テレビゲームは、なぜ「スポーツ」になったのか。「アジア最大のスポーツの祭典」と呼ばれるアジア競技大会(愛知・名古屋大会)では、eスポーツが正式競技として実施される。
その国内市場は2019年から5年で約2.6倍に拡大したという。急成長を続ける理由を、ノンフィクションライターの松瀬学さんが取材した――。
■史上最年少、11歳の「ぷよぷよ」代表
陸上競技や水泳、サッカーなど全43競技が行われる第20回アジア競技大会(9月19日開幕)で、eスポーツが正式競技として実施されることをご存じだろうか。
しかも「ぷよぷよ」日本代表は小学5年生の栗原悠輝選手(プレーヤー名・ゆうき)=東京ヴェルディeスポーツ=だ。なんと11歳。日本選手団では史上最年少となる。
「最年少として日の丸ジャージを着て出られることが、めちゃくちゃうれしくて」と、栗原選手は黒縁メガネの奥の目を和ませる。
「初めてのアジア大会の出場でとても緊張しているんですけど、チームジャパンを背負って優勝できるよう頑張ります。ふだんは学校とか塾とかと(eスポーツを)両立するのが大変です。でも、なんか、ほんとうに楽しくて」
小学1年生時から「ぷよぷよ」を競技として始め、2025年には10歳で大人のプロゲーマーに混ざりながら日本の頂点に立った実力者。「eスポーツの魅力」を聞けば、栗原選手は年齢の垣根がないことを強調した。
「なんか、年齢関係なく、対戦できるっていうところが本当に大きくて。
レジェンドの“くまちょむ”選手(44歳)がめちゃ強かったり、僕もいま11歳で結構強かったり、年齢関係なくできるというのが、eスポーツの良さですね」
なるほど、アジア大会の日本代表には、開幕直前に43歳となった澤田彰仁選手(SCORE=AMATERASU GAMING)もいる。年齢差はなんと32歳。それでも2人は、ともに日本代表として、同じアジア大会の舞台に立つ。
■年齢も性別も超える「究極のバリアフリー」
eスポーツは年齢や性別に左右されにくく、離れた場所にいる人や、身体に障害のある人も同じルールで競いやすい。そうした意味では、『究極のバリアフリー』に近い競技とも言える。
かつては「遊び」として親しまれていたゲームが、いまやeスポーツという新たな競技として、スポーツの世界に存在感を示している。ここ10年、国内のeスポーツの競技人口も、ファン数(試合観戦・動画視聴経験者など)も、市場規模も、急速に拡大している。ファンの増加に伴い、スポンサー収入や配信、チケット販売などを含む市場も拡大している。
「日本eスポーツ白書2025」によると、日本eスポーツ協会(JESU)は2017年に300万人ほどだったファン数が2024年には967万人(うち競技者419万人)となり、2026年には1500万人に迫ると予測している。
国内市場は2019年の約61億円から、2024年には約161億円へ拡大した。2020年以降は年平均10%前後で成長しており、2026年には200億円を超えると予測されている(※1)。
素朴な疑問。
この人気拡大、市場拡大はなぜなのか。
■なぜ国内市場は5年で2.6倍に膨らんだのか
日本eスポーツ協会(JESU)の土屋恵督ディレクターは「競技環境の変化です」と説明してくれた。
「テレビゲームはずっと以前からありましたが、昔はゲームセンターか、友達の家に行かなければ強い相手との対戦はできませんでした。それがIT時代に入り、インターネットを通じて、いつでも対戦できるようになりました。さらに現在では、スマートフォンがあるだけで、誰でもゲームが楽しめる。ゲーム専用機じゃなくても、スマホやパソコンがあればできるようになったんです。eスポーツ参加へのハードルがすごく下がった。プレイヤーにとって、参入障壁が下がったというのが、eスポーツの市場が非常に大きくなった理由だと考えています」
スポーツの歴史をみれば、人々に古から親しまれたのは、からだを動かすフィジカルスポーツ。産業革命以降は、自動車から生まれたモータースポーツが活況を呈した。土屋ディレクターは「IT革命があって、インターネットテクノロジー全盛となった結果、情報時代の新たなスポーツとしてeスポーツが生まれるという流れは自然なことだと思います」という。
実際、若者はいま、新聞、テレビには接する機会は少ない。日常アクセスしているのは、やはりインターネット、SNS、そしてネット動画である。
ネット動画で一番見られているのはゲーム系である。
オンラインで対戦するだけでなく、その試合を観戦する環境が整ったことも、ファンの拡大を支えている。アジア大会のeスポーツ日本代表の福田真澄監督は「eスポーツにはドラマがいっぱい詰まっています」と言葉に力を込めた。「選手の工夫や努力があり、涙があり笑いがあり、選手同士のドラマ、関係、絆もあり、そして家族のサポートもあるんです」と話す。
■世界のゲーム人口は2028年に約40億人へ
海外に目を向ければ、スマートフォンと通信環境の普及によって、専用ゲーム機を持たなくてもゲームに参加できる地域が世界的に広がった。たとえば、中南米などでも、対戦格闘ゲームなどは爆発的な人気を博している。
「CESAゲーム産業リポート2025」によると、今や、日本のゲーム参加人口(eスポーツ競技者ほか、モバイルゲーム、家庭用ゲーム、PCでゲームをプレーする人の総数)の推移はおおむね5400万~5600万人規模で推移している。世界のゲーム人口の推移をみると、2025年が約35億7800万人から、2028年には世界の人口の約半数、約39億4800万人に達すると予想されている(※2)。
とくに「ゲーム大国」日本を含むアジア太平洋地域が最大市場で、中東・北アフリカ地域などが高い伸び率を示して急成長しているのだった。確かに「ゲーム人口」は、eスポーツの競技者や観戦者に限らない。だが、その巨大なゲーム人口こそが、eスポーツを支える大きな裾野となっている。
ちなみにeスポーツ市場規模とは、ゲームソフトそのものの売上ではなく、イベント運営、スポンサー費、グッズ、ストリーミング、配信・放映、チケットなど、eスポーツという競技を通じて生まれる売上の規模を指す。

