囲の人たちが安心して通行できるか」を考えるべきだろう。

■「歩行者優先」なのに歩行者に道を譲らせる
●ワースト2:横に2~3人以上で走る
大集団ではないが、横に2~3人以上広がって走る。ゆっくり会話をしながらジョギング。なんの問題もないように思うが、横並びになりやすいのが難点だ。その分、歩行者が使えるスペースは狭くなり、迷惑になりやすいのだ。
特に問題なのは、ランナー自身が「道をふさいでいる」という感覚を持ちにくいことだ。仲間との会話に集中していると、後方から来るランナーや自転車、前方から来る歩行者への注意がおろそかになる。
狭い場所で歩行者とすれ違うなら、一列になる。当たり前のことだが、それだけで周囲の人が感じる圧迫感は大きく変わる。
●ワースト3:高速で走る
これは競技志向の強いランナーほど注意してほしい。皇居は信号がなく、一周約5kmという距離もわかりやすい。そのため、ペース走やタイムトライアルをしたくなる気持ちは理解できる。しかし、皇居は陸上競技場でもランニング専用コースでもない。

ランナーの走行ペースには大きな幅がある。ゆっくり走るランナーならキロ7~8分程度だが、速いランナーはキロ3分(時速20kmほど)で走る。ちなみに一般的な徒歩は時速4~5kmほどだ。
ランナー自身は「きちんと避けた」と思っていても、歩行者は背後から突然ランナーに追い抜かれると、恐怖を感じることがある。無理な追い越しを避けるのは当然だが、歩行者に危険を感じさせるほどのスピードで走っているなら、公共空間でのランニングとして適切なのかを考える必要がある。本気でスピード練習をしたいのなら、陸上競技場など、それに適した場所を利用すべきだ。
●ワースト4:歩行者に道を譲らせる行為
皇居を走っていると、ランナーが近づいてきたため、歩行者が横によける場面をしばしば見かける。これを当然だと考えてはいけない。
皇居周辺の歩道は「歩行者優先」が基本になる。ランナーが歩行者に道を譲らせるのではなく、ランナーの側が歩行者に合わせるべきなのだ。よけてくれた歩行者がいれば、「ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えよう。
基本は、前方に歩行者がいれば減速すること。
安全に追い越せないなら、しばらく後ろをゆっくり走る。狭い場所なら歩くという選択肢も必要だ。
■スマートフォンや音楽プレーヤーで“渋滞”
●ワースト5:ながらスマホのラン
スマートフォンや音楽プレーヤーなどを使用しながら走る「ながら通行」だ。特にイヤホンには注意が必要だろう。音楽やラジオを聞きながら走ること自体を楽しみにしている人は多い。しかし、前述した通り、ランナー同士でも走行スピードは大きく違う。
周囲の音が聞こえにくい状態では、後方から近づく人や自転車などの存在に気づくのが遅れてしまう。イヤホンを装着してゆっくり走るランナーが後方の状況に気づかず、ランナー同士の“渋滞”が起きてしまうこともある。
また、スマートフォンを確認しながら走るのも危険だ。ランニングウォッチを操作する場合でも同様で、数秒間視線を落としただけで、その間にかなりの距離を進む。走っている本人は「前を見ているつもり」でも、周囲の情報を十分に把握できていない可能性があるので注意してほしい。
以上5つに共通しているのは、「皇居はランニングコースである」という意識が強くなり過ぎていることだろう。
多くのランナーが走っているため、そう錯覚してしまうのかもしれない。しかし本来、皇居周辺の歩道はランナー専用のコースではない。目的地へ向かうための通路であり、散歩を楽しむ人もいれば、観光で訪れる人もいる。そのことを肝に銘じなければならない。
■ランナーだけが悪いわけではないが…
●番外編:歩行者
一方で、この問題を「マナーの悪いランナー対歩行者」という単純な構図にするべきではないとも思っている。ランナーから見れば、歩行者の行動に危険を感じることもあるからだ。
数人が横一列に広がって歩道をふさいでいる。スマートフォンを見ながら突然進路を変える。急に立ち止まったり、横切ったりする。ランナーと歩行者が混在する以上、双方が周囲を意識しなければ事故につながる可能性がある。
ただし、ここで重要なのは「お互いさま」で終わらせないことだ。なぜなら、歩いている人と、ハイペースで走っている人では、衝突した際の危険性が全く違う。
速く移動する側ほど、より大きな注意を払うべきだろう。
これは歩道における自転車と歩行者の関係にも似ている。歩行者に問題のある行動があったとしても、それを理由に自転車が危険な走行をしていいことにはならない。
前方に歩行者がいたら減速する。狭い場所では無理に追い越さない。集団なら一列になる。混雑している時間帯ならペースを落とす。自分のランニングよりも、歩行者の安全を優先する。それが公共空間で走る最低限の条件ではないだろうか。
皇居ランは「ランナーが自由に走れる場所だから成立している」のではない。多くの人が利用する公共空間のなかで、歩行者などに配慮することを前提として成り立っているスポーツ活動なのだ。
なお、東京都千代田区では「皇居周辺歩道利用マナー」を定め、以下の9つのマナーを呼びかけている。
・歩道は歩行者優先

・歩道をふさがない

・狭いところは一列に

・周回は反時計回り

・タイムよりゆとり

・ながら通行は控える

・自転車はすぐ止まれるスピードで

・ゴミは必ず持ち帰る

・思いやりの心で
何度も繰り返すが、歩道はあくまでも歩行者優先だ。歩行者がスムーズに通行できるよう、ランナーには配慮が求められる。歩行者を気にせず練習に集中したいなら、陸上競技場やランニング専用コースなどで存分に走っていただきたい。
皇居ランには大きな魅力がある。だからこそ、その文化をランナー自身が壊してはいけない。
ランナーと歩行者との摩擦が大きくなり、事故やトラブルが増えれば、最終的にランニングへの規制が強化される可能性も否定できない。皇居ランを守るために必要なのは、新しいルールを次々と作ることだけではないだろう。歩行者を見かけたら少しスピードを落とす。狭い場所では無理に抜かない。集団なら横に広がらない。
そんな小さな判断を一人ひとりが積み重ねることのほうが重要だ。
皇居はランナーだけの「競技場」ではない。誰もが利用する公共空間を、ランナーも利用している。その意識を共有できるかどうか。「皇居ラン」という文化をこれからも残していくために、いま改めてランナーの“気持ち”が問われている。

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酒井 政人(さかい・まさと)

スポーツライター

1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)
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