大会の規模が大きくなり、スポンサーが増え、観客や視聴者が増えれば、賞金を増やすインセンティブも大きくなる。『ストリートファイター6』で行われる公式世界大会Capcom Cup 13では、優勝賞金100万ドル(約1億5000万円)が予定されている。過去2大会では日本人選手が相次いで優勝し、それぞれ100万ドルを獲得した。
■ゲームセンターに通った15歳が日本代表になるまで
隔世の感を禁じ得ない。
アジア大会eスポーツ競技で日本代表の最年長、澤田選手は大阪出身。1998(平成10)年、中学時代の15歳の頃、友達とゲームセンターに行き、対戦格闘ゲームのおもしろさにハマった。筆者のオンライン取材で、澤田選手はこう述懐する。
「そこから“趣味でやり続けるうちに勝てるようになって”みたいな流れです。(当時は)ゲームは遊びやからと、世間ではいいようにはみられていなかった。ゲームするぐらいだったら、勉強をやれみたいな感じでした。“たかがゲーム”みたいな言われ方をされると、やっぱり“う~ん”と思いました。自分の好きなことを“たかが”って言われると、やっぱり嫌じゃないですか」
されど、テレビゲームである。
テレビゲームが生まれておよそ半世紀。ゲームを楽しむものから、技を競う『スポーツ』へ。そして2000年(平成12年)頃、その新しい競技は『eスポーツ』と呼ばれるようになった。
「ぼちぼち勝てるようになってから、熱が入ってきて、今度は“楽しい”と一緒に“負けたくない”という気持ちが出てきたんです」
就職しても、空いた時間を利用し、eスポーツはつづけた。
「家に居ながらにして、(eスポーツを)練習できるし、例えば、YouTubeやSNSからだったりで、情報も手に入れやすい。誰でも触れやすいというのはかなり魅力です。オンラインなら、家でできるっていうのは、何よりかなり強みだと思います」
2019年に仕事をやめ、プロゲーマー1本に専念した。2025年の獲得賞金は1000万円を超えた。
■最年長代表が目指す「生涯プロゲーマー」
澤田選手はアジア大会で対戦格闘団体戦に出場する。
「僕にとってのおもしろさというのは、好きなキャラを好きなように動かせることです。対人戦なので、戦略とか読み合いがあったり、また年齢や性別、言葉の通じない海外の方とか関係なく、平等に競い合ったり、仲良くもできるというところですね。やっぱり大きな大会で活躍して勝てた時のうれしさって、“ああやってきてよかったな”とその都度思います」
アジア大会の目標はもちろん、金メダル。
賞金はないけれど、応援してくれている人々の期待に応えたいのだった。夢は?
「やっぱり年齢に負けず、長く最前線で活躍することです。生涯現役ぐらいのつもりでやりたい。それがeスポーツのいいところでもあるので」
フィジカルスポーツのごとく、体力の衰えによる引退はなかろう。
「とくに格闘ゲームは経験とか知識とかが、かなり大きいんです。その場の反応速度は若い子に負けたりしますけど、長くやってきたからこそ、駆け引きや読み合いが重要になるんです。経験の差が出るんですよね」
部屋には、ユーモラスな“決めポーズ”をとった澤田選手の「うちわ」があった。勝負の世界に身を置きながら、どこか悠然としている。目指すのは「生涯プロゲーマー」。焦らず、飄々と――。澤田選手のeスポーツ人生は、まだまだこれからである。
■加盟高校は756校に拡大、国立施設には専用ラボも
ところで、学校現場にもeスポーツは急速に広がっている。全国では756校(2026年8月時点)がeスポーツの普及ネットワーク「国際教育eスポーツ連盟ネットワーク(NASEF)」に加盟する(※3)。ラグビー部〔全国高体連の2025年度加盟校は812校(※4)〕に迫る勢いだ。
そういえば、ことし、国の強化拠点、国立スポーツ科学センター(JISS)にeスポーツの強化や研究を進める「HPSC ESPORTS LAB」も設置された。選手の視点を可視化するモニターほか、脳疲労や集中力などを数値化する最新設備がそろっている。
■「文化プログラム」からスポーツ競技大会へ
時代、いやステージは変わったのだ。
愛知・名古屋アジア大会ではeスポーツが前回の杭州大会を上回る11種目13タイトルの正式なメダル競技となる。さらに、日本スポーツ協会(JSPO)は新たな全国大会「JAPAN GAMES ESPORTS(JGE)」の創設を発表した。国民スポーツ大会の文化プログラムとして行われてきた全国都道府県対抗eスポーツ選手権を発展的に改組するもので、第1回大会は2028年の開催をめざしている。
その9月3日の発表会見で、JESUの早川英樹会長は、「これまで文化プログラムとして行われてきた大会が、スポーツ競技大会と位置付けられたのが、一番大きな違いだと思っています」と言った。
発表会見では、栗原選手もビデオ出演。過去の選手権のことに触れ、「いろんなところに行けて、いろんなご飯を食べることができて、楽しかったです」とコメントした。
ちなみにeスポーツは、極限まで研ぎ澄ませた判断と反応で勝負するスポーツである。栗原選手が好きな卓球に近い。試合中は、卓球のごとく、「相手が次に何をしてくるか」を読み、一瞬の判断で操作する。すなわち、凝視力、反射神経の勝負か。
■「18連鎖」を操る11歳の勝負哲学
栗原選手の得意種目「ぷよぷよ」は、上から落ちてくる同じ色の「ぷよ」を4つ以上くっつけて消していく、日本を代表する国民的な落ち物パズルゲーム。「ぷよ」は、そのゲームに登場するキャラクターだ。栗原選手は「大連鎖を打つと楽しい」と声を弾ませる。
対人戦では何度も最高18連鎖を記録している。「“ぷよぷよ”を見たことない人でも、大連鎖という部分は結構、わかりやすいと思います」とアピールする。
栗原選手は8月に開かれたチームジャパンのメディア・サミットではこうも、言った。
「いろんな人と戦うのはおもしろい。遊びでやっていると、まあ、ただやっているだけなんですけど、競技としてやっていると、本気でやれるんで、その本気の分、強さがいつもより大きくなったりします」
栗原選手は小学1年で競技を始め、2023年の大規模大会「EVO Japan」で強豪選手を破って3位に入った。まだ7歳だった。「結構うれしいというか、一番印象に残ったというか、そこからちゃんと競技としてやり始めたんです」
上達の秘訣(ひけつ)は、とにかくプレーを続けること。「調子が悪くても、まったく反省はしない」と記者を笑わせる。「とにかく、プレーをやる。調子が悪い時を乗り越えると強くなれる気がする」と独自の勝負哲学を披露した。「なんか、大会だと覚醒して強くなったりするタイプなんで……。あんまり考えなくても、(アジア大会で)僕の強さは出ると思いますね、たぶん」と屈託がない。
■塾を優先し、ゲームは1日1時間
『ゲームばかりしていると頭が悪くなる』という見方は、今も根強い。しかし、少なくとも栗原選手の日常を見る限り、ゲームと学業は二者択一ではない。早川会長によると、学校の成績もよく、『すべてに対して全力を尽くすタイプ』だという。
栗原選手の日常は、放課後は学習塾が優先で、午後9時過ぎに帰宅して、晩飯を食べて、1時間ほど、ゲームをやって、風呂に入って就寝するそうだ。小学校の友人の反応を問えば、「僕の(eスポーツの)こと、あんまり知らないんで」と言う。でも、アジア大会で活躍すれば知られることになるでしょ?
「ニュースを見ている子は少ないから、多分、あまり気が付かないんじゃないのかな。そういう(eスポーツの)ことを言われるのはあまり好きじゃないんです。“すごいね”と言われるのはうれしいですけど、普通に学校で友達と遊んだりしたいんです」
リアルスポーツでは、サッカーや卓球が好きだそうだ。
■小学生の栗原選手、賞金100万円は受け取れず
栗原選手はことし4月、JESUの公認プロライセンスを取得し、「小学生初のeスポーツ・プロライセンス」取得者となった。一般的に多くの賞金大会では、「中学生以下の選手には、賞金の代わりに特別賞品を授与」と決められており、栗原選手がプロライセンス取得前となることし2月に参加した「GigaCrysta ぷよぷよグランプリファイナル」では、大会規定により、優勝賞金100万円の代わりにセガから特別賞品が贈られた。
勝負飯が「うなぎ」。アジア大会の試合前には愛知名物の「ひつまぶしを食べたい」と笑った。アジア大会金メダルのご褒美を聞かれると、「キラキラしたものが好き。普通に宝石とか。とくにエメラルド」と答えた。まさかの「エメラルド」である。
一方、eスポーツの急速な普及に伴い、子どもの長時間プレーや学業との両立、健康管理、競技の公正性などへの対応も求められる。JESUの早川会長は「インテグリティはもちろん、科学的な知見であったり、健康面であったり、フィジカルスポーツの基準に則った指導者が、選手を育成していく重要性が非常にあると思っています」と強調した。
■eスポーツがサッカーを超える可能性も
ゲーム人口は、世界最大のスポーツビジネス市場を持つサッカーより多く、eスポーツ市場が将来、サッカーに迫るポテンシャルはある。違いは世界的スターの不在である。栗原選手がアジア大会で金メダルを獲得すれば、知名度は一気に拡大するだろう。スポンサーも集まり、いずれ、賞金獲得も1億円を突破するかもしれない。
おそらく競技人口もファンも増え続け、市場規模もさらに膨らんでいく。やがてeスポーツがサッカーを凌駕する――。そんな時代が、決して夢物語ではなくなってきた。

【参照】

(※1)データ年鑑『日本eスポーツ白書2025』発売2024年のeスポーツ競技人口は推計419万人市場規模は160億円以上、ファン数も約967万人と拡大を継続(9月10日閲覧)

(※2)現在のゲーム人口の数(9月10日閲覧)

(※3)加盟校一覧 – NASEF JAPAN(国際教育eスポーツ連盟ネットワーク 日本本部)(9月10日閲覧)

(※4)令和7年度(公財)全国高等学校体育連盟 加盟・登録状況【全日制+定通制】(9月10日閲覧)

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松瀬 学(まつせ・まなぶ)

ノンフィクションライター・日本大学客員教授

1960年長崎県生まれ、福岡・修猷館高校、早稲田大学ではラグビー部に所属。同大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。83年、共同通信社に入社。4年間、米NY支局勤務。02年に同社退社後、スポーツ・ジャーナリストに。多様なスポーツ競技やオリンピック、サッカー、ラグビーW杯などの国際大会を取材。2019年RWC組織委員会広報戦略長も務めた。元日本体育大学教授(ラグビー部部長)。現日本大学客員教授。専門が「スポーツ社会学」「スポーツジャーナリズム/メディア論」「スポーツマネジメント論」。日本文藝家協会会員。著書は『汚れた金メダル 中国ドーピング疑惑を追う』(文藝春秋社)『東京五輪とジャーナリズム』(共著・創文企画)など30数冊。モットーが「感謝」。

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(ノンフィクションライター・日本大学客員教授 松瀬 学)

